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政府の『公務員制度改革の「全体像」について』(案)に対する見解
     
 

 

2011年3月22日
国公労連中央執行委員会

 

はじめに

 政府・国家公務員制度改革推進本部事務局は3月3日、「国家公務員制度改革基本法に基づく公務員制度改革の『全体像』について」(案)を示し、労働組合など関係団体や各省との協議を経て、3月中にも推進本部決定を行おうとしている。
自公連立政権下の2008年に、当時野党だった民主党も賛成して成立した「国家公務員制度改革基本法」(以下「基本法」という)によって、公務員制度改革についての基本理念、基本方針が定められた。公務員の労働基本権については、国家公務員制度改革推進本部の下に「労使関係制度検討委員会」が設置され、2009年12月に「自律的労使関係制度の措置に向けて」とする最終報告が出された。
 一方、「基本法」にもとづく幹部職員人事の一元管理や内閣人事局設置などの「国家公務員法の一部を改正する法律案」は、政権交代の前後に二度国会上程されたが廃案に、民主党政権下で国家戦略スタッフの創設などに関する法案も上程されたが、継続審議となっている。
 国公労連は、公務員制度改革にあたって一貫して刑事施設職員及び消防職員の団結権、一般公務員の争議権を含む憲法とILO基準に沿った労働基本権の完全回復、公務員の市民的・政治的自由の確立、非常勤職員制度の法的整備などを求めて運動を強化してきた。しかし、政府は「基本法の枠内での検討」であるとして、まったく要求に応えていない。
 同時に、「改革の全体像」に対する意見反映についても、国民全体の奉仕者である公務員の中立・公正性の確保が脅かされること、団結権や争議権の代償措置もきわめて不十分であること、労使交渉の制約的な条件や団体協約の効力などの問題点を指摘せざるを得ない。加えて、人事院勧告制度廃止による新たな労使関係制度構築の裏に、公務員の総人件費抑制を狙う政府の意図があることも重大な問題である。
 詳細な制度設計、具体的な法案や政令等の振り分けは今後の検討となるが、「全体像」の本部決定を前に、主な論点に対する国公労連としての見解を下記のとおり明らかにするものである。

 

T 全体像にかかわって

 1 労働基本権について

 (1)労働基本権の全面回復について
 労働基本権の全面回復ということは、今回の政府内論議の経過および「全体像」で示されたような「自律的労使関係制度」の「自律的」という曖昧な視点ではなく、憲法で保障された基本的人権としての労働基本権およびILOの国際基準に沿った労働基本権の回復でなければならない。その意味で、争議権が先送りされることは認められない。また、争議権が引き続き制約されるのであれば、その制約の代償措置が不可欠となるということは言うまでもない。
 なお、憲法で規定された「全体の奉仕者」としての公務員の労働基本権である点に留意しつつも、労使対等の労働条件決定システムの構築が追求されなければならないことは当然である。
 また、自律的労使関係制度の措置が、国家公務員の総人件費2割削減のための有力な手法でもあるという政府の思惑であるならば、国家公務員の賃金が直接影響する580万もの地方公務員や公務関連労働者のみならず、民間労働者にもマイナス波及し、個人消費を冷え込ませ地域経済などに及ぼす弊害は計り知れない。賃金引き下げとなると、紛争の長期化が懸念される。そのための交渉に要する時間やコストは人事院勧告制度と比べて格段の違いがあるし、交渉不調の場合の仲裁手続きもあるが、最終決定に至るまでの混乱も予想される。そもそも賃金抑制のための交渉システムの措置など本末転倒と言わざるを得ない

