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◆第1656号(2006年8月5日付)◆


保険料免除問題はなぜ起きたのか
「社会保障・年金制度の今を考える」シンポを開催
 国公労連と厚生共闘(全厚生・全医労)は、7月25日、星陵会館ホールでシンポジウム「社会保障・年金制度の今を考える、〜保険料免除問題はなぜ起きたのか〜」を開催。全厚生はじめ国公労連の各単組、年金者組合、自治労連、特殊法人労連などの団体・労組から250人が参加。マスコミ8社からの取材もありました。
 シンポでは、国公労連の堀口委員長が、主催者を代表してあいさつ、国公労連書記長小田川義和氏がコーディネートをつとめ、國學院大学経済学部教授の小越洋之助氏と専修大学経済学部教授の唐鎌直義氏、全厚生中央執行副委員長の飯塚勇氏がシンポジストとして発言しました。
 はじめにコーディネーターの小田川氏が、保険料免除問題はなぜ起きたのかについて触れ、「経済的な理由で国民年金保険料を払えない人のために免除制度があり、現在281万人の免除者がいる。この免除制度を活用して、納入者を増やすことより、納付率を上げることを優先するノルマ主義があった。社会保険庁の業務が2008年10月、政管健保公法人とねんきん事業機構に移行する際、国鉄分割民営化ばりの選別採用を行うとの動きを政府与党が強めてくる中、雇用問題をふりかざした労務管理が蔓延し、物言えぬ上意下達の職場になって、不正の告発を困難にしたという指摘もある。社会保険庁本庁が『不正』免除の指示を否定し、職員だけを悪者にすればするほど、何か裏に隠れているのではないかと疑ってしまう。その裏に隠れている根本的な問題は何か、国民年金に目を向けながら明らかにしていきたい」と、目的を述べました。
 シンポでは、各シンポジストが発言した後、フロアから8人の発言があり(2面に掲載)、各シンポジストがまとめの発言を行い、閉会の挨拶を全厚生杉下委員長が行いました。

格差社会が国民年金納付問題の背景に
國學院大学  小越 洋之助 教授

 小越氏は、小泉構造改革によってつくられた「格差社会」が社会保障制度にどう影響しているのかを指摘しました。
 はじめに、小泉構造改革は、所得格差を生み、貧富の差を増大させたとして、「格差社会」化の深刻な特徴を紹介。
 非正規雇用、フリーター・ニート、貯蓄ゼロ世帯の増加。貧富の差は特に若者に顕在化。高齢者の生活苦。無年金者100万人、年金保険料納入困難者1000万人の存在。生活保護世帯、就学援助世帯の激増。自殺者8年連続で3万人以上。業者の経営難など。
 国民年金制度の納付率問題は、現行年金制度の問題点・矛盾を端的に示すもの。そもそも国民年金や国民健康保険などの社会保険は、社会保障段階の社会保険である。保険料を払えない人も含め、国民の生存権を保障するのが、社会保障の理念である。しかし政府は、応能負担原則を切り崩し、応益負担に切り替えてきている。国民年金保険料は定額で低所得の人ほど負担が大きく、しかも最低でも25年払わなければ年金が給付されないなど保険主義的運用に終始している。
 国民年金制度の納付率問題の背景には、構造改革=規制緩和政策による労働市場の悪化、および政府の度重なる年金改悪があると指摘しました。

