全厚生労働組合中央執行委員会は12月20日、社会保険庁改革法案についての見解を発表しました。見解全文は次の通りです。


社会保険庁改革法案について(見解)


2006年12月20日     
全厚生労働組合中央執行委員会

1. 先の通常国会で継続審議とされた「ねんきん事業機構法案」は、臨時国会において一度の審議もないまま廃案となった。これに先立ち「与党年金制度改革協議会」は14日、社会保険庁を解体し(1)公的年金にかかる財政・管理責任は国が担う(2)業務運営は新たな非公務員型の公的新法人が行う(3)多くの業務は民間に委託し職員の大幅削減を図る(4)職員は社会保険庁を一旦退職し第三者機関の厳正な審査を経て再雇用する、ことなどを中心とする関連法案を次期通常国会に提出することを明らかにしている。

2. 政府自身が提出した法案を、自ら取り下げるという異例の事態の背景には、通常国会で焦点になった「国民年金不適正事務処理」問題が指摘されている。しかし、相次ぐ年金制度の改悪や、税制改革などによる大幅な負担増に対する国民の怒りを、社会保険庁問題にすり替えて来年の参議院選挙を有利に展開しようとする自民党の党略が見えすいている。現に、10月に行われた衆議院補選において自民党は、「年金を守るなら与党、社会保険庁の役人を守るなら民主党」などのビラを配布し社会保険庁解体を強調している。また、11月6日付毎日新聞社説は、「公的年金は老後の命綱、その運営組織のあり方を政争の具にするのはもってのほかである」と厳しく批判している。

3. 小泉政権から安倍政権に引き継がれた「構造改革」は、国民生活のセーフティネットである社会保障をきわめて脆弱なものに作りかえた。その真の狙いは国や企業の責任縮小と、アメリカや日本の生保、損保業界などのビジネスチャンスの拡大に他ならない。その端的な顕れとして、生命保険の加入目的は、「医療費や入院費のため」が「世帯主の死亡などによる万一の備え」を上回った。個人年金の新規契約数は4年間で実に倍増している。個人責任による運用結果で受給額が左右される確定拠出年金(日本版401k)導入企業も急増している。社会保険庁の「解体・民営化」は、こうした社会保障制度の解体路線と一体のものであり、その先には財界の要望である年金財源の消費税化や、厚生年金(報酬比例部分)の民営化が俎上にあることをみておく必要があるのではないだろうか。 

4. 「老後の命綱」である公的年金は、極めて長期にわたる管理・運営が求められ、安心できる制度確立とともに、国の責任において執行されなければならない。運営組織の「解体・民営化」は、一体的・効率的な運営と専門性・継続性が求められる社会保険業務とは相容れないものである。また、大半の業務を民間に委託することは、市場化テストや公共業務の委託化に伴う様々な問題が指摘されている今日、国民のプライバシーや行政サービスの後退、そして低賃金・無権利労働者の増大につながることが予想される。

  5. 新組織の発足にあたり職員の引継規定は措置されていない。選別採用の枠組みを作ったうえで自民党は、分限免職(解雇)の適用さえ主張している。労働基本権が制約され、身分が法で保障されている国家公務員労働者の権利を不当に侵害するものであり、こうした攻撃を許すならば、「公務の民間解放」ともあいまって、国公労働者はもとより自治体労働者、教員など全ての公務労働者に波及するものである。

6. 全厚生は、この間の一連の不祥事や不適正事務処理問題などに対し、行政への監視と問題提起が不十分であったことを真摯に受けとめるとともに、急増する業務のなか信頼回復にむけて一丸となって努力しているところである。  次期通常国会の大きな焦点となる、社会保険庁「解体・民営化」の真の狙いを広く国民に明らかにし、安心して暮らせる年金制度の確立と、自らの生活と権利を守るために、07春闘の最大の課題として職場・地域から奮闘する決意である。



戻る