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◆2007年12月号外◆

年金記録問題は歴史的・構造的要因
全記録の照合・早期整備と相談体制等の確立を
年金記録問題に対する全厚生の基本的な考え方
 労働者・国民の長い間の闘いで一定の前進を勝ち取ってきた年金制度。格差と貧困が拡大する国民生活の中で、老後の命綱として拡充を求める声が強まっています。
 こうした老後の命綱である公的年金の業務運営において、(1)基礎年金番号に統合されていない「宙に浮いた年金」、(2)領収書があるにもかかわらず社会保険庁に納付記録のない「消えた年金」などの記録問題が明らかになり、通常国会及び7月の参議院選挙の大きな焦点となりました。 全厚生は、記録管理は、国民の暮らしを保障する年金制度の根幹をなすものであることから、社会保険庁に対し、「緊急申入書」(6/5付、4面)を提出するとともに、職員は、記録の整備に全力をあげてきました。しかし、十分な体制が確保されず、相談・照会など行政サービスの向上や国民の年金権確保にも支障をきたす状況となっています。
 「ねんきん特別便」の第一弾が送付される新たな情勢の中で、こうした体制の確保とともに、根本的な解決には台帳や原簿とオンラインデータとの全数照合が必要と考えます。
 一方、年金記録問題の原因究明と責任検証のため総務省に設置された「年金記録問題検証委員会」は10月31日、記録管理に対する厚生労働省や社会保険庁の基本姿勢及び記録管理システム上の問題などをはじめとする最終報告を発表しました。
 全厚生は、なぜこうした事態が生じたのか、歴史的にどのような経過をたどってきたのか、史実や諸先輩の証言などを踏まえ、検証委員会の最終報告に対する基本的な考え方とともに、憲法25条にもとづく、国民の権利としての公的年金制度のあり方などについて、若干の考え方を明らかにするものです。

1 記録管理をめぐる歴史的経過等について

(1)49年前の行政監察でも指摘されていた記録問題
 昭和17年の厚生年金保険制度発足当初は、厚生省保険院(後に保険局)が全国の被保険者について被保険者台帳を作成保管するなど、一元的管理を行ってきましたが、昭和19年の制度改正により事務職や女性労働者も対象となったことなどから被保険者が急増したこと、さらに戦争被害を最小限に食い止めるために、昭和20年に被保険者台帳の作成と管理を全国の社会保険事務所に移管しました。
 しかし、終戦後の事務量の増加に対し職員が減少するなかで、保険給付事務の増加ともあいまって台帳事務は極めて憂慮すべき事態となっていました。そのため、昭和25年度予算において、台帳整備に要する経費が認められたことから、多数の賃金職員を雇用し被保険者台帳の整備が行われました。台帳整備はそれまでの事務の渋滞が予想以上に大量であったため、年次計画の下、昭和32年度まで継続され、昭和32年7月1日までの記録約3200万件が整備されました。
 こうして作成されたいわゆる「旧台帳」(資料(1))について昭和33年に行政管理庁(現・総務省)が行った監察では、「戦時戦後の混乱期における被保険者台帳を整備するため、既に長年月に亘り、多数の臨時職員と多額の費用を費やして、一応作業を終了しているが、整備はなお完全なものとは認められない」「これら台帳の中には、氏名、生年月日、資格取得年月日等の誤謬、あるいは資格期間および標準報酬月額の誤計算が発見せられている」とズサンな実態を指摘しています。このことからみても、労働力・兵力の確保、戦費調達などを主要目的にスタートした日本の年金制度は、保険料徴収業務が優先され、記録管理業務は後景に置かれてきたのが実態で、「宙に浮いた年金」の大きな要因と考えられます。
 なお、旧台帳は、各社会保険事務所で保管されていましたが、防災設備が不十分であったことや、迅速、確実、安全な台帳の作成・保管を求める声が大きくなり、中央での一括管理について議論が進められることになりました。その結果昭和32年に、東京杉並区に機械化のための庁舎が完成し、保険局年金業務室が設置されたことに伴い、各社会保険事務所で管理されていた被保険者台帳については、年金業務室に移管されました。

