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◆2005年11月号外◆

国民本位の社会保険庁改革を
「新たな人事評価制度(社会保険庁)」に対する基本的な考え方

 組織のあり方や業務運営等に対する様々な批判・指摘の中で社会保険庁は、業務改革、組織改革とともに職員の意識改革を主な目的に民間企業的な人事・処遇の導入を打ち出していましたが、「能力評価」と「実績評価」を基本とした新たな人事評価制度を策定し、一定職以上を対象に10月から試行に入りました。来年4月には本格実施し、それ以外の職員は18年度試行、19年度から本格実施の計画です。
 「国家公務員では異例」(9/27日経)とマスコミからも指摘されるような評価制度が、チームワークを基本とした組織運営と、行政サービスの向上が求められる私たちの職場にどのような影響を与えるのか。全厚生の基本的な考え方とともに当面する質問事項を整理しました。積極的な職場討議をお願いします。

新たな人事評価制度に対する全厚生の基本的な考え方について

(1)労働条件に直接かかわるものであり十分な事前協議と条件整備を求めます。
 人事院は今年の勧告において、能力・実績に基づく人事管理と人事評価制度の整備について触れていますが、「その導入にあたっては、職員をはじめ各府省や職員団体の理解と納得を得られるよう、関係者間で十分協議を行っていくことが不可欠である」と指摘しています。人事評価制度は、職員の勤務労働条件だけでなく、働きがいある職場、そして行政サービスの改善にも密接に関連しています。そのためにも、十分な事前協議と条件整備、そして、試行結果の検証・検討等がなくてはなりません。
 実質半年間もないような短期間での試行、そして十分な検証も行わず即本格実施に入る社会保険庁の評価制度は、スケジュール的にも問題があると考えます。

(2)職員の能力育成と行政サービスの向上を目的とし、給与に直接反映させないこと。
 社会保険制度の公正・公平な運営と行政サービス向上のためには、組織としてのチームワークが基本になるものと考えます。社会保険業務の主要部分である適用や徴収、給付・相談などは、一連の過程を経て結実するものであり、一部の業務を見て個々人の能力・実績を評価することは容易ではなく「公正で納得性のある評価」の観点では様々な問題を含んでいます。また、こうした短期的評価結果をインパクトが強い給与処遇に活用することは、全体の士気やチームワークにも影響し、避けられない矛盾や問題、弊害が生じる危険性があります。したがって、職員の能力育成や研修制度など自己研鑽と行政サービスの向上を目的としたものにすることが基本的に必要と考えます。

(3)人事評価は絶対評価で行い、相対評価による分布制限は行わないこと。
 一定の基準が示されているとはいえ、評価は5段階の相対評価が基本となります。たとえ能力、実績があったとしても最終的には構成比を勘案し振り分けが行われることとなり、評価者の主観的・恣意的な判断にならざるを得ません。結果的に「明確な基準がない」「職場ごとに基準がバラバラ」「成果が評価に反映されない」「がんばってもがんばらなくても同じ」などの矛盾を抱え逆に職場のコミュニケーションの悪化が指摘されています。したがって公正・公平な運営のためにも絶対評価が基本的に必要です。

(4)公務職場全体との整合性を求めます。
 能力・実績に基づく人事管理の導入については、この間公務全体の大きな課題となり総務省は、新たな人事評価の第一次試行を本府省の課長及び課長補佐級を対象に本年11月より行うことを提案しています。さらに試行結果の分析を行い、第2次以降の試行に反映するとしています。このように多くの問題が指摘され議論があるこうした制度を導入するのはそれなりに慎重であるべきです。同時に、公務員の労働条件の根幹を規定している公務員制度そのものにかかわることであり、その点からも公務全体との整合性(水準、テンポ)を図ることが必要です。

(5)評価者研修の充実と評価結果にかかわる苦情処理システムの確立を求めます。
 評価制度は評価者による公正・公平な評価が、組織やコミュニケーションの活性化にも繋がります。したがって評価者研修の充実・強化が特に求められます。単なる伝達や質問時間もないような研修内容では限界があります。体系的な研修制度の構築が必要と考えます。
 また、苦情処理システムの確立も評価制度の基本であると考えます。とりわけ相対評価である以上様々な矛盾や弊害が予想されます。体制や対象範囲などを含めた苦情処理システムの確立が必要です。

