国公労連
国民のための行政・司法へ ストップ!憲法改悪 サイトマップ 更新履歴 個人保護法に関する宣言 リンク
Action 私たちのとりくみ Journal 定期刊行物 Archives 資料 Mail News
トップページ >資料・宣伝素材> 国公労連・研究機関対策委員会学習資料
トップページ>宣伝素材> 国公労連・研究機関対策委員会学習資料
 
  Archives 資料
〈国公労連・研究機関対策委員会学習資料〉
独立行政法人試験研究機関を取り巻く科学技術情勢
     
 

 

※このレジュメは、3月27日の国公労連・研究機関対策委員会で、日本科学者会議 科学・技術政策委員会の野村康秀氏に講演いただいた際のものです。

独立行政法人試験研究機関を取り巻く科学技術情勢

2008年3月27日 野村康秀(日本科学者会議 科学・技術政策委員会)

 国立試験研究機関の大半が独立行政法人に移行させられ、その前後から一貫して「合理化」攻撃にさらされ続け、また、業務に対する統制的な「管理」が強化されてきている。独立行政法人の労働組合と組合員は、長期に亘って、巨大な敵とのたたかいを余儀なくされ、組合役員の皆さんの苦労は大きいものだと承知している。
 ここでは、今日の独立行政法人に対する攻撃の基軸をなしている日本の科学技術政策の構造を紹介し、今後の運動に何か役立てていただければ幸いである。

1.独立行政法人試験研究機関に対する攻撃

(1)総合科学技術会議の研究型独立行政法人への要求

○「研究開発独立行政法人の在り方について」(2007.10.29)
 (概要:【資料1】
  本文:【資料2】
 この提言は、今年度予算策定前のものであるが、現在の独立行政法人に対する科学技術政策からの注文の要約版といえる。第3期科学技術基本計画路線の独立行政法人版として、科学技術政策の「司令塔」と位置付けられた総合科学技術会議が要求をまとめたものであり、経済財政諮問会議等と同様に、大臣以外の「有識者議員」が方針を提示し、全体の方針にしていくという手法をとっている。
 「概要」には「総合科学技術会議有識者議員」と書いてあり、8頁立ての本文では、8名の名前が列記されている。この8名は、総合科学技術会議の議員【資料14】15名の内、大臣以外の8名のことだが、総合科学技術会議の「有識者議員」には、「行政」の代表と位置付けられる日本学術会議会長が入っているのが特徴で、また、財界人2名、1名は社長・会長クラス、もう1名は技術担当役員OBクラスが指定席となっている。
 この提言は、研究開発型独立行政法人には、国の科学技術予算の約3割、1.1兆円を投入してしているのだから、「国」として注文する権利があるという論理展開で要求をいわば正当化し、民間・大学との役割分担を明確にする観点で、独立行政法人である国立試験研究機関(以下、「研究独法」)の役割や課題を提示している。項目の柱は以下のとおりである。

 研究独法の担うべき役割

(1)国の政策課題達成のための研究開発
 1)安全・安心な社会の実現、2)国家の基幹となる技術体系の確立、3)産業競争力の強化と次世代を拓く新技術の創造
 「国の課題」達成への貢献は3期計画の特徴であり、「安全・安心」、国家基幹技術という3期計画のキーワードが、第1、第2の柱となっているように、折り返し点においての3期計画達成の観点からの研究独法に対する要求となっている。3)の点は、リスクが高い分野について、産業化への橋渡しの役割を求めている。

(2)研究開発のためのインフラの整備・供用
 産学官連携を通じ巨額設備投資の肩代りの要求といえるだろう。

(3)研究開発の活性化を促す研究助成金の交付
 研究をボトムアップ型とトップダウン型に大分けし、政策遂行型のトップダウン型にお墨付きを与えるとともに、ボトムアップ型についても、運営費交付金の配分を「活性化」に活用すること提起している。

 研究独法の研究開発力を高める方策

(1)優れた人材の確保と人が能力を生かせる環境整備
 重要な研究開発を担う研究者等の人件費を確保、外部資金による研究者への人件費支給の拡大等だが、「運営費交付金等における人件費一律削減によって、優れた研究者の採用や計画的な人材育成・確保に支障を及ぼすことのないよう」として、運営費交付金カットを前提にしている。