公的年金制度を改善せず職員を生け贄に
専修大学  唐鎌 直義 教授

 唐鎌氏は、現行公的年金制度の問題点と保険料滞納問題のかかわ りについて述べました。
 国民年金制度は他の年金制度の土台であり、厚生年金や共済年金からこぼれてきた者の受け皿になっている。国民年金は、25年払い続けないと給付を受けられず、40年(満額)払い続けても66、008円しか支給されない。多くのEU諸国で年金に最低保障がある中で、国民年金の平均受給月額は、単独高齢者の生活保護基準以下である。女性の低年金も深刻。厚生年金も所得比例制になっており、若いときの所得が老後までつきまとう。年金に対する国庫負担は、年金給付総額の12・4%にしかすぎない。
 国民年金の完全未納者は29・1%。国民年金の免除率は17・3%で、合わせて保険料を納めていない被保険者は46・4%にも達する。背後には、貧困・格差拡大社会と国民の年金制度への不信がある。公的年金制度が抱える問題を解決しないで、社会保険庁職員に責任を押しかぶせるべきではない。職員は一種のスケープ・ゴート(生け贄)にされている。
 保険料拠出の有無に関係なく、10年の居住を条件に、満60〜65歳から一律7〜8万の年金を、逆進性の強い消費税ではない税(国の一般財源)から支給する最低保障年金制度を早期に実現すべきと述べました。

「職員が悪い」だけでは何も解決しない
全厚生労働組合 飯塚 勇 副委員長

 全厚生の飯塚副委員長は国民年金保険料の免除問題を中心に報告。社会保険庁は8月末には関係職員の処分を行う予定だが、単に「職員が悪い」だけでは何の解決にもならない。根底には、国民年金加入者の3分の1を若年層が占め、特に、20歳代の保険料納付率が50%を下回るなど、若年層を中心とする雇用破壊や構造改革による社会保障制度の破壊がある。
 問題となった保険料の不適正な免除とは、本人申請なしに、又は電話のみで免除処理したもので、所得だけを見ると生活保護基準以下であり、多額の収入がある人を免除したわけではない。
 損保ジャパンの副社長から登用された村瀬長官は、国民年金保険料の収納対策に特化した行政運営を進め、過酷な「ノルマ」設定と、事務局・事務所間の「グランプリ」と称する表彰制度を設けるなど、異常ともいえる「収納率向上至上主義」を徹底してきた。
 社会保険庁は08年10月に組織が廃止され、年金と健康保険に分離されるが、新組織移行での「職員の引継ぎ規定」がないばかりか、「組織廃止による分限免職」や「勤務成績による分限処分」まで言われ、職員の雇用不安は深刻。このように追い詰められた状況で、休日出勤や連日深夜までの残業などにより、職員の健康悪化は益々深刻な状況にあると述べました。

リレーずいそう
●レバノン情勢について
 現代のアラブ世界の混迷は、英仏の無責任な分割統治の結果である。イラク(メソポタミア)やシリアといった地域は古代から存在する地域だが、クウェートやレバノンといった地域はそれぞれイラク、シリアの中の一部に過ぎない。それを自国の権益を維持するために強引に独立させたのが英仏である。
 レバノンでは、イスラム教シーア派、スンニ派、ドゥルーズ派、キリスト教マロン派などの各グループが並立し不安定ながら平和を保ってきたが、中東戦争の影響などにより1975年レバノン内戦が勃発した。その後シリアの実質的影響下に置かれ平穏を取り戻し、首都ベイルートも「中東のパリ」と呼ばれた商都としての地位を取り戻しつつあったが、今年またイスラエルの侵攻を受けることとなった。
 米国は、イランを独裁国家だと非難している。イランは宗教国家ではあるが、大統領は自由選挙によって選ばれている。中国やサウジのように自由選挙のない国も世界にはまだまだ多い。イランは世界の平均からすれば立派な民主主義国家である。そのイランが核開発を進めると経済制裁をせよといい、既に核兵器を持っているとされるイスラエルがレバノンやパレスチナを侵略しても、自衛手段であるとして正当化する。これは二重基準ではないのか。そもそもユダヤ人迫害の責任を負うべきなのはアラブではなく欧米である。国際社会は米国の不誠実な外交に異議を唱え、イスラエルへの経済制裁を直ちに発動すべきだ。
(業務センター支部 組合員)