(2)膨大な記録の中で破綻したパンチカードシステム
 年金業務室での機械処理に当たっては、昭和32年7月1日以降の被保険者を基本に、各社会保険事務所からそのつど送付されてきた各種届出書について、統計会計機械組織により、必要な記録をパンチカードに穿孔して台帳カード(資料(2))を作成する「パンチカードシステム」(PCS)がスタートしました。しかし、当時こうした機械は、アメリカ製で、入力に当たっては、漢字やカナを全て数字に置き換えなければならないものでした。また、台帳カードと氏名索引カードが別々に作成されたこと、取得・喪失、変更など記録事項1件について1枚作成することから、台帳カードは膨大なものとなり、被保険者が約1000万人であった昭和36年で約6500万枚に及んでいます。また、作成された台帳カードは、各種機械によって配列・抽出などが行われましたが、極めて煩雑な作業の繰り返しであったことが指摘されています。
 こうした膨大な年金記録の整備は試行錯誤の連続で、長年にわたりミスの原因を積み重ねてきたことを、「今日およびこれから先、だんだん顕在化してトラブルのもとになる」と40年前に当時の責任者が指摘しています。
なお、社会保険事務所から各種届出書をそのつど年金業務室へ送付する方法では、増加する業務量に対応できないことなどから、昭和35年から記録票が満欄になった場合及び資格喪失の際に送付する「原票方式」(資料(3))に改められました。(東京・京都・大阪・福岡を除く)

(3)氏名(資格喪失者)については社保庁が独自にカナ変換
 こうした経過の中で、電子計算機の発達が急速に進んだこと、年金裁定・支払いのためにも4則演算機械の導入が指摘されるようになり、昭和37年にIBM電子計算組織が導入され、さん孔紙テープを入力媒体(資料(4))とした磁気テープ収録方式に切り替えられました。しかし、漢字氏名の入力は昭和54年まで数字符号化方式が続けられました(東京・沖縄を除く)。また、パンチカードシステムにより作成された台帳カードも順次磁気テープに収録され、それまで個人ごとにバラバラに管理されていた被保険者記録が、初めて統合(原簿テープ)されることになりました。
 一方、資格確認や年金裁定の効率的処理、同一人の記録の整理・統合などのためには、氏名索引システムが必要となり、それまで、数字符号化で管理していた漢字氏名をカナ文字で管理することとなりました。そのため、現存の加入者については昭和54年の「算定基礎届」(年1回全加入事業所が提出)によりカナ氏名を収録しましたが、資格喪失者については、正確な読みガナを確認する手立てがなく、社会保険庁が漢字の姓及び名単位に一般的な読み方に変換する「漢字カナ変換辞書」を開発し、カナ氏名に置き換えました。このことも、「宙に浮いた年金」の大きな要因として指摘されています。

(4)一部しか磁気テープ化されなかった旧台帳
 社会保険事務所から移管された昭和32年7月までの旧台帳は、紙台帳のまま別途管理されていましたが、年々増加する裁定処理等に対処するためには非効率であり、また紙台帳そのものが戦前戦後の物資不足時代に作られたもので損耗が激しいことから、昭和45年から昭和52年にかけて磁気テープ化され、電子計算機で管理する原簿テープに順次収録されました。しかし、昭和29年4月1日以前の喪失者で昭和34年3月31日までに再取得のない比較的使用頻度の低い喪失台帳約1754万件については、マイクロフィルムに収録して管理することとされたことから、この記録も「宙に浮いた年金」となっています。なお、その後の年金裁定や期間確認などにより、約1430万件に減少しています。

(5)統合による膨大な事故記録の発生
 紙台帳、パンチカードシステムによる台帳カード、そして原票方式により作成された記録は、昭和37年から電子計算組織による記録管理となりました。同時に、磁気テープ化された個人個人の記録を歴史的な相関関係等を精査し、被保険者台帳記号番号順に整理・統合する作業も行われ、以降、各社会保険事務所から送付された記録も順次統合されるようになりました。
 しかし、台帳記号番号、事業所整理記号番号、生年月日などが相違するためにデータが統合されない、また、喪失漏れ、取得漏れがあって記録が繋がらないなど、いわゆる「事故記録」が大量に発生しています。こうした事故記録は、社会保険事務所への照会等により補正し再統合が行われました。しかし、昭和62年の最終統合までに862万件発生した事故記録は、多くは正しい記録に統合されたと思われますが、膨大な事故リストの調査は、十分なものではなく「宙に浮いた年金」の可能性も指摘されています。

