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◆第1612号(2005年3月15日付)◆


全厚生シンポジウムを開催

国民本位の年金制度と真の社会保険庁改革を考える

 全厚生は3月5日、「国民本位の年金制度と真の社会保険庁改革を考える」シンポジウムを、大阪市内で開催。約400人が参加し、社会保険制度や組織の在り方などについて幅広く意見を出し合いました。
 シンポでは、飯塚勇全厚生副委員長がコーディネーターをつとめ、パネリストの芝田英昭(立命館大学産業社会学部教授)、浜田陽太郎(朝日新聞東京本社生活部記者)、堤修三(大阪大学大学院人間科学研究科教授・元社会保険庁長官)、杉浦公一(全厚生書記長)の4氏がそれぞれの見解を発言。フロアーからは14人が発言しました。
 冒頭、挨拶した杉下委員長は、社会保険庁の不祥事については徹底的にウミを出し切り、国民利益第一の行政組織を確立すべき。社会保険庁の民営化論や解体論は、国民の年金批判をかわすものであり、全厚生は、政府・財界の改革路線と対決する国民本位の社会保障制度の政策と運動を示していくと決意表明。
 シンポジウムは、国公労連、厚生共闘、中央社保協、全日本年金者組合が後援。代表して、国公労連の堀口委員長が挨拶しました。

税財源の社会保障金庫設立を   立命館大学教授
 芝田さんは、介護保険、支援費制度、障害者自立支援法案など、政府の社会保障の一元化の流れを批判。さらに政府内には社会保障すべてを統合した「国民保険」構想があることを紹介。社会保険への社会保障の一元化・統合化は必ず失敗すると指摘しました。
 社会保障の財源は、将来的に社会保険は廃止し、税による。消費税ではなく、所得税の累進課税化の強化と法人税の優遇税制の廃止、累進課税化により、財源は確保できると述べ、社会保障一元化構想私案を提示。社会保障の企画立案執行機関として社会保障金庫を設置し、社会保険事務所は対人社会サービス・所得保障部門を兼ね備えた「社会保障事務所」へ発展させ、生活保護は廃止し、「ネガティブ・タックス」を導入、年金の受給資格は居住年数だけにする、などを紹介しました。

被保険者先行型保険者に転換を   大阪大学大学院教授
 堤さんは、保険者には、保険者ありきで加入者を集める保険者先行型と、被保険者が集まって助け合う組織としての被保険者先行型の2つがある。社会保険は国が保険者となった保険者先行型であるが、国民みんなの社会保険にするためには、保険の原点に戻って被保険者先行型に保険者の観念を転換する必要があるとの考えを示しました。
 また、医療保険と年金保険は保険者の役割や権限が違うので分離し、医療保険はブロックや都道府県に分割する。一方年金保険は、国とは違う独立した被保険者が運営する組織にする。財源は保険料。現在分かれている企画立案部門と業務執行部門を1本にし年金庁にするという考え方もあるが、年金庁は行政組織としては大きすぎるので、年金保険実施機構を独立させることもあり得ると述べました。

社会保険の理念を伝える責任   朝日新聞記者
 浜田さんは新聞記者として、取材を通して感じた社会保険庁について発言。社会保険庁問題に取り組むようになったのは「厚生年金の空洞化」で取材した時、庁の回答に疑問を持ったのがきっかけ。「三層構造」という単語を初めて活字にしたことも紹介しながら、閉鎖的で警戒心が強い組織は何かが起こると思っていたと述べました。
 社会保険庁バッシングは、年金制度への不信の表れ。「年金崩壊だ」という無責任な報道もあるが、55歳すぎの人は年金は大事だと切実に感じており、そこを前提にしながら取材している。
 問題は制度を支えている理念が知られていないこと。報道側も社会保険の理念を伝えていたか、庁も伝える努力をしたか、メディアが責任を果たさなければならない。

