社会保険行政の民主化と 行政サービスの確立に向けて
社会保険庁改革に対する全厚生の主張と要求
2004年11月
全厚生労働組合


目 次

はじめに
1,私たちを取り巻く情勢の特徴
2,社会保険庁改革問題の背景と狙い
 (1)社会保険庁改革問題の背景
  <1>@年金、医療、介護など相次ぐ社会保障制度改悪と国民の不信・不安
  <2>保険料の目的外使用、特定業者への便宜供与・贈収賄事件などへの批判
  <3>制度運用上の後進性や行政サービス上の諸問題
  <4>深刻な空洞化の進行
  <5>反国民的な自治労国費評議会と社会保険庁の癒着
 (2)社会保険庁改革の狙い
  <1>社会保障に対する国の責任縮小と企業の負担軽減
  <2>公務の民間開放化
  <3>社会保障制度の運営形態の抜本的改悪
3,社会保険庁改革に対する私たちの主張
 (1)社会保障制度に対する国の責任の明確化を求めます
 (2)社会保険庁業務の市場化テスト(官民競争入札)に断固反対します
 (3)独立行政法人化や民営化ではなく国の機関が直接責任を持って行うことを求めます
 (4)真の行政サービスの向上と労働条件の確保を求めます。
 (5)全額国庫負担(一般財源)による「最低保障年金」制度の創設を求めます
4,当面する課題に対する基本的考え方
 (1)社会保険庁の「緊急対応プログラム」について
  <1>緊急対応プログラムの内容と実施スケジュール(資料5〜8)
  <2>基本的考え方
  <3>夜間・休日における年金相談業務について
5,社会保険庁改革に関する基本要求(案)
6,当面する取り組み




はじめに

 今年の通常国会において、史上最悪といわれ多くの国民が反対した「年金改悪法案」が自民、公明両党の強行採決により成立させられました。給付水準の設定や保険料水準固定方式の欺瞞的宣伝、意図的な出生率の発表など法案成立後も様々な矛盾や問題点が指摘されています。
 こうした年金問題の本質から国民の目をそらすかのように社会保険庁を巡る様々な問題が取り上げられました。保険料の目的外使用、関連施設の赤字運営、特定業者との癒着・天下り問題、都市部を中心とする劣悪なサービス体制など、数えあげたらきりがありませんが国民の目線から見て問題のあることは事実です。
こうしたことを背景に、社会保険庁の組織・機構、そして業務運営に対する国民的批判が集中し、社会保険庁改革が急テンポで進められています。7月23日に初めて民間出身の長官が発令されたことに続き、8月11日には、内閣官房長官の下に「社会保険庁の在り方に関する有識者会議」が設置され、年内に中間報告、来年夏には最終報告を行うとしています。また、9月15日には、社会保険庁長官をトップとする「社会保険事業運営評議会」も設置され、保険料徴収や年金相談のあり方など業務問題を中心に議論が始められています。一方、こうした流れにあわせるかのように、政府の「規制改革・民間開放推進会議」は、社会保険庁の事務の民間開放を重点検討項目とすることを決定し、年末の答申に向けて作業に入りました。
 社会保険庁の「解体的改革」が叫ばれている今、私たちは、国民全体の奉仕者である公務員労働者として、国民の視点での行政サービス向上に全力で取り組んでいくことが、生きがい・働きがいある職場づくりや労働条件の改善につながるものと確信します。こうした視点から、改めて私たちの職場・仕事を見つめ直し、この改革が真に国民のために、そして生きがい・働きがいある社会保険職場の実現のためになることを目指し、組合員の皆さんの積極的な討議をお願いします。