(6)自治労国費評議会の「反合理化」と「身分移管闘争」
 制度加入者や年金受給権者の急増の中で、年金裁定に半年もかかることなどから行政サービスの改善は、喫緊の課題として国会をはじめ各方面から指摘されていました。そのため、データを中央に送付する方法ではなく、現場の社会保険事務所で直接入力する全国オンライン化が計画されました。年金相談、そして、保険料の徴収業務と昭和54年から段階的に実施され、厚生年金のシステム全体が完成したのは平成元年です。
 こうした業務のオンライン化計画に対し、職員の多数を組織していた自治労国費評議会(現・全国社会保険職員労働組合)は、「身分と行政の地方移管」「合理化反対」を主要な運動方針とし、具体的には、中央集権につながる「機械化絶対反対」闘争を全国的に展開してきました。機械の使用や磁気カードの個人化、記録のオンライン化や年金手帳の統一などには絶対反対の方針を長らく掲げ、機械導入後も極力使用しない方針を徹底するなど、記録整備に影響を与えてきたことは否定できません。

(7)責任の所在が曖昧だった国民年金行政
 昭和36年に施行された国民年金制度は、加入、脱退や保険料徴収などの基本的な業務は市町村が行い、資格記録や保険料納付記録を社会保険事務所に送付し、社会保険事務所は「国民年金被保険者台帳」を作成し管理するものでした。
 その後社会保険庁で資格記録を一元的に管理するため、昭和40年から被保険者台帳の内容を、さん孔タイプライターにより作成された紙テープで社会保険庁へ送付し、電子計算組織により集中処理が行われるようになりました。また、保険料については、市町村から報告のあった納付記録に基づき納付台帳が作成されていましたが、昭和43年から納付記録についても、「紙テープ」により社会保険庁へ送付することになりました。国民年金については、発足時から加入届の氏名にカナを記載するシステムとなっていることから、原則として氏名漏れはありませんが、カナの附されていない台帳については、一般的な読みカナを入力したと言われています。さらに、市町村から報告のあった納付記録の転記ミス等も指摘されています。
 このように国民年金行政は、市町村と社会保険事務所で同様な台帳を作成・保管するなど実態として二重行政で責任の所在も曖昧との指摘がありました。なお、国民年金の全国オンライン化は昭和60年に完成し、以降データは各社会保険事務所から直接入力されています。そして、平成12年の地方分権一括法の成立により、現在は国の直接事務として社会保険事務所が執行しています。

2 基礎年金番号の導入と過去記録の整理

 公的年金は、国民年金、厚生年金、船員保険、そして共済組合とそれぞれの制度ごとに管理・運営されていました。そのため、(1)制度を通じた記録管理が行われていないこと(2)制度加入等の手続きは、加入者に届出等を課しており、届出等がなければ保険者が情報を把握することができない状況であること(3)1号・3号被保険者の届出漏れ、併給調整にかかる届出漏れ、相談・裁定時の記録確認に時間を要すること、などの問題が生じ、制度が適正に運営されないというだけでなく、無年金者の発生、制度の公平性・安定性が図れないなどの状況が生じていました。
 97年の基礎年金番号導入時点では、約3億件の年金番号が交付されていましたが、こうした状況を解消し、加入者への資格記録の通知や、事前の請求案内など国民の年金権を確保することなどを目的に、約1億人に対し各制度共通の基礎年金番号が交付されました。その結果、基礎年金番号に統合されない記録が約2億件発生しましたが、その後、名寄せや本人照会などの社会保険庁の「過去記録の整理」が年次計画により行われ、現在約5千万件が未統合となっています。

3 検証委員会最終報告に対する基本的な考え方

(1)重い歴代政府の責任
 最終報告では、年金記録問題発生の根本にある問題として、国民の大切な年金に関する記録を正確に作成し、保管・管理するという組織全体としての使命感、国民の信任を受けて業務を行うという責任感が、厚生労働省及び社会保険庁に決定的に欠如していた、と指摘するとともに、年金記録問題発生の責任の所在として、歴代の社会保険庁長官を始めとする幹部職員の責任は最も重く、厚生労働省本省の関係部署の幹部職員にも重大な責任があり、厚生労働大臣についても責任は免れないとしています。
 年金記録問題は、国民年金、厚生年金、共済組合など制度ごとに管理・運営されていたことや、機械化に伴う切替上の問題など、歴史的・組織的背景を持った複合的要因により発生していることは明らかです。同時に、年金制度の根幹に関わる重要な事務である記録の管理に、十分な予算や人員が措置されてこなかったことも史実などから明らかです。社会保険庁や厚生労働省の責任はもとより、歴代政府の責任も重いものがあると考えます。

