見出し

◆2006年10月号外◆

国の責任による年金制度の運営と職員の雇用・身分保障を
〜大臣・長官への要求署名を成功させよう〜
 先の通常国会において、国の責任を縮小し地方自治体や国民に負担を転嫁する医療制度の大改悪が、多くの国民の反対の声を無視し自民・公明両党により強行されました。これに伴い、政管健保については新たに設置される「全国健康保険協会」(非公務員・公法人)で実施されることとされました。
 一方、国の特別な機関として設置される「ねんきん事業機構」法案は、国民年金の不適正事務処理問題などの影響もあり継続審議となり今臨時国会に引き継がれています。自民党は、一連の不祥事などを理由に、同法案の内容を「不十分」として、廃案と抜本的な見直しを主張しています。
 「社会保険庁改革」をめぐる新たな情勢の中で、問題の本質と政府・自民党の狙い、そして全厚生の基本的な考え方を明らかにするとともに、積極的な職場討議をお願いします。

社会保険庁は使用者としての責任発揮を
 政管健保のレセプト点検や現金給付、任意継続などの業務は、2008年10月より国から分離された「全国健康保険協会」という新たな公法人により運営されます。しかし、業務そのものが廃止されるわけではないにもかかわらず、職員の引継ぎ規定は措置されていません。そればかりか、かつての国鉄分割・民営化同様に、職員の選別採用を行う枠組みが形作られています。また、「ねんきん事業機構」法案についても、職員の引継ぎ規定は措置されていません。
 行政改革に伴う公務員労働者の雇用問題は、「行政改革推進法」や「市場化テスト法」でも俎上にのぼりましたが、そこでは政府全体の「雇用調整本部」が設置され、「分限免職」を発動させないための努力が示されています。そのことは、中央省庁再編での組織再編や独立行政法人等の新たな法人設立、また郵政民営化に当たって採られた雇用承継措置との均衡などを考えても当然のことです。こうしたなかで社会保険庁改革において、引継規定が設けられていないことは極めて異常であり、労働基本権が制約されている国家公務員労働者の権利を不当に侵害するものです。後述するように、国家公務員法には身分保障規定があり、公務員労働者の雇用、身分、生活保障に責任を負う使用者の役割発揮が問われています。
 全厚生は、国民が安心して暮らせる年金制度、そして働きがいある職場作りのためにも、(1)公的年金制度を改善し、国の責任(行政機関)において運営すること。(2)新たな組織への選別採用などの雇用問題や労働条件の不利益変更などの問題を生じさせないよう、使用者責任に基づき万全の対策をとることを厚生労働大臣と社会保険庁長官に求める署名を取組みます。家族も含めご協力をお願いします。 

自民党が「民営化」も含めた再検討を主張
 継続となった「ねんきん事業機構法案」に対し自民党中川幹事長は、10月2日の衆議院本会議代表質問において、「社会保険庁の解体的出直しなくして年金の信頼回復なし」「問題の根底にあるのは、社会保険庁職員の大多数が参加する労働組合『自治労国費評議会』の問題があることは周知の事実」などとし、同法案を廃案にしたうえで、社会保険庁の民営化をふくむ再検討を主張しました。これに対し安倍首相は、「全て公務員がやらなければならないかと言うことも含めて国会で十分に議論していただき、国民のための年金制度を真に守ることの出来る新組織を早期に実現する」と答弁しました。
 また政府・与党は、社会保険庁の組織改革に関して、年金保険料の徴収や年金給付などの実務業務を新たに民間会社か独立行政法人に担当させる方針を固め、臨時国会会期末に廃案とし、来年の参議院選前までに非公務員化を盛り込んだ新たな改革案を取りまとめる考え、との報道もされています。

自民党の狙いは参議院選挙対策
 2004年6月、多くの国民の反対の声を無視し、自民・公明両党は、“100年安心”をうたい文句に年金制度の大改悪を強行しました。その“100年安心”も出生率が予定を下回るなど早くも破綻が指摘され、給付水準や支給開始年齢の再見直しなどが言われています。
 また、老齢者控除の廃止や公的年金等控除の縮小などにより、住民税や国保料、介護保険料が大幅に上がったことから年金受給者をはじめ高齢者の怒りが高まっています。来年の参議院選挙は「年金」「税金」などが大きな焦点になると言われています。自民党は、社会保険庁の独立行政法人化や民営化を打ち出し、一連の年金改悪などに対する国民の批判を社会保険庁「改革」にすり替え、同時に非公務員化することによって、「定員純減」の実績を強調しようとする狙いなどがあると思われます。