1,私たちを取り巻く情勢の特徴

 小泉内閣のもと、日本はかつての軍事国家、戦争をする国へと歩みだそうとしています。これまですでに、米国が引き起こす戦争に、日本の国民を動員する有事法制を強行しました。また、戦後はじめて、憲法を蹂躙して、米国の要求に応じて戦地イラクに自衛隊の派兵を強行しました。しかし
憲法第9条は、日本が集団的自衛権の行使に踏みだすことに歯止めをかけています。こうした中、米国、財界の圧力のもと、憲法第9条を最大のターゲットに憲法改悪の策動が強まっています。憲法の3つの柱である国民主権、恒久平和、基本的人権尊重の原則を高く掲げ、改憲勢力の危険な野望を阻止しなければなりません。国民が願う生活向上や社会保障の拡充は、戦争する国づくりとは絶対に相いれません。同時に、戦争国家は、国民の自由や権利、民主主義とも相容れず抑圧されていくこととなります。国会では改憲勢力は多数を占めています。しかし、国民の過半数の支持を得る、壮大な国民的な運動に発展させることによって、憲法改悪を阻止することは可能です。
 日本国憲法にもとづき、これまで国(行政)の責任で実施してきた、国民の共有財産である公務サービスまで、市場化、商品化し、企業の儲けの対象にする動きが、小泉内閣が押し進める構造改革によって急速に強められています。そして、こうした動きと一体で、労働者、国民の生活と権利を擁護するために定められてきた公的規制までも取り払う「規制改革」の嵐が吹き荒れています。
 「官から民へ」「民でできるものは民へ」「国から地方へ」などに形容される小泉構造改革は、アメリカ流の市場原理万能論の立場からのものであり、国家の責任や役割を根底から変質させようとするものです。国民の生きる権利、国民の将来までも市場原理にゆだねようとするこうした方向は、労働者・国民に耐え難い痛み、犠牲をもたらすことは明らかです。 こうした構造改革をゴリ押しする背景には、国家財政が破滅的であること、そして、経済活動がグローバル化(地球規模化)するもとでの財界・大企業の思惑があります。財界・大企業は、世界規模での競争に勝ち抜くためには、国内での企業活動の障壁は、すべて取り払うことが必要だとする立場です。構造改革は、大資本・大企業の利益のためには、雇用や暮らし、教育や社会保障などがどうなろうと構わないというものであり、国民総犠牲の財界・大企業が求める国家づくり、国内体制づくりそのものです。こうした攻撃を許さない、国民共同の力の発揮が求められています。
 「高齢化社会は社会保障給付費を増大させ、現行制度のままでは2025年には2倍以上に膨らみこれを保険料で賄うのでは企業にとって死活問題である」と声高に叫ぶ経済界。さらに、破滅的な国家財政を背景に、社会保障給付費の総額抑制、給付水準は現行より20%程度削減をと主張する財政当局や御用学者。小泉内閣の社会保障構造改革の基調には、社会保障各分野の財政膨張を絶対的に抑制しようとする動きと、社会保障財政の応能負担原則を応益負担原則に切り替えていこうとする動きがあります。そして、そこには企業負担の軽減が最大の狙いとしてあります。国家財政の破滅的危機は、社会保障を手厚くしてきたものでないことだけは確かです。 にもかかわらず医療、年金制度が連続して大改悪されたばかりだというこの時期、改めて社会保障が攻撃の矢面に立たされているのは、消費税大増税へ最大限利用しようとしているからに他なりません。 消費税は大企業にとっては痛くもかゆくもない税であり、庶民犠牲でかつ最悪の不公平税制です。これまでの消費税総額がほぼ法人税減税の埋め合わせの財源となっていた事実からも明かです。社会保障の財源問題は、国と使用者(資本)の責任を明確にし、その立場から論じられなければなりません。財界が求める使用者負担をやめ消費税増税でとの主張は、国民の立場から到底受け入れられるものではありません。
 一方、社会保険庁批判・改革を最大限利用して、社会保険庁(業務)の「民間化」が現実の議論として重大な問題となっています。政府の「規制改革・民間開放推進会議」は、社会保険業務を、市場化テスト(官民競争入札)のモデル事業の重点項目と位置付け、具体的検討に入っています。 市場化テスト(官民競争入札)は、公務サービスの提供者を官民が対等に競う入札で決める仕組みで、価格等の面で優れたものが落札し、民間が落札した場合は、その仕事に就いていた公務員は別部門や他の役所、落札した企業に移ることになるというものです。 社会保険業務をはじめ多くの公務サービスは、国民の権利保障と直接に関わっています。社会保険庁業務の「民間開放」は、基本的人権を保障すべき国の責任の放棄、後退を意味し、民間企業という特性から、継続性、安定性、信頼性を危うくしかねず、国民の安心を奪いかねません。  厚生労働省・社会保険庁は、社会保険業務について、憲法第25条に基づく国(行政)の責任から、市場化テスト(官民競争入札)の対象として「民間開放」にしない立場を明確にしなければならないことは言うまでもありません。

