「年金業務・組織再生会議」ヒアリングにおける全厚生労働組合としての意見表明



2008年1月23日
全厚生労働組合
   全厚生労働組合中央執行委員長の杉下です。本日は、社会保険職員を構成員としている労働組合として、意見表明の機会を与えていただきましたことに感謝いたいます。
 早速、私どもの意見等を述べさせていただきますが、その前に、社会保険行政事務において国民の信頼を大きく損なう事態をまねき、国民のみなさまに多大なご迷惑をおかけしておりますことに、社会保険職員を構成員としている労働組合として心からお詫び申し上げたいと思います。

 それでは、まず最初は社会保険庁改革についてです。この間、社会保険庁及びその職員に対しては国民から厳しい批判が突きつけられてきました。極めて残念なことであり、一連の経緯に照らして重く受け止めています。こうしたもと、社会保険庁は、組織改革、意識改革、業務改革を断行するとして、矢継ぎ早に具体的改革策を打ち出し、実行に移してきました。私たちは、社会保険庁については徹底した改革をしなければならない、という考え方のもと、主体的に社会保険庁改革に臨んできました。

 その上で、社会保険庁改革について及びその背景について、次の4点を指摘しておきたいと思います。

 1点は、再生会議の「中間整理」において、「公的年金制度に対する国民の信頼回復が急務である」とされていますが、私たちはこの点が大変重要なことであると考えています。この間の、とりわけ04年年金制度改革が年金制度に対する国民の不信・不安を高めたことは周知の通りです。

 2点目は、相次ぐ社会保険庁の不祥事です。国民の基本的人権の保障と福利の実現という公務の役割を担っている社会保険行政事務において、一連の不祥事が生じたことは極めて重大であり、厳しく問われなければなりません。法令等の規律を遵守し、二度と生じないようにしなければならないと深刻に受け止めています。

 3点目は、地方事務官制度問題です。一連の社会保険庁問題の根元にはこの問題が横たわっていると私たちは考えています。さまざまな経過、背景があるとはいえ、変則的な制度が、半世紀以上に渡って存続してきたことは異常であり、政府の責任が厳しく問われなければならないと考えます。全厚生は、社会保険行政は国の責任において一体的に実施すべきものであるとの立場から、行政と身分の国一元化を主張し、地方分権推進委員会の結論に賛成をしてきたところです。

 4点目は、社会保険庁の管理責任です。全国的、統一的な事業展開において、また必要な事務・事業の確実な実施において、いわゆる組織統治が機能しなければなりません。本庁が事業方針に基づき的確な指示を発出し、現場の責任者がそれを確実に実施する、これは当然のことです。ところが労働組合との関係において、実際は必ずしもそのようにはなっていなかったのではないかと認識するものです。業務運営における管理責任が厳しく問われなければならないと考えるものです。

 社会保険庁改革に対する全厚生の基本的立場としましては、行政への監視と行政運営に対する提言活動に弱さがあったと反省するとともに、国の責任による社会保障制度の拡充と国の機関が直接責任をもって業務運営を行うこと。この点からも、安易な民間委託には反対であること。また、行政サービスの向上については、職員への加重付加では限界があり、法令等に定められている労働条件が保障されるよう改善されなければならないと主張してきたところです。

 次に、年金記録問題についてです。このことにつきましては、お手元の資料「全厚生新聞号外」で私どもの見解等を述べているところであり、ぜひともお目通しいただきたいと思います。
 その上で、何点か申し上げたいと思います。すでに、「年金記録問題検証委員会報告」が行われているところですが、年金記録問題は、制度ごとに管理・運営されてきたことなど、歴史的・複合的な要因が背景にあり、機械化に伴う問題を含め、そのときそのときにおいて確実に実施する必要な体制が確保されてきたのかということが問われると思います。また、徴収に重点をおき、記録管理を確実に行うという意識が組織全体に貫かれていたのかも問われると思います。
 特に年金業務は大量業務にどう的確に対応するかということが、常に問われてきました。その点で、機械化することは当然のことですが、そのものの機能・水準に大きな限界性がありました。そうであるなら、科学技術の発展に即して、過去の問題点を総点検し、その都度適正化に全力をあげる、そうした思想が貫かれていなければなりませんが、問題点の所在を承知しながら、その時々の業務に押し流され、ほとんどが先送りされてきたというのが歴史の事実だと思います。また、機械導入に伴い人員が削減され、結果、業務の外部委託と賃金職員の大量採用で事態を何とか乗り切るということを繰り返してきましたが、「質」の確保がおろそかにされてきたということを指摘せざるを得ません。
 こうした中、リアルタイムで、かつ、事務処理の正確性を確保するために全国オンラインシステムの構築は強く望まれました。全厚生は、全国オンライン化については、反対しやめさせればよいという考えではなく、「科学技術の進歩を国民本位の方向で活用する」という立場で臨んできました。

 記録問題に対する全厚生の基本的立場については、行政事務における実際の問題点を社会的に明らかにして、その改善を求めることなど、国民の年金権確保と行政の民主化に対する取り組みに弱さがあったと反省しているところです。その上で、職員自らが記録整備に全力をあげるとともに、国の責任による年金記録の早期整備及び相談・照会などの体制の確立、さらには、年金記録に変動があったとき(例えば退職の際や会社を変わったときなど)には年金記録を通知することなど、そうしたシステムを構築することが必要であると考えています。