社会保険庁改革のねらいは制度の民営化
国・企業の責任縮小、ビジネスチャンスの拡大
 政管健保や公的年金制度は、憲法25条に規定された国民の生存権の具現化であり、発足以来企画・立案から執行まで国が責任を持って運営してきました。全厚生は、国民の命と暮らしを守る社会保障行政が、これまで国の責任により国の機関で運営されてきたように、国民の権利を守り社会保障制度を向上させるためにも、適用・徴収・給付・サービスは制度運営の要であることや、国民の利便性・サービス確保、またハード面の整備等にかかるコストなどを考えても一体的運用がより効率的であることを主張してきました。
 自民党が打ち出している非公務員型の独立行政法人化や民営化では、国の責任が縮小され、基礎年金財源の消費税化、報酬比例部分の民営化、人件費や事務費の完全保険料負担化などが危惧されます。これは、国民負担増の一方、企業の負担は軽減され、さらには私的年金など民間企業やアメリカ資本によるビジネスチャンスの拡大に繋がる危険性があります。

独法化、民営化は国の責任放棄
 独立行政法人は、行政のスリム化・減量化の一手段として、創設されました。行政の機能を「企画立案機能」と「実施機能」に分け、実施機能と見なす部分を独立行政法人に移行させ、定員削減計画を推進する有効な手段として位置づけられています。そもそもの目的が公務員減らし、行政サービスの切り捨てです。
 また、(1)目標管理と評価、それにもとづく見直し、(2)企業会計を原則とし、「自発的」に減量化、効率化に取り組む仕組みが備わっています。そのため、目標管理と評価が徹底され、目標達成に遠く及ばなければ、業務の見直しや廃止に追い込まれてしまいます。一方、事務・事業の経済的な効率化を達成すればするほど、民間手法を取り入れて効果があがると見て、民営化の方向が強く出される可能性があります。独立行政法人は、民営化の一里塚と言われる所以です。
 国立病院・療養所が特定(公務員型)独立行政法人に移行する際に、賃金職員(非常勤)の雇い止め強行と中高年一般職員を中心とする大幅な賃下げが強行されました。独立行政法人では、労働基準法に基づく労使協議や労働組合法に基づく労働協約など、労使自治となるため、賃金・労働条件の切り下げを許さないたたかいが重要です。
 政府は、社会保障の各制度を一体的に見直し、社会保障「構造改革」をすすめています。この改革の究極的なねらいは、社会保険の民営化路線です。社会保険庁の民営化は、そのストレートなかたちです。社会保険制度を安定・継続して遂行する方向に逆行し、国が果たすべき役割や責任を完全に放棄するものです。

「有識者会議」の取りまとめでも「国が運営責任を」
 保険料の無駄遣い、特定業者との癒着など社会保険庁に対する国民的批判の中で設置された「社会保険庁のあり方に関する有識者会議」(内閣官房長官私的懇談会)は昨年5月、約1年間の検討を踏まえ、「年金部門については徴収をはじめとする業務全般について、政府が直接に関与し明確かつ十全に運営責任を果たす体制を確立することが必要」と公的年金の運営主体を国とする最終報告をまとめています。同時に「社会保障の向上及び増進に努めることは憲法に基づく国の責務であり、その柱である国民皆年金体制の下での公的年金については、国に対する国民の信頼を基礎として、国の責任の下に、確実な保険料の収納と給付を確保し、安定的な運営を図ることが必要である」と国の責任を明確に述べています。
 こうした経緯を踏まえて提出された法案が、この間の国民年金の不適正事務処理問題などが直接の背景になったとは言え、与党の政治的な思惑で処理されるようなことはあってはならないことと考えます。

健保の公法人化は民営化への一里塚
 政管健保については、国から分離した「公法人化」での運営が確定しましたが、都道府県単位の財政運営や保険料率設定は格差と競争を持ち込み、地方自治体や被保険者への負担増をもたらすことは明らかです。また、約2000人といわれる全国健康保険協会の人件費や事務費は保険料負荷も可能となりました。さらに、医療費「適正化計画」の結果によっては都道府県単位の診療報酬の決定も認めています。まさに、公的医療保険制度の崩壊であり国の責任放棄です。02年06年と続く医療保険制度の改悪などを背景に、死亡保障よりも医療保障のほうが多くなっている生命保険の加入件数がそのことを物語っています。