2,社会保険庁改革問題の背景と狙い

(1)社会保険庁改革問題の背景

<1>年金、医療、介護など相次ぐ社会保障制度改悪と国民の不信・不安
 9月4日内閣府が発表した国民の政府に対する要望調査結果では、社会保障制度の改革が最も多く、98年以来トップだった景気対策を逆転したことが明らかにされました。若干景気回復基調といわれる今日の中でも、健保や年金など命と暮らしに関する制度改悪には多くの国民が不信と不安を募らせている実態が浮き彫りになりました。 しかし、現在の政府・与党が強行している政策は国民に対する負担増と給付の大幅な削減です。特に先に強行成立させられた年金制度には、8割を超える国民が実施に反対しています。

<2>保険料の目的外使用、特定業者への便宜供与・贈収賄事件などへの批判
 年金改悪法案の本質から国民の目をそらすように、社会保険庁を巡る様々な問題が取り上げられました。グリーンピアの莫大な赤字から始まった年金関連施設の赤字問題、使用頻度の低い事務機器の導入や特定業者との癒着、多額の監修料と随意契約の不透明さ、そして、あまりにも多額な保険料の事務費等への転嫁・・・。グリーンピアの半数が歴代厚生大臣の地元に建設されていることや本来国の一般財源で措置されるべき事務費が財政難を理由に保険料に転嫁されてきたことなど国の政策、政治の絡みがあるとはいえ、国民の目線から見て問題のあることは事実です。 特に特定業者との信じられないような癒着、便宜供与は贈収賄事件へと発展し、ノンキャリアのトップも含めた複数の現職が逮捕されるという最悪の事態となりました。日々国民の激しい怒りに接している現場の立場からは到底許されることではありません。

<3>制度運用上の後進性や行政サービス上の諸問題
 国民の権利を保障する社会保険行政サービスは、市町村など他の公的機関と比較して格差があることは事実です。医療費が3割負担となり、高額医療費制度があっても、国民が請求をしなければ何の保障も受けらません。ほとんどの市町村や健保組合、共済組合では、保険者が償還払を自動的に行っています。簡単にできる現物給付制度も、患者に一部負担額を一旦負担させるなど給付抑制の意図が露骨に現れています。 さらに、大変な思いをしながら収めた年金も自ら確認しないと期間も報酬もわからない、請求しないともらえない、こうした制度の現状をみてもしかりです。 また、確認や請求に行っても4時間や5時間も待たされる都市部の異常な実態、こうした制度上と行政サービスの後進性が、年金制度改悪や議員の未納問題などと相まって、国民の社会保険庁批判となって噴出したのではないでしょうか。

<4>深刻な空洞化の進行
 制度に対する不信や不安が空洞化の最大の要因ですが、同時に、不十分な都市部対策や収納率の追求にとしてきた社会保険庁自身の責任も否定できません。70年代以降、人口の集中、産業の流動化が進んだにもわらず、こうした都市部に対する根本的な対策を怠ったことなども都市住民の未納・未加入に拍車をかけた要因でもあります。さらに、強制適用とは名ばかりの法人事業所の適用実態についても、様々な批判と問題が指摘されています。法の精神に基づいて労働者の権利を擁護する立場からの対応が求められます。また、日本企業の9割を占める中小企業等に対する一定の納付支援策などの必要性も指摘されています