 また、現在と将来の無年金、低年金者を生み出す現行制度については改善することが急務であり、老後の生活を支える大切な制度として役割が果たせるよう、全額国庫負担による最低保障年金制度の実現が必要だと考えています。  次に、「職員の採用についての基本的な考え方」について意見を述べたいと思います。 雇用問題は、一人ひとりの職員、家族にとって、労働と生活そのものに関わる最も重要な課題であり、率直に言って、職員には大きな不安があります。
 私たちは実体験を通して、「年金業務は複雑で難しい」と認識しています。専門性、継続性の確保が重要であると考えています。聞くところによれば、派遣職員には、「こんな複雑な仕事は無理」といって、すぐ辞めていく人もいるとのことです。新組織における安定的、確実な業務運営の確保は重要な課題であり、業務の適正執行に見合う人員の確保とともに、知識・経験を有する社会保険庁職員を優先的に採用することを強く求めるものです。

 「中間整理」において言及されております「公的年金業務への信頼を損ねた職員の取扱い」については、着服横領などは論外ですが、非違行為については、すでに国家行員法等による処分が行われているものであり、そのことにより当該職員は重く反省しているところです。
 新組織への職員の採用において、「処分」が考慮要素として不採用になるとすれば、二重制裁となるものであり、二重制裁は行うべきではないと強く主張するものです。

 「勤務実績の評価」ついては、私たちは、公平性・客観性・透明性・納得性を備えた仕組みとすることを要求してきました。「能力」や「実績」を強調すればいたずらに競争心があおられ、職場のチームワークは乱れ、安定的な公共サービスの提供よりも、上司の意向や自らの処遇にだけ意識が向かいかねません。
 社会保険庁の人事評価制度は導入されたばかりであり、この間の年金記録との関係等から本来の評価制度にはなっておらず、また、相対評価となっている仕組みを見直すとともに、短期間の評価を直接給与に反映する仕組みではなく、人材育成に活用することが重要だと考えるものです。

 次に、「外部委託の推進についての基本的な考え方」について意見を述べたいと思います。
 社会保険庁における業務運営においては、業務量と実施体制のアンバランスということが常に大きな課題であり問題でした。国民サービスを向上する上で、また確実な業務処理を行う上からも、業務量に見合う人員の確保は切実な課題でした。社会保険庁は最大限の努力を行うとしてきましたが、国の定員削減計画が大きな障壁となり、常時、慢性的な人員不足状況を強いられてきました。別の言い方をすれば、そもそも社会保険庁にすべての国民の年金を扱えるだけの予算と人員、システムがあったのかということです。
 社会保険庁には多くの非正規職員が働いていますが、この方々の存在、そして業務を外部委託することによってなんとか業務がまわってきたというのが実際です。現在、記録管理問題をはじめとして、社会保険庁にはさまざまな問題が生じていますが、外部委託を積極的に推進するということであれば、これまでの外部委託の実際はどうであったのかについて検証することが求められると思います。

 年金業務は複雑で困難というこを申し上げましたが、それだけに専門性や継続性が求められ、人材育成が重要な課題だと思います。同時に適用、徴収から給付、相談、さらに超長期にわたる記録管理など、業務処理の一体性をどう確保するのかということも重要な課題だと思います。外部委託(請負)は、競争入札により行われます。その結果、短期間で請負事業者が変わるということが当然あり得る訳で、その場合において、専門性や継続性、一体性をどのように確保していくのかということについて充分な検討が必要だと思います。
また、個人情報管理は極めて重要な課題であり、その具体的・実効的対策をどのように講ずるのかということについて慎重な検討が必要だと思います。

 私たちは、実際を考え、外部委託そのものに反対するものではありません。しかし業務ノウハウの蓄積はサービス向上と信頼確保の前提であり、業務を分断することなく、外部委託については、大量・定型的な業務を中心として、また、可能な限り、結果責任の伴う完結型を基本にすべきだと考えるものです。

 次に、国民の信頼回復ということについて申し上げたいと思います。何よりも大切なのは信頼だと思います。失われた信頼を回復するのは容易なことではありませんが、職員は、年金の専門家として、責任と誇りをもって年金を担えるのは私たちだと、この間の大変な業務、職場実態の中において精一杯がんばっています。
 私たち全厚生は方針において、国民の利益、国民本位の行政ということを基本に掲げ取り組みを進めてきました。しかしその一方で、組織の論理、身内の論理からものを見て、対応してきたのではないか、と反省しているところです。改めて、常に国民の視点に立った行政事務の運営に職員一人ひとり、そして組織全体が課題として追求していかなければならないと考えています。
 
 合わせて、年金業務への信頼回復においては、国民が安心できる年金制度にするとともに、確実で、安定的な業務の執行体制を確立すること、そして、安心して職務に精励できる職場環境をつくることが重要だと考えるところです。

 最後に新組織への雇用確保について万全を期していただきたいことと、とりわけ、分限免職が論じられていますが、、業務が継承される社会保険庁のようなケースを適合することは 国家公務員法の規定に照らしても重大な問題があると考えるものです。私たちは分限免職は行うべきではないことを強く主張するものです。

 以上のことを申し上げまして、ヒヤリングにおける全厚生労働組合としての意見表明とさせていただきます。ありがとうございました。


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