朝日新聞12月23日朝刊オピニオン面「私の視点」に、飯塚勇書記長の「◆社保庁解体 年金の商品化でいいのか」が掲載されました。全文は次の通りです。


◆社保庁解体 年金の商品化でいいのか    


飯塚 勇     
全厚生労働組合書記長・社会保険庁職員

 社会保険庁を解体し、非公務員型の公的新法人を設立して、多くは民間に委託するとの与党案が示された。短期間に数多くの不祥事があり、組織も規律も厳しく見直さなければならないことは、社保庁に勤める一人として理解しているつもりだ。
 しかし、今回の案は事実上の「解体・民営化」である。これで長期間にわたって国民の生活を支える年金制度が担保されるのだろうか。国の年金制度は20歳以上の国民に加入を義務づける「皆年金」が前提なので、長期にわたって続くことが期待できる。「皆年金」は、国が行うことに意味があると私は考える。誤解を恐れず、皆さんに私の懸念を率直にお伝えしたい。
 「皆年金」の現実は確かに厳しい。厚生年金はすべての法人事業所と原則として5人以上の個人事務所が強制加入とされているにもかかわらず、約3割が未加入であるとの総務省の指摘を受けた。
 厚生年金を含む社会保険に加入する企業は、労使合わせて賃金の4分の1程度の保険料を毎月納めている。赤字経営で法人税が発生していない会社にも減免措置はない。
 我々は、そういう会社にも納付を求める。滞納事業所には支払い能力の調査をする。ただし、取引先や銀行などに確認を求めると、それだけで取引が危うくなり、ついには倒産に至るケースもある。従業員のための年金制度が職場を奪うのでは元も子もない。慎重な対応が必要だが、まじめに納めている会社から見ると「不正に負担を逃れている会社を認めるのか」ということになる。
 厚生年金に入っていない会社の従業員は、健康保険もない。「どうして、うちの会社を加入させないのか」という指摘も受けるが、単純に強制すると、すぐに滞納につながるので、手ぬるく見えることがあるかもしれない。
 社保庁の「国民年金被保険者実態調査」(02年)によると、3号被保険者を除く国民年金加入者の32%は給与所得者で、その納付率は6割に満たない。「厚生年金空洞化」が「国民年金空洞化」にもつながっている現実がある。
 これがまた「年金不信」につながるが、経営が厳しい会社に強制徴収して経営がさらに悪化すると、同調査で35%を占める無職の人が増えてしまうことが心配だ。
 こうした葛藤の中、皆年金の理想をあきらめず、1社でも多く、一人でも多く年金制度に入れるよう、努力しているのが現状だ。その結果が出ていないことは残念だが、与党案の「事実上の民営化」では、「皆年金」からさらに遠のくのではないか。
 民間企業が求めるのは利益で、そのために効率が重視される。しかし、滞納を減らす仕事ほど効率が悪いものはない。よく、保険料徴収にかかる経費が問題になるが、民間が徴収を始めると、滞納者が切り捨てられはしないか。
 さらに、民間が社保庁の仕事をすれば、年金は「商品」の扱いを受けるだろう。民間企業は常に商品を改善して、その魅力に集まる客に販売をする。しかし、公的年金はこの20年間、保険料アップと給付ダウンの「改悪」が続いた。「商品が悪い」という論理が出てくると、国の年金制度そのものの「民営化」につながらないか。
 皆年金を前提に、永遠に続くべき国の年金制度は、国が直接関与する形でなければ維持できないと主張したい。



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