(2)研究開発資金の充実と制度改革の推進
 弾力的・機動的な予算の投入ができる仕組みの構築、外部資金導入へのインセンティブ付与等。

(3)研究マネジメントの改革
 独法理事長に委ねられた裁量性、結果重視のマネジメント、横並び一律の人事・俸給制度から脱却、無形資産を生かした自己収入の抜本強化等。

 早急に対処すべき課題

 既に挙げた内容の具体化であり、「国の政策課題達成」として重点的に取り組む課題として明記することにより、2008年度予算からその進捗状況をチェックしていくことを明確にしたといえるだろう。

(1)研究独法の活動への国家戦略の明確な反映 具体的には後述の「分野別推進戦略」の反映を求めている。

(2)研究開発力の強化と研究成果の社会還元に向けた経営努力の促進 国民に対する十分な説明責任を求め、「技術移転による事業化や研究成果の社会還元を促進」としている。

(3)優秀な人材の確保 独法人件費の「5年5%削減」方針について、「新たな価値を生み出す母体という特殊性を踏まえた対応が必要」とし、それなりの配慮を求めざるを得なかったということだろう。

(4)研究独法の枠を越えた研究人材の流動化

○「独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動(平成18事業年度)に関する所見」(2007.11.28)
 (概要図:本文:参考資料:【資料3】


 今後、取組を充実すべきと考えられる事項

・国の政策課題へ対応した研究開発の推進
・研究開発力の向上
・優秀な人材の確保と流動化の促進、柔軟な連携・協力体制の構築

 研究独法や国立大学法人は、運営費交付金の比重が極めて大きいが、「渡しきり」の実状にメスを入れるための評価として行っている。大学では、状況が千差万別だが、研究独法には、画一的な管理方針が打ち出されてくる可能性があるのではないか。なお、添付資料で省略した「参考資料」に、論文、知財創出、共同・受託研究のランキングが出ているので、眼を通してほしい。

(2)独立行政法人に対する「合理化」攻撃

 (2)と(3)は、研究機関のみを対象としたものではない「合理化計画」であり、これまで労働組合の運動でも大いに取り組んできていることなので、項目の羅列や時系列の紹介だけでコメントは省略する。
第1期中期目標期間: 運営費交付金の算出=毎年マイナス1%の効率化係数
第2期中期目標期間: 運営費交付金=一般管理費と業務管理費
 一般管理費=毎年マイナス3%の効率化係数
 業務管理費=毎年マイナス1%の効率化係数
 人件費の総額=平成18年度以降の5年間で、5%の削減(行政改革推進法53条)。
 すべての独立行政法人(101法人)について民営化、廃止を含む業務の全面的な「整理合理化計画」を年内に作成することを確認

(3)独立行政法人整理合理化計画(2007.12.24閣議決定)

 「検討の基本的な考え方」
(1) 事務・事業の見直し等
(2) 法人の廃止、民営化等
(3) 統合、他機関・地方への移管 「融合効果の見込める研究開発型の独立行政法人」の記載あり
(4) 非公務員化
  ↑
「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)=101の独立行政法人について原点に立ち返って見直し、年内を目途に「独立行政法人整理合理化計画」を策定する
  ↑
行政減量・効率化有識者会議(座長:茂木友三郎・キッコーマン会長 )
 政策評価・独立行政法人評価委員会(委員長:大橋洋治・全日空会長)
 規制改革会議(議長:草刈隆郎・日本郵船会長。議長代理:八田達夫・政策研究大学院学長)
 官民競争入札等監理委員会(委員長:落合誠一・中央大学法科大学院教授)