 (2)団結権及び争議権について
 刑事施設職員などについては、ILO勧告に基づき団結権および団体協約権を回復すべきである。
 労使関係制度検討委員会の検討では、争議権を前提にした論議はおこなわれてこなかった。また、「国家公務員の基本的人権(争議権)に関する懇談会」での論議も短期間で不十分なもので、昨年12月17日の報告は、仮に争議権を付与する場合でも、「まず自律的な労使関係の樹立に全力を注ぎ、労使交渉の実態や課題をみたうえで争議権を付与する時期を決断することも一つの選択肢」と事実上の先送りを政府に求める結論となった。さらに、政府(推進本部)は昨年末から年始にかけて「自律的労使関係制度に関する改革素案」についてのアリバイづくり的なパブリックコメントを実施し、その結果(争議権に関する意見が9割を占め、うち争議権付与に反対が9割)も利用しつつ、今回の「全体像」から争議権の措置をはずしている。
 今回の「全体像」には、団体交渉と団体協約による労働条件決定が形式的に規定されているものの、それを実質的に機能させるための争議権が保障されていない。これでは、労働者側は交渉不調の場合にとりうる対抗手段がなく(実際にそれを行使するかは別の問題)、これが最大の問題点である。一応、対応手段としての仲裁などの調整システムはあるが、それによる紛争解決が増えることになれば、労働条件決定に労使が互いに責任をもつ正常な労使関係とはいえない。

 (3)労働基本権が引き続き制約される公務員の代償措置について
 労働基本権が制約される公務員として、警察職員及び海上保安庁職員があげられている。また、特別職である防衛省(自衛隊)職員も引き続き労働基本権が制約されることとなっている。
 労働基本権は、憲法がすべての労働者に保障する基本的人権の一つであり、公務員にも保障されるべきである。仮に、職務の特殊性などから、最小限の範囲で団結権・協約締結権の一部の制約が認められる場合であっても、労働基本権制約の代償措置の観点から、第3者的な代償機関による「意見の表明」や、職員代表の参加による労働条件決定の手続きなどが検討されるべきである。

 2 人事行政の中立・公正性の確保について

 (1)「人事公正委員会」(仮称)の設置にかかわって
 国家公務員制度に関する事務その他の人事行政に関する事務の多くを使用者機関である「公務員庁」の所掌とすることは、人事行政の中立・公正の点で問題がある。
 「人事公正委員会」は、今回の「全体像」で人事行政の公正の確保等の事務を担う第3者機関として設置されるとしているが、新たな制度のもとでも、人事行政の中立・公平性の担保が可能となる事務を所掌することが不可欠で、従来人事院が果たしてきた機能や役割を踏まえ、それらが有効に発揮されるようにしなければならない。
 人事行政の中立・公正が確保されるためは、党派性や私的利害から中立的な人事運用が可能な仕組みが不可欠となる。その場合、政府はあくまで国民の負託をうけて人事行政をおこなうのであり、人事行政の運用にあたって政府として従うべき基準、手続き、規制等が厳格に定められている。それによって人事行政の中立・公正性が担保される。政府(使用者機関)がそれらの基準等に関する事務を所掌した場合、その制定等にあたって政治的思惑が入り込む余地が広がる。したがって、国家公務員制度に関する事務や人事行政に関する事務(現行の人事院の所掌事務のうち、労働基本権制約に絡んだ事務以外の事務、つまり採用試験、任用、研修など)および幹部職員の適格性審査の基準設定などの事務は、本来人事行政の公正の確保を図ることを目的する機関である「人事公正委員会」の所掌とすべきである。
 なお、今回の「全体像」が「基本法」に基づいたものというなら、「基本法」案に対する参議院内閣委員会の附帯決議(2008年6月5日)の五「人事院が人事行政に関し担ってきた役割を念頭に置き、人事行政の中立公正性の確保に努めなければならないこと。」と決議していることに照らしても、使用者機関である「公務員庁」への事務の集中は問題である。

