米軍支援法(テロ対策特別措置法)成立を新聞はどう報道したか
 「テロ防止・根絶」を口実に、自衛隊に米軍の戦争を支援させる「米軍支援法」(テロ対策特別措置法)が、自民、公明などの賛成で成立しました。政府は、米軍のアフガニスタン攻撃を支援するため、基本計画の策定を待たず、自衛艦を早々にインド洋に派遣する準備を進めています。
 10月30日付の新聞各紙はこの法案成立を1面トップで報道するとともに、社説や論評を載せています。「朝日」社説は、「焦るな、逃げるな、高ぶるな」と題して法案の成立は「あまりに拙速ではなかったか」と述べ、「内実は米国の軍事行動に対する支援である」と指摘し、地球規模の米軍支援に道を開くものではないか、との危惧を表明しています。そして、日本のとるべき道として「テロ撲滅は軍事力だけで果たせることではない」、日本は「国際協調や国連機能の強化に、より大きな力を注ぐべきだ」と強調し、「新法成立イコール自衛隊派遣ではない」との見識を示しています。 「毎日」も「新たな任務は身の危険も伴う」にもかかわらず、「論議が尽くされたとは言いがたい」と指摘し、「法の厳密、慎重な運用に努めてほしい」と述べています。
 これら2紙の論調に比べて、際立った対象を見せたのが「読売」でした。「読売」は「素早く対応した各国に比べれば出遅れは否めない」と日本政府の対応を批判。「自衛隊を派遣できる法制が整った」のだから、「実効ある後方支援に迅速に踏み出さなければならない」とし、「イージス艦派遣も、必要であるなら、躊躇すべきではない」と、「朝日」とは全く反対の立場を鮮明にして、自衛隊の海外派兵を急げと、主張しています。さらに同紙は「有事法制の整備や、憲法改正に関する論議を深めることも重要だ」と論じ、「憲法9条」改正の世論を広げようとしています。
 法律が明記する戦闘中の米軍支援は、政府でさえ「武力行使と一体となり憲法上許されない」としてきました。小泉首相が憲法との「一貫性、明確性を問われれば答弁に窮する」と述べたように、この法律は明白に憲法に違反しています。
 この法律を発動して自衛隊を派兵することは、戦後初めて日本が外国で他国の人々を殺傷する危険に踏み込むことになり、国の進路を根本的に誤らせます。ブッシュ米大統領が「聖戦」「善か悪か」といって始めた軍事攻撃は、今日、イスラム諸国民の憎悪をかきたて、テロ集団の破壊活動の条件を広げているのです。
 多数の市民を殺りくした同時テロは、いかなる宗教的政治的見解によっても絶対に許されない憎むべき犯罪です。テロ根絶には、同時テロの容疑者を裁判にかけ真相を明らかにする国際社会の共同が不可欠です。
 米軍の軍事攻撃はテロとは無関係の市民の犠牲を増やすだけで、テロ根絶に役立たないことが、ますます明らかになっています。米国や英国をはじめ世界中で「軍事攻撃をやめろ」の声が大きく広がっているその時に、さらに米国からも国連からも具体的な要請もないのに、自衛隊を派兵してこの軍事攻撃を支援するとは一体どういうことか。侵略戦争の反省のうえに憲法9条を定めた日本のとるべき道ではありません。
 報復戦争でテロ根絶は出来ないことが世界の世論になりつつあります。テロを許さず、テロを根絶するためにも、「米軍支援法」の発動を許さず、自衛隊を派兵させない声を職場、地域からいっそう大きくしていくことが求められています。
 
アフガニスタンへの空爆やめよ
 米軍によるアフガニスタンへの軍事攻撃が10月8日未明に始まってから、約1ヵ月になろうとしています。この攻撃でアフガニスタンの民間人の犠牲者が増えています。戦況は泥沼の様相を強めています。報復戦争がテロ根絶に役立たないことがますますはっきりしてきています。
 アナン国連事務総長は10月30日、米英軍による軍事作戦、戦争の早期終結を訴えました。また、国連でアフガニスタン問題を担当するブラヒミ事務総長特別代表は11月1日、訪問先のパキスタンで会見、アフガンへの緊急援助が再開されなければこの冬で90万人の餓死者が出る可能性があると、米国に空爆の即時停止を訴えました。
 世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアのメガワティ大統領も11月1日、米軍のアフガニスタン攻撃について「軍事行動は、さらなるテロを生じさせるだけではなく、反テロに対する世界的な結束を揺るがしかねない」と厳しく批判し、「神聖なラマダンとクリスマスには、攻撃を中断するよう求める」と訴えました。さらに「政治的、外交的な働きかけの余地を得るためにも、攻撃の中断が必要だ。われわれは、その際に国連が大きな役割を担うことを支持している」と述べました。
 そうした時に、小泉内閣は自衛艦をインド洋に派遣するなど、この戦争に自衛隊を参加させることに躍起です。米国は自衛隊参戦が日米軍事同盟の強化のためとしており、アーミテージ国務副長官は、同時テロが発生するや「旗を見せろ」といって、自衛隊派兵を日本政府に迫ったのです。小泉首相は「テロ根絶」のためと称して、米国の報復戦争に参戦しようとしています。日本国民と世界の諸国民を欺くものといわなければなりません。
 テロ犯罪は、国際社会全体への攻撃であり、国連を中に国際社会が共同して対応することが必要です。いま、米軍の軍事攻撃から、国連中心の制裁と裁きへの切り換えが必要だということが、世界の世論になりつつあります。自衛艦のインド洋派遣はそうした世界の世論に逆行するものです。自衛艦の報復戦争への参戦策動は直ちに中止すべきです。