(2)3年前の行政監察で把握されていた「宙に浮いた年金」
 特に、最終報告が、年金記録の不備データが存在することの原因として、コンピューターシステムの問題をあげるとともに、過去の誤りの発生状況等を記録し、減少策を検討することが重要であるが、社会保険庁は、オンライン化前もオンライン化後から現在に至るまでもこのような取組みを行ってきていない、また、年金記録の誤りが相当あることに対して、これを定量的に把握し・検証・補正する組織的な取組みは行われなかった、と指摘していることは組織的な問題として極めて重要です。
 一方、報告説明書において、総務省は被保険者台帳の整備等年金記録問題について、過去4回行政評価・監視の結果にもとづく勧告を行っているとしています。しかし、基礎年金番号導入後の平成16年勧告では、「宙に浮いた年金」の存在と、計画的な統合状況を把握していたにも関わらず、早急な統合処理を求めてこなかったことは問題があると考えます。

(3)長年地方事務官制度を放置してきた歴代政府
 さらに、間接的な要因、組織上の問題として、三層構造に伴う問題、職員団体の問題、地方事務官制度に係る問題の結果、組織としてのガバナンスが決定的に欠如していたと指摘するとともに、厚生労働本省と社会保険庁の関係について、厚生労働本省は管理監督するという立場から、必要な注意や関心を払い、積極的に関与していくべきであったが、責務を果たしていたとは到底言えないと言及しています。
 全厚生は、こうした問題の根底には、昭和22年から平成12年まで続いた、国家公務員でありながら、都道府県知事の指揮・監督を受けて業務に携わる「地方事務官」という変則的な身分制度が存在していたと考えます。全厚生は、責任の所在が極めてあいまいである地方事務官制度は早期に廃止し、健康保険や厚生年金は国の業務として国の機関が運営することと、国民年金業務については国と地方の共同事務として民主的に再配分すべきであることを主張してきました。こうした身分制度を長年放置してきた国の責任も重大です。
 また、職員団体において、オンライン化反対闘争等を通じて業務の合理化に反対し、自分たちの待遇改善を目指すことに偏りすぎた運動が指摘されていますが、全国オンライン化計画に対し全厚生は、機械化に反対し止めさせれば良いという考えではなく、「科学技術の進歩を国民本位の方向で活用する」との立場で社会保険庁に対応してきました。また、膨大かつ増大する業務の中で国民のニーズに対応した社会保険事業の円滑な推進を図ることを目的とした「社会保険事業将来構想」や、「基礎年金番号」の導入などに対し、実施にむけて、積極的な主張を行ってきました。

(4)専門性と継続性が求められる業務運営
 最終報告は、今後の教訓として、組織及び業務の管理・運営に関してガバナンスを確立するとともに意識改革・業務改革の推進、適切な人材を養成・確保するとともに職員の一体感の醸成、誤りを発見・是正していく仕組みの構築、職員団体と適切な関係を保つことなどの改革の推進をあげています。
 しかし、平成22年1月に設立される「日本年金機構」は、業務運営をバラバラに解体し、多くを民間に委託するものとなっています。公的年金は、50年から60年にわたる長い間の加入・納付記録などの適正な管理が求められます。また、幾多の改正・経過措置が設けられる中で、正確に理解し運営するには、専門性と継続性の確保こそが基本となります。そうした業務運営を競争入札でたびたび業者や従業員が代わることも予想される民間委託にゆだねて、国民のプライバシーや年金権が確保され、サービス拡充ができるのでしょうか。国民生活の格差と貧困が拡大する中で、老後生活の基盤である公的年金の拡充を求める国民の声はますます強くなっています。国の責任による制度と業務の運営は、安心・安全の土台であると考えます。

