国民年金保険料納付免除問題について(見解)

1 国民年金保険料の納付免除等に係わって、法令に定める手続きに反する不適正な処理が多くの社会保険事務所で行われていたという事実が判明し、重大な問題となっている。社会保険庁が5月29日に発表した「第一次調査報告書」によれば、26都府県100社会保険事務所で不適正な処理がおこなわれ、6月13日の「第2次調査報告書」では、29都道府県110社会保険事務所に拡大している。
憲法25条に基づく国民の生存権保障の一環でもある社会保険制度への信頼性を担保 する土台に、公正・公平な行政運営があり、その点からしても、不適正な処理は決して許されるものではない。
 当該行政機関の職員で組織する労働組合として、行政運営に対する監視と問題提起が 十分ではなかったことを自省し、原因の究明と再発防止に努力する決意である。

2 今回の不適正な処理は、全国的に同じ時期に同じように行われたというのが大きな特徴である。それだけに組織的な事情や背景についての徹底した原因解明が、真の再発防止の第一歩と考える。
 現段階で社会保険庁は、「事務所が指導し事務局は不知」「本庁は承知していなかった」などとし、現場や職員に責任を押し付けようとしている。しかし、国会審議やマスコミ報道などでも明らかにされつつある事実や職員の実感からしても、社会保険庁が何にも優先する課題として国民年金保険料の収納率改善を指導しており、その責任の解明は重視されるべきである。

3 この間、社会保険庁及び職員に対しては、一連の不祥事等から国民の厳しい不信と怒りが集中し、業務改革・意識改革・組織改革一体の「社会保険庁改革」が進められてきた。とりわけ、国民年金保険料の収納率改善は、信頼回復の最重要課題であるとされ、現場では、連日の残業や休日出勤が常態化していた。
 民間企業から登用された村瀬長官は、昨年11月、「この時期になって言い訳は無用」「実行すべきことは既に決まっている。結果を出すことのみ」と緊急メッセージを発し、   社会保険庁は社会保険事務局ごとの具体的な目標を示し、事務局・事務所総動員体制での取組みを指示した事実がある。

4 こうした中で、社会保険事務所ごとの「必達収納率」の設定や「グランプリ制度」の導入をはじめとする競争至上の業務運営が強要された。加えて、2008年10月を目途とした新組織移行の際の職員処遇にかかわって、「職員の引継規定は設けない」、「勤務成績による分限処分」などが社会保険庁当局から明言され、それらのことが職員の重圧となっていた。そのような時期に、長官からの緊急メッセージが発せられた経過は、重大な問題点として率直に指摘しておく。
 多くの民間企業でも、バブル崩壊後の新たな利潤追求策として「成果主義」が導入され、ノルマ追求との関係での様々な違法行為が指摘されている状況にある。職員に重圧と感じさせる過酷な「ノルマ主義」が、業務運営のゆがみとなって露呈するのは官民を問わない矛盾であると考える。

5 国民年金の収納率は1992年度を境に年々低下し、2002年度には過去最低を記録している。こうした背景には、20歳到達者の職権適用による被保険者増、バブル崩壊以降の長期不況、大企業の身勝手なリストラ「合理化」、そしてパート・フリーターによる低所得者層の拡大などの要因が考えられる。同時に根底には「保険料が高く経済的に払うのが困難」「年金があてにできない」など制度に対する不信・不安が大きく横たわっている。
 今回問題となった免除制度は、経済的理由などで保険料が払えない被保険者の権利として、受給権確保を目的に定められたものである。しかし、所得状況等からみて申請さえすれば承認されるにもかかわらず、相次ぐ制度の改悪に対する不信や無関心層の増大などから申請率は低い実態にある。
 免除制度のあり方も含め国民皆年金制度の維持・拡充は、国民の不信・不安を解消する上で中心の課題とされる必要がある。その点をないがしろにしたままで、保険料徴収の強化を職員に迫るだけでは、抜本的な問題解決にはなりえないものと考える。

6 全厚生は、公務への評価制度の導入は否定しないものの、いたずらに競争をあおる「ノルマ主義」については、チームワークを基本とし公正・公平な行政運営が求められる私たちの職場にはなじまない、と指摘し続けてきた。
 また、25年間保険料を払い続けないと給付が全く受けられず、40年間納めても生活できるだけの年金がもらえない実態を改善し、国民が安心して暮らせる年金制度を実現するため、全額国庫負担(一般財源)による「最低保障年金制度」の創設を真剣に検討するよう求めてきた。
 全厚生は、今回の事態を教訓に、今後もこうした年金制度拡充の運動に積極的に取組むとともに、それを民主的に運営できる組織の確立をめざし奮闘するものである。
2006年6月16日
全厚生労働組合中央執行委員会


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