全額国庫負担の最低保障年金を   全厚生書記長
 杉浦さんは、国は憲法25条を活かし年金制度、社会保険行政の拡充をめざすべきで、公務員は国民の権利を保障するために国民の立場に立つもの。全厚生は国民本位の行政改革と真の社会保険庁改革めざし国民とともにたたかうと決意表明。
 年金制度の在り方については、信頼できる制度をつくること。社会保険の「社会」とは国や企業の負担であり、国民年金は憲法25条に基づくもの。社会保障として全額国庫負担の「最低保障年金制度」の確立が急務である。また、財源は消費税でなく小泉構造改革をやめさせ国民本位の財政に転換しようと呼びかけました。
 社会保険庁の不祥事と改革の課題については、民主的な行政運営と公務員制度の確立を求め、社会保険行政の民間開放には反対したたかうとの決意を表明しました。


リレーずいそう
● スーパーボウル
 “スーパーボウル”
 聞き覚えのある人は少ないだろう。
 決してピンポン玉の大きいやつではなく、アメリカンフットボールの最高峰でアメリカ四大スポーツの一つ『NFL』の年間チャンピオンを決める試合のことで、今年は日本時間で2月7日の朝に行われた。全米のみならず世界230ヶ国に中継され、ハーフタイムショーには超のつくトップアーチスト(今年はポール・マッカートニー)がライブを行う。かつてはブッシュ大統領(シニア)がホワイトハウスから生中継で試合前のコイントスをしたこともあった。NFLは全米で一番人気のあるスポーツだが、日本ではMLB(野球)、NBA(バスケ)に比べてマイナーである。
 そんなNFLに出会ったのは20年程前。当時はスーパーボウルのみ放送されていて、偶然見た映像には、2メートル100キロを超える巨体が自分より速く動き、ラグビーボールに似たボールを120キロのスピードで50メートルも投げ、そのボールをトップスピードのままランニングキャッチする。今まで見てきたスポーツでは考えられない事に強い衝撃を受けた。以来その魅力にとりつかれ、本場アメリカまでゲームを観に行き、ここ数年はBSやスカパーで、9月から1月までのシーズンに、3時間のゲームを週に五ゲーム、寝不足になりながら見ている。ただ残念なのは話し相手がほとんど居らず、職場ではM君だけ・・・。
(香川県支部 組合員)


News
● 許すな雇用・賃金破壊 ―大雪の中05春闘3・4中央行動―
 3月4日、3月にしては8年ぶりの大雪の中、東京霞ヶ関周辺で05春闘中央行動が5000人で行われ、全厚生も参加。午前中には青年・女性・パートで厚生労働省前要求行動、平行して国公労連が財務省前要求行動、昼休みには日比谷野音で中央決起集会(写真右)、午後からは公務労組連絡会で人事院、総務省、内閣府、行革推進事務局前で要求行動、女性は憲法改悪反対の議員要請行動など、雪をも溶かす熱気で、終日行動を行いました。