安心・安全の行政体制の確保を
夏期統一要求で人事課長と交渉
 全厚生は7月28日、大臣官房人事課長と夏期統一要求で交渉を実施。全厚生から杉下委員長、飯塚・伊藤・鈴木・三角各副委員長、杉浦書記長、福士書記次長、木立・田口・宮田各中執が出席。人事課からは、木倉人事課長、渡延参事官、中山人事調査官らが対応しました。
 冒頭、杉下委員長は、夏期統一要求の趣旨を説明し、要求実現を求めました。特に今、公務のあり方が問われていると指摘。安心・安全の行政運営体制を確保することと一体で、賃金・定員要求の改善を迫りました。社会保険庁改革では、公務員の身分保障を度外視する議論は許されないと指摘。社会保険庁を廃止し新組織に切り替える際には、当然、職員の身分は引き継がれるべきと主張。公平・公正な公務運営が貫かれるよう、厚生労働省の役割を強く求めました。
 これに対し、木倉人事課長が一括して回答。「賃下げ勧告」は断じて行わず、生活と労働の実態をふまえた賃金改善要求では、「官民給与の比較方法の見直しは、繰り返し慎重に検討するよう申し入れている」と回答しました。
 定員課題では、定員削減計画の中止、「5%定員純減」を具体化しないよう要求したのに対し、「法律で決められた純減目標に対して知恵を出す一方、必要な部門に必要な人員を配置する知恵を出して要求を続ける」と回答。社会保険庁改革の課題では、職員の雇用に万全を期すこと、新たな人事評価制度で全厚生と十分協議することや、人事評価制度の結果を選別採用に使わないとの要求には、「職員は一生懸命やっている。これが本当に評価されなくてはならない。人事評価制度は、それが反映されるよう、組合の意見を受け止めて改善し、公平・公正な制度にしなければならない」と回答しました。

恒常的残業なくせ
 本省庁職場の恒常的な残業改善の要求では、「みんなギリギリで仕事をしている。一歩でも二歩でも改善しなければいけない。管理者自身が率先して意識を変えていく。早く帰れる雰囲気をつくらなければならない」と回答。「障害者自立支援法」にともなう施設運営・体系の見直し等の諸課題について、労働組合と十分協議することを要求したのに対し、「作業が遅れているが、施設管理室とも意見交換をして、協議を尽くしていただきたい」と回答しました。
 独立行政法人の試験研究機関の労働条件の確保問題では、「非公務員型に移行した国立健康・栄養研究所の研究環境等が不安がないようにとの要求は当然の話。厚生科学課や各局にも注意を払うよう伝えたい」と回答。
 再任用制度では、希望者全員の雇用のために最大限の努力を要求したのに対し、「フルタイムは定員の問題で難しい。熟練した知識・技能がいかせない点を主張し、繰り返し要求している。短時間勤務の場合は、定員合理化に充当できるがまだ不十分。再任用が実現できる仕組み、定員上の工夫をしなければならない」と回答しました。

定員を確保せよ
 一括回答の後、さらにやりとり。伊藤副委員長は、定員削減によって継続性が求められる地道な研究分野が立ちいかない現状を報告し、定員確保を要求。飯塚副委員長は、社会保険庁改革で職員の健康破壊が深刻になっていることを指摘。免除問題の背景には、収納率を評価のトップにあげる人事評価制度の問題があることを強調。三角副委員長は、厚生労働本省でのアンケート結果から残業実態が悪化していると指摘し、定員確保と大胆な業務改善を強く要求。鈴木副委員長は、障害者自立支援法の下で10月に都道府県の認可を得るための作業で業務が多忙になっていると指摘し、施設運営の変化に伴う諸課題を提起。杉浦書記長は、独立行政法人医薬基盤研究所の課題を提起。新設研究所として、運営費交付金が十分でなく、施設運営や雇用・労働条件での深刻な事態を指摘し、基本的な条件整備で主務省の努力を求めました。

