税研ニュース 1998 / 2 / 10 全国税税研中央推進委員会 事務局 第37回税研全国集会報告書 | ||||||||
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大雪が降るなか第37回税研全国集会は、1998年1月15日から3日間、静岡県伊東市内の伊東市観光会館及び山平旅館で開催されました。「混迷する行財政の現状と課題ー真に転換すべきは何かー」を中心テーマに、沖縄から北海道の仲間256名が参加し熱心に討議しました。今集会は、税研運動の原点に学び、仕事の問題を中心に分科会を構成し、また税制の在り方や税金の使われ方を重視し取り組まれました。 第1日目(1月15日)全体集会・講演 主催者側の税研中央推進委員会飯島健夫委員長・全国税労働組合中央執行委員会井ノ上繁利委員長のあいさつ、来賓あいさつに続き、税研中央推進委員会・大野事務局長が基調報告を行いました。 続いて、札幌学院大学・安藤実教授が「借金大国ニッポン」とその改革ー税金はどう生かされているのかーと題し、財政赤字の原因は不徹底な建設国債主義にあり、国債発行の受益者は公共事業関連の大企業であることを解明されました。さらに、教育費や社会福祉関係の経費は充実すべき分野であり、抑制してくる政府は国民にとって役立たない政府であることなどについて講演されました。 その後、税制経営研究所長の谷山治雄氏は、経済・財政改革と税制と題し、グローバリゼイション、ビッグバン、規制緩和、行政改革、民営化そして政治的、軍事的には「新ガイドライン」等の情勢が大きく変化していることと勤労者を中心とする国民が資本主義の過程で勝ち取ってきた陣地に対する攻撃がおこなわれていることが、租税政策でどのようにあらわれ、どのように対処しなくてはならないかなどについて講演されました。 第2日目(1月16日) 分科会 第3日目(1月17日)全体集会・講演 3日目は、来賓のあいさつ、都留文科大学・川上則道教授の講演、参加者の意見交流、分科会・集会のまとめなどがおこなわれました。 川上則道先生は、高齢化社会と国民負担ー国民負担率50%上限政策を斬るーと題し、国民負担率と「国民経済の循環構造図」を説明され、「公への負担」抑制は公的保障の抑制であり弱者への負担強化であること、国民負担率50%上限政策は公的保障の1人当たり水準の切り下げ政策であることを解明されました。さらに日本は格差の大きい社会であり、応能負担の原則により強者・富者への負担強化により公の負担を増やすことなどについて講演されました。 来賓 国家公務員労働組合連合会 小田川書記次長 日本共産党 佐々木陸海 衆議院議員 メッセージ 全国労働組合総連合 沢中正也 国民運動局長 不公平な税制をただす会 北野弘久代表委員 (日本大学教授) 全司法労働組合 中村晃 中央執行委員長 税理士 村上晴男 分科会の状況 暮らしと税金分科会 1 主な報告事項 基調報告ではまず暮らしと税金の関係について昨年来注目されている、財政と暮らし向き、特に消費税の税率アップや医療保険の自己負担が増えた結果、特に庶民階層の消費支出が低迷したことについて触れました。さらにこれが景気に大きな影響を及ぼしたことを碓認しました。 次に「財政構造改革法」について同法の問題点(下記)を指摘し、政府の言い分が結局は庶民の生活を悪化させる一方、従来の「土建国家」ともいわれる構造の改革には役に立たないものであることを強調しました。 [財政構造改革法の問題点] ◯歳入面の改革には一切触れていない ◯生活のあらゆる面で福祉関連予算を将来的に削るものとなっている。 ◯医療の負担増は9月のものを上回る増加を3年続ける ○公共事業(事業の量を維持)や軍事費(前年度並み)が事実上の「聖域」となっている ○公共投資の長期計画(97年12月決定)では前の計画に比べて総額で40.9%もの増となっている。期間の延長を2年とみて7年でやっても年あたりの金額で501億円の超となる ○公共事業の財源となる建設国債の発行の抑制策が不明 ○軍事費(防衛費)も「前年度なみ」ということで世界のすう勢に反するものとなっている ◯予算の単年度主義を崩す。