<5>反国民的な自治労国費評議会と社会保険庁の癒着
 社会保険職場の多数を構成する
労働組合・自治労国費評議会は、行政と身分の地方移管と合理化反対闘争を最大の課題とし、公称100万自治労の組織力を背景に、社会保険職場と行政運営に多大な影響を与えてきました。 こうした国費評議会の最大の特徴は、国民不在、機械的、一面的な運動路線をとり続けてきたことにあります。彼らは機械化絶対反対、職場がなくなる危険性があるといってあらゆるコンピューター導入に反対し、やむを得ず導入された後も、なるべく機械は使わない抵抗闘争を続けてきました。ある県では、年金見込み額試算は行わない、資格記録票も交付しない、ファクシミリ番号も公表しない、パソコンも限定的な使用しか認めないなど異常な状況ともいえるような対応をしてきました。また、労務管理に使われるからと磁気カードの個人別使用は断固として認めてきませんでした。

 高齢化社会の中での年金行政へのニーズの高まりや、行政サービスの向上が叫ばれている今日的な情勢の中でも、自らの労働条件確保のためには国民要求を省みない基本姿勢が常にあり、年金制度改悪問題とも相まって国民的な批判の元となりました。 一方、社会保険庁は、こうした自治労の方針を利用し、キャリアシステムと、それに対抗するノンキャリアの幹部の利権の確保に奔走してきました。社会保険庁のノンキャリアの幹部は、キャリアに対抗すべく、自治労国費評議会を利用し、それによってノンキャリアの力を一定程度確保し、退職後の第二の職場など自らの利権づくりを進めてきました。また、自治労国費評議会の幹部にも第二の職場を保障するなど表面的な対立関係とは裏腹に、癒着の構図が横たわっていました。

(2)社会保険庁改革の狙い

<1>社会保障に対する国の責任縮小と企業の負担軽減
 財界・大企業奉仕の公共事業、アメリカ追随の軍事費拡大予算のために借金を積み重ねてきた自民党政権は、財政再建を強調する小泉内閣になってからも毎年30兆円を超える国債を発行し続け、その残高はついに730兆円という異常な事態になっています。08年まで財投債の発行が義務付けられている現状の中では、数年後には1000兆円という天文学的な数字に達すると言われています。こうした危機的な国家財政の中でも政府・自民党は、大企業やアメリカの利益は保障しつつ、社会保障など国民生活部門への国の負担を極力少なくするために、福祉、年金、医療、教育、介護などあらゆる分野への収奪路線を強行する社会保障構造改革を推し進めています。先の医療保険制度の改悪に続く年金制度の大改悪も、また社会保険庁改革も一体のものとして捉える必要があります。 また、一部の大企業が史上最高の利益を挙げているにもかかわらず、飽くなき利潤追求に走る財界は、社会保障に対する企業負担の縮小・廃止を求め様々な画策を行っています。二大政党制の推進や消費税増税による年金制度の更なる改悪攻撃もその一端であり、まさに社会保障の解体が狙われています。

<2>公務の民間開放化
 政府の諮問機関として設置されている「規制改革・民間開放推進会議」は、公務の民間開放を主要な議題とし、すべての公務部門について民間開放の対象として検討に入りました。過去には、労働保険や職業紹介業務などの民営化がクローズアップされていましたが、国税・地方税の徴収、年金業務、登記、自動車登録、統計業務、航空管制など従来は「公権力の行使」「高度な守秘義務」「中立性」等から困難であるとされていた部門も含まれ、基本的にはすべてが市場・競争原理の対象とされています。 特に社会保険庁については、事務費の無駄遣いや業務運営の実態が国民的な批判を浴びたことから、市場化テストの第一号としていきたいとの思惑も指摘されています。消費税増税による企業の社会保障負担の軽減と同様に、公務も営利業務に取り込み、利潤の対象にしようとする企業の飽くなき狙いが根底にあります。