深刻さ増す年金制度の構造的矛盾
〜格差の拡大・上がる保険料・下がる給付〜
構造改革・規制緩和が国民生活を直撃
 国民のセーフティネットである社会保障制度が凄まじい勢いで破壊されています。憲法25条は健康で文化的な最低限度の生活を営む国民の権利を保障し、国の責任を明らかにしています。しかし、国民の生きる権利でもある「生活保護」行政や、今年4月に施行された障害者自立支援法などを巡り様々な問題が指摘されています。
 経済協力開発機構(OECD)は日本の所得格差が拡大し、2000年には「貧困率」がアメリカに次いで世界第二位の高さにあることを明らかにしました。そしてその原因が、非正規雇用の拡大による労働市場の二極化にあることを指摘しています。政府も06年「労働経済白書」において、経済格差が拡大していることを認め、「リストラ」と非正規雇用の拡大などによる「雇用の多様化」、特に、若年層におけるニート、フリーターなどの割合が急増していると指摘しています。きちんと働いても生活保護基準以下の生活しかできない「ワーキングプア」の急増も社会的な問題となり、05年度の生活保護が104万1,508世帯と初めて100万を超え過去最多となったことも明らかにされています。

未納・未加入・免除で4割を占める国民年金
 農漁業従事者や自営業者などを中心とした国民年金制度は、厚生年金保険法などとは違い保険ではなく「国民年金法」として、「憲法第25条第2項に規定する理念に基づき」1961年にスタートしました。その後全国民共通の基礎年金制度が導入(1985年)され、学生や無職の人も含め20歳から60歳未満は強制加入となり、現在2、200万人が加入しています。しかし、未納・未加入・免除者の合計が900万人を超え、4割強が保険料を払っていないという異常な状況にあります。特に、加入者のおよそ三分の一を20才代が占め、納付率は60%を切っています。
 ニート・フリーターなどの急増に加え、大企業の身勝手なリストラ「合理化」や偽装請負などの社会保険料逃れの影響などもあり、制度の構造的矛盾をさらに拡大しています。青年層を取り巻く雇用破壊や、非正規労働者の急増による所得格差の実態などが制度を直撃していることは、こうした数字からも明らかです。

強制徴収対象者を大幅に拡大へ
 社会保険庁は、保険料徴収強化対策の重要な柱として数年前から、財産の差し押さえを中心に「強制徴収」を拡大しています。2005年度には17万件の対象者に対し2,697件の差し押さえを執行していますが、2006年度は対象者を35万件とし、将来的には60万件にまで拡大する方針です。そのため、強制徴収の対象を全国で最も低い沖縄県の平均所得である200万円以上とするなど、社会保障の拡充を国の責務とした憲法25条とは相容れない行政運営を行おうとしています。介護保険料に加え後期高齢者医療制度の保険料も年金から天引きするなど、収奪機関としての位置づけがますます強化されようとしています。
 継続審議となっている「社会保険庁改革関連法案」では、国民年金保険料の未納者に対し、市町村の判断で通常より短期間の国民健康保険証(短期証)を発行できることとされ、短期証更新のたびに市町村窓口で国民年金保険料も強制的に徴収できるようにしようとしています。性格や目的の違う制度を強引にリンクさせて徴収強化を狙うこうした行政運営は人道上からも問題があるのではないでしょうか。

職場の努力も限界に
 来年度からは団塊の世代が年金受給権者となる中で、社会保険事務所の相談窓口は混雑に拍車がかかっています。また、年金分割や被保険者記録の確認なども業務量増の要因となっています。さらに、厚生年金の適用拡大、国民年金の収納対策と困難な業務も重要課題として取組まれています。
 こうした中で、体制整備や事前の説明も不十分なまま様々な報告や新規・臨時業務等がトップダウンにより強行されています。とりわけ、健保給付業務の集中化では、人員不足と準備不足のため様々な混乱が指摘されています。
 国民のニーズにあった行政サービスの改善は当然必要なことですが、体制の確保や条件整備もない中でのこうした業務運営は、恒常的な残業と健康破壊を深刻化させています。とりわけ、ただ働き残業の改善は急務の課題です。

年金制度の改善と雇用確保を中心に
〜国公労連、「社会保険庁改革問題」で総力を結集へ〜
広範な世論の理解に全力を挙げよう
 国公労連は、社会保険庁「改革」は、公務員労働者全体にかけられた攻撃であるとの位置づけから、「社会保険庁改革対策委員会」を設置し、問題の本質を広く国民に明らかにし、社会保障制度の改善と雇用破壊を許さない闘いを展開していくことを決定しました。
 そのため、全労連傘下の多くの労働組合や民主団体等に社会保険庁問題を広く訴え、また、国会議員要請や全国的な宣伝行動を強化していくこととしています。全厚生も職場からの要求署名をはじめ全力で運動の前進を目指します。全ての職場の皆さんが結集し、自らの生活と権利を守るために奮闘することを呼びかけます。

当面する「要求」(案)にご意見を!
 全厚生は、社会保険庁や全国健康保険協会設立委員会に対し、当面する要求を早期に提出していきたいと考えます。皆さんの積極的なご意見をお寄せください。

