見出し

◆2006年3月号外◆

徹底審議と国民本位の改革を
社会保険庁改革関連法案等に対する基本的な考え方

 通常国会では、2008年10月を目途に社会保険庁を廃止し、「ねんきん事業機構」を国の特別な機関として設置する「ねんきん事業機構法案」と、全国一本の公法人である「全国健康保険協会」を設置する「健康保険法等改正案」の審議が予定されています。こうしたなか、政府は2月10日、予算関連法案である「健康保険法等改正案」を国会に提出しました。なお、「ねんきん事業機構法案」は、3月中旬に提出され「社会保険庁改革関連法案」として一括審議される予定です。
 これに先立ち自民党社会保障制度調査会社会保険庁等の改革ワーキンググループ(以下、自民党WG)は1月31日、新組織への職員移行にあたり、(1)通常規定される職員の引継ぎ規定は設けない(2)新人事評価制度を活用した「能力分限処分」を確実に行う(3)組織分限処分を行うべき状況が生じた場合には適切に実施する(4)業務目的外閲覧による処分を重視しつつ勤務成績等に基づき公正な任用・採用を行う、などとする法的措置等について取りまとめ(資料(5))を行い、政府に対し着実な実行を求めました。
 全厚生は、こうした「選別採用」や「公務リストラ」を許さず、生活と権利を守るために、使用者責任の追及、そして国民世論の形成と国会対策等を強化するために、全労連・国公労連に結集し全力を挙げて取組みを進める考えです。

私たちを取り巻く情勢の特徴

国民生活との矛盾を深める小泉構造改革
 「小さな政府」を叫ぶ小泉政権は、公務員バッシングを強めながら公共サービスを次々と後退させ、医療制度改悪や消費税増税など国民に大きな負担を押し付けようとしています。一方こうした路線を後押しする財界・大企業は、民営化・規制緩和により50兆円規模の新たな「ビジネスチャンス」の確保を狙っています。
 耐震強度偽装問題が起こり、建築基準法の規制緩和、行政による監視が形骸化されていることが明らかになりました。多数の死傷者を出したJR西日本の脱線転覆事故も、民営化のもと企業競争と異様な労務管理がその背景となった悲惨な事故でした。さらに、ライブドア事件、アメリカ産牛肉の輸入中止と「規制緩和」がもたらした事件はとどまるところを知りません。
 こうしたなか、規制緩和・民間解放を推進してきた「構造改革」そのものに対する国民やマスコミの批判が急速に広がり、安心・安全のために国や自治体の役割発揮を求める声が大きくなっています。

公務破壊の壮大な実験場
 郵政民営化の次は「公務員制度改革」だとする小泉政権の下で、社会保険職場がその壮大な実験場と化しつつあります。
 今年度モデルとして導入された市場化テストは、未適用事業所勧奨業務が5事務所から104事務所へ、国民年金収納業務も5事務所から34事務所へと、十分な検証や分析もないまま大幅に拡大されようとしています。また、一部の公務職場で試行が始まったばかりの民間企業的な人事評価制度も、試行結果の検討や分析も不十分なまま、4月から一定職以上を対象に本格実施されようとしています。さらに、「国から地方へ」「官から民へ」のスローガンの下、組織の解体とともに政府管掌健康保険の解体も行われようとしています。こうしたなか、新たな実験として新組織への移行にあたっては、「選別採用」と「分限免職」の実施も検討されています。
 「5年間5%以上純減」「総人件費抑制」が強調されている公務員制度改革の中、大規模な合理化による人員削減を中心とした行革推進法案が提出されようとしています。民間企業的手法の導入や新たな地方支分部局の統廃合構想などに対し、国公労働者総体としての闘いがますます重要になっています。

自らの責任を棚上げした自民党の異常な圧力
 2004年6月、連年の保険料アップと給付水準の大幅な引き下げをはじめとする年金制度の大改悪が自民、公明両党の強行採決により成立しました。その過程の中で、タレントや国会議員などの年金未納・未加入問題が表面化し、官房長官が辞任するなど大きな政治問題となりました。自らの責任を不問にしたまま国民に負担を強要する政治家に対する国民的な批判も高まり、特に歴代政権党として年金制度の改悪を続けてきた自民党に対し批判が集中しました。
 こうした結果が参議院選挙での大きな後退要因であるとした自民党は、年金個人情報をマスコミにリークしたのは社会保険職員であると決めつけ、異常な攻撃を社会保険庁・職員にかけてきました。「こんな組織は解体しかない」「今の職員が漫然と移行するのは許されない」「閲覧で処分を受けた職員は辞めさせろ」などとその関連性が明確でないにもかかわらず、自らの責任は棚上げしたまま、要求をエスカレートしてきました。行政への異常な政治介入であり、恐怖政治といっても過言ではありません。