「新たな人事評価制度(社会保険庁)」の概要
一定職以上を対象に試行、一般職員は来年4月から

実績評価(目標管理)の概要
 目標管理制度は「組織目標と個人目標のリンク」といわれています。つまり、トップから下に目標をつくって目標を割り振り、最終的には一般の職員まで降り、組織の中における自分の目標の認識を持ち、目標に対し、自分で自己革新していけけるような人材になってもらう狙いがあるといわれています。
 しかし、「評価プロセスにおける高い透明性、公平性の確保」や「評価者自身による評価ポイントのフィードバック」などが確保されなければ、職員の働く意欲が逆に低下し組織総体の力量も悪化するなど危険な一面も報告されています。「新たな人事評価制度(社会保険庁)」では、目標設定・自己評価・面談の実施など次のような概要で実施するとしています。

目標設定・自己評価・面談の実施
 被評価者は、評価期間の期首に組織目標を踏まえて、当該期間における自己の業務目標を策定し、「目標達成シート」に記入、期末には、自己の策定した目標に対する成果や取組内容について「自己評価」する。期首における目標の策定や期末における成果等の確認時に、一次評価者と被評価者との面談を行い、目標の確定や、成果や取組内容の確認を行う。業務に対する取り組み方や評価できる事項、改善を要する事項について認識の共有を図る。

一次評価は絶対評価を基本に全体評価
 絶対評価は10人中10人に満点をつけることも可能ですが、相対評価は構成比によって職員の差別化を図らなければなりません。成果主義の導入の狙いに、「限られた人件費の成果に比例した分配」、つまり、総人件費の抑制があるといわれています。優秀な職員が10人いても構成比により優劣が左右され職員のモチベーションの低下が懸念されています。一次評価者は絶対評価としていますが、総合的に勘案して相対評価の構成比を意識し、S・A・B・C・Dの成績区分により「全体評価」するとしています。
 成績区分と相対評価の構成比は表1のとおりです。

(1)  評価者は、被評価者の個人目標の達成度を含め、評価期間中の成果や取組内容について、「実績評価シート」を使用して評価する。
(2)  一次評価者は、個々の評価項目について、評価基準に基づいて1点から5点で評価(又は項目ごと指定される方法)で評価(絶対評価)をした上で、これらを総合勘案し、相対評価の構成比を意識しながら、S・A・B・C・Dの成績区分により「全体評価」を行います。二次評価者は、一次評価者の評価の偏りをチェックし、被評価者全員を、組織を横断的にとらえて「相対評価」を行います。最終評価者は、二次評価者の評価結果の偏りをチェックし、全体の構成比を調整する。

評価の考え方・評価期間・評価の手順
 評価内容は、管理職以上の職員は業務の成果を重視し、それ以外の職員はプロセス(取組み)を重視した評価項目とする。評価の対象となる期間は、4月1日から9月30日まで(上期)、及び10月1日から翌年3月31日まで(下期)のそれぞれ6ケ月を単位とする。評価者は、客観的で公正な評価を行うために、項目ごと評価基準や着眼点に基づいて適正に評価するとしています。

「評価グループ」を単位に相対評価
 評価の公平性を確保するため、職員の業務分野や役職階層に応じて定めた「評価グループ」を単位に相対評価を行うとしています。例えば、事務局の次長、課長等と事務所長は、「事務局次長、課長、事務所長クラス」として、同一の評価グループに属する。

能力評価の概要
 職員の主体的な能力発揮・能力開発を促すことを目的として、職員の職務遂行能力を評価するとしています。実績評価が職員の職務遂行行動の結果の評価を主眼とするのに対し、能力評価は、職務を遂行する過程で行動として表れた職員の保有する知識、判断力等の様々な能力や執務姿勢等を対象として評価するとしています。
 大手企業の富士通は93年に先駆けて成果主義を導入しましたが、個人の能力のみを評価し、会社の業績に反映させようとしましたが思うようにいかず、2001年度に個人の成果(能力)だけではなく目標に取り組む姿勢や過程の評価を加え、「チームワーク重視」の修正を加えたことなどが報告されています。