シンポジウムのフロア発言で意見つぎつぎ

民営化反対、わかりやすい制度に、全厚生は国民向けに運動を

 シンポジウムでは14人がフロアから発言。社会保険庁の組織のあり方や全厚生への要望、パネリストへの質問など議論が深まりました。
 ◆ある社会保険労務士の方は、社会保険庁解体論や民営化論の風潮を心配している。社会保険は国が責任もって運営すべき。全厚生はもっと住民に向かって情報発信し、運動して欲しいと発言。
 ◆年金者組合の方は、労働組合は政・財界と正面から対決して欲しい。
 ◆国民年金の現場で働く職員は、不祥事で国民年金保険料が収納しづらくなり苦しんでいる。国民の年金不信は制度改悪から。国民にわかりやすく安心できる制度に。憲法25条に従って国の責任で社会保障として運営を。私たちは国民に喜ばれる誇りある仕事がしたい。「市場化」では担えない、我々の蓄積してきた専門知識や経験を活かしたいと述べました。
 ◆ある年金生活者は、財源がないから消費税ではなく、国の金の使い方を変えて財源をつくるべき。経済財政諮問会議がくせ者。社会保険は民間ではできない。
 ◆東京社保協の方は、全厚生には、大いに国民にアピールして運動していただきたい。
 ◆京都保険医協会の方は、堤さんが提案した社会保険の在り方について、一般論としてはいいが、現状の中では危険ではないか。公共市場をいかに儲けにするかというレポート本「パブリックビジネス」の中で、医療は10兆円、社会保険は4250億円、全体で50兆円の市場を現出できると言っている。ここに今の社会保険の問題があることを見誤ってはいけないと述べました。
 ◆ある区役所の保険年金課で働く職員は、社会保険庁バッシングは、問題ばかり大きくなって、現場でがんばっている人が報道されないのが問題。住民の立場に立てば、社会保険事務所をもっとふやしてもいいと発言。
 ◆京都障害者の生活と権利を守る会の方は、無年金学生障害者の不支給決定は不当と地方裁判所が示した。国民本位の年金制度を議論する時、国民年金45年間の制度設計の不備が生み出した問題の解決に一歩を踏み出していかないと、空論に終わると述べました。
 ◆年金者組合の方は、日本の年金制度は複雑怪奇でわかりにくいので、わかりやすい制度にという運動をしていきたい。
 ◆ある新聞記者は、厚生年金適用問題の取材経験を紹介し、年金に対して国民の不公平感が募ってくるとシステムが破綻する。公平感の担保という点では現場の職員の役割りは大きい。重要な仕事だし、使命感をもってがんばっていただきたいと発言しました。
 パネリストにも質問が多く寄せられました。
 ◆年金者組合の方は、最低保障年金についてコメントを求めました。
 ◆ある大学教員は、介護保険の生みの親である堤さんに、年金給付から介護保険料や所得税の特別徴収(天引き)をする制度設計をなぜされたか。国民の不信感をあおるのではないか…堤さんの思想や考え方、文化をお聞きしたい。
 ◆ある年金生活者は芝田さんに、全額税金で社会保険でない方法は現実性のあることか。浜田さんに、年金者組合にもぜひ取材にきて頂きたい。堤さんに、国か民営化かではない日本に適した制度の在り方と可能性を。
 ◆社会保険の職員からは、芝田さんに、企業責任を明確にしてとる財源は社会保障税かどうか。浜田さんに、メディア側に公務員バッシングは国民受けがいいという思いがあるかどうか。堤さんに、被保険者先行型保険者という理念はわかるが、民間の保険と一緒ではないか、社会保険にたよらないで自分で生きていくという人をどうするか、教えて頂きたい。


パネリストのまとめ発言

財源論など解明

 シンポジウムでは、フロアからの発言を受けて、パネリストの4氏がまとめを行いました。

企業から社会保険税を徴収
 芝田さんは、最低保障年金の財源問題について、社会保障の理念と財源問題は密接に関わる。社会保障は、社会の不平等を修正するものであって、セーフティネットではない。企業は、20兆円の社会保険料を払っているが、企業からの財源を保険ではない方法で徴収する場合は、社会保険税とすべき、との考えを示しました。
 また、社会の扶養があるから社会保険だが、保険料を払わなければ権利性が生まれないのはおかしい。国民年金法は「保険」法ではない。税でまかなうことは可能、と述べました。

メディアにどんどん意見を
 浜田さんは、最低保障年金について、厚生労働省は財務省に支配されないで、保険料を使ってきた経緯がある。財務省が社会保障費を切り込もうとしている中で、税で最低保障年金というのは、なかなか実現が難しいのかと思うと述べました。
 バッシングについては、公務員は社会的に恵まれていて、やっかみもあり、悪役を探す世相の中で、庁が格好の悪役となった。庁のように隠されると取材したくなるのが記者だと述べました。また、変な記事が出たら、どんどんメディアに言って欲しい。でなければ、まじめに社会保障を報道している記者が浮かばれないと述べました。