<3>社会保障制度の運営形態の抜本的改悪
 社会保険庁の解体的出直し論が、政府・財界、マスコミ等から連日出され、独立行政法人化や民営化が強調されています。しかし、独立行政法人化や民営化は、コストを抑えサービスを向上させるといいますが、真の狙いは、制度の切り捨てによる社会保障費の削減であり、職員の労働条件の大幅な切り下げもセットになっています。また、当然のごとく大幅な合理化、定員削減も俎上に上がる事は明らかです。

3,社会保険庁改革に対する私たちの主張

(1)社会保障制度に対する国の責任の明確化を求めます

 社会保障制度は、資本主義社会の中で必然的に発生する病気・失業・貧困・高齢等に対し、労働者・国民が長い間、企業や国にその社会的責任を求めて命をかけたたたかいを繰り返す中で、実現・前進させてきたものです。こうした経過を踏まえて制定された憲法第25条の生存権を後退させることはできません。 今、多くの国民が長い不況でぎりぎりの生活を強いられているときに、小泉内閣による社会保障の連続改悪が国民生活を圧迫しています。特にアメリカの圧力も加わった
新自由主義により、失業や生活困難を個人の責任とし、「自立・自助」「自己責任」を強調することで、社会保障への国の責任を国民に転嫁しようとする路線が益々強まっています。 さらに、規制改革・民営化の流れも加速され、公務部門への民間参入を狙った市場化テストも俎上に上るなど、市場万能主義、弱肉強食の世界が社会保障制度にも襲いかかっています。 私たちはこうした流れには断固反対します。社会保障の本質は、所得の公平・公正な再 配分にあり、高所得者に集中する所得を低所得者へ分配しなおすことが基本です。そのためには、国の責任を明確にした制度とその運営が求められることはいうまでもありません。

(2)社会保険庁業務の市場化テスト(官民競争入札)に断固反対します
 政府の諮問機関である「規制改革・民間開放推進会議」は、官が提供しているサービスと同種のサービスを提供する民間事業者が存在する場合、官と民間で競争入札を実施し、価格やサービスの点で優れたものがモデル事業として落札し業務を行うための制度として「市場化テスト」(官民競争入札)の実施を打ち出し、来年度実施に向けた対象事業の選定を行っています。現在検討されている事業としては、ハローワークの職業紹介、社会保険関連業務、刑務所運営事業の一部、企業・事業所関係の統計調査などがあげられています。 こうした動きは今後税務署業務の一部や航空管制などあらゆる公務部門に及ぶことは明らかで、その狙いは、民間企業へのビジネスチャンスの拡大であり、企業の利潤の追求です。同時に、政府にとっても対象とされた業務の独立行政法人化、そして民営化への動きを加速させる有効な手段ともいえます。 常に利潤を追求する民間企業が行った場合、過酷な競争と成果主義の導入・強化は目に見えています。国民の命と暮らしを守るために第25条を基に制度化された社会保険制度の運営に、こうした手法が導入された場合、当然のごとく制度の更なる切り捨てと職員の労働条件の後退につながることは明らかです。私達はこうした流れには断固反対します。