成果主義は社保庁になじまない
「社会保障・年金制度の今を考える」シンポでフロア発言

 7月25日「社会保障・年金制度の今を考える」シンポジウムでは、8人がフロア発言しました。
 全日本損害保険労働組合からは、「社会保険職場の成果主義は損保の職場と全く同じ。損保ジャパンも同じ時期に、金融庁から保険金不払い問題で厳しい処分を受け、経営者が退陣を迫られたが、社会保険庁では、村瀬さんは守られ、職員が責任を問われているのは、おかしい。損保業界では、率を良くすることにかけてはお手の物で、分子を増やして分母を減らす秘訣が体に染みついている。村瀬さんは、真っ先にそこに目を付けた。成果主義を用いて競争を激化させれば、見かけ上の数値はよくなるが、損保の社会的な役割を実感できる瞬間は皆無。働く誇りはどこへ行ってしまったのか。損保のように社会保険から社会的役割をなくしたら、もうおしまい。成果主義は社会保険庁にはまったくなじまない」。
 日本共産党小池参議院議員秘書は、「不正免除問題は高すぎる保険料や年金不信という根本問題にメスを入れず、納付率向上を追求するがために起こり、村瀬長官が民間と同じ成績主義を持ち込んだことが問題」と述べ、小池議員が国会で川崎厚労大臣の「本庁に問題がなかったとは言えない」との答弁を引き出したことを紹介しました。
 社会保険労務士からは、「不正免除問題で国民の怒りはなく、責任は大臣にあると思っているので、安心していただきたい。短期の外国人労働者が増える中、10年年金の創設など年金制度の改善を求めたい」と発言。
 年金者組合から、「不正免除問題は、成果主義のひずみ。社会保険庁みずからが矛盾を露呈した。公的年金制度は構造的欠陥を持っている。国民皆年金といいつつ、社会保険方式で納めないと年金は支給されない。無年金、低年金を作り出す制度。最低保障年金をつくるしかないという我々の運動の正しさが、今度の問題で証明された」との発言がありました。
 全日本教職員組合からは、教育現場における成果主義の害悪を具体的に紹介し、「教育の現場に評価制度はなじまないと繰り返し言っても、国民や父母の理解は得られず、教員免許更新制に世論調査で93%が賛成している。文部科学省と石原都政の教育方針の悪さが先生を介して表れるところに難しさがあり、公的年金に対する不信や欠陥が社会保険庁職員と重なって出てきているところの構図と同じ。成果主義反対だけでは展望はひらけない、教育に対する不満に耳を傾け、建設的な対案を示していかないと、運動は進まない」との発言がありました。
 中央社会保障推進協議会からは、「不正免除問題で国民は怒っていない。しかし、国はマスコミを使って、社会保障改悪に対する怒りが国に向かないように、この問題を上手く利用している。小泉構造改革で国民は激痛を経験しており、社会保障の改悪をはねのけていく可能性は広がっている」。
 日本自治体労働組合総連合は、税金を滞納した人にはその自治体のサービスを受けさせないという「行政サービス制限条例」が、矢継ぎ早にあちこちの市町村で成立していることを紹介。
 年金者組合から、「国民は年金免除問題を怒っていない。社会保険事務所では残業に次ぐ残業で、働く人の人権無視がある。免除問題で国民が年金に関心を持ったのだから、もっと良い年金制度の在り方を検討してほしい」との発言がありました。

社会を動かす運動を
各シンポジストがまとめ

 フロア発言を受け、各シンポジスがまとめの発言を行いました。
 飯塚氏は、「成果主義を基本とした人事評価制度の問題対策連絡会議を作るなどして、政府・財界に対抗していく運動を作りたい。また、厚生年金の空洞化の進行は深刻であり、最低保障年金とからめ社会保険制度の全体像を考え、組織の在り方、行政機関の在り方についての検討も引き続き奮闘したい」とまとめました。
 唐鎌氏は、「社会保障の財源はあるが、歳入80兆円の内訳を見ると、税収40兆円のうち法人・所得税がわずか25兆円しかなく、消費税11兆円、残り4兆円が間接税。残り30数兆円が国債の発行。歳出の4分の1が国債の償還。国債の利息は税金。税金をどう配分をしていくかを考え、財政民主主義を貫かないといけない」とまとめました。
 小越氏は、「社会保障は所得の再分配であるが、所得の第1次分配において、すでに不公正や格差が生じている。賃上げ、安定雇用、直接雇用、ワーキング・プア対策、最低賃金の引き上げ、生計費を基準とした賃金改善、中小企業の経営改善など抜本的に改革していくこと、社会の支え手を増やしていくことが必要」とまとめました。

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