国でも民営でもない組織を
 堤さんは、年金から天引きする介護保険料について、社会保険の「社会」は社会の扶養ではなく、「強制」であると解明。介護保険に限らず、保険料の徴収は技術でありアート。社会保険には哲学とともにアートが必要。利己的な人間に利他の精神をもてというのには技術も必要で、それは文化、と述べました。
 国の最低限の制度は必要だが、何もかも国がする必要はない。被保険者先行型の保険者にというのは、民営化ではない。それはNHKを受信料ではなく税金でまかなうのか民営化にするのか、という議論によく似ている。国営ではないけれど公共放送があるのもいい。年金も公共性を担保しながら、国民の中で話し合って、決めればいい。

社会保障を最優先する国へ
 杉浦さんは、社会保険職員アンケートでも、わかりやすい制度にというのが一番多く、保険料納付率の後退は制度改悪が原因と多くが回答していることを紹介し、年金制度改悪の国会審議に国民の意見が反映されていないことが問題と発言しました。
 当面、国庫負担3分の1を直ちに2分の1に引き上げること。最低保障年金の財源は全額国庫負担で、社会保障を最優先する国に変えていくこと。なにより平和であることが、社会保障を発展させると締めくくりました。


3・1ビキニデー集会に参加

被爆60年に核兵器廃絶を

 1954年3月1日、太平洋ビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験により、マーシャル諸島の人々や多くの日本漁船などが被災。この事件をうけて原水爆禁止の声が巻き起こり3・1ビキニデーとして核兵器廃絶の運動が行われています。
 今年も3月1日に、静岡県焼津市でこの水爆実験によって亡くなった故久保山愛吉さんの墓参行進および3・1ビキニデー集会が行われ、地元の静岡県はじめ、業務センター、愛知県の各支部から3人が参加。墓参行進は、1800人もの参加者で、焼津駅を出発して、故久保山愛吉さんのお墓のある弘徳院まで、核兵器廃絶と平和を訴え、墓前で黙とうを行いました。その後、3・1ビキニデー集会が行われました。ヒロシマ・ナガサキの被爆から60年の今年、核兵器廃絶への訴えが世界的に高まる中、8月の広島・長崎で行われる原水爆禁止世界大会を成功させようと各国の代表者からの呼びかけがありました。
(愛知県支部 組合員)


参加者の感想
 ●芝田さんの社会保障は「税」であるべき、私も賛成です。(社会保険労務士)
 ●芝田さんの「税」方式への道は険しいのを感じた。政治勢力が変わらないことには具体化は難しそう。(団体職員)
 ●浜田さんの新聞記者らしい視点での発言に、国民の思いを知ることができた。(公務員) 
 ●浜田さんの発言には、社会保険庁、社会保険事務所のかかえる問題点がよく理解できました。(公務員)
 ●堤さんの被保険者先にありきに発想を転換するというのは、目からうろこでした。実際に実現可能なものとするには?と考えると、制度そのものを根本的に変えない限り難しいのではと思いました。(社会保険労務士)
 ●堤さんの「保険者と被保険者のどちらを主役におくのか」という提起は、国民の政治参加意識を問いかけていると感じた。(公務員)
 ●制度を改悪しているのは政府・財界。憲法25条を実効あるようにという杉浦さんの決意は良かった。(保育士)
 ●困難な環境での奮闘ぶりが、杉浦さんの真摯な口調に表れています。硬くて結構です。初志を貫いてください。(元社会保険職員)
 ●シンポジストの配置をはじめとした企画が良かったので参加させていただきました。(大学教員)
 ●全厚生について、年金講師団の活動は知っていたが、一般的にはほとんど知られていないので、今回のようなシンポは大いに歓迎します。(社会保険労務士)
 ●今後もこういう会を一般に開いて欲しい。それが、国民の不信感をなくし理解を深めるために必要だと思いました。(主婦) 

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