施策の内容を問うことなく支出の削減が義務づけられ、国会の審議権が無視される ○すべて実施しても赤字財政からの脱却はできず、赤字国債ゼロの目標達成には福祉削減または消費税の増税へ導くものとなっている ○景気や個人消費への影響が考えられていないので、不況に追い打ちをかける また、政府が財政赤字の原因について大蔵省などが「社会保障の費用が増大した」こととしていることに対して「公共事業の拡大・維持」が主因であることを確認しました。 ○報告を書き上げた11月末以降にも大きな情勢の変化がありました。全融システムの崩壊を防ぐという口実で決められた30兆円投入問題です。これについては新聞記事を素材に報告をしました。規制緩和・小さな政府などと主張してきた人たちが全くそれに逆行することを決めたことを強く批判しました。 2 主な発言の要旨(一部) ○公務員の労働組合も社会保障を守る運動に力を注ぐ必要があること ○社会保障改悪攻撃のなかのうそ宣伝を論破することが重要であること ○納税者や国民の運動と密接に結び付く分科会であるので発言しやすく、吸収した知識をいろんな運動で生かせる 税制一般分科会 1 報告事項 分科会報告草案 国公労連の政策提言と運動について 消費税仕入税額控除否認事件(裁判)について 民主的税制改革の構想と具体化 法人税改革の方向とねらい 2 主な発言の要旨 (1)源泉徴収・年末調整制度については、事業主に勤労者のプライバシーに関わる多くの情報を把握させる制度になっている点も問題の一つとして挙げられる。 (2)給与所得控除額は、下は65万円定額、上は青天井になっており生活費非課税原則から考えて改善が必要ではないか。 (3)白色専従者控除額については、例えば当人が交通事故にあってしまった場合の保障額の算定基礎になるなど問題が多い。 (4)赤字法人課税問題を考える場合には、現在の個人課税を法人課税の方に近付けて行くことが必要ではないか。 (5)青色専従者給与は労務費と経営者報酬との両面を合わせ持っている。 (6)納税者の権利を考える場合、コンプライアンス・コスト(従わなければならないことに伴う経費)まで含めて税務調査等を考えて行くことについて国際租税学会で議論されている。 (7)納税者の権利を考える上で、IRS の改善を求めたアメリカ議会での議論が参考になるのではないか。 (8)事業税の外形標準課税問題は、課税ベ一スを考えると実質的には消費税と同じ性格のものである。 (9)公益法人課税について、収益事業の規定にあらゆる事業を包含させるような表現を一項目加えようとする動きがあることに、労働組合として注意が必要である。 (10)消費税が前段階控除方式をとっているいる以上、仕入税額控除を一切認めないことは本質的に間違っている。 (11)法人税改革は財源面で考えた場合、課税ベースの拡大による増税に関しては恒久的部分と単年度部分とがあり、平年度の財源不足部分には消費税の増税がスケジュール化されている。 (12)法人税改革の中身には、減価償却制度の見直し等個人事業者へも影響する内容が含まれている。また福利厚生費の見直しはフリンジベネフィット課税と関連させて考えるべきである。 (13)制度改悪の流れと行政の方向は一致するものであり、両者を合わせた検討が必要である。 4 反省点等 初めての参加者などからは税制研究そのものに新鮮さと重要性を感じるとした感想が寄せられました。反面、税制という大きな問題に対し議論のきっかけを掴めず個人的意見を表明することについてためらいがあったようです。今後も主催者としては、討議の場において参加者の問題意識を掘り起こす工夫が必要であると同時に、参加者が自らの研究課題・成果を持って参加されることを期待します。 税務行政1 管理・徴収分科会 1 報告事項 分科会報告案 2 主な討議内容等 管理・徴収分科会は、最近開催されておらず実質的には初めてという状況での開催した。 (1)徴収での消費税偏重、売掛金月3件差し押さえ等の問題 東京局管内では、KSKでそれどこではないが、全国的には国税庁が一昨年の参議院決算委員会付帯決議を口実に消費税滞納処分の偏重を強行している、行政がゆがめられており問題。庁に対しこうした事務運営を撤回させるとともに消費税の本質的問題を含め国民的なアピールが必要。 (2)中小業者の実態 アメリカのように破産→社会的救済がベターではないかと思える業者も多い、破産申し立てできるのはまだましなほうだ。