 (2)内閣人事局の設置などについて
 「全体像」によれば、省庁横断的な人材育成や登用を進めるための制度整備や「適切な人事管理を徹底」するための事務が内閣総理大臣(内閣人事局、公務員庁)に一元化される。
 その下で、幹部職員については、厳正な能力実証のための適格性審査や任免の協議に加え、幹部ポストへの公募も一元管理される。幹部公務員も一般職国家公務員であり、政治的中立性の確保と全体の奉仕者としての中立・公平な職務遂行が求められることはいうまでもない。しかし、内閣総理大臣に人事権が一元化されると、時の政権への忠誠度に応じた幹部人事の政治化が進みかねず、成績主義による任用原則に反するだけでなく、公務員の政治的中立が犯される可能性が強くなる。
 本来、政権に忠実な幹部を育成するためには、一般職の職業公務員とは別の政治任用の仕組みや特別職公務員制度による検討が別途必要なはずである。「全体像」には国家戦略スタッフ等をのぞけばその観点がなく、もっぱら既存の一般職公務員である幹部を政権党に都合よくコントロールするための仕組みとしての一元化が検討されている。また、幹部の公募については、公務員からの公募と外部からの公募をあえて区別せず、その規模も不明である。いずれにしても、一元管理だけは明確であるが、こうした人材の活用法が公務員制度全体に与える影響についての考察はみられない。
 政治任用を制度化しないままで、政治的な任用が進むことは、幹部による短期的な視点による成果の追求、一般職員との意思疎通の阻害、政権交代による行政の継続性・安定性への悪影響や人事上の混乱、一般職員のキャリアパス(能力育成やその段階)への影響や士気への影響などをもたらしかねず、公務能率の向上の観点からいえばむしろ有害である。そうした問題点を慎重に検討しないままに、幹部人事の政治的一元化を図ることは極めて問題である。
 管理職員の任用等に関しても、能力・実績に応じた弾力的な昇任・降任を可能とする立場からの政府(内閣総理大臣)の権限が新たに強化されようとしている。これも成績主義に応じた昇任原則、任命権者である各省大臣の権限との関係で問題が多いと言わざるを得ない。
 幹部候補育成過程は主として「総合職」を対象とする新たな特権階層を制度化するもので、採用試験のあり方ともかかわって、平等取り扱いの原則からして重大な問題がある。総合職試験については、「主として政策の企画立案等の高度の知識又は経験を必要とする業務に従事することを職務とする係員の採用試験」と位置づけられているが、そもそもこのような「係員」を想定することは困難であり、採用段階から一般職との取り扱い上、育成上の差を設けようとしていることは明確である。

 3 その他について

 (1)今後のスケジュールについて
 これまで第3者機関である人事院が制定していた人事院規則の制定が、「公務員庁」「人事公正委員会」にその権限が移管されることとされている。「公務員庁」が策定する規則の制定・改廃については、団体交渉と団体協約の対象となることを明確にすべきである。「人事公正委員会」の規則に関しても、改廃に関して「労使協議」が保障されるべきである。
 2012年度における給与をどのように決定することをはじめ、人事院廃止に伴う人事院規則の政令・規則などへの振り分けなどは、経過的な措置も含め、全労連・国公労連との交渉・協議のもとにおこなうべきである。

 (2)超過勤務の是正について
 健康で働き続けることができる勤務環境の実現のためには、超過勤務の縮減が不可欠である。公務の職場における慢性化した超過勤務の是正にむけて、民間の36協定に準じた勤務時間外・休日の勤務についての手続きを確立すべきである。  さらに、定員問題が大きな原因であることをふまえ、超過勤務縮減の観点から職務と定員との関係も含め、抜本的な検討をおこなうべきである。

 (3)特別職における自律的労使関係制度の構築について
 裁判所職員や国会職員など特別職の国家公務員に対する自律的労使関係制度の措置について触れられていないことは、三権分立の建前から、それぞれで判断されるべきことではあるが、裁判所職員の労働条件は、裁判所職員等臨時措置法により国家公務員法など一般職国家公務員に適用される法律が準用されてきた。
 特別職たる裁判所職員における自律的労使関係制度の構築を図るため、政府として関係機関・労働組合と協力して制度確立を図るべきである。

 

U 国家公務員法等の一部を改正する法律案(仮称)にかかわる事項について

 1 人事の一元管理等に関する規定の創設等

 (1)幹部職員人事の一元管理等について
 幹部職員として事務次官、局長、部長を「同一の職制上の段階」と位置づけ、転任と称して事実上の降任を自由にできるようにすることは、公務員の身分保障や成績主義に基づく任用原則にも反し、大きな問題である。仮に、「転任」とされて「降任」ではないと判断されたとしても、意に反する「降給」となることは事実で、勤務条件の不利益処分となり、これも公務員の身分保障に反する。