マスコミはもっとアフガニスタンという国を伝えて
 米軍は連日、アフガニスタンへの空爆をつづけています。誤爆による民間人の犠牲も急増しています。新聞報道によるとカブールに冬の訪れを告げる冷たい雨が降ったといいます。アフガニスタンの11月はもう冬。カブール市内でも夜間、家の中にいてさえ寒さで両足がひきつるほど。厳しい冬の到来と大干ばつ、そして空爆。アフガニスタンの人々の暮らしは一体どうなるのでしょうか。ブラヒミ国連特別代表はこの冬で90万人の餓死者が出る可能性があり、米国に空爆の即時停止を訴えています。
 ところで、アフガニスタンとはどういう歴史を持ち、どんな地形をもった国なのでしょうか。米国のスポークスマンになりさがっている感があるNHKのテレビ放映では、まったく緑らしい木々を見ることができません。爆弾の投下で民家が瓦礫の山になっている映像が映し出されますが、そこには緑がみられません。山岳に爆弾が炸裂する映像にも木々の景色はほとんど見られません。荒涼とした大地が全国土を覆っているのでしょうか。その理由は、ソ連との長いたたかい、そしてその後の20年にわたる内戦によって国土の荒廃がすすんだのだといいます。カブールはもともと緑豊かな都市でした。
 米軍の空爆の標的になったタリバンの本拠地カンダハルはその昔、「アラコシア(州の名)のアレクサンドリア」と呼ばれていた歴史のある都市。そこからアレキサンドロス大王はカブールに入り、ヒンズークシ山脈を超え、バクトリアに侵入しました。アレキサンドロス大王の東征です。時代は紀元前330年頃。兵士たちは薄い空気と白一面の世界の中で雪の吹きだまりにつまずきながら行軍をつづけたと古代史家が書いています(「毎日」11月3日付余録)。
 時代が変わっても、アフガニスタンの山岳地帯の冬の厳しさは変わっていません。アフガニスタンとパキスタンの国境線は約2400キロメートル。そこには5000から7000メートル級の山々が横たわっています。国境を越えるには車が通らない道なき道も多いといわれます。両国が国境を完全に封鎖することが出来ないのも肯けます。
 アフガンは未知の国。前国連難民高等弁務官の緒方貞子さんが「アフガンは国として成立することがなかった大きな部族社会」(「朝日」10月6日付)と語っていました。アフガン社会では「部族」や「家系」が強烈に生きているのだといいます。ソ連とたたかったムジャヘディンは7つの派閥に分かれていましたが、それは彼らを援助したパキスタン政府の政略であると同時に、この部族意識によるものであったというのです。そしてソ連撤退後は、このそれぞれの派閥が抗争し、内戦に突入します。
 20年以上の内戦のなかで、犯罪も絶えませんでした。それを元に戻して犯罪をなくしたのがタリバンでした。ですからアフガンの人々やものごとの決定に力があるジルガと呼ばれる地域の長老会議もタリバンを支持しています。アフガニスタンやパキスタンで18年間医療活動を行っている中村哲医師によれば、アフガンは世界でも一番の親日国だといいます。またアフガン難民への援助額も日本がトップです。
 それに対して、英国は19世紀に2度もアフガンに攻め込み、米国も冷戦時代、ソ連の侵攻に対して資金と武器をつぎ込み、パキスタンに軍事訓練センターをつくり、そこでアフガンゲリラを訓練しました。つまり、アフガンに対する位置関係は、日本と米英両国では相当違うと言えます。
 日本をふくめ西側のジャーナリズムは、「米国が正義でタリバン政権は悪の塊」といった論調が多い。しかし、タリバン政権は、平和なイスラム教信者がつくる政権であり、アフガンから犯罪をなくしたので国民からは支持されています。そうした親日国に、米国の報復戦争に加担する日本についてアフガンの人々はどんな思いでみているのだろうか。連日、テレビは米軍の空爆だけを垂れ流しているだけで、民衆が全くといいほどでてこないのはどうしたことだろうか。もっとアフガンの人々の姿が知りたいものです。
全厚生労働組合 中央執行副委員長 加藤重徳


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