全厚生労働組合中央執行委員会は11月10日、「年金記録問題検証委員会」最終報告についての見解を発表しました。全文は次の通りです。



「年金記録問題検証委員会」最終報告について(見解)


2007年11月10日
全厚生労働組合中央執行委員会

1.年金記録問題の経緯、原因、責任の所在等について調査・検証を行ってきた「年金記録問題検証委員会」は10月31日、最終報告を発表しました。
 最終報告では、年金記録問題発生の根本にある問題として、国民の大切な年金に関する記録を正確に作成し、保管・管理するという組織全体としての使命感、国民の信任を受けて業務を行うという責任感が、厚生労働省及び社会保険庁に決定的に欠如していた、と指摘するとともに、年金記録問題発生の責任の所在として、歴代の社会保険庁長官を始めとする幹部職員の責任は最も重く、厚生労働省本省の関係部署の幹部職員にも重大な責任があり、厚生労働大臣についても責任は免れないとしています。 歴史の事実を基本とした検証委員会の最終報告からも明らかなように、年金記録問題は、歴史的・組織的背景を持った複合的要因により発生しています。同時に、年金制度の根幹に関わる重要な事務である記録の管理に、十分な予算や人員が措置されてこなかったことも史実などから明らかです。歴代の社会保険庁長官や厚生労働省幹部、厚生労働大臣の責任はもとより、歴代政府の責任も重いものがあると考えます。

2. 特に、最終報告が、年金記録の不備データが存在することの原因として、コンピューターシステムの問題をあげるとともに、過去の誤りの発生状況等を記録し、減少策を検討することが重要であるが、社会保険庁は、オンライン化前もオンライン化後から現在に至るまでもこのような取組みを行ってきていない、また、年金記録の誤りが相当あることに対して、これを定量的に把握し・検証・補正する組織的な取組みは行われなかった、と指摘していることは組織的な問題として極めて重要です。
 また、報告説明書において、総務省は被保険者台帳の整備等年金記録問題について、過去4回行政評価・監視の結果にもとづく勧告を行っているとしています。しかし、基礎年金番号導入後の2004年勧告では、「宙に浮いた年金」の存在と、計画的な統合状況を把握していたにも関わらず、早急な統合処理を求めていないことも事実として受け止める必要があります。

3. さらに、間接的な要因、組織上の問題として、三層構造に伴う問題、職員団体の問題、地方事務官制度に係る問題の結果、組織としてのガバナンスが決定的に欠如していたと指摘するとともに、厚生労働本省と社会保険庁の関係について、厚生労働本省は管理監督するという立場から、必要な注意や関心を払い、積極的に関与していくべきであったが、責務を果たしていたとは到底言えないと言及しています。
 全厚生は、こうした問題の根底には、1947年から2000年まで続いた、国家公務員でありながら、都道府県知事の指揮・監督を受けて業務に携わる「地方事務官」という変則的な身分制度が存在していたと考えます。全厚生は、責任の所在が極めてあいまいである地方事務官制度は早期に廃止し、健康保険や厚生年金は国の業務として国の機関が運営することと、国民年金業務については国と地方の共同事務として民主的に再配分すべきであることを主張してきました。こうした身分制度を長年放置してきた国の責任も重大です。
 また、職員団体による偏りすぎた運動が指摘されていますが、全国オンライン化計画に対し全厚生は、機械化に反対し止めさせれば良いという考えではなく、「科学技術の進歩を国民本位の方向で活用する」との立場で社会保険庁と対峙してきました。特に、膨大かつ増大する業務の中で国民のニーズに対応した社会保険事業の円滑な推進を図ることを目的とした「社会保険事業将来構想」や、「基礎年金番号」の導入などに対し、積極的な主張を行ってきました。
4. 最終報告は、今後の教訓として、組織及び業務の管理・運営に関してガバナンスを確立するとともに意識改革・業務改革の推進、適切な人材を養成・確保するとともに職員の一体感の醸成、誤りを発見・是正していく仕組みの構築、職員団体と適切な関係を保つことなどの改革の推進をあげています。
しかし、2010年1月に設立される「日本年金機構」は、業務運営をバラバラに解体し、多くを民間に委託するものとなっています。公的年金は、50年から60年にわたる長い間の加入・納付記録などの適正な管理が求められます。また、幾多の改正・経過措置が設けられる中で、正確に理解し運営するには、専門性と継続性の確保こそが基本となります。そうした業務運営を競争入札でたびたび業者や従業員が代わることも予想される民間委託にゆだねて、国民のプライバシーや年金権が確保され、サービス拡充ができるのでしょうか。国民生活の格差と貧困が拡大する中で、老後生活の基盤である公的年金の拡充を求める国民の声はますます強くなっています。国の責任による制度と業務の運営は、安心・安全の土台であると考えます。

5. 全厚生は、当該職員を中心に構成する労働組合として、「老後の命綱」である公的年金の業務運営において、こうした記録管理が行われていたことは、国民の年金権確保と、行政の民主化に対する取組みが弱かったことを重く受止めなければならないと考えます。そうした立場から、6月5日には、全被保険者並びに既裁定者に納付記録を直ちに送付することをはじめとする「年金記録の適正化に関する申入書」を社会保険庁へ提出し、国民の年金権確保とともに、記録の早期整備に全力をあげてきました。さらに、資格取得や資格喪失時の過去記録の通知、また、報酬改定時などにも変更内容を通知するなど、国民が日常的に年金制度に関心を持ち、権利を行使するためのシステム構築を強く求めていきたいと考えます。また、ねんきん定期便や特別便の送付時には、記録や報酬だけでなく制度広報を確実に行うようなことも必要と考えます。
 同時に、25年かけないと全くもらえない長期の資格要件や、40年かけても月66,000円にしかならない基礎年金制度を抜本的に見直し、誰もが安心して暮らせる年金制度の実現のために、広範な運動に引き続き参画していく決意を改めて表明するものです。



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