(3)独立行政法人化や民営化ではなく国の機関が直接責任を持って行うことを求めます
 「社会保険庁のあり方に関する有識者会議」では、独立行政法人化や民営化なども含めた社会保険庁の組織のあり方についても議論が進められています。この間、多くの国の機関や公団・特殊法人等が独立行政法人化させられました。最近では国立病院が最大の組織として発足しています。これらの経過や現状を見てもその最大の狙いは、効率的運営という名によるリストラ・合理化であり、労働条件の切り下げです。 独立行政法人は、もともと中央省庁再編を前提とする行政のスリム化・減量化の一手段として、2001年4月に発足しました。行政の機能を「企画立案機能」と「実施機能」に分け、実施機能と見なす部分を独立行政法人に移行させ、定員削減計画を推進する有効な手段に位置づけられています。 また独立行政法人は、目標管理と評価システムによって「自発的」に減量化、効率化に取り組む仕組みです。目標達成に遠く及ばなければ、業務の見直しや廃止に追い込まれてしまいます。一方、事務・事業の経済的な効率化を達成すればするほど民営化の方向にすすみ、自らの存在理由を失わせる矛盾した制度設計になっています。
 小泉「構造改革」は、社会保障の各制度を一体的に見直す社会保障「構造改革」を進めています。この改革の究極的な狙いは、社会保険の民営化路線です。本来、国の行政機関は、国民の基本的人権を保障する責務を担っています。独立行政法人化や民営化は、厚生労働行政、社会保険行政を安定して継続して遂行する方向に逆行し、国が果たすべき役割や責任を放棄するものです。独立行政法人や民営化の検討を進める社会保険庁改革は、社会保障、社会保険行政の切り捨て政策と一体で進められていることが特徴です。 民営化の最大の狙いは、利潤の追求であり、そのためには不用なサービスは当然のごとく縮小・切り捨てが行われます。国民の日々の安心と老後の生活を保障する社会保険制度に民営化は馴染まないばかりかあってはならないことと考えます。 私たちは、こうした制度・行政の切り捨て路線には与みせず、国の機関として社会保険庁がその任にあたり、同時に国民の立場に立った真の社会保険庁改革が実現するために奮闘します。

(4)真の行政サービスの向上と労働条件の確保を求めます
 都市部を中心とする異常な混雑、様々な権利を行使するにも主体性が求められる実態など行政サービス上様々な問題点が指摘されています。 社会保険庁が示した緊急対応プログラムには、全厚生がかねてから指摘しその改善を求めてきた項目なども多く含まれています。体系的・計画的な実施と同時に、具体的実施に当たっては、必要な要員の確保や予算措置、そして十分な協議と条件整備、労働条件の確保を求めます。

(5)全額国庫負担(一般財源)による「最低保障年金」制度の創設を求めます
 年金制度の相次ぐ改悪は、給付水準の引き下げと大幅な負担増をもたらし、高齢者や若年層も含めた圧倒的多数の国民に制度不信と将来不安を増長させています。制度への未加入・未納・免除者が4割を超えるような国民年金制度、また、依然として低迷する経済情勢のなかで強制加入にもかかわらず重い保険料負担なども影響し4割の法人が未加入といわれている厚生年金、こうした空洞化の進行が社会保険制度の根幹をゆるがしています。また、世界に例を見ない長期の受給資格要件や、多額の積立金と非民主的な運用実態などが制度不信に拍車をかけ抜本的な改善を求める声も益々強くなっています。
 厚生年金が発足して60数年、国民年金では憲法第25条を生かし40数年を経過しています。予想を上回る少子・高齢社会の到来と経済の長期低迷が続く下で、制度の安定的な維持・運営のためには全額国庫負担による「最低保障年金」制度の創設が具体的な課題として労組・民主団体等から指摘されています。
 安心できる制度と信頼される行政運営が働きがい・生きがいある職場作りの基本です。100年不安といわれ国民の8割が実施に反対している年金制度、受給開始20年後には30〜40%前後にまで低下する給付水準・・こんな制度でどうやって職場が発展するのでしょうか。内閣総理大臣の諮問機関であった「社会保障制度審議会」が、1950年に出した「社会保障制度に関する勧告」では憲法第25条に基づく社会保障制度として「無拠出年金制度」を提案しています。さらに基礎年金制度の発足にむけた84年の答申では、「特殊な年金税をもって“基本年金”の財政基盤を固め、各年金はこれを控除したものをこの上に載せようとするものである。これらの建議は、財政・経済事情を十分配慮したものであったが、ほとんど政府の検討を得なかったように思われる」と述べるなど早くから制度の抜本的見直しが必要であることを指摘しています。今まさにこうした原点にたった制度改革が求められます。
 深刻化する年金制度の劣悪な現状を抜本的に打開するために、そしてみんなが安心する制度を実現するために全額国庫負担(一般財源)による「最低保障年金」制度を創設し、その上にそれぞれの掛け金に応じて給付を上乗せする新たな制度体系を構築する必要があると考えます。