<社会保険庁に対する要求(案)>
(1) 年金制度を抜本的に改善し、国の責任(行政機関)で運営すること。
(2) 新たな組織への選別採用などの雇用問題や労働条件の不利益変更などの問題が生じないよう使用者責任に基づき万全の対策をとること。
(3) 全国健康保険協会職員の給与をはじめとする労働条件については、国の基準を下回らないよう、設立委員会に働きかけること。
(4) 業務量増に伴う必要な人員を確保すること。
(5) 健康管理体制の確立と恒常的な残業を解消すること。
(6) 新規業務・臨時業務の実施に当たっては、事前の周知期間を確保すること。
(7) 労働条件に関する事項については全厚生と十分協議すること。

<協会設立委員会に対する申入れ(案)>
(1) 社会保険職員からの採用にあたっては希望者全員を採用すること。
(2) 協会職員の賃金をはじめとする労働条件については、国の基準を下回らないようにすること。

「分限処分」の恣意的運 用は許されない
 国家公務員法第75条には公務員の身分保障規定があり、安易に分限処分は行わないようにされています。国家公務員には労働基本権が制約されていること、原則雇用保険もないこと、政治家や業者からの圧力などに対しても公正・公平な行政運営が求められることなどからです。この間の「定員純減」問題でも、政府としての「雇用調整本部」が設置され「分限免職」を発動させないための努力が示されています。一方、第78条では、(1)勤務実績がよくない(2)心身の故障(3)必要な適格性を欠く(4)定員の改廃や予算減少などを理由に免職や降任を行うことができるとされています。しかし、この場合においても、第75条の身分保障規定が基本となり、使用者として回避の努力も尽くさず発動することは、職権の乱用になります。
 今回の社会保険庁改革では、職員の引き継ぎ規定がありません。それを理由に一方的な分限を行うことは、とうてい許されるものではなく、これは社会保険庁にとどまらず、公務員労働者全体にとって重要なことです。
 「小さな政府」による公務員の定員純減や人件費削減を追求している政府・自民党は、第78条に規定されている「分限処分」を発動しやすいように「運用指針」の策定を人事院に指示していました。人事院は10月13日、「分限処分の指針に関する通知」(資料)を各府省へ行いました。社会保険庁が公務全体との整合性を無視して、恣意的な運用を行うことは許されないことです。
 国公労連は、社会保険庁の恣意的運用を断じて認めない立場です。あわせて、今回の「通知」に対しては、(1)メンタル疾患など病気休職者については実効ある対応を尽くしたうえで判断を行うよう徹底すること(2)勤務実績不良又は適格性欠如にかかる判断は、科学的・客観的な根拠に基づき「人事評価制度」とは単純に関連させないこと、について申入れを行いました。

職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について(通知)の概要

1 勤務実績不良(法第78条第1号関係)及び適格性欠如(同条第2号関係)
 勤務実績不良の職員又は官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員に対しては、
(1)  注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の見直し、研修等を行う。
(2)  それによっても勤務実績不良の状態又は適格性に疑いを抱かせる状態が継続する場合には、分限処分が行われる可能性がある旨警告する文書(警告書)を交付する。
(3)  その上で、これらの状態が改善されていないことにより当該職員が法第78条第1号(勤務 実績不良)又は第3号(適格性欠如)に該当するときには、分限処分(免職又は降任)を行う。

2 心身の故障(法第78条第2号関係)
(1)  3年間の病気休職期間が満了するにもかかわらず心身の故障の回復が不十分で職務遂行が困難であると考えられる場合
(2)  病気休職中であって今後職務遂行が可能となる見込みがないと判断される場合
(3)  病気休暇や病気休職を繰り返してそれらの期間の累計が3年を超え、そのような状態が今後も継続して、職務の遂行に支障があると見込まれる場合
には、医師2名の受診をさせて、法第78条第2号(心身の故障)に該当するかどうかを判断する。(医師2名により心身の故障があると診断された場合、分限免職とする。)

3 受診命令違反(法第78条第3号関係)
(1)  3年間の病気休職期間が満了するに当たって心身の故障の回復が不十分で職務遂行が不可能であると考えられる職員等
(2) 心身の故障と思われる理由で勤務実績不良若しくは官職への適格性に疑い
 を抱かせるような問題行動を起こしている職員について、再三にわたり医師の受診を命じたにもかかわらずこれに従わない場合には、医師2名の受診を受診命令書により命じ、これに従わないときは、法第78条第3号(適格性欠如)により免職とする。

4 行方不明(法第78条第3号関係)
 原則として1月以上にわたる行方不明は、免職とする。

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