広がる健康破壊と雇用不安
 「業務改革」の名の下、トップダウンにより様々な施策が強行されています。国民のニーズにあった行政サービスの改善や予算執行の透明性などは当然必要なことですが、体制の確保や条件の整備も不十分に、そして労働組合との協議もないなか、異常な収納対策や業務の急増などによりただ働き残業が恒常化し、健康破壊が深刻化しています。
 社会保険庁が12月に発表した「長期病休者の実態調査」(資料(1))によると平成16年度に長期病休(連続する1ヶ月以上の病気休暇)を取得した職員は、総数で390人となり、13年度と比較して110人も増加しています。そしてそのうち「精神及び行動の障害」を原因とする者が112人と、増加の主たる原因となっています。また、いわゆるメンタルヘルス不全系が240人と全体の6割強に達していることも明らかにされています。今日の状況はこうした傾向にさらに拍車がかかっているのが実態であり、社会保険庁解体による雇用不安ともあいまって益々深刻な状況となっています。

自民党WG取りまとめ及び社保庁方針の主な問題点

行政への異常な政治介入
 自民党WGの取りまとめでは、新組織の発足に向けた確認事項として(1)先行的に開始した新人事評価制度を活用し勤務成績等が不良な職員に対する能力分限処分を確実に行う(2)これまでの裁判例及び国家公務員法の解釈に従い、配置転換等の分限処分を回避する努力を行ったうえで、組織分限処分を行うべき状況が生じた場合には適切に実施する、また、「通常規定される職員の引継ぎ規定は設けず」「業務目的外閲覧による処分を重視しつつ」などと、一行政庁に対する異常なまでの介入が特徴的に示されています。本来、任用や採用などの人事権は任命権者に属するものであり、こうした政治介入は、使用者の人事権や労働者の基本的権利の観点からも、また社会常識にてらしても許されないことです。(分限処分‖資料(7))

非常勤も含め7年間で1万人もの「公務リストラ」
 適用拡大や収納対策の強化、そして団塊の世代が年金受給権者となるなか、「社会保険庁改革」ともあいまって職場は著しい業務量増から慢性的な人員不足と、恒常的な残業が集中しています。しかし、公務員制度改革による「総人件費削減」「定員純減」を至上命題とする政府・自民党は、社会保険庁改革に便乗し、非常勤職員も含め7年間で1万人にも及ぶ人員削減を行おうとしています。社会保険庁は、市場化テストによる外部委託や業務の効率化、システムの刷新等で対応しようとする考え(資料(3))ですが、業務目的外閲覧で処分を受けた非常勤職員については、本年3月末で「雇い止め」を行う方針であり事態は深刻です。
 政府の「行政改革推進法案」(概要)では、「国家公務員の数の純減のため定員の改廃を行うに当たっては、他の官職への異動の円滑な実施を図るために必要な府省横断的な配置の転換及び研修の仕組みの構築並びに職員の採用を抑制することなどを行う」と規定しています。さらに、「市場化テスト法案」(提出済)でも「民間事業者が実施することとなった場合、従事していた職員を定員の範囲内において他の官職に任用することの促進その他円滑に推進するための措置を講ずるよう努めるものとする」(概略)と規定するなど、「生首の問題にならないように雇用の仕組みを考えている」(行革推進会議事務局)としています。社会保険庁改革にあたっても、こうした公務全体との整合性が求められることは言うまでもありません。

業務は継続するも職員の継承規定は設けず
 新組織への職員の任用や採用については、「通常規定される職員の引継ぎ規定は設けず」としていますが、業務そのものが廃止されるわけではなく、また量的にも質的にもその重要性が増大し国民のニーズが益々高まっているにもかかわらず、引継ぎ規定を設けない内容に強く憤りを感じます。これまでNTTや郵政の民営化にあたっても、また省庁再編や独立行政法人化等の例でも、職員の引継ぎ規定を法律上設けています。組織の解体と職員の身分継承は問題の性格が違う次元のものです。
 気象庁の廃止や車登録など25分野を新たにリストラ対象とした検討も始まっています。社会保険庁解体に伴う今回の措置は、まさにこうした流れの先取りでもあり、公務職場全体に与える影響は極めて大きなものが予想されます。労働者としての人権保障の観点からも、また身分継承が基本となっていた普遍的なルールからも許されるものではありません。