倒産寸前の人は税金の滞納を相談する余裕もないのが実態。 (3)管理の職員が、納税貯蓄組合の運営、同会報紙づくりに関与するのは問題。 (4)KSKの実態 KSKの試行に伴い、二重手間やトラブルも相まって、まともに債権管理ができていない。職場の声を聞かない非民主的な当局の体質が矛盾の根源。システムに基本的欠陥があるにもかかわらず、試行結果を決して悪いと報告しない職場の専制支配体制が問題。 (5)地方消費税の「委託納付」等は、附則で行われているが、その滞納での滞納処分は合法なのか、安易な法律が勝手に作られるのは問題。 (6)滞納処分における安易な執行停止は問題。 (7)滞納が増加する現状から増員要求は当然だが、事実上制約があり困難。本質的な事務合理化も必要であり、対案を示していく必要がある。 (8)納税専門官は、財務局や納税者等との板挟みで大変。 (9)法律問題の検討 国税徴収法第47条の10日すぎれば差し押さえしなければならない、労働債権との調整がないなど明治時代の発想で問題。等 税務行政2 個人課税分科会 1 報告事項 分科会報告案 2 主な討議内容等 (1)国税労働者の悩み、当局の最近の施策の特徴、KSKシステム導入・消費税導入等による職場実態などが出されました。また、調査についてそれぞれ実態が出され意見交流ができました。 (2)調査に関わって、税務行政にとって「増差・件数・不正」のノルマ主義は、大きな問題があると意見が出されました。また、任意調査の限界の問題が議論され、調査の手続きの規定がないことが問題であるとの指摘がされ、「手続法」の制定が税務職員・納税者にとって必要であるとの意見が出されました。 (3)税務署内では、調査担当も内部担当も仕事に追われていて、そのことで様々な問題が起こっていることが報告されました。もっと時間的に余裕があれば、若手職員の指導、税法の勉強また基本簿書の整備等もできるのではないかとの意見が出されました。 (4)確定申告期に、一部の局で「呼び出し」が廃止されたとの報告があり、今後どう変化していくのか注視する必要があるとの意見が出されました。 (5)討論の中で、現在の大衆課税のシステムが問題であることが明らかにされました。そして課税最低限の引上げ等の闘いが必要であるとの意見が出されました。 (6)諸外国のように「納税者の権利憲章」の制定が早期に必要であるとの意見と、また、昨年、国税庁から出された『今後の税務行政運営について(申告納税制度導入五十年を迎えて)』を納税者の権利という観点で、どう評価するか議論しておく必要があるとの意見が出されました。 (7)重加算税の賦課基準、調査のそ及の問題など今後研究・議論していく必要があるとの意見がありました。 (8)わかりやすい税制(特に所得税)が国民にとって必要である。そして税金の基本的な知識が身につくような国民の立場に立った教育制度に変えていく必要性もあるとの意見が出されました。 税務行政3 資産課税分科会 1 報告事項 分科会報告草案 2 主な討議内容等 (1)税制の問題点について 資産課税という点では、土地税制も重要である。地価税を実施するとき地価はすでに下つていた。日本は土地本位制一価格の上下により経済が動いてきた。諸外国の様に規制し、国・地方の所有であるべき(例・韓国・ョーロッパ)。 相続税を除いて、全て総合課税にすべき。有価証券は分離課税で不公平。適性手続きが必要である。 (2)調査の在り方について(含む・脱税請負事件に見る間題点) 相続税調査中心に イ、調査3年目一脱税は見つけたい。ロ、重加算税中心に、郵便局調査、東京局管内では着手してない署の統括官が追及された。他局はまだそこまで行って無いが、今後その方向に動くのでは。ハ、同和問題・近畿より。相続税の事前金融機関等への照会、納税者の権利はどうするのか、質問検査権との関係は一署・現場段階検査権という意識ない。ニ、調査腕がわるくなつた。ホ、料調方式・増差主義一手段違法でも免罪される。ト、適正手続がないのが問題。等の意見がだされた。 (3)KSKの間題点 束京局だけの導入で譲論になりにくかった。大局的な観点から、庁では「順調に堆移」だが、一人一人データーべ一ス把握・管理される。