  ↑
経済財政諮問会議(2007.5.9)
 有識者議員「独立行政法人のゼロベースでの見直しを」


2.科学技術基本法と科学技術基本計画

(1)科学技術基本法(1995)
【資料4】

 1 科学技術基本法のポイント −総合科学技術会議HPから

 1)科学技術振興のための方針(イ 研究者等の創造性の発揮、ロ 基礎研究、応用研究及び開発研究の調和ある発展、ハ 科学技術と人間、社会及び自然との調和等)を規定。

 2)科学技術振興に関する国及び地方公共団体の責務を規定。

 3)科学技術振興施策を総合的、計画的に推進するため、政府において、(総合)科学技術会議の議を経て、科学技術基本計画を作成すべきことを規定。また、政府は、科学技術基本計画について、その実施に関し必要な資金の確保を図るため、必要な措置を講ずるよう努めることを規定。

 4)国が講ずべき施策(イ 多様な研究開発の均衡のとれた推進、ロ 研究者等の養成確保、ハ 研究施設・設備の整備、ニ 研究開発に係る情報化の推進、ホ 研究交流の促進等)を規定。

 この10年余の科学技術政策の展開は、【資料4】のように、科学技術基本法の制定を画期として始まった科学技術基本計画路線による。この流れが、旧国研を大きく飲み込み、今も進行中である。
 科学技術基本法は、1995年11月に全会一致で成立施行された。条文としては、「この法律は、…もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする。」(第1条)、「…科学技術に係る知識の集積が人類にとっての知的資産であることにかんがみ、研究者及び技術者の創造性が十分に発揮されることを旨として、人間の生活、社会及び自然との調和を図りつつ、積極的に行われなければならない。
 2 科学技術の振興に当たっては、広範な分野における均衡のとれた研究開発能力の涵養、基礎研究、応用研究及び開発研究の調和のとれた発展…自然科学と人文科学との相互のかかわり合いが科学技術の進歩にとって重要であることにかんがみ、両者の調和のとれた発展について留意されなければならない」(第2条)など、良識的な内容を柱としている。ただし、法案の国会審議では、共産党が修正案(目的に「平和主義」を明記、基本計画策定に際して日本学術会議その他の学術研究団体の意見の反映)を提出したが、否決された。

 2 科学技術基本法策定の経緯と背景

・バブル崩壊による企業の研究開発投資の減少 【資料5】の日本の研究費の推移にあるように、92-94年に民間の研究投資が減少している。折からのバブル崩壊で、民間企業の研究投資が抑制されるようになった。その代替として、財政出動を求めるための枠組みが求められたことが基軸である。
 【資料4】について若干補足すると、総務省が毎年行っている科学研究調査の結果を80年以降の分をまとめて作成した。左側は、負担源別=金の出所について、国・自治体、民間、外国の内訳の金額と比率の推移であり、1990年代前半の停滞とその後の国主導の増加が分かる。最近は、民間の開発研究費の増加で、国等の比率が低下気味である。右側のグラフは、自然科学の基礎・応用・開発の比率の推移だが、科学技術基本計画時代になって、基礎研究の比率がむしろ低下傾向であることが分かる。製品化に結びつくような研究開発に偏った科学技術政策の推進が行われてきたといえるのではないか。ここでは分からないが、米国では、基礎研究の比率が増加傾向にあるのと対照的である。
・第2臨調路線による大学等の貧困化対策の停滞 80年代半ばからの第二臨調路線による、大学・国研への予算圧縮で、大学や研究機関の老朽化が進行し、「理工系の危機」「理科離れ」が指摘され、経団連や経済同友会なども研究基盤整備を主張し始めていたが、バブル崩壊で、条件整備の環境が急速に失われる中で、この面でも財政出動を求める声が高まった。
・非自民政権発足後の政権復帰を目指す自民党の「政策作り運動」との関わりで 非自民細川政権の誕生で、自民党は政権復帰のため、各分野での政策作りを行い、非自民政権との財界の支持獲得の競い合いを進めていた。科学技術分野では、新たな資金提供スキームとして、基本法構想を打ち上げたが、これに非自民政権与党の側も食いついてきた結果、超党派的立法となった。