4,当面する課題に対する基本的考え方
(1)社会保険庁の「緊急対応プログラム」について


<1>緊急対応プログラムの内容と実施スケジュール(資料)




<2>基本的考え方

 「社会保険庁のあり方に関する有識者会議」に示された「緊急対応プログラム」の内容については、国民の視点に立った社会保険行政と住民サービスの向上を実現する意味からも必要な課題・施策ではあると考えます。特に住民サービスの向上については、都市部の劣悪なサービス体制と異常な混雑の実態などを機会ある毎に指摘しその改善を求めてきた立場からすれば、社会保険庁に猛省を促すと共に、抜本的な早期の対策を強く求めるものです。また、個人情報保護等の徹底についても、事故防止対策とあわせ交渉等でも強く指摘してきたところでもあります。 しかし、予算執行の透明性の確保の問題では、私たちももっと情報の把握と的確な指摘を行う努力をする必要があったことは事実です。その点では、今後の教訓にしなければならないと考えます。 また、保険料徴収の徹底問題では、深刻化する空洞化問題の根本原因にメスを入れ国民が安心する制度の再構築なしに真の解決とはならないと考えます。一面的な収納対策の強化や強制徴収、あるいは職権も含めた適用拡大などは、依然として厳しい経済情勢の中で、企業の9割を占める中小・零細企業等にとっては、経営を直撃することは明らかです。納付支援対策の制度化などとあわせた総合的な政策の中で、実施する必要があるのではないでしょうか。 こうした様々な課題や施策を遂行するには、必要な予算と要員の確保、そして行政需要にみあった人員の配置がなくてはなりません。体制確保と条件整備など労働条件の確保を強く求めていく必要があると考えます。

<3>夜間・休日における年金相談業務について
 初めて民間から長官が登用されたのを期に、緊急対応プログラムの先行版とも言え る夜間の年金相談が行われました。また、11月の年金週間には休日についても実施 されました。職場では「業務時間中の異常な混雑を解消することが先決ではないのか」 「根本的な問題の解決には程遠い」「庁のパフォーマンスではないか」「各県ごとの行 政需要を考えない全国一律の夜間・休日の年金相談延長は問題」などの声が出されて います。
 全厚生は、@真の行政サービスのためには系統的なサービス体制の確立が必要であ り、平常時間内での相談・サービス体制の確保が基本であることA相談等の集中期及 び団塊の世代対策等抜本的な対策が求められること、などを要求しながら、実施に当 たっては、十分な体制の確保と必要な予算措置、そして代休の保障等を求めていく必 要があると考えます。

5,社会保険庁改革に関する基本要求(案)

T 基本要求
1.社会保険行政は憲法第25条にもとづき国の責任で拡充し、「市場化テスト」(官民競争入札)の対象として民間開放を行わないこと。
2.社会保険行政の安定・継続した運営を保障するため、社会保険庁の「独立行政法人化」や「民営化」は行わないこと。
3.「組織のあり方」の見直し等は重大な労働条件に関する問題であり、一方的な方針の決定及び改変は行わないこと。  
4.社会保険行政にかかる事務費は国が完全保障すること。