最終評価は全体の構成比を調整し相対評価
(1)  日常の業務に対する求められる行動を観察・記録し、その行動事実に基づき、役職階層ごと「能力評価シート」を使用し、評価項目ごとの「求められる行動(着眼点)」により評価する
(2)  一次評価者は、個々の評価項目について、着眼点に基づく5段階評価(絶対評価)をした上で、これらを総合勘案し、相対評価の構成比を意識しながら全体評価を行う
 二次評価者は、一次評価者の評価の偏りをチェックするとともに、被評価者全員を、組織を横断的にとらえて相対評価を行います。最終評価者は、二次評価者の評価結果の偏りをチェックするととも  に、全体の構成比を調整する。

評価期間と手順
 評価の対象となる期間は、10月1日から翌年9月30日までとし、年1回の評価とし、評価者は、客観的で公正な評価を行うために、着眼点に基づいて適正に評価する。

評価グループと評価者の体制
 評価グループは「能力評価シートの分類」と同様とし、「評価グループ」の単位で相対評価を行う、評価者の体制は実績評価と同様の体制とする。

評価結果の活用
昇任、昇格、特別昇給や人事配置、勤勉手当等に反映
 平成17年10月1日から平成18年3月31日までを試行期間とし、平成18年度から段階的に本格実施し、実績評価・能力評価の結果を総合的に評価し、昇任、昇格、特別昇給や適材適所への人事配置、現行制度の範囲内で勤勉手当の支給に反映するとしています。

勤勉手当への反映
 今まで、本庁及び各社会保険事務局ごとに行っていた成績率等の管理を、本人事評価制度においては全庁一括に改め、実績評価の結果を支給額に反映するとしています。

勤勉手当の構成比及び成績率
 勤勉手当の構成比及び成績率は、本庁及び社会保険事務局ごとに適用することとします。なお、支給可能額との関係から、成績率を変更する場合があります。

苦情相談体制
 社会保険庁は、人事評価制度の適正な運用を図るとともに、公正性と納得性を高めるため、苦情相談体制を整備するとしています。人事院においても、苦情相談や給与の決定に関する審査の申し立ての制度があります。苦情相談の体制は、自己の評価に関する苦情や不満等について、各人事担当課又は本庁総務課人事係に苦情相談ができるものとし、苦情や不満等が発生しないように、職員と評価者が十分なコミュニケーションを図るとしています。

想定される苦情の種類
(1) 評価手続や評価者に対する苦情や不満等
(2) 評価基準の適用が不適正など評価結果そのものへの苦情や不満等
(3) 評価結果の処遇への反映に関する苦情や不満等

相談の方法等
 苦情相談を希望する者は、口頭又は書面等により、所属する部局等の人事担当課又は本庁総務課人事係に相談するとし、次に該当する場合は苦情相談を打ち切るとしています。
(1)  人事院に対して「給与の決定に関する審査の申し立て」がなされたとき
(2)  相談者が事案の処理の継続を求める場合において、当該事案に係る問題の解決の見込みがないと認めるときその他事案の処理を継続することが適当でないと認めるとき

<当面の取組み>
(1) 全分会での職場討議と意見集約を行います。
(2) 社会保険庁に第一次質問書を提出します。
(3) 社会保険庁交渉で問題提起を行い庁の考え方を質します。
(4) すべての支部で所属長への申入れを行います。
(5) 民間企業等の実態を基に評価制度の学習会を取り組みます。
(6) 公務における評価制度を考えるシンポジウムの開催を目指します。
(7) 県国公春闘討論集会等で問題提起を行います。