 3 科学技術基本計画の策定

 科学技術基本法のポイントにあるとおり、政府に対して、科学技術基本計画の策定を義務付けた。
「政府は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術の振興に関する基本的な計画(以下「科学技術基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 科学技術基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 研究開発(基礎研究、応用研究及び開発研究をいい、技術の開発を含む。以下同じ。)の推進に関する総合的な方針
二 研究施設及び研究設備 (以下「研究施設等」という。)の整備、研究開発に係る情報化の促進その他の研究開発の推進のための環境の整備に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 その他科学技術の振興に関し必要な事項
3 政府は、科学技術基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、総合科学技術会議の議を経なければならない。」(科学技術基本法第9条)

である。ただし、制定時は、総合科学技術会議発足前だったので、ここは、「科学技術会議」と定められていた。
 この条文で気がつくのは、科学技術基本計画は、「研究開発」の推進方針であって、幅広い科学技術・学術の総合的な推進の方針ではないことである。基本法の第1条、2条の規定とずれがあり、これが、その後の科学技術政策の歪みをもたらす基本的な要素となっていた。科学技術基本計画は、「10年程度を見通した5年間の計画」として立案すべきことが、衆参の委員会の附帯決議で求められた。

(2)第1期科学技術基本計画(1996−2000)【資料6】

・「科学技術創造立国」の提唱
・研究開発システムの制度改革  流動性、ポスドク1万人計画、産学官連携、厳正な評価
・政府研究開発投資の拡充 17兆円 →17.6兆円で達成
(「政府研究開発投資の対GDP比率を、計画の期間内に倍増を実現させる」→「この場合、計画期間内における科学技術関係経費の総額の規模を17兆円とすることが必要である」)

 第1期科学技術基本計画は、1995年11月の科学技術基本法の施行直後に、科学技術会議(当時)に諮問がされ、翌1996年6月の科学技術会議答申を経て、7月に計画が閣議決定された。
 政府研究開発投資の拡充では、金額を書き込むかどうかで、財政当局との綱引きが最終段階まで続けられたが、最終的には、「17兆円とすることが必要である」という「客観」表現で収まった。
 いわば緊急避難的に定められた経緯から、「研究開発システム」に絞った制度改変を求めていることが特徴である。計画の決定後、国研任期法、大学教員任期法(1997)、TLO法、研究交流促進法改正(1998)、産業技術力強化法(2000)などの法整備が進められ、ポスドク1万人計画や競争的資金の倍増がこの時期に実現した。他方、施設整備は遅れが目立ち、格差の拡大となっていった。

(3)第2期科学技術基本計画(2001−2005)【資料7】
・政府研究開発投資24兆円(対GDP比1%、GDPの名目成長率3.5%)→達成は21兆円
・分野別推進戦略 8分野 (全88頁)
・投資の戦略的重点化(基礎研究の推進、重点分野の設定)と科学技術システムの改革(競争的研究資金の倍増、産学官連携の強化など)→研究者不正の広がり
・ノーベル賞50年で30人程度
・司令塔としての総合科学技術会議

 第2期科学技術基本計画は、2000年12月の科学技術会議の最後の答申でほぼ内容を固め、2001年1月の中央省庁再編、総合科学技術会議発足(科学技術会議廃止)を経て、2001年3月30日に閣議決定された。政府投資規模の数字の明記は、今回も若干もめたが、いわば既定の路線として書き込まれたものの、5年間の成長率3.5%を見込んでいたため未達成に終わっている。また、50年で30人のノーベル賞という「夢」は、具体化に近づいているとも思えない。
 2期計画の特徴は、戦略的重点化と科学技術システムの改革である。
 重点化では、基本計画決定直後から、8分野(ライフ、情報通信、環境、ナノテク・材料の優先分野と、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアのスクラップ&ビルド分野)の「分野別推進戦略」の査定を検討開始し、同年9月に取りまとめられた。
 科学技術システム改革では、研究開発システム改革が競争的資金の倍増、間接経費の導入など深化するとともに、産学官連携を「産業技術力強化」の観点で更に強化し、人材、教育問題など領域が広がっていった。また、科学技術倫理、食糧・災害などの安全問題など新たな課題も提起した。「中期計画」「中期目標」による管理貫徹が可能な組織形態として、独立行政法人制度発足(2001.4)、国立大学法人(2004.4)、特殊法人の独立行政法人化、地方独立行政法人制度の発足と進んでいったのは、この期間である。
 合わせて、発足直後の総合科学技術会議について、科学技術政策の司令塔の役割を担うとし、資金配分権限を付与するなどした。