U 国民本位の社会保険行政確立に向けた要求
1.国民の不信を払拭し、将来に安心がもてる年金制度に改善すること。
2.基礎年金への国庫負担割合を、ただちに、1/2に引き上げること。
3.保険料の増額、給付の削減は行わないこと。
4.年金積立金は、株式投資などのリスクのともなう運用はやめ、健全で民主的な管理運営を行うこと。
5.年金積立金は、諸外国の例にならい必要最小限に縮小し、年金給付等の改善を行うこと。
6.誰もが安心する公平な年金制度の確立、全額国庫負担による「最低保障年金」制度の早期実施を行うこと。
7.国民の期待にこたえられる、事務処理体制の整備を行うこと。
8.地域の実情をふまえ、相談件数など業務量を考慮し、相談センターを設置するなど年金相談体制を充実すること。
9.保険料収納対策のみに固執し、職場の実態を無視した、一方的な体制づくりを行わないこと。
10.新たな業務、事務処理等の実施にあたっては、職員の意見を十分反映すること。

V 「保険者の統合、再編」「政管健保の組織形態の在り方の見直し」に関する要求
1.政管健保はこれまでどおり国の事業として、国の責任で実施すること。
2.国の責任放棄・縮小につながる都道府県単位での運営は行わないこと。

W 社会保険庁の「緊急対応プログラム」などに対する要求
1.緊急対応プログラムの実施にあたっては十分な体制の確保と予算措置を行うこと。
また、実施にあたっての職員の労働条件は国公法、給与法、人事院規則に定められている規定を遵守すること。
2.夜間・休日における年金相談業務は、「やむを得ず必要な場合」とし職員の健康、文化教養、育児介護など社会生活を考慮すること。


6,当面する取り組み


☆組合員の学習・たたかいの意志統一
(1)学習討議資料を作成し機関討議を取り組みます。(全組合員にはダイジェスト版を配布)    2004年12月上旬
(2)本部主催の学習会を開催します。
2004年12月23日(木) お茶の水・ホテル聚楽
(3)ブロック単位での学習会の開催を検討します。
2005年 1月〜
(4)全職場での積極的な学習と討議を取り組みます。
2005年 1月〜
(5)本部オルグを系統的に実施します。
2004年11月〜
(6)未加入者を対象に全厚生労働組合への加入を積極的に呼びかけます。
2004年12月〜

☆政府・厚生労働省・社会保険庁への責任追及

(7)独立行政法人化や民営化及び市場化テストに反対する署名を取り組み長官に提出します。    2004年12月上旬
(8)独立行政法人化や民営化及び市場化テストに反対する申し入れを所属長に行います。      2004年12月上旬
(9)厚生労働大臣交渉を行います。
2004年12月7日
(10)社会保険庁交渉を行います。
2004年12月 

☆諸団体との共同・国民的運動の構築

(11)国民本位の社会保障制度の実現と、社会保険庁の独立行政法人化や民営化を許さない立場での国民的運動の構築を目指します。 
2004年12月〜
(12)真の社会保険庁改革を目指すための関係団体等との意見交換を取り組みます。
2004年12月〜
(13)国民本位の年金制度と真の社会保険庁改革を目指すシンポジウムを開催します。
2005年 2月26日(土)午後   200人規模 大阪


用語解説

憲法第9条
<1>日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
<2>前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

規制改革・民間開放推進会議
○政府が経済社会の構造改革を進める観点から規制改革・民間開放の一層の推進を図るためとし、内閣に規制改革・民間開放推進本部を設置した。(2004年5月25日 閣議決定)

憲法第25条 
<1> すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
<2> 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない

自治労
○自治体と自治体関連の公共民間で働く労働組合。社会保険職場では、全厚生労働組合と、この自治労に加盟している「国費評議会」がある。

 新自由主義
○市場原理による価格の自由な動きに信頼をおく近代経済学の一流派。自由放任、弱肉強食の市場原理にもとづく、強い資本だけが幅をきかす社会の実現をめざすことを主張。
                   

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