e-Tax(電子申告・納税システム)に関する公開質問状
2003年6月9日提出
2003年9月12日回答
電子申告 
国税電子申告・納税システムの詳細の公表
 国税電子申告・納税システム(以下「e-Tax」と呼ぶ。)の詳細についての納税者・国民への公表、その利用についての周知策およびスケジュールを明らかにされたい。また、このシステムを運用する職員へのシステムの詳細や運用計画の周知、さらに労働条件にかかる労働組合との協議計画を明らかにされたい。
本人確認とセキュリティの問題
(1)  e-Taxの実施に当たっては、「なりすまし」や「盗聴」、「データ改ざん」などの不正アクセスの防止が不可欠と考えられる。同時に、セキュリティ確保の観点から利用者本人確認が厳格に行われる必要があると考えられる。国税庁当局としては、(1)IDおよびパスワードによる利用者の特定、(2)電子署名の添付による作成者の特定、改ざんの防止、(3)送信データの暗号化、(4)ファイアウォールとアクセス監視システムによるデータベース等の保護などの対策が明らかにされているが、これらの詳細、あるいはこれら以外の対策について明らかにされたい。
(2)  行政サイドにおける前記対策が万全であったとしても、納税者がIDやパスワードを紛失や盗難あるいは不適切な管理等により他人に知られてしまった場合には、悪用され得る。その場合の対策を明らかにされたい。こうした事態が生じた場合、または生ずるおそれがある場合、これはシステムの欠陥とはみなさないと考えるのか。
(3)  e-Taxにおいては、電子署名および電子証明書の添付が予定されている。このシステムは、納税者にとってまったく初めての体験となる。そのシステムについての理解と実際の手続にかかる納税者負担は相当大きいものと想像されるが、どのように納税者に周知し、援助することを考えているか。また、電子署名の盗難等防止策を明らかにされたい。
(4)  税理士等がその顧問先の電子申告等を行う場合、税理士等のIDおよびパスワードでログインするが、申告等のデータには納税者自身のIDが必要とされる。とすると税理士等にとって顧客のID管理の責任はきわめて大きいと考えられる。この点に関して、e-Tax全体のセキュリティ対策を明らかにされたい。また、電子申告等のための税理士等と顧客である納税者との間でのデータのやりとりは、e-Taxのセキュリティ対策の範囲外と考えるか。
(5)  納税申告は納税者の権利・義務に影響を与える手続きであり、同時にそのデータはプライバシーそのものである。政府が推進する電子申請・届出等の中でもとりわけセキュリティ確保の要請が厳しく求められるものと考えるが、e-Taxそのものからの情報流出の危険は皆無と考えているか。ID等の盗難防止等が納税者や税理士等の責任を前提にシステム設計がなされているとすると、単に「これまで書面により行われていた手続をインターネット等でも行うことができる」(運用開始のお知らせのチラシから)という程度の問題ではなく、極めて重大な責任と負担が納税者等に課せられることになる。法的整備を含めて、考え方、方策を明らかにされたい。
添付書類の問題
(1)  納税申告書の添付書類のうち、電子化を予定しているものを明らかにされたい。
(2)  第三者が作成した添付書類は、基本的には電子化が困難とされ、別途郵送等により提出することが見込まれている。納税者において、添付書類の提出の忘失または期限経過後の提出があった場合の取扱いは、現行の書面提出の場合と変わるところはないか。また、税務署において、申告等のデータと別途提出された添付書類との照合、審査等の事務は従来の事務の流れとは異なるものと考えられるが、事務手順および処理体制についての対応策を明らかにされたい。
(3)  前項の場合において、e-Taxによる申告等のデータは、税務署における入力作業を省く効果があると考えられるが、例えば、所得税申告では、従来全件入力とされておらず、申告書をA〜Eに区分したうえで一部のデータを入力処理してきたが、e-Taxにおけるデータにはすべてに整理番号が付番されることになるのか、コンピュータ内で自動的にA〜E区分が行われることになるのか。添付書類との照合、審査等のために、あるいは台帳編綴のためにデータのハードコピー化が予定されるのか。また、事務手順の変更により結果として還付金の支払遅滞は起きないか。あるいは、e-Taxによる還付申告については、書面による申告に比べて還付処理が早くなる旨の広報・宣伝を予定していないか。
(4)  申告書および電子化が予定される添付書類について、書式および書類提出についての法制化を予定しているか。その場合の書類等の範囲を明らかにされたい。法制化が予定されていない場合、添付書類提出の法的根拠を添付書類それぞれにつき示されたい。
電子署名の問題