(4)第3期科学技術基本計画(2006−2010)【資料8】
・2つの基本姿勢と6つの大目標の設定
<基本姿勢>(1)社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術、(2)人材育成と競争的環境の重視 〜 モノから人へ、機関における個人の重視
・政府研究開発投資25兆円(対GDP比1%。GDPの名目成長率3.1%を想定)
・分野別推進戦略 8分野 (328頁:計画と同時に策定)
・重要な研究開発課題 273課題
 →戦略重点科学技術 62科学技術
 →→国家基幹技術(次世代スーパーコンピュータ、宇宙輸送システム、海洋地球観測探査システム、高速増殖炉サイクル技術、X線自由電子レーザー)
・総合科学技術会議の司令塔機能強化
・「安全」の重視と、その後重視されるようになった「科学技術外交」

 2期計画より「安全」概念を拡張−「社会の安全」「国際安全保障」の登場
 日本経団連の要望 2004.7「今後の防衛力整備のあり方」→2004.11「3期計画への期待」
  「安全に資する科学技術推進プロジェクトチーム」(2004.10.28〜2006.5.18)
 3期計画の策定は、いわば組織的に行われた特徴を持っている。2期計画の後半期間に、その到達点を全面的に総括し、これまでの投資拡充路線から、社会的還元が可能な投資、イノベーション実現につながる投資に向けて更に重点化を図る方針作りを進めた。その現れが、2つの基本姿勢と6つの大目標の設定であり、分野別推進戦略も、4倍近い分量となり、また2期計画時と違って、基本計画と同時決定することとなった。
 また、「国家戦略」との関わりで、重点投資する課題・分野の絞り込みを強化し、国家基幹技術を定め、重点投資と進捗状況の綿密なフォローを進めることとした。これら重点化等の推進監視機能の強化のため総合科学技術会議の司令塔の役割は一層強められた。
 注視すべきは、2期計画でもあった「安全」の課題が、極論するとトップテーマの一つになり、」特に、「社会の安全」への科学技術の利用の方針が出てきた。その背景には、経団連が、日本の産業技術力強化の観点から、防衛技術の」研究・開発を求めてきたことがある。


3.今日の科学技術政策

(1)2008年度科学技術予算の概要−総合科学技術会議まとめ【資料9】【資料10】【資料11】【資料12】

(2)2008年の科学技術政策の重要課題−総合科学技術会議(2008.1.30)【資料13】

1.科学技術の現状についての基本認識

(1)国力の源泉としての科学技術、(2)科学技術を担う人材の育成・確保、(3)国民とともにある科学技術

2.科学技術力の抜本的強化に向けた取組
(1)「革新的技術創造戦略」の展開 1)飛躍をもたらす独創的な基礎研究と将来の産業競争力の源泉となる研究開発の推進、2)イノベーション創出への支援強化、3)成果が国民に実感できるプロジェクトの推進、4)競争力強化のための知的財産戦略
(2)「環境エネルギー技術革新計画」の策定

3.重要課題に対する戦略的な取組
(1)科学技術外交の推進、(2)地域活力を向上するための総合的地域科学技術戦略の策定・推進、(3)高度研究人材・理工系人材の育成、(4)研究インフラ整備のあり方、(5)研究開発マネジメントの改革、(6)国民の安全・安心の確保

