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国公労連速報 2007年3月19日《No.1805》
 「研究のモラルを問う〜科学者の社会的責任とは」をテーマにシンポジウムを開催
     
 

 

 3月17日、国公労連は学研労協(筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会)と全大教(全国大学高専教職員組合)との共催で、「研究のモラルを問う〜科学者の社会的責任とは」をテーマに科学技術政策シンポジウムをつくば国際会議場において100人の参加で開催しました。
 冒頭、主催者を代表して学研労協・池長議長が、「今回のシンポにとりくむにあたって、研究のモラルが問われる社会的状況の中で、研究者は追いつめられているのか、研究者を追いつめているものは何か、そこを解き明かして労働組合運動の中にどういかしていくかという議論をした。まだまだ解明しきれない問題ではあるが、今回のシンポで、3人の方からそれぞれの立場でお話をいただき、問題を投げかけていきたい。6月には『独法の6年間を検証する』というテーマで国研集会も準備を進めている。そこにも向けて組織の問題や考え方を提起できればと考える」と、開会のあいさつを述べました。
 つづいて、学研労協・角井副議長が基調報告し、「研究現場で働く私たちは、『モラルに関する問題はもはや他人事ではないし、また、これらの問題は考えられている以上にもっと複雑で奥深く、解決が容易でない』と感じている。不正行為に対し、行動規範や倫理綱領の確立、競争的資金獲得に対する罰則等の対策が取られているが、特に研究倫理に関する教育や啓発、不正行為が起こる背景や研究環境の改善にとりくむ必要がある」ことなどを強調しました。

 ★科学者は社会のカナリアたれ

 一つめの講演では、「ジャーナリストからみた研究者のモラル〜理系白書の取材現場から」と題し、毎日新聞科学環境部・理系白書取材班の永山悦子記者から、パワーポイントを活用した豊富な資料をまじえての興味深い話がありました。この講演では、マスコミの立場から、国民的な視点も代表する角度からテーマにせまってもらいました。永山記者は、今年1月、ソウル大学の黄教授によるES細胞をめぐるねつ造事件を現地取材した経験から、韓国が国をあげて黄教授を国民的ヒーローにまつりあげ、国民が科学に対して盲目的な期待を寄せる状況をつくりあげたことが事件の背景にあることを紹介しながら、現在の日本においても政府が「科学技術創造立国」と声高に叫んでいる状況が韓国に類似していることを指摘。さらに最近はテレビの健康情報番組での「科学」を装った実験データのねつ造や、いわゆる「疑似科学」に「加担」する科学者もおり、「科学全体への信頼」が根底から揺らいでいる状況があると述べました。池内了氏(総合研究大学院大学教授)の「科学者は社会のカナリアたれ」という言葉を紹介しながら、最後に、科学が国民的な信用を醸成していくキーワードとして、「科学者が、(1)社会の一員として(まさに科学者の社会的責任を常に自覚すること)、(2)想像力を持って(自らの研究が社会的にどういう意味を持つのか、どう影響するのかを常にふまえること)、(3)行動する(国民の安全・安心のために社会のカナリアとしていち早く問題を指摘し警鐘すること)」の三つをあげて講演を締めくくりました。
 二つめの講演は、研究機関の経営サイドからこの問題をどうとらえ、とりくみを進めているかについて、産業技術総合研究所・曽良達生理事から「産総研における研究活動上のモラルについて」というテーマで報告してもらいました。産総研では「研究者行動規範」が昨年1月に定められ、全体を貫く理念は、「研究の責任ある遂行」であり、「研究者倫理」と「研究遂行における留意すべき点」が具体的に記されていることが特徴と紹介し、研究者倫理からの逸脱としての研究ミスコンダクトについても詳述し、一昨年8月に制定した「研究ミスコンダクトへの対応に関する規程」も紹介。曽良氏は、「産総研では、研究ユニットの長を初めとする各階層の研究者を対象とした研修を行っているが、その中に研究倫理研修を組み入れている。今年度は新入職員研修、研究ユニット長研修に加え、若手研究者を対象として研修を実施し、『研究者行動規範』の理解と定着、研究倫理に対する理解の増進を図っている」ことなどを紹介しました。

 ★国民の安全のために正しい知識を普及するなど
  積極的な役割発揮を


 三つめの講演は、現実の問題に直面した科学者の社会的責任について、実際にBSE問題に関わった東京大学・山内一也名誉教授から、「BSE問題と科学者の社会的責任」について語ってもらいました。山内氏は、BSE問題に関する調査検討委員会で委員長代理を務め、食品のリスク分析という手法を取り入れて、政治と経済から独立した科学的なリスク評価の必要性を提言。それ以前の審議会では、行政の作った方針に科学者がお墨付きを与えるという形式になっていたが、BSE問題を契機に科学的な議論の場を確保しようと、科学者による「リスク評価機関」として食品安全委員会が設立され、プリオン専門調査会ができ、専門委員を務めた経験を語りながら、山内氏は「科学の領域を越えて政治にまたがる面(トランスサイエンス)での判断が求められる点が大切で、科学者は科学的不確実性を含めたBSEに関する正しい知識の普及につとめ、消費者とともにトランスサイエンス領域でBSE対策についての意見交換に積極的にかかわることが必要」と述べました。
 大学からの発言として、全大教・青木副委員長からは、「それぞれの講演の中にも出てきたように、研究の不正行為の多くは大学に関わってのケースで、競争的環境の中で不正が多発してきている状況だ。そして法人化の中で個人研究費は理系で一人20万円、文系では10万円という状況が広がり、国立大学は絶対的貧困の中にある。教職員組合としてどう対応していくか今後の課題としてとりくんでいきたい」と述べました。
 全体のまとめとして、学研労協・戸田副議長が、「それぞれの立場からの三つの講演は、私たち研究者にとって非常に示唆に富む内容だった。今回のシンポを契機に、労働組合として、こうした問題を未然に防いでいくような研究環境の改善をめざしてとりくみを進めていきたい」と語りました。
 最後に全大教・大西委員長が、「研究のモラルについて、労働組合でとりくむ意義は、この問題を改善していかなければ、研究者が国民のために社会を良い方向にしていく科学研究ができず、研究者がいきいき研究し働けない問題につながっていくからだ。今後もこうしたテーマを深めていく科学技術政策シンポにとりくんでいきたい」と閉会あいさつし、シンポジウムを終了しました。

以上

 
 
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