 電子署名には「公開鍵暗号方式」が利用されるものと考えるが、電子署名に必要となる納税者等自身の「秘密鍵」の管理について、上記同様、盗難等防止策を明らかにされたい。e-Taxにおいては、国税庁の「受付システム」が、電子署名と電子証明書によって、申告等のデータが納税者本人の作成したものであること、改ざんのないことを確認するものとされる。そのためにあらかじめ電子証明書を受付システムに登録することが検討されているが、「秘密鍵」の盗難等があった場合、納税者本人が作成したものであることの確認はどのように行うのか。
ソフトウエアおよびチェック機能の問題
(1)  国税庁が提供予定の申告等作成ソフトウエアには、自動計算や転記、チェック機能等を付加するとされる。現行のKSKシステムでは、例えば所得税の損益通算のチェックが不能な場合が多く、また、繰越損失のチェックは不能であるが、これらの付加およびKSKシステムの改善は予定されているか。
(2)  国税庁が提供予定の申告等作成ソフトウエアは、ウィンドウズのみの対応となる見通しである。現在、パソコンの標準的なOS(オペレーティング・システム=基本ソフト)はウィンドウズである。しかし、政府が提供するソフトウエアが、その時代に市場を席巻しているとしても、特定のメーカーの商品にのみ依拠して作成されることに問題はないか。ウィンドウズのソースコードは公開されていないがゆえにマイクロソフト社は巨大な利益をあげている。国際的には、リナックスをはじめとするオープンソース運動が活発であり、確実にシェアを広げているといわれている。これまでの検討状況および将来の見通しを明らかにされたい。
(3)  電子申告されたデータと源泉徴収票や支払調書等の法定資料との自動照合システムは予定されているか。また、税務署への法定資料の提出や範囲の見直しを予定しているか。関連して、申告書への添付書類の削減・簡素化は検討されているか。
電子納税の問題
(1)  電子納税においては、領収済通知も電子データになり、納税者に領収証書の発行は行わない方向で検討されているが、ATM利用明細書の取扱いや納税者の記帳および取引記録の保存上領収証書が必要とされている場合の手当て、法的整備の予定、内容を明らかにされたい。また、納付の効果は、領収日付印を押印した領収証書の交付をもって生ずるとされているところ、電子納税においては、金融機関の内部システムにおいて国庫金勘定に振替処理を行った時に納付の効果が生ずると考えられているようであるが、外見的にも客観性に欠け認識不能なコンピュータ内部での処理を基準に法的効果が生じると考えるのには無理はないか。法的根拠をあげて説明されたい。
(2)  電子納税においては、利用者識別番号や納付区分番号によりすべての情報伝達が予定されている。また、「納付情報入力方式」の場合、いくつかのコード等の組合わせで「納付区分コード」を作成しなければならないが、コード表等の配付・周知の方法を明らかにされたい。このような、各種番号等により手続きしなければならないのは、納税者利便の向上の要請に反しないか。
(3)  「納付区分番号」には有効期限を設けるとされるが、その理由および前項で指摘した各種番号の利用・管理等について、さらに延納の方法等の納税者周知についての方策を明らかにされたい。
(4)  源泉所得税の場合、「所得税徴収高計算書データ」を作成して受付システムに送信しなければならないこととされるが、それだけでは納付の効果が発生せず、納付がなければ期限後納付となる。納税者周知の方策を示されたい。また、電子納税は大変わかりにくく、操作性にも難点が多いと考えられる。仕組み全体の納税者周知の方策を示されたい。
(5)  ATMを利用して納税する場合、24時間対応を予定しているのか。
期限の問題
(1)  行政手続オンライン化法によれば、電子情報処理組織を使用して行われた申請等は、行政機関等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された時に当該行政機関に到達したものとみなすとしている。e-Taxにおいては、KSKシステムのファイルに記録された時ではなく、国税庁の受付システムのファイルに記録された時に到達したものとみなすと考えているようにみえるが、そのとおりか。その根拠を示されたい。例えば、確定申告書は納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされている(所得税法120条ほか)が、そのこととの関係を明確に説明されたい。
(2)  電子申告・電子納税のいずれにおいても、期限ぎりぎりの操作が問題になりうる。電子申告の場合、国税庁の受付システムへの申告データ等の送信の単位は1ファイルごととなるから、実際にはデータは1件ごとに順番に送信され、受付日時、受付番号が付されるものと考えられる。例えば、税理士等が複数の顧客のデータを同時に(一度のクリックで)送信した場合、あるものが期限内申告で、あるものが期限後申告ということもあり得る。あるいは、送信は期限内であっても到達は期限後ということもあり得る。また、電子納税が24時間対応可能であれば、同様に期限ぎりぎりの問題が起きうる。国税庁の受付システムの能力の問題やデータ集中の問題もからむ。トラブル回避のための納税者周知が必要であるが、対策を示されたい。
