◆第1470号(2000年8月15・25日付)◆
2年連続の年収マイナスを強行

一時金0.2月削減、俸給表の改定なし

 人事院は、8月15日、2年連続で年収がマイナスとなる一時金0・2月の引き下げや、「0・12%・447円」の官民較差を扶養手当のみに配分し、俸給表改定を見送ることなどを内容とする勧告を行いました。
 官民較差が史上最低となった99年をさらに下回る一方で、一時金が2年間で0・5月分切り下げられたことにより、その支給月数が1970年代初頭まで一気に後退するという極めて異例の勧告となりました。職場からは、「ますます世の中が不景気になる」との声も出ており、この勧告が、国公労働者と家族の生活を直撃するとともに、人事院勧告の影響をうける750万労働者の賃金に悪影響を与えることは必至です。
 勧告の内容は、左記のとおりですが、官民較差を父母や子等の扶養手当のみに配分した理由について、較差が例年になく小さく、「早期立ち上がり」型の俸給構造を維持するためには技術的に困難であること、また、2年連続となる一時金の切り下げという事態を考慮すると、その被害を最も受けるであろう子等の扶養親族を有する中堅層職員の家計負担等に配慮することが妥当と判断したものと説明しています。

我慢も限界 組合員から怒りの声

 組合員からは、「なぜ、官民較差を均等に俸給表に配分しないのか」「独身者は一時金をカットしても困らないと言うのか」と怒りの声が寄せられています。また、扶養手当の改定額については、左記のとおりですが、扶養親族でない配偶者を有する(共働きなど)場合の1人目の手当額(現行6、500円)や配偶者がいない場合(独身者が親を扶養している場合や1人親など)の1人目の手当額(現行1、1000円)の改定は行われず、「不公平ではないか」との意見や「人事院は、『早期立ち上がり』型の俸給表に固執し、めりはりをつければ高号俸をマイナスにせざるを得ない少額の官民較差を『扶養手当』に配分しただけで、『扶養手当の改善』が本来の目的ではなかったことが見え見えの勧告」との批判も。また、人事院総裁が「連年のマイナスという異例の給与勧告となったが、一層職務に精励を」との談話を発表したことについて、「仕事は増え、定員は減り、ただ働き残業させた上に給料削って、仕事に励めとは、我慢も限界だ」と批判が噴出しています。

能力・実績主義強化の具体化言及に警戒

 このような賃金勧告にくわえ、(1)個人の能力・実績をより重視した給与体系への転換をめざすとする俸給体系の再構築について、「早期に成案を得る」とする姿勢を示したこと、(2)「民間人材の任期付採用」や「若手研究員の任期の弾力化」、「能力・適性に基づく人事管理の推進」、「新府省への移行と適切な管理」などに言及し、行政改革会議最終報告を強く意識した「公務員人事管理の改革」報告をおこなっていること、(3)女性の積極的採用・登用の拡大や、介護期間の延長や子の看護にかかわる休暇についての検討姿勢を示したこと、などの特徴点があります。とりわけ、俸給体系「見直し」作業と、能力・実績に基づく人事管理推進のための評価システム検討を本格化させることを同時に言及したことは重大であり、賃金体系改悪反対、公務員制度民主化の取り組みの強化が求められます。
 全厚生は、「年収切り下げとなる給与法『改正』反対」の要求を掲げ、2000年秋闘に全力をあげる決意です。

─2000年勧告の主な内容─
◎給与勧告のポイント
(1) 基本給(俸給表)の改定の見送り
(2) 子等に係る扶養手当の引上げ
(3) 期末・勤勉手当(ボーナス)の引下げ(△0 .2月分)
→ 平均年間給与、2年連続の減少(△6 .9万円(△1 .1%))
◎官民給与の比較
約7,600事業所の約46万人の個人別給与を実地調査(完了率95%)
〈月例給〉 官民の実際に支払われた4月分給与を調査(べア中止、賃金カット等の企業の状況も反映)
単純な平均値ではなく、職種、役職段階、年齢など給与決定要素の同じ者同士を比較
〈ボーナス〉 過去1年間の民間の支給実績(支給月数)と公務の年間支給月数を対比
○官民較差(月例給)
447円0 .12%〔行政職(一)・(二)現行給与375,269円 平均年齢40 .5歳〕
〈俸給表の改定は行わず、扶養手当により措置〉
〈配分〉 扶養手当 413円 はねかえり分 21円 計434円
(1) 官民給与の較差が例年になく小さく、従来どおり、配分にめりはりをつけた俸給表の改定は困難
(2) 連年のボーナスの引下げにより、特に家計への影響が大きいと考えられる中堅層職員に配慮
〈ボーナスは民間の支給月数に見合うよう引下げ〉
◎改定の内容
(1) 扶養手当・子等のうち2人目までの手当額 1人につき5,500円→6 ,000円
(500円引上げ)
・子等のうち3人目以降の手当額 1人につき2 ,000円→3 ,000円
(1 ,000円引上げ)
(2) 期末・勤勉手当等
年間支給月数 4 .95月分→4 .75月分(△0 .2月)
12月期で引下げ 期末手当 1 .75月分→1 .6月分(△0 .15月)
勤勉手当 0 .6月分→0 .55月分(△0 .05月)
〔実施時期〕 平成12年4月1日
調整手当の支給地域等について、地域における民間賃金、物価及び生計費の実情に応じて見直し(平成13年度から実施)