 (1)に示されるように、2008年度予算の科学技術関係予算全体は前年度比595億円増の+1.7%となった。そのうち、プロジェクト研究など実用化に近い特別会計の伸びが+2.1%と相対的に大きく、より基礎基盤に近い一般会計中の科学技術振興費の伸びは+1.1%である。この中には競争的資金が含まれ、その伸びは大きいので、基盤経費の圧縮が一層進むといえるだろう。ただ、政府の科学技術予算には、当初予算のほかに、年度途中の補正予算で手当される額がかなりあるので分かりにくい。
 また、2008年度予算では、総合科学技術会議による予算費目のSABC判定の結果がより反映されていることが特徴だといえ、「メリハリある」予算だと自慢している。
 なお、2001年以後の府省ごとの予算の推移の表【資料12】を作成したが、最大額は文科省で、国立大学法人への運営費交付金や、科学研究費補助金、私学助成などがあるので当然だろう。次は経産省で、プロジェクト補助金・委託費などを含む特別会計ではトップである。続く3位は防衛省で、この順位は、2001年以来変わっていない。ちなみに、防衛省の技術研究本部は、指定職8人研究職534人を含む1135人定員で、予算規模は1563億円(2007年度)という規模である。
 (2)は有識者議員の提言であるが、基本的には、2008年度予算の実行の監視の観点を提示するとともに、その進捗評価を2009年度予算に反映させることの宣言である。また、重要課題に対する戦略的な取組の最初が「科学技術外交」となっているが、日本の国家戦略の科学技術版として、基本計画策定後、後述のように独自のワーキンググループを設置し、7月の洞爺湖サミットを目途に重点的な検討が進められている。国連安保理常任理事国入りを目指して、票数の多いアフリカ諸国の取り込みに照準を合わせているとが指摘されている。また、戦略の最後が、安全・安心なのも、3期計画下の予算として、注視が必要だろう。


4.日本の科学・技術政策の策定システム
(1)総合科学技術会議(2001.1〜)
○内閣府設置法26条
に基づく組織=有識者議員の任命には、両議院の同意が必要
 「有識者議員」 冒頭の【資料1】【資料2】の独立行政法人
○政策策定と推進の司令塔機能
「内閣総理大臣のリーダーシップの下、科学技術基本計画に示された重要政策が、我が国全体として的確・着実に具現化されるよう、政策推進の司令塔として府省を超えた国家戦略を示し、先見性と機動性を持って運営を行う。」
 (3期計画における位置付け。2期計画に位置付けと比較すると、「国家戦略」が追加された。)
「政府研究開発の効果的・効率的推進」でも役割・機能を述べており、
 ・研究開発の戦略性の強化、
 ・資源配分方針における優先順位付け等の改善、
 ・独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動の把握・所見とりまとめの強化
 ・調査分析機能や府省間の調整機能の強化、
とされている
○構成と推移【資料14】
 首相=議長と、14名の議員の合計15名。閣僚は7名で、残り8名が「有識者議員」とされるが、学術会議会長は、総合科学技術会議のHPにおいても、「有識者」だったり外されたりしている。
 また、財界枠は2名で、前身の科学技術会議の時代より増加している。
○事務局機能 約110名(総合科学技術会議パンフレットによる)と大規模である。
ただし、「内閣府政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)は、産学官から幅広く登用された100名規模の職員とともに、総合科学技術会議の事務局機能を果たしている。」(会議HP)
○専門調査会
 1)基本政策推進専門調査会(2006.4〜)、
 2)評価専門調査会(2001.1〜)、
 3)生命倫理専門調査会(2001.1〜)、
 4)宇宙開発利用専門調査会(2001.10〜)、
 5)知的財産戦略専門調査会(2002.1〜)
○ワーキンググループ

2008年に活動しているのは、いずれも基本政策推進専門調査会の下に設けられている科学技術外交の推進に関するWG、iPS細胞研究WG、地域科学技術施策WG、環境エネルギー技術革新計画WG
○8分野の推進では、基本政策推進専門調査会の下の各プロジェクトチームで継続的に検討
○産学官の連携
・産学官連携サミット(毎年11月、東京で開催。主催:内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、日本経済団体連合会、日本学術会議)
・産学官連携推進会議(毎年6月、京都で開催)  数千人規模
・地域産学官連携サミット(2001、02年に、9地域で11回開催)