 (2)官民人材交流の推進について
 官民の人材交流の意義はあるとしても、公益性を追求すべき公務員の職務の特性から、私的利益の追求を旨とする民間私企業からの隔離の原則は不可欠である。官民交流は、特殊技術・知識の習得のための最小限のレベルにとどめ、公務員の中立・公平性や、公務の安定的遂行に支障が起きないようにすべきである。

 2 国家公務員の退職管理の一層の適正化について

 2007年国家公務員法の改正により、省庁による就職あっせんが禁止され、官民人材交流センターが対応することとされた。今回の「全体像」では、再就職等規制が強化され、官民人材交流センターの廃止により再就職あっせんがなくなる。そのため国公法第78条4号による離職(分限免職)の場合に限り、再就職の援助は「公務員庁」がおこなうとしている。
 しかし、そもそも身分保障原則のもとで、第78条4号による分限免職を発生させること自体が問題である。社会保険庁の廃止による不当な大量の分限免職が強行された事態を二度と起こさせないため、政府の分限免職回避努力義務を法律で明記すべきである。  なお、再就職規制のあり方については、事後規制によらず、以前の人事院の事前承認に戻すことも検討すべきである。
 また、2007年国家公務員法の改正により、再就職規制が厳格化されてきたが、「天下り」などという批判が起こらないよう厳格な運用に留意しつつも、公務で培ってきた専門性・能力が発揮されることで、国民生活に寄与することにつなぐことや職業選択の自由との調和を慎重に検討すべきである。

 3 定年まで勤務できる環境の整備について

 退職管理の一層の適正化の一環として、高年齢職員の給与のあり方を検討するとしているが、現時点でそれに言及することは労働基本権の代償機関たる人事院の意見の申し出に対する圧力となりかねない。高年齢職員の給与抑制を前提にした検討ではなく、職務に応じた処遇のあり方がまず検討されるべきである。
 現時点において定年延長に関しては、一義的に人事院での検討課題であり、国公労連としての考え方はすでに明らかにしているが、雇用と年金の接続を図るため65歳までの定年延長を行い、多様な働き方を確保しながら民間のモデルケースとなる公平で納得性の高い制度としなければならない。

 4 自律的労使関係制度の措置に伴う規定の整備

 (1)人事公正委員会の機能
 「人事公正委員会」が人事行政の中立・公正の確保に資する機関となるかどうかという点で、次のような疑問がある。人事行政の改善に関する関係大臣等への勧告は、現行国公法22条に類似のものだが、これは人事院によって使われたことがない条項であり、権限が格段に弱くなった「人事公正委員会」がそれを活用できるとは考えにくい。これについては、内閣や国会に対する勧告権を付与すべきである。  同時に、成績主義による任用原則を担保する機能が「人事公正委員会」に与えられていないのも問題である。採用試験の企画立案・実施などは「人事公正委員会」の所管とすべきである。幹部職員の適格性審査にあたっては必要に応じて意見を求めるだけでなく、意見を義務づけるべきである。

 (2)勤務条件に関する規定の整備
 民間の給与実態調査について、現在人事院がおこなっている官民給与実態をはじめとする調査権限を、使用者側(内閣総理大臣)に移すとしている。賃金交渉において、使用者側が主として民間の給与等の実態を調査することになれば、実態調査に関して基準がなく、使用者に都合のいい調査方法や抽出の仕方などがおこなわれやすく、労使対等とは言えない事態が生じる。労働組合も必要なデータは自ら準備することができるとしているが、資金力・情報力等に勝る使用者のデータがより説得力を持つことになりかねない。情勢適応の原則を引き続き採用するとしていることの関係からも、さらに労使対等の交渉を担保するためにも民間給与の実態調査はその方法、規模等、第3者機関がおこなうべきである。  また、「政府全体で統一的に定めるべき勤務条件の範囲」をどこまで法律で定めるのかについての記述は極めて曖昧で問題がある。団体協約の対象範囲との関係で明確にすべきである。

