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◆2005年6月号外◆

国民本位の社会保険庁改革を
「有識者会議」の最終報告に対する基本的な考え方

 2005年5月31日、社会保険庁の組織・機構の在り方などを中心に検討を重ねてきた内閣官房長官の私的懇談会「社会保険庁のあり方に関する有識者会議」は(1)公的年金制度の運営と政管健保の運営を分離した上でそれぞれ新たな組織を設置する(2)年金部門については徴収をはじめとする業務全般について政府が直接に関与し、明確かつ十全に運営責任を果たす体制を確立することが必要(3)政管健保については国とは切り離された全国単位の公法人を保険者として設立し、財政運営は都道府県単位を基本とする、ことなどを柱とした最終報告を公表しました。
 新たな段階を迎えた社会保険庁改革について、最終報告の主な内容と私たちの基本的な考え方を明らかにします。国民本位の社会保険庁改革実現にむけて積極的な職場討議をお願いします。

1 年金制度と政管健保の分離について

 最終報告では社会保険庁の組織を年金制度と政府管掌健康保険に分離し、08年秋にそれぞれの新組織を設け、年金部門については「政府が直接関与し運営責任を果たすことが必要」とした報告がされましたが、全厚生はどのように考えていますか?

憲法25条にもとづき国の責任で運営を
 政管健保及び厚生年金保険・国民年金制度は、発足以来企画・立案から執行まで国が責任をもって運営してきました。
 これらは、憲法25条に規定された国民の生存権としての具現化であり基本的な権利です。年金運営組織の名称や法的位置づけについては政府部内で検討を続け年末までに決定するとしていますが、公的年金に対する国の直接関与と明確かつ十全な運営責任を求めた報告は、社会保険行政の持つ公共性の意味からも当然の結果ではないかと考えます。また、多くの国民が関心をよせる社会保障制度の充実がなによりも重要です。
 さらに、被保険者の意見等が十分に反映されるシステムや、組織形態だけでなく最終とりまとめでは報告がされませんでしたが人件費や事務費、業務運営費等は社会保険料財源を充てず全て一般財源により措置することや特別会計の在り方などについてもさらに掘り下げた議論が必要だと考えます。

都道府県単位の運営は国の責任放棄・縮小
 年金制度と政府管掌健康保険の分離は、2003年3月の閣議で政府管掌健康保険の財政運営は基本的に都道府県単位とする内容が決定されましたが、運営主体の分離までは盛り込まれていませんでした。自民党関係部会から強くうち出された「はじめに社会保険庁解体ありき」の結論であり被用者保険の最後の受け皿としての政府管掌健康保険の意義や安定した運営から考えた十分な議論がされてきたのか疑問です。 
 小泉構造改革がすすめている社会保障制度の大幅な切捨て政策の中、国の責任をさらに縮小し、企業負担の軽減を図ろうとする財界・大企業の思惑があると考えています。国民本位の医療・年金制度をどのように運営していくのかという議論は、国民的視点に立った制度と運営の一体的な議論が重要だと考えます。

国民負担の増大と公共性の後退へ
 国民の命と暮らしを守る社会保障行政が、これまで国の責任により国の機関で運営されてきたように、国民の権利を守り社会保障制度を向上させるためにも、適用・徴収・給付・サービスは制度運営の要として一体のものであると考えます。厚生年金・健康保険料の一体的な徴収を国が行い、保険給付など業務面だけを分離することは、住民の利便性や業務の効率性、ハード面の整備にかかるコスト面から考えても非効率的と考えます。また、国から分離し新たな組織として都道府県単位の財政運営を行った場合、それぞれが抱える財政事情の中で、保険料負担と給付の両面から新たな格差が拡がり国民への負担増につながります。憲法第25条の生存権を基に制度化された全国一律で実施してきた社会保険制度の後退であり公共性からみても大変な問題です。

2 大幅な人員削減について

 保険料収納率の向上、国民の意向を反映したサービスの提供、事業運営の効率化などを実現するためとして大幅な人員削減なども考えられていますが全厚生はどのように考えていますか?

国民サービスの向上にむけた大幅な増員を
 正規職員1万7千人、非常勤職員含め2万9千人の体制を(1)定型的業務の外部委託の拡大(2)市場化テストの実施による外部委託の継続的で大幅な拡大(3)システムの刷新などによる業務そのものの削減などにより大幅な人員の削減を実施するとしています。
 社会保険庁は1万人以上の人員削減を計画していますが、現場の実態を無視したものであり、法整備がされていない市場化テストの大幅な拡大も要因に入れるなど数値根拠が曖昧です。従来からすすめてきている外部委託等の事業運営の効率化は国民の視点からも積極的に推進するべきだと考えています。しかし、社会的にも様々指摘され、社会保険庁改革の重点課題でもある政府管掌健康保険・厚生年金の未適用促進や、国民年金の収納強化、さらには年金相談・裁定業務体制の充実など専門性や公共性から見て公務員でなければできない業務も多く存在しています。人員の削減ありきでは社会保険庁改革での数値目標の達成も危ぶまれます。
 とりわけ団塊の世代が受給権者となるこれからが益々その機能を発揮しなければなりません。特に都市部の年金相談体制の確立や収納体制は急務の課題であり、そのためにも行政需要に見合った要員の確保が必要です。