40年間発動されていない組織廃止による分限免職
 国家公務員法第75条には公務員の身分保障規定もあり、安易に分限処分は行わないようにされています。また、総定員法改正にあたっては「出血整理はさける」旨の付帯決議も可決されています。これらは、公務員には原則雇用保険もないこと、政治家や業者からの圧力などに対しても公正・公平な行政運営が求められることなどからです。現に、食糧庁の廃止や林野庁の計画的削減などでは、他省庁への出向や省庁間配転、定年や勧奨退職などによる対応が基本となっています。また組織廃止による分限免職は、業務自体が廃止となった昭和39年の姫路城国宝保存工事事務所及び憲法調査会事務局以降40年間発動されていません。
 組織廃止による「分限免職」を強調する内容は、歴史的経緯からもまた「働くルール」から見ても大きな問題です。

当初目的にない新人事評価制度による能力分限処分
 こうした問題に加え、「先行的に開始した新人事評価制度を活用し、勤務成績等が不良な職員に対する能力分限処分を確実に行う」とされ、様々な問題点が指摘されている新人事評価制度を任用・採用の基準にしようとする不当性も明らかになっています。そもそも新人事評価制度は、(1)上司と部下のコミュニケーションの向上(2)組織全体のパフォーマンスの向上などを主な目的にしたものであり、新組織への移行問題とは違う次元のものです。さらに、人事院も「関係者間で十分協議を行っていくことが不可欠」と指摘しているにもかかわらず一方的に実施しようとするものであり、自民党の不当な圧力がその背景にあると思われますが、断じて許すことはできません。

「業務目的外閲覧による処分」を基本に「選別採用」を強調
 自民党WGの取りまとめは、組織への移行にあたり「業務目的外閲覧による処分を重視しつつ」としていますが、問題の原点は国会議員などの年金未納・未加入に対する国民的怒りであることは周知の事実です。この間、監修料や特定業者との癒着などでの処分もありましたが、業務目的外閲覧だけを重視することに異常性を感じます。また、目的外閲覧行為自体は、懲戒処分をもって決着がついているものであり再度関連付けようとすることは、これまでの判例や平等の原則から見ても違法は明らかです。
 さらに「全国健康保険協会」への職員の採用については、設立委員(厚生労働大臣任命)が、「職員の労働条件、採用基準を定め」「管理職も含め民間企業等からの採用を確実に行う」「社会保険庁職員からの採用は社会保険庁長官が名簿を作成した上で設立委員が採否を決定」などとされ、明らかに「選別採用」が基本となっています(資料(4))。ねんきん事業機構についても「任用すべきと判断される職員」とあるように長官が個別に判断することになります。こうした「選別採用」は、「国鉄分割・民営化」の際にも著しい「人権侵害」であるとして国際社会から厳しく批判されたように絶対に許されないことです。
 「社会保険庁改革」の名による公務員の整理解雇が「労働者の働く環境の整備及び職業の確保を図ることを任務」(厚労省設置法第2条)とする厚生労働省において現実の課題となるという異常な状況にあります。

共同の力で医療改悪をやめさせよう

壊れる社会保障、増大する国民負担
 健康保険の医療費本人負担は、03年に2割から3割に改悪されました。通常国会には高齢者を焦点とした更なる改悪案(資料(6))が提出されました。金の切れ目が命の切れ目といっても過言ではありません。
 いま、政府は、社会保障の分野で市場化を推し進め、病院への営利企業の参入、保険が利かない診療を拡大しようとしています。社会保険の民営化は財界の強い要求です。
 市場原理で競い合い、営利目的の民間企業に置き換えて、国民の安心・安全は守れません。

政管健保の公法人化は民営化への一里塚
 中小・零細企業の従業員が主に加入する政府管掌健康保険は、被用者保険の最後の受け皿として、人件費や事務費は国の一般財源により措置されています。また、給付費については13%の国庫補助が行われています。これらは共済組合や健保組合などと比較して(1)標準報酬が低く保険料収入にも影響していること(2)加入者には高齢者も多く受診率も高いこと(3)福利厚生や健康管理等も劣ること(4)中小企業等の経営状態は依然厳しい状況にあること(5)健保組合の運営が困難な場合は政管健保が受けざるを得ないことなどからです。公法人化にあたっては、事務費や人件費および給付費への補助は現行どおりとしていますが、未来永劫に続くかどうかは不明です。都道府県単位による財政運営は給付と負担の面からもまた、こうした構造的な矛盾や問題点の解消にはほど遠く、さらに格差拡大につながる危険性があります。多くのマスコミには連日、外資系保険会社の疾病保険の広告などが掲載されていますが、政管健保の公法人化は、まさに「私的保険」への一里塚であり、財界・大手保険会社のビジネスチャンスといっても過言ではありません。規制緩和・民間開放の目的でもあり、こうした狙いを許すわけにはいきません。