(5)記録の早期整備に全力
 全厚生は、当該職員を中心に構成する労働組合として、国民の年金権確保と、行政の民主化に対する取組みが弱かったことを重く受止めなければならないと考えます。そうした立場から、6月5日には、全被保険者並びに既裁定者に納付記録を直ちに送付することをはじめとする「年金記録の適正化に関する申入書」を社会保険庁へ提出し、国民の年金権確保とともに、記録の早期整備を求めてきました。さらに、資格取得や資格喪失時の過去記録の通知、また、報酬改定時などにも変更内容を通知するなど、国民が日常的に年金制度に関心を持ち、権利を行使するためのシステム構築を強く求めていきたいと考えます。また、ねんきん定期便や特別便の送付時には、制度広報を確実に行うとともに、集中する照会や相談等に対するサービス体制の確保なども必要と考えます。

4 許されない保険料の着服・横領等

 社会保険事務所や市町村職員による保険料等の着服・横領問題が「消えた年金」の一因と指摘されています。個人の資質や公務員としてのモラルが厳しく問われ、法に基づく厳正なる処罰は当然のことですが、その意味で社会保険庁や市町村の責任は重大なものがあります。
 同時に、そうした背景には、(1)地方事務官という変則的な身分制度の中にあって、国、都道府県、市町村の責任の所在が極めてあいまいにされてきたこと、(2)「社会保険一家」という閉鎖的組織が構築され、かばいあう体質があったことなどを指摘しなければなりません。また、オンラインデータの改ざんによる職員の給付金不正受給なども指摘されています。3年前、国会議員等の年金個人情報の「覗き見」問題が表面化しましたが、機械操作に必要な「磁気カード」の個人化に反対し続けてきた自治労国費評議会の方針と、こうしたことを受け入れてきた社会保険庁の基本姿勢が、これらの土壌を醸成してきたことも指摘しなければなりません。

5 安心して暮らせる年金制度の確立に向けて

(1)「100年不安」と進む年金制度空洞化
 平成16年の年金大改革は、「100年安心」を謳い文句に現役時代の収入の半分を保障するとしていました。しかしわずか2年後、出生率が予想を下回り、早くも給付水準の引き下げや保険料アップが取りざたされています。また、すべての法人事業所と原則従業員5人以上の個人事業所は強制加入とされていますが、総務省の調査では、約3割が未加入と指摘されています。国民年金では、対象者の4割が未納・未加入・免除と制度は破綻の状態です。また、社会保険庁が公表した免除者や納付猶予者なども含めた実質納付率は49%で、20台前半では26・9%と若い世代に重くのしかかっています。
 規制緩和・民間開放を基本とする構造改革路線により、国民生活の格差と貧困が拡大し、国民年金保険料などの負担増は家計を圧迫しています。景気回復など実感できない中小零細企業にとっては、社会保険料負担は深刻です。

(2)「制度」と「組織」は一体で改革を
 日本の年金制度は、保険料積立機能による戦費調達が主要な目的であったことなどから、原則として25年という長期の保険料納付を必要とします。これは世界にも例のないことで、無年金者の発生にもつながっています。したがって、国民の年金権保障の観点からは、加入期間の短縮は切実な課題です。少なくとも欧米先進諸国並みの10年程度にする必要があるのではないでしょうか。
 こうした制度の改善は、組織のあり方と表裏一体です。効率的な体制、サービス向上など国民の立場に立った建設的な議論が求められますが、組織を「解体・民営化」すれば年金制度が「改善」されるかのような議論が進んでいます。社会保険庁については、組織も規律も厳しく見直さなければならないことは当然です。しかし事実上の「解体・民営化」で長期間にわたって国民の生活を支える年金制度が担保されるのでしょうか。今年の1月まで2年4ヶ月社会保険庁の最高顧問であった堀田力氏は、「与党案は首がネコで胴体が犬のようなもの。どこも責任を取らないものとなっている」(6/20毎日新聞)と語っています。
 個人年金の新規契約数は、平成14年度から17年度の4年間で実に倍増しています。財界の要望には、厚生年金報酬比例部分の廃止もあります。命と健康は自己責任、民間企業の市場拡大を狙う年金制度の解体・民営化、これが社会保険庁解体の実態ではないでしょうか。