(2)その他の主な行政組織等
・経済財政諮問会議(議長=内閣総理大臣)  2001年の省庁再編のときに総合科学技術会議と一緒に設置され、特に、小泉内閣時代は、規制緩和路線推進の大きな旗振り役となった。毎年、「骨太の方針」を策定しているが、科学技術政策についても、イノベーション実現のための国家戦略の貫徹を要求し、国立大学の運営費交付金の傾斜配分など、メリハリのある政策推進を求めている。
・科学技術・学術審議会(文科省)(会長:野依良治・理化学研究所理事長。会長代理:野間口 有・三菱電機会長)  旧文部省の学術審議会と旧科技庁の資源調査会等を束ねたもので、研究計画・評価分科会、学術分科会、技術・研究基盤部会など多くの部会や分科会がある。研究者の要求や立場を反映し、政府が遂行しようとする科学技術政策に対していわば懸念を表明することもある。
・中央教育審議会(文科省)(会長:山崎正和・劇作家、評論家。副会長:梶田叡一・兵庫教育大学長、三村明夫・日本経団連副会長)  いわずとしれた著名な組織で、大学・大学院のあり方についても提言を行っており、ポスドク対策や研究人材供給などを通じて、独立行政法人研究機関のあり方に間接的な影響を及ぼしている。
・産業構造審議会(経産省)(会長:御手洗不二夫・日本経団連会長) 産業構造の改善に関する重要事項を審議する組織で、会長には、経団連会長が「自動的」に充てられている。その下に、分野別等に分科会や部会が設けられているが、産業技術分科会(分科会長:木村 孟・大学評価・学位授与機構長)が、科学技術政策を束ねる形で置かれ、「鉱工業の科学技術に関する重要事項」や「民間における技術の開発に係る環境の整備に関する重要事項」を審議しているが、更に、その下に、産学連携推進小委員会(委員長:梶山千里九州大学総長)が置かれ継続的に活発に提言をしている。
・知的財産戦略本部(議長=内閣総理大臣)  2003年3月施行の「知的財産基本法」に基いて設置され、毎年、「知的財産推進計画」を策定し、責任府省と期限を決めて、知的財産の創造・保護・活用のための具体的な政策の実現を求めている。知財基本法は、大学や研究独法に対して、「研究及びその成果の普及に自主的かつ積極的に努める」ことを義務付け、今日では、イノベーション実現のための研究成果やその事業化に向けた活用を求めている。
・科学技術政策研究所(文科省) 「俯瞰的・長期的見地に立って科学技術政策研究」を行うことなどをミッションとする文部科学省直属の職員50名余の研究機関で、独立行政法人ではない。「NISTEP Report」や「調査資料」として、膨大な調査・報告を行っている。第3期科学技術基本計画の策定に当たっては、第2期計画の到達点について長大な報告をまとめている。

(3)日本学術会議
・1949年、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立され、いわゆる「学者の国会」として、研究者による選挙に依拠していたが、第2臨調以後、1984年からの「推薦制」への変更を経て、2004年の制度改正によって、学協会の利害から「自立した」組織とされた。「科学者の立場から中立的に政策提言を行う」役割等が残されたが、補助金や交付金の配分や予算編成方針などは総合科学技術会議の役割と重複するとして具体的な提言機能を奪われた。
・廃止攻撃には抗したものの、総合科学技術会議の下の位置付けが定着し、総合科学技術会議には、「関係する行政機関の長」として、メンバーの一人となっている。
・総会、幹事会、3部会(人文社会科学、生命科学、理学・工学)、4つの機能別委員会、30の分野別委員会や、時限設置の課題別委員会を組織し活動している。
・例えば、「日本の科学技術政策の要諦」(2005.4.2)において、「国の安全保障の確保」や「経済と環境の両立」を挙げているように、政府の政策に取り込まれている側面を無視できないが、科学界の声を束ねる組織として機能は引き続き重要。