納税者番号制は住民基本台帳を元に早まりそう。また、プライバシーでは、情報公開法は今年3月にも成立の可能性があるが、税務を除外しようとしている。KSKは、システムに基本的問題があるが当局は後に引けない状況、一旦入ると問題多い、国民にも明らかにさせる運動が必要。 (4)評価の間題点 評価にタッチしている人やOB以外の方にはわかりずらい討議となった。そういう中でも、署は「評価高めに」としているようだが、外部は色々やりくりして評価減を認めさせているが、署の意向のままが多い。 個別の市街地農地、無道路地、4m道路、セットバック、調整区域の宅地比準評価など評価通達について検討。あいまいな点は法令で決める所は決めるで一致した。 (5)その他 資産課税の提言、最近出されていないが来年は必ずその成果を示したいとの決意。 税務行政4 法人課税分科会 1 報告事項 分科会報告草案集 2 主な討議内容等 *各局の共通的な特徴点は、特に最近顕著に現れているのが、連携調査や同族グループ法人に対する調査の強調である。国税庁の方針が統一的かつ早く署の段階まで指示が下る。例えば、住専問題絡みの調査において、源泉税のつまみ納付が発覚し、それがすべての局で一斉にチェックするよう指示がおりたことがあった。連携調査で、税法の属地主義からみて、管轄外のところの調査にいくのは問題があるのではないかとの意見があった。 *一般同時調査、着眼調査などの調査件数は増加していないが、多税目同時調査は、密度が濃くなっている。(沖縄事務所の調査件数は、沖縄以外の局より2割程度多い模様。)また、連携調査や組み調査などがあると、それにかかる準備や処理が大変。余分に時間がかかるが、調査件数を削減しないので労働密度が濃くなる。一般事案については、見極めを早くやらなければならないので、若手職員には精神的にもきつい。 *ノルマ主義の問題では、成績主義が横行している。「顕著」な事績を上げた職員に対して局課長や部長が表彰したりする制度があり、競争をあおっている。(月間MVP一大阪局、局課長の感謝状一名古屋局) *ストレスが溜り健康を害している職員が目立つ。特に精神的な障害を持つ職員がいる。 *法人税率の引き下げで恩恵を受けるのは大企業のみ。中小企業は、交際費課税の強化などで逆に増税になる。赤字法人に対する外形標準課税は、賃金切り下げやリストラがおき、税法が経済取引に影響を与える。 *大企業の乱脈経理や不祥事を逆手にとって、中小企業に対する調査の強化の方向がはっきり現れてきている。「今後の税務行政運営について(1997/11)」の税法を「適正」に執行する、あるいは「刑事責任の追及」は従来の税務運営方針(1976)からの方向転換を意味する。権利憲章や手続法の制定は税務織員にとっても、誇りをもって仕事を行う面からみても必要。税務労働のありかたをもっと深める必要がある。 どこを開いても価値ある1冊ー「税金´98」 | ||||||||
税研は、「税務職員の税金知らずをなくす」「国税労働者や納税者の悩み苦しみの根源は何かを知る」などを運動の基調とし、学習・研究活動を行っています。そして、学習研究の成果を持ちより、1960年から毎年1月に税研全国集会を開催しています。毎年、国税労働者だけでなく、税理士や業者団体、地方税労働者など税金に関わる幅広い人々が参加をしています。今年は静岡県伊東市で「第37回税研全国集会」を開催し、そのまとめ「税金´98(B5版112頁)」を発行しました。
見出しは地味ですが、この本はどこを開いても財政・税制・税務行政の問題点がきちんと記載されており、まさに価値ある1冊です。 お問い合わせ・お求めは全国税労働組合(電話03-3581-3678 FAX03-3507-0886)まで。 混迷する行財政の現状と課題ー真に転換すべきは何かー ○講演 「借金大国ニッポン」とその改革
■暮らしと税金 ■税制一般 ■行政1 管理・徴収 ■行政2 個人課税 ■行政3 資産課税 ■行政4 法人課税 ○資料 ・1998年度税制審議に関する申し入れ書 ・1997年版不公平税制是正による財源試算 ・日本の主な大企業の内部留保と優遇税制による減免税額について |
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