(3)最低保障年金制度の早期実現を
 公的年金制度は、人々の老後の生活を支える大切な制度です。現在と将来の無年金・低年金者の問題と、それをつくりだしている制度の欠陥や年金不信を放置することは許されません。これらを解決するためには、全額国庫負担による最低保障年金制度の実現が必要です。
 最低保障年金制度は、すべての高齢者に保険料納付を要しない最低保障年金を支給し、その上に納付した保険料に応じて支給する年金を上積みする二階建ての年金制度です。この制度の実現により現在と将来のすべての高齢者は、一定額以上の年金を保障されることになります。これは、憲法25条にもとづく所得保障であり、最低賃金制度、生活保護制度と並んで国民生活の最低保障(ナショナルミニマム)に位置づけられるべきものです。
 政府・厚生労働省は12月11日、宙に浮いた5000万件の未統合記録について、なお4割が不明であり、最終的に特定できない可能性もあるなどとする調査結果を公表しました。
 特定が難しい記録があることは、早い段階から指摘されていました。にもかかわらず、先の参議院選挙で与党が掲げた年金記録問題での「公約」は、まさに選挙目当てといっても過言ではありません。今政治に求められることは、本当に信頼でき安心して暮らせる年金制度の構築と、1人の被害者も出さないための解決策に英知を結集することではないでしょうか。

2007年6月5日
社会保険庁長官
 村瀬 清司 殿
全厚生労働組合
中央執行委員長 杉下 茂雄

年金記録の適正化等に関する申入書

 日本年金機構法案をはじめとする社会保険庁「改革」関連法案が、今通常国会で審議されています。衆議院段階では、年金記録管理の適正化、国民の年金受給権保障に議論が集中しました。その中では、基礎年金番号への未統合データの再調査や、マイクロフィルム等で保管されているデータとの照合、既裁定者に対する納付履歴の提示、時効問題等が焦点となり、政府は、年金記録の再調査を回答するとともに、時効特例法案が議員立法で急遽提出されました。
 年金制度は、制度ごとに番号をつけ記録管理を行っていた経過があるとはいえ、老後の命綱である公的年金において、記録管理の不備により受給権が侵害されることなどあってはならないと考えます。そして年金行政に携わる国家公務員労働者として、年金記録の適正化、国民の権利保障に全力を傾注することが何より重要と考えます。同時に重要なことは、その確実な実施体制の確立を図ることです。
 そうした立場から、下記事項について、誠意を持って対応するよう申し入れます。



1. 基本的事項について
(1) 年金記録の適正化等に向けた全体計画を早期に明らかにすること。
(2) 年金記録の適正化等にあたっては、来庁者サービスなど業務に支障をきたさないよう、必要な予算及び人員など十分な体制を確保すること。
(3) 職員の健康管理及び安全対策を強化すること。
2. 具体的事項について
(1) 全被保険者ならびに既裁定者に対し、ただちに納付履歴を送付し、確認を依頼すること。
(2) 社会保険庁の保有する特殊台帳等のマイクロフィルムや、市町村の保存する旧国民年金原簿と、オンラインデータとの全数照会を実施すること。そこで把握した復元可能なデータは直ちに復元するとともに、被保険者及び既裁定者に通知すること。
(3) 年金記録に関する特別相談体制を拡充し、被保険者等からの申し出にもとづき、事業所や市区町村に対する聞き取り調査等を行う特別チームを、全事務局・事務所に配置すること。
(4) 認知症等、自身で申し出ることが困難な国民の権利を保障するため、市区町村を通じ、民生委員の協力を求めるとともに、厚生労働省医政局等を通じ、全国の医療機関に協力を依頼すること。
(5) 誤って、自身の記録が第三者の記録に統合されたケースについて、その救済方法を早急に確立すること。
(6) 領収書等、証拠書類がない場合の、具体的救済方法と第一線での事務手続きを早急に確立すること。
(7) 再裁定の対象となり時効が成立している受給者への対応について、事務手続きを早急に確立すること。
(8) 年金記録に関する政府公報を、ただちに、広範に実施すること。
(9) インターネットによる加入記録確認に必要なIDパスワードの発行体制を強化すること。
3. 年金記録相談体制の強化について
(1) 電話相談、相談窓口の拡大、臨時窓口の設置等それぞれについて全体スケジュールを明らかにすること。
(2) 記録相談専用フリーダイヤルの広報を広範に行うこと。
(3) 実施にあたっては、必要な予算、人員等体制を確保すること。

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