(4)経済界
 財界も、科学技術政策に関して発言をしている。いわゆる財界3団体とは以下のものである。

・(社)日本経済団体連合会(日本経団連)  大企業の組織的集まり(企業1300社以上と業種別全国団体、地域別経済団体が会員)で、大きな事務局体制をもち、財界の要求を組織的に取りまとめて、政府の政策決定に直接注文をつけている。1946年発足の経済団体連合会(経団連)と、1948年発足の日本経営者団体連盟(日経連)が、2002年5月統合した「総合経済団体」である。年間予算規模は、50億円程度である。また、自民党・民主党の政策に対して「政党通信簿」をつけて、政治献金をリードしていることも知られている。
 科学技術政策に関連するものでは、産業技術委員会、海洋開発推進委員会、環境安全委員会、資源・エネルギー対策委員会、知的財産委員会、防衛生産委員会、宇宙開発利用推進委員会、その他の常設の委員会を置き、例えば、政府からのパブリックコメントには機敏に意見を提出している。
・(社)経済同友会  1946年発足の大企業経営者クラスの個人加盟の組織で、「経営者の政策集団」と自称している。事業費規模は10億円程度。単純化すれば、高額納税者として、社会に注文をつけている。特に、教育問題や構造改革問題で活発に提言しており、独立行政法人を含めた「合理化」問題でも活発に提言している。例えば、最近では、2007年7月13日、10月30日、11月21日に、「独立行政法人整理合理化計画の策定に向けて」を出しており、7月の提言では、主務官庁の枠を超えた統合や、地方・国立大学法人への移管、改廃につながる評価を求めている。
・日本商工会議所(日商)  どちらかといえば、各地の中小企業を束ねて要求を出す性格が中心で、科学技術政策の面では、活発に要求を出すことはない。また、例えば、「独立行政法人日本貿易保険の民営化に断固反対する」(2007.11.30)のように、単純な規制緩和や行政「合理化」に反対の立場を取ることもある。1922年発足の特別認可法人で、全国500余の商工会議所を会員とするので、傘下の企業数は143万という。


5.日本の科学・技術の現状分析資料
 科学技術政策やそのベースとなる様々な指標や研究者の問題意識等に関するデータを公表しているものとしては以下のようなものがあり、定期的なチェックや検討が必要である。コメントがないものは毎年の調査・発行である。
・科学技術白書(科学技術の振興に関する年次報告)
・科学技術研究調査(総務省)
・民間企業の研究活動に関する調査(文科省)
・我が国の研究活動の実態に関する調査(文科省)
・技術予測調査(文科省) 5年ごと
・科学技術指標(科学技術政策研究所)  2004年4月の第5版が最新
・科学技術と社会に関する世論調査(内閣府) 2007年12月調査が最新
・OECD科学・技術・産業アウトルック  2006年12月公表が最新
・OECD科学技術産業スコアボード 2005年10月公表が最新



<添付資料>
【資料1】: 「研究開発独立行政法人の在り方について」概要(総合科学技術会議(2007.10.29)資料)
【資料2】: 「研究開発独立行政法人の在り方について」(【資料1】と同じ)
【資料3】: 「独立行政法人、国立大学法人等の科学技術関係活動(平成18事業年度)に関する所見」(総合科学技術会議(2007.11.28)資料)
【資料4】: 「科学技術政策の沿革」(第5回産学官連携サミット(2005.11.14)における松田岩夫科学技術政策担当大臣のプレゼン資料から)
【資料5】: 研究費の推移(総務省の科学研究調査に基づき、報告者が作成)
【資料6】: 「第1期科学技術基本計画のポイントと成果・課題」(【資料4】と同じ)
【資料7】: 「(第2期)科学技術基本計画のポイント」(総合科学技術会議HPから)
【資料8】: 「『(第3期)科学技術基本計画』の概要」(総合科学技術会議HPから)
【資料9】: 「平成20年度科学技術関係予算案の概要」(総合科学技術会議HPから)
【資料10】: 「平成20年度科学技術関係予算案について」(2007.12.25)(総合科学技術会議HPから)
【資料11】: 科学技術関係予算の推移(総合科学技術会議HPから)
【資料12】: 科学技術予算の推移(府省別)(報告者が作成)
【資料13】: 「2008年の科学技術政策の重要課題」(総合科学技術会議(2008.1.30)資料)
【資料14】: 総合科学技術会議議員の推移(報告者が作成)

以上

 
 
ページの先頭へ