リレーずいそう
杢太郎「百花譜」に想う

  敗戦記念日、広島・長崎に原爆の投下された月。近年はお盆の時期に夏期休暇をとっています。たまたま十四日が誕生日でもある八月。
 1月、5月、8月など少し余裕のできたときには、木下杢太郎の「百花譜」(岩波書店1979年刊)をひろげます。43年から60歳で病没する3か月前、敗戦直前の45年7月までの2年余りの間に描かれた782枚の植物画集です。ときに応じて短い書き込みの添えられた絵もあります。
 たとえば「昭和18年5月12日。夜9時50分 このあおすげを画きてある時 警戒警報のサイレン鳴り渡る。」
 あすなろの枝葉の絵には「昭和18年9月7日、石神井の途上に得。9月9日夜写。9日午後イタリア無条件降伏のラヂオ有りたり。」
 あけびの花には「昭和20年4月13日。夜10時温度17度。11時敵機百数十機の皇都大爆撃始まる。」
 最後の872枚目はやまゆりの花で「昭和20年7月27日、胃腸の痙攣、疼痛なを去らず。安田、この花を持ちて来る。後之を写す。運勢たどたどし。」
 近代日本を代表する知識人、ハンセン病の研究に貢献した医学者で詩人、劇作家でもあった杢太郎の植物画は、事実にもとづく科学者の知性と芸術家の誠実さのにじむもので心をうちます。
 いま再び戦前の始まりかとも感じられるとき、この植物画集を開いた夏期休暇の一日でした。

(大阪支部 加納忠支部長)


News

●社会保障行政の発展を
 −岐阜県支部が定期大会を開催−
 岐阜県支部は7月22日、岐阜市内の県民ふれあい会館において第34回定期大会を開催しました。大会の冒頭で澤村支部長は、「定員削減をはじめとして公務員に対する厳しい攻撃が続いている。省庁再編が来年1月に控えており、私たちの職場も大きな変化を避けて通れない状況となっている。私たちは職場を守り、本来国が行うべき社会保障行政を発展させる立場でたたかうことが重要であり、とりわけ組織された労働者としてのたたかいが求められている」と挨拶しました。
 議案の討議では、この間取り組んできた団体署名、国民年金の事務のあり方、ブロック採用、超過勤務の実態などの発言があり、定員削減と一部の事務の外注、2002年からの事務のあり方などについては、問題の整理をしながら職場討議を通じて要求を提出する必要があることなどを議論し、運動方針、予算案を満場一致で採択しました。
 選出された新役員は次のとおりです。  ◇支部長 澤村明 ◇副支部長 真田清司・鈴村弘子・横山泰成・熊田学・駒屋悟 ◇書記長 蒲修 ◇書記次長 北川裕一


多くの国民に理解され 支持と共感を得る活動を
全厚生大会のポイントを杉浦書記長に聞く

21世紀幕開けにふさわしい方針の確立を

Q:今大会の課題は何ですか。
A: 今年の大会は、21世紀の幕開けにふさわしい全厚生運動の方針を確立する、この点が最大の課題です。
 いま、政治も経済も社会も、そのどこを見ても、病んだ姿を見せ、まさにゆきづまりの状態です。本来、生活を豊かにするための政治が腐敗し、国民に犠牲を強いる悪法を次々に強行しています。
 この深刻な社会のゆきづまりをかえるために、改めて、この国の舵取りの方向、働くルール、厚生行政のあり方などを議論したいと思います。時代の転換点だからこそ、職場と地域にある様々な思いを出し合い、基本点をしっかり討議する大会にしたいと思います。

行革闘争はじめ職場・地域に根ざす組合活動を

Q:方針案で議論してほしい中心点はどこにありますか。
A: 大会議案は、全体を通じて、職場と地域に根ざす組合活動を重視し、切実な要求実現をめざし、一歩一歩、着実に前進するために奮闘しあうことを呼びかけました。
 その中で、特に強調したのは、社会保障の拡充、厚生行政の民主化をめざすたたかいです。この課題は、「厚生行政の担い手である全厚生の存在意義をかけた重要な課題」と位置づけました。
 また、定員削減に反対し、増員を求めるたたかいは、「総力をあげる」ことを提起しました。
 2001年1月から、厚生労働省が発足します。中央省庁再編では、首相の権限や内閣機能の強化がねらわれ、新たな行政評価制度の導入など、強権的でトップダウンの国家行政システムの構築がめざされています。厚生労働省の任務では、社会保障構造改革や労働分野の規制緩和を積極的に推進することを掲げています。この点は、注視しなければなりません。
 こうした情勢のもとで、これまで全力を尽くしてきた行革闘争をはじめ、諸闘争をさらに発展させなければなりません。国公労連が提唱する基本スローガン、「いま、国民の中へ国民とともに」を全厚生運動の中にいかに生かしていくかを、ぜひ深めたいと思います。