番号の問題
 e-Taxを利用するには、利用者識別番号、(仮)暗証番号、納付区分番号、納税者確認番号や収納機関番号等の番号、コードが必要となる。その結果、納税者に多くの負担を強いることになりかねず、使い勝手がいいシステムといえるか。利用者識別番号(ID)は、納税地の異動により所轄税務署が変更した場合でも、同じ番号を用いることとするようであるが、事実上の「納税者番号制度」導入にならないか。現行の整理番号とこれら諸番号との関係、政府税制調査会で永年議論されている「納税者番号制度」との関連を説明にされたい。
職員の労働条件に関する問題
(1)  埼玉県・朝霞のセンターの職員や事務管理課職員を含め、e-Taxにより深夜超勤や長時間労働があってはならない。現行の勤務時間制度の運用の変更を考えているか。超勤規制の方策を明らかにされたい。
(2)  e-Taxにより電子的に行われた申告等のデータの入力事務は省力化されると考えられるが、かえって新たに付加される事務は膨大なものになると想定される。e-Tax導入実施に際して、要員増は予定しているか。電子政府構想においては、ペーパーレスが一つの目標になっているが、e-Taxにおいても同じか。例えば、電子申告されたものの申告データ等を台帳・決議書綴等にハードコピーを編綴することは考えていないのか。ファイルしなければ一覧性が失われ、ミスやトラブルの誘因となる。別途提出される添付書類の保管、チェックはどのように行うのか等々、事務の流れを具体的に示されたい。
(3)  電子申告等開始届に係る事務はまったく新規に発生する。どの部門で扱うことを予定しているか。開始届に係る事務は、開始時のみではなくIDやパスワードの紛失、盗難、忘失等に際しても必要であり、確定申告時期における問い合わせ、応対、交付、再交付事務等の集中が想定される。対応策を示されたい。また、納税証明を含む諸申請・届出にかかる事務が労働強化にならない保障はあるか。事務手順を示して説明されたい。
(4)  新たに稼働させる国税庁受付システムの端末機が税務署に配備される予定とされるが、どの部門にどの程度配備する予定か。内部事務にあっては、KSKワークステーション、LAN用パソコンが並んでおり、通常業務の書類の置き場もない状況にあるところ、どのように配備し、どのようにこれを活用するのか、予定事務(量)を示して、具体的に説明されたい。
10 導入プロセスについて
 4月2日に示されたe-Tax運用開始の伝達によれば、平成16年2月名古屋局管内において、所得税申告、個人の消費税申告について運用を開始し、翌3月下旬から法人税申告、法人の消費税申告と、納税、申請・届出に運用を拡大実施するということであるが、なぜ名古屋局において先行実施することとしたのか、理由を明らかにされたい。また、事務の最も集中する個人の確定申告時期にあえて個人の申告についてのみ運用を実施することとしたのか(例えば申請・届出から実施する方法もあったはずであるが)、その理由を説明されたい。
11 コストの問題
 e-Tax導入コストはどのくらいを見込んでいるか、見積りを明らかにされたい。また、名古屋局での運用開始にかかる予算は、今年度予算にどの程度組み込まれているのか、具体的に説明されたい。来年度予算要求の見積もりを示されたい。あわせて平年度のランニングコストの見積りを示されたい。
12 サポート体制
 e-Tax運用にあたり、納税者へのサポート体制が重要になると考えるが、機構と体制、運用について、具体的に説明されたい。
13 コンピュータ・リンクの問題
 従来から行政機関のコンピュータの府省庁を超えたリンクの是非について議論があったところであるが、IT政府およびe-Taxにおいては、インターネットを介して様々なコンピュータシステムがリンクすることが予定されている。国税庁の受付システムと現在の日銀OCRに替わる日銀のコンピュータシステムとの関係、民間金融機関とのネットワークであるMPN(マルチ・ペイメント・ネットワーク)との関係、政府の収納機関システムである財務省の歳入金電子納付システムとの関係が明らかにされなければならない。このことについての国民的コンセンサスはとれていると考えているのか。説明責任は果たしていると考えているのか。このことについての情報公開は行われているといえるのか。
 また、国税庁の受付システムの仕組み自体、いまだ説明がなされていない。運用まで残る数ヶ月でこれらが十分に行い得るか疑問である。導入実施が拙速過ぎないか。これらの疑問に納得できる説明をされたい。
14 目標について
 e-Tax運用実施に当たり、各税目ごとの利用目標や、税務署、国税局ごとの登録納税者数、利用状況等の数値目標を設定することを考えているか。関係民間団体に対して、利用を促しまたは数値をあげて協力を求めることも考えているか。