第一次質問書

<基本的事項>
(1)  現行の国家公務員制度において「これまでは十分な運用が行われてきませんでした」と言及しているが、何がどう不十分でその原因はどのように考えているのか。
(2)  成果主義・評価制度が導入されている多くの民間企業で、様々な問題点が指摘され見直しが行われている実態についてどのように考えるか。
(3)  制度の公正・公平な運営と国民へのサービス向上のためには、組織としてのチームワークが基本となるものと考える。社会保険業務の主要部分である適用や徴収、給付・相談などは、一連の過程を経て結実するものである。こうした中にあって一部の業務を見て個々人の能力・実績を評価することは問題があるのではないか。また、「公正で納得性のある評価」には結びつかないのではないか。
(4)  新たな評価制度の導入によって増加する事務的負担が発生するものと思われる。特に中間管理職にとって負担となることは明らかである。仮に組織全体のパフォーマンスの上昇が期待されたとしても、収納率の向上、適用拡大、団塊の世代対策等著しい業務量増のなかで本来業務へのマイナス面の影響があるのではないか。
(5)  より正確な評価が追求されることから、個々人の日常的な行動がチェックされるというまさに監視社会・職場になることが容易に予想される。評価者、被評価者ともに心身、メンタル面への影響が考えられるのではないか。
(6)  長い目で見た場合、こうした評価制度が組織全体の活性化につながるかは疑問である。結果として組織の廃退につながるのではないか。
(7)  公務部門で評価制度の先端を検討している経済産業省でも、何度かの試行を繰り返している状態である。本格実施に向けては、現場の声を反映した十分な検証と検討が必要であると考えるが、半年間の施行後即本格実施に入るのはなぜか。
(8)  本年の人事院勧告において、「実効性のある人事評価制度を整備していくことが肝要である。その導入にあたっては、職員をはじめ各府省や職員団体の理解と納得を得られるよう関係者間で十分協議を行っていくことが不可欠である。」と指摘されているが、これらとの関連についてどのように考えるのか。
(9)  2008年秋には、年金と健康保険の組織分離、人員の大幅削減等が示されているが、新たな評価制度がこうした流れに反映されるのではないか。
(10)  昇格、特別昇給、勤勉手当については、勤務条件そのものであり、評価の反映方法については交渉事項と考えるが、どう思うか。

<具体的事項>
(11)  実績評価と能力評価の結果を総合的に評価しとなっているが、総合的な判断手順、基準はどのように考えるのか。結果的に評価者の恣意的な判断が強調されるのではないか。
(12)  人材育成の方法(公務員制度上は研修)について、評価制度とあわせた改善・整備の計画を有しているか。
(13)  個人目標の設定にかかわる組織目標設定の手順、内容等はどのように考えているのか。
(14)  実績評価を年2回とする目的は何か。半年の短期で達成すべき目標は、必然的に定量的な目標にならざるを得ないのではないか。
(15)  実績評価の期首面談を上期4月下期9月とし、期末面談を上期9月下期3月としているが、業務繁忙期と重なり十分な効果が期待できないのではないか。
(16)  評価者訓練の具体的な内容はどのように考えているのか。
(17)  評価グループはどのような概念で区分されているのか。
(18)  能力評価にかかわって「執務姿勢」を対象とする目的は何か。積極的、まじめなど性格評価に陥りやすいのではないか。
(19)  優秀と判断された社会保険事務局に対する資金交付は、誰がどのような基準で行うのか。また基準は誰がどのように設定するのか。さらに、このような取り扱いができる国家公務員法、給与法上の根拠を示されたい。
(20)  人事評価制度運営会議の機能と権限、構成はどのように考えているのか。また、労働条件関連の事項についてはどのように扱うのか。
(21)  評価結果の開示はどこまで行うのか。
(22)  苦情処理体制及び苦情処理の対象範囲をどのように考えるか。また、人事院との関係についてはどのように位置づけるのか。
(23)  一次評価は絶対評価としつつ、相対化する「全体評価」をなぜ行う必要があるのか。全体評価、相対評価の基準は誰がどのように設定するのか。
(24)  育児、介護、加療中などの職員に対する目標設定のあり方、及び評価基準はどのように考えているのか。
(25)  組織によってはかなりの規模の被評価者が対象となり、透明性・公平性・納得性のある評価は困難ではないか。
(26)  評価シートの保管・管理はどのように行うのか。

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