国民の願う医療保険制度の確立を
 高齢者への狙い撃ち負担増も保険の利かない医療の拡大も弱い者いじめです。格差社会と貧困の広がりが問題になっている時、医療にまで弱肉強食のシステムを持ち込み、医療保険制度を根本から解体する医療改悪に対して、医療団体はもとより、労働組合、市民団体などから、批判の声があがっています。すべての国民は、安心して医療を受ける権利をもち、国はその権利を保障する義務を負う、これが憲法25条の精神です。高齢者に情け容赦なく負担を迫り、保険でかかれる医療を切り縮め、公的医療制度の土台を崩す改悪を国民の共同した力ではね返しましょう。医療制度改悪は、政管健保の解体に繋がり、社会保険庁改革と結びつくものです。この点を訴え、国民的な共同を広げ、医療改悪をやめさせ国民の願う医療保険制度の確立をめざしましょう。

基本的な考え方と私たちの取り組み

(1)国民の視点に立った制度・サービスの改善に努めます
 社会保険庁の相次ぐ不祥事や国民不在の行政サービスの実態などに対する国民的批判に対し社会保険庁は、業務改革・意識改革・組織改革を中心とした改善策を打ち出し、その成果は着実に前進していると発表しています。全厚生は、 国民のニーズに基づく行政サービスや予算執行の透明性など必要な改革は積極的に受け止め、憲法25条に基づく制度の改善と国民本位の行政サービスの向上を目指すために奮闘する立場を表明してきました。同時に、関連施設を核とした社会保険一家といわれる天下りシステムや、地方事務官という変則的な身分制度などがその大きな要因となっている中で、労働組合としてのチェック機能が少なからず弱かったことなどを反省し、批判や指摘は真正面から受けとめ、引き続き奮闘して行く考えです。

(2)国公労連を中心とした公務産別の運動に積極的に参加します
 国公労連は社会保険庁改革の名による公務破壊・雇用破壊の攻撃は、すべての公務労働者に降りかかる課題と位置づけ、全国的な運動を展開していく方針です。そうした一環として、47都道府県社会保険事務局周辺での宣伝行動や、社会保険庁問題を中心とした公務労働者の権利シンポジウムなども開催する予定です。こうした行動に積極的に参加していきます。

(3)医療制度改悪に反対する広範な運動に結集します
 小泉政権が進めようとしている社会保険庁解体は、今国会の焦点の一つでもある医療制度改悪とも連動しています。高齢者の医療費自己負担は大幅に増え、特に75歳以上は扶養家族も含め保険料負担が生じることとなり、しかも年金からの天引きという事態になります。団塊の世代対策ともいわれていますが、国庫負担及び企業負担の削減・縮小などが主な狙いでもあります。
 また、政管健保の公法人化は、民営化への一里塚とも言えるものであり、壊れる社会保障・増大する国民負担をこれ以上許すわけにはいきません。全労連を中心とする広範な運動に職場・地域から参加します。

(4)当局に対し使用者としての責任を求めます
 公務員労働者をめぐるこの間の雇用ルールや人権保障の観点から、使用者に対しその責任の履行を求めるために所属長や社会保険庁交渉を取組み、その違法性や雇用破壊の実態と問題点等を明らかにします。支部・分会での討議・意見集約を基本に、3月から4月を集中的取組み期間とします。

(5)雇用破壊の問題点等を労組・民主団体等に発信し支持を訴えます
 社会保険職員にかけられている不当な攻撃は、いずれ国公職場・労働者にも及ぶものであり、労働運動全体にかけられているものであることを広く訴え、私たちの闘いへの支持を求めます。3月から5月にかけ集中的に取り組みます。

(6)国会審議を重視し政党・議員要請行動を取り組みます
 「健保法改正法案」も「ねんきん事業機構法案」も4月以降集中的に国会審議が行われるものと思われます。国会の力関係や短期間の審議予定などを考えると極めて厳しい情勢にあります。しかし、今春闘での取組みが、今後の具体的な問題にも大きく影響することは明らかです。そういう意味でも、組合員の団結を基本に地元で、そして中央での要請行動等が大きな意味を持つものと考えます。全労連・国公労連への結集と支援を背景にみんなの力を結集しましょう。

(7)具体的な取組み
*支部・分会での職場討議、意見集約
*医療改悪と雇用破壊に反対する職場署名
*所属長交渉
*全労連「全国縦断キャラバン」への地域からの参加
*全労連等の提起する地域宣伝行動への参加
*地元での国会議員要請行動
*労組・民主団体等への要請行動
*政党への要請行動
*4・14中央行動への結集(議員要請など)
*「公務の民間化と国公労働者の権利」(仮称)シンポへの結集(議員要請なども含む・4月下旬)
*社会保険庁交渉

みなさんのご意見をお待ちしています。
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