 

V 国家公務員の労働関係に関する法律案(仮称)にかかわる事項について

 1 労働組合について

 (1)労働組合の認証について
 認証=適格性の証明は、結社の自由からも不当であり、現行の職員団体制度より要件が厳しくなる。現在2000を超える労働組合(登録職員団体)が存在することを考慮するなら簡素化すべきであって、少なくとも現在、職員団体登録をしている労働組合については、適格性の証明を省き認証すべきである。また、単組の地本、支部、分会等においても認証が必要としているが、結社の自由を侵害するものである。単組本部の認証で十分である。  認証の要件として、労働組合の規約に「公認会計士又は監査法人の監査証明」、「資産」の記載が義務付けられている。労働組合法では、会計報告に関し「職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明」とされていることから、整合性をとることが考えられているが、「資産」についての規定はない。したがって、認証の要件として「資産」まで加えることは必要性や合理的理由がみあたらない。
 また、「団結権を有する職員がすべての構成員の過半数を占めること」についても、結社の自由の観点から問題があり、過半数要件を必要としない労働組合法と同様にすべきである。過半数を判定する基準・方法が明らかではなく、2000を超える労働組合に対する中央労働委員会の作業は時間とコストがかかり非効率で問題ある。

 (2)専従制度について
 在籍専従期間を現行通りの5年(附則により7年)にするのか、その根拠、合理的理由が不明である。民間同様に上限を設けず、団体協約事項とすべきである。  短期従事の期間についても、上限30日までに法定化しようとしているが、このことも団体協約事項とすべきである。

 2 団体交渉等について

 (1)交渉対象事項の範囲について
 団体交渉等の範囲として下記の通り@〜Dまで記載し、これらは団体協約締結できる事項でもあるとしている。
 @ 職員の俸給その他の給与、勤務時間、休憩、休日及び休暇に関する事項
 A 職員の昇任、降任、転任、休職、免職及び懲戒の基準に関する事項
 B 職員の保健、安全保持及び災害補償に関する事項
 C @〜Bに掲げるもののほか、職員の勤務条件に関する事項
 D 団体交渉の手続きその他の労働組合と当局との間の労使関係の運営に関する事項
 宿舎、旅費、退職手当、共済年金は勤務条件である。宿舎、旅費、共済年金については、内閣総理大臣が関係庁の長に意見を述べることができるとする方向で検討するとしているが、団体交渉対象事項の範囲に明記すべきである。
Cに含まれる事項についての解釈が労使で分かれ、それをめぐる新たな紛争が起こる可能性が強いと言える。それを未然に防ぐためには、Cに含まれる勤務条件の範囲を可能な限り事前に明確にしておく必要がある。とくに退職手当については、交渉対象事項、団体協約事項に明確に位置づけられる必要がある。勤務条件の範囲の明確化にあたっては、使用者側の恣意的解釈の余地を与えないようにしなければ紛争の未然防止の効果がないと言える。
 また、労使協議手続き等の労使間の取り決めはDで想定しているが、団体交渉や団体協約締結ができない事項について意見交換・協議できるような「労使協議制」を労使合意(団体協約)または法律で確立すべきである。

 (2)「管理運営事項」について
 交渉対象事項は「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」(特労法)8条が準用され、「管理運営事項は、団体交渉の対象とすることができない」ことを法律上明記するとしている。一方、管理運営事項であっても、「管理運営事項の処理によって影響を受ける勤務条件は交渉の対象となるものとする」としたこれまでの政府見解はそのままであるが、法律上明記しないとしている。この管理運営事項の規定は事実上、現行の国公法を踏襲したもので、現在の「管理運営事項」の解釈による事実上の団交拒否・制限が日常的にみられる実態を何ら考慮していない。管理運営事項の解釈をめぐって争いが生じることが容易に想定でき、管理運営事項を団体交渉の対象外とするべきではない。
 「管理運営事項の処理によって影響を受ける勤務条件」について、法定化されないことと併せて使用者側の恣意的な解釈による争いが生じることが危惧される。
 そのため、@行政の企画、立案及び執行に関する事項 A職員の定数及びその配置に関する事項 B人事権の行使に関する事項 C予算の編成に関する事項 D公の施設の取得・管理及び処分に関する事項 E公務員制度の運営に関する事項などの項目を中心に、団体交渉の仕組みを検討し、少なくとも「労使協議制」等を通して労働組合の意見反映ができるようにすべきである。