「市場化テスト」の全国展開は反対
 全国展開の必要性が強調されている「市場化テスト」の拡大は、公務の商品化であり、あくなき利潤追求を目指す財界・大企業の戦略に基づくビジネスチャンスの拡大です。
 国民生活擁護、権利保障など公務の公共性からは相容れないものです。利潤が上がらなければ企業が撤退することなど、結果として社会保障制度や行政サービスの後退につながることは否定できません。国民の権利と全国的な統一性を追求し、全体の共同利益を守る立場から市場化テストの全国展開は反対です。

3 民間企業的な人事・処遇の導入について

 社会保険業務については、特に効率性等が強く求められていることから、新組織に移行する以前の段階から、民間企業的な能力主義・実績主義に立った措置を積極的に導入するとしていますが、全厚生はどのように考えていますか?

職員の意欲を阻害する「能力主義」
 社会保険業務については、特に効率性などが強く求められていることから、新組織に移行する以前の段階から、民間企業的な能力主義・実績主義に立った措置を積極的に導入するとしています。
 社会保険庁が考えている人事評価システムの基本的要素は別掲のとおりです。
 (1)「民間企業的な能力主義・実績主義」とはどのようなものでしょうか。民間企業においては、総人件費の抑制・削減を目的に、「終身雇用」「年功序列賃金」を解体し、多くの企業で能力・成果主義管理の導入が強められてきています。ところが導入して10年足らずにもかかわらず、その弊害が強く指摘され破綻する兆しとなっています。この制度の要は評価です。公正性、客観性、納得性などが基本となりますが、主観的、客観的であれ、また相対的、絶対的であろうと差をつけることが目的となり、評価者(管理者)には差をつけなければ評価したことにならないという強迫観念が生まれます。また評価に対しては、「明確な評価基準がない」「職場毎に評価基準がバラバラ」「評価者の評価能力に問題がある」「がんばってもがんばらなくても同じ」「成果が評価に反映されない」などなど、導入されている民間職場では不満が蓄積することで、円滑な仕事の流れを滞らせ、かえって職員の意欲を阻害しているといわれています。

希望と意欲の持てる職場を
 (2)公務員人事管理及び行政事務の遂行においては、中立・公正性の確保とともに、民主的で希望と意欲をもって安心して働ける職場づくりが重要です。社会保険職場はどれをとってもチームワークを基にした総合的な業務執行のなかで目的を達成することができるものです。ところが賃金を動機づけとする競争原理システムは、職場に混乱をもたらし、当局のいう「組織のパフォーマンスを向上させる」どころか職員の士気を低下させるのではないでしょうか。仕事への意欲は仕事そのものです。

一方的な実施強行は反対
 (3)給与制度は動機づけのためではなく、生活費を保障するという観点から設計されているものです。国民本位の行政を真に実現すること、そして先を見据え安心して職務に専念することができるよう、給与処遇に短期的な評価結果を活用することは行うべきではないと考えます。また、労働条件に直接かかわる問題であり、関係者の理解と納得が必要な問題です。労使協議もなく一方的に実施強行はあってはならないと考えています。

社会保険庁が考えている人事評価システムの基本的要素
1  能力評価
職員の主体的な能力発揮・能力開発を促すために、職員の職務遂行能力を能力基準にもとづき評価
業績評価
職員が組織目標などを明確に意識し、主体的な業務遂行にあたることを促すために、業務目標の達成度を目標管理の手法により評価
評価結果の活用
人事育成、業務改善
任用(人事配置・昇格)、給与(勤勉手当、特別昇給)への反映
評価方式
評価の公正性・客観性を確保するために、複数の段階の評価による評価
自己評価→業務を通じて求められている職員像の再認識及び業務への主体的な取り組み
公平性と納得性を確保する仕組み
面談方式により本人へフィードバックすることで、管理者と職員が十分なコミュニケーションを図り、評価の納得性を高める
評価基準の公開
評価者研修
苦情相談体制

4 地方組織の抜本改革等について

 内部統制の強化、効率的な事業の実施を図る観点などから社会保険事務局47カ所をブロック単位に集約し、人員配置の地域間格差の是正や広域的な人事異動の拡大をすすめるとしていますが、全厚生はどうのように考えていますか?