 (3)団体交渉の手続きについて
 団体交渉の手続きにおいて、労働組合が指名する職員について所轄庁の長が「公務に支障がないと認めるときは、これを許可する」ことの法定化に言及しているが、「公務に支障がないと認めるとき」は省くべきである。「公務に支障」とする基準が曖昧で、所轄庁の長の判断に委ねられ、恣意的判断もあり得る。職場は、人員不足で過密過重労働が慢性化している。その状況下で、勤務時間中に予備交渉、団体交渉を行うという実態を踏まえるべきであって、日常業務が大変なことを捉えて、「公務に支障」と判断することは、交渉拒否などの不当労働行為にあたると言える。取り立てて、「公務に支障がないと認めるとき」は入れるべきでない。
 また、「交渉打ち切り」を法定化することとしているが、使用者側による悪用が懸念される。法定化せず、団体交渉等の範囲であるD(団体交渉の手続その他の労働組合と当局との間の労使関係の運営に関する事項)として団体協約で決めるべきである。

 (4)交渉の議事概要の公表について
 交渉の議事概要の公表を法定化することは、交渉を形骸化させる危惧があり反対である。
 団体交渉の議事の概要および団体協約の公表について、「議事の概要」は使用者側が一方的に公表できるはずがなく、労使合意でなければならず、表現方法を巡って意見が分かれることが容易に想定され問題がある。また、交渉は労使双方の率直な話し合いとともに、時には思い切った妥協が求められることがある。そうした微妙な交渉プロセスを公表することは、交渉をセレモニー化や形骸化させる恐れがある。  使用者としての国民への説明責任は、交渉結果である団体協約の内容に対する説明責任を果たせば足りることであって、議事概要の公表ではない。したがって、議事概要は公表すべきでない

 3 団体協約の効力

 締結された団体協約の内容が、労使双方を拘束するのは当然である。問題は、その拘束の内容であるが、賃金など労働条件を定める法律および政令の制定改廃を要する事項に関して、団体協約の締結に際し、内閣の事前承認を必要としている。
 しかし、そのことから使用者側の交渉当事者に当事者能力がなければ、団体交渉が形骸化したり、不当労働行為として紛争につながることが危惧される。内閣による事前承認を法制化することが、交渉による労使対等の労働条件決定ルールの定着にも大きな障害となりかねず、むしろ仲裁手続きを通じた労働条件決着が定着することにもなりかねない。そうなれば、自律的労使関係制度とは名ばかりになってしまう。  内閣の事前承認の法制化ではなく、予備交渉の段階から交渉を積み上げ妥協(合意)を見いだしていく労使双方の努力を義務付けるなどの手立てを検討すべきである。

 4 あっせん、調停及び仲裁について

 中央労働委員会の仲裁裁定について、内閣に「実施義務」を課していないことは、争議権制約の代償措置として大きな問題である。
 法律または政令の制定、改廃を要する中労委裁定の場合は、内閣に対して法律案の国会提出または政令の制定改廃の「努力義務」までであって、法律や政令の制定・改廃以外の事項に係わる団体協約と同様の「実施義務」を課していない。争議権を付与しないという今回の措置における仲裁裁定は争議権制約の代償措置と位置づけるべきであって、裁定内容は内閣を拘束できるもの(実施義務)でなければならない。

 5 中央労働委員会

 中央労働委員会が、公務専門の公労使三者で事務を取り扱うこととされているが、「公務労働委員会」(仮称)の設置を求めてきたことからすれば不十分と言える。公益委員、労使委員に加え、地方調整委員など十分な体制を確保することが必要である。

以上



 
 
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