国民の利便性や権利・義務の保障を
 最終報告では「都道府県ごとの社会保険事務局をブロック単位に集約化」することは、地方事務官制度に由来する都道府県単位の意識や閉鎖的な組織体質の改善、内部統制の強化などから必要としています。
 住民に身近である社会保険行政は、地域性、公平性、総合性、効率性等が基本的に求められています。社会保険事務局が担っている業務には給付、相談、不服審査等があり、国民の利便性や権利・義務を保障するうえでも都道府県単位の統括的な組織(事務所)が必要です。

強制的・一律的な広域配転は反対
 急激な都市部の行政需要増に対しかねてから地域間格差を是正し業務量に応じた適正な要員を配置することなど抜本的な対策を求めてきました。職員配置の見直しや、広域的な人事異動には絶対反対の立場ではありませんが、本人・家族の生活を最大限尊重することが大前提です。職員の意向を無視した強制的・一律的な広域配転には反対します。また、ブロック内外異動にかかわるコストもかかることから、単純に閉鎖的な組織を解消するとの理由だけではなく、国民的な視点から行政サービスの充実や社会保障行政の発展的な理由を明確にすることが重要だと考えます。 
 同時に「組織の構造改革及び職員の意識改革」等については、職員の労働条件に関する極めて重要な問題であり、一方的な方針の決定及び改編は実行せず、総合的な計画の中で十分な労使協議を求めます。

人事のあり方など根本的な見直しが必要
 地方事務官制度に由来する都道府県単位の意識や閉鎖的な組織体質の改善、内部統制の強化など様々な問題は、組織をブロック化しキャリアの配置を拡大しただけでは根本的な解決にはならないものと考えます。「国民からはきちんと運用できるきちんとした組織」が望まれており、キャリア制度のあり方や本省庁と地方局との旧態依然とした人事のあり方など根本的な見直しが必要です。

全厚生の基本要求(案)
1  社会保険行政は憲法25条にもとづき国の責任で拡充し、「市場化テスト」(官民競争入札)の対象として「民間開放」を行わないこと。安定・継続した行政運営を保障するため、社会保険庁の独立行政法人化や民営化は行わないこと。
政府管掌健康保険はこれまでどおり、国の責任で国の事業として全国一体で実施すること。国の責任放棄・縮小につながる「都道府県単位の運営」は行わないこと。
国民サービスの向上・充実にむけた大幅な増員を行うこと。行政ニーズ・職場実態に応じた定員を確保すること。また、社会保険行政サービスの向上・充実を図るため、行政需要に見合った適正な人員の見直しを早急に行うこと。
「組織の構造改革及び職員の意識改革等」については、職員の労働条件に関する極めて重要な問題であり、一方的な方針の決定及び改編は行わないこと。実施にあたっては労使協議を尽くすこと。
公務の特性、公共性を損なう「民間企業的な能力・業績主義」強化を柱とした「任用・給与制度」の改悪を行わないこと。また、評価制度の「試行」を一方的に強行せず、労使協議を尽くすこと。
職員の意向を無視した強制的・一律的な広域配転を行わないこと。また、転勤を命ずるにあたっては本人・家族の生活に十分配慮し、職員の希望を最大限尊重すること。
国民から徴収した貴重な社会保険料財源は社会保険行政の事務費とせず一般財源で措置すること。
年金相談センターの増設など年金相談体制を充実し国民サービスの向上・充実をはかること

社会保険庁改革の経過
年月日 事項
2004.06. 自民・公明党、年金法案強行採決
2004.07. 参議院選挙 民主党躍進
2004.07.23 民間から社会保険庁長官就任
2004.07.29 年金加入記録の業務外閲覧職員を処分
2004.08. 国民年金保険料収納に係る行動計画発表
2004.08.1 社会保険庁のあり方に関する有識者会議の設置
2004.08.10 社会保険庁改革推進本部の設置
2004.09.15 社会保険事業運営評議会の設置
2004.09.17 緊急対応プログラム発表
2004.09.27 社会保険庁課長を逮捕
2004.10.01 厚生労働省信頼回復対策推進チーム発足
2004.10.01 調達委員会の設置
2004.10.01 内部通報制度の整備及び法令遵守委員会設置
2004.10.22 監修料など調査結果及び措置を公表
2004.11.26 緊急対応プログラム修正版発表
2004.11.26 有識者会議「中間とりまとめ」発表
2004.12.02 職員行動規範策定
2004.12. 毎週月曜日 年金相談延長実施
2005.01.14 社会保険庁、不祥事に関する調査報告発表
2005.01.21 通常国会開会
2005.01. 土日における年金相談実施
2005.03.15 「社保庁を解体し新しいシステムを作る会」発足
2005.05. 市場化テストモデル事業1円落札など適用促進実施
2005.05.31  有識者会議 最終とりまとめ報告

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