国民のための厚生行政めざす全厚生の役割は

Q:行政民主化のテーマは、職場からどのように議論したらよいのですか。
A: 率直に考えてみたいことは、社会保障を切り捨てる攻撃、公務員の新たな定員削減、予算不足などで、心ならずも、厚生行政が国民に犠牲をしいる結果になっている点です。それも、一人ひとりの職員の懸命な努力にもかかわらずです。
 私たちのたたかいは、多くの国民に理解され、支持と共感を得ることが何よりも必要です。まず、行政の現場である職場から、厚生行政を国民の立場で見直し、検証することが重要だと思います。公務員は、憲法を守る義務を負っています(=憲法尊重擁護の義務)。厚生行政の基本にすわる憲法25条は、「国は、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」と高らかに宣言しています。この点を真摯に受けとめ、国民のための厚生行政をめざす立場から、全厚生の役割を掘り下げてみたいと思います。それも、本省庁、試験研究機関、福祉施設、社会保険のすべての職場からです。
 こうした活動を進めながら、労働条件の改善に取り組みたいと思います。

組合民主主義に魂入れる活動を交流しあおう

Q:最後に、職場活動の課題で強調したいことは、何ですか。
A: 基本にたちかえり、職場活動をつくりあげることが大切だと思います。
 要求づくりの基礎は、話し合いです。「みんなで討議し、みんなで決めて、みんなで実行する」ことです。しかし、この活動は実のところ、意外にしんどい課題なんです。組合民主主義に魂を入れる、この点で各支部の粘り強い、不断の努力や実践について、大会で交流したいと思います。
 組合活動を前進させるためには、集団の英知を集める努力が一層求められています。仲間の声を反映した豊かな大会方針を確立するために奮闘し合いましょう。新たな決意をもち、果敢に挑戦し、かつロマンを語りあう大会をつくりあげましょう。

核兵器のない世界へたたかいつづける
   原水爆禁止2000年世界大会に参加して 中央執行副委員長 加藤重徳
 人類最初の被爆地広島は8月6日、惨禍から55周年の「原爆の日」をむかえました。今世紀最後となるこの日早朝、私は原爆慰霊碑と原爆ドームに頭を垂れ、核兵器のない世界の実現にむけて、たたかいつづけることを誓いました。平和公園の木々の蝉しぐれが、耳を聾するばかりに私をつつんで来ました。
 原水爆禁止2000年世界大会国際会議が2日から4日、同世界大会・広島が4日から6日ひらかれました。海外代表は19カ国77人。政府関係者、平和運動団体、NGOなど国際団体など実に多彩な顔ぶれ。6日の閉会総会には7500人が結集しました。その中には全厚生の仲間、10数人の顔もありました。
 今年の広島で痛感させられたのは、核兵器廃絶を求めた反核運動が世界各地で大きく広がっていることでした。運動が、広島・長崎の被爆者を真中に、核実験場による放射線被害者、市民・環境団体、研究者へ広がりを見せています。
 韓国から参加した環境団体のリム・サムチンさんもその一人。グリーン・コリア・ユナイテッド(韓国緑色連合)の事務局長のリムさんは、「すべての核兵器はいますぐ廃絶されるべきです。アジア・太平洋地域に非核の平和地帯をつくりましょう」(2日・国際会議)。
 核実験場による被害者の結集も目をみはらせるものがありました。
 アメリカ・ネバタ実験場地域の被害者のデニス・ネルソンさんは「『死の灰』は父、母、妹の命を奪い、弟と私の健康を蝕みつづけている。ヒロシマ・ナガサキは、日本の人々だけでなく、全世界に対する攻撃でした。核兵器のない新しい千年紀への道を照らす光となることこそ、平和を愛する私たちの共通の願い」と、語りかけました。

障害を持った子が欲しいですか 核実験場被害者の レナータさん訴え

 カザフスタン(旧ソ連)のセミパラチンスク核実験場近くで、放射能の影響と見られる手足が短いなどの特徴を持って生まれたレナータ・イズマイロワさんもその1人。昨年の同大会に参加を予定しましたが、体調をこわし断念。父親と初来日を果たしたのです。彼女は18歳の少女。体重約15`、身長は約80a余しかありませんが、詩を書いたり絵を描いたりするのが得意。彼女は大学に進み、弁護士になるのが夢だそうです。
 「私は核実験場の被害者。つらい運命ですが人生をあきらめたくありません。私は核兵器を製造して貯蔵することに賛成な人たちに聞きたいです。『私のような障害を持った子どもがほしいですか』と」。国際会議と閉会総会で、胸にしみとおるような声で訴えました。澄み切った瞳がほんとうに印象的でした。
 アメリカ・カリフォルニアにあるローレンスリバモア国立研究所の研究員だったアンドレアス・トゥパダキスさんは、携わっていた研究が核兵器の長期的な維持管理であることを知り、今年1月に研究員を辞職、全米各地をバスで回り、平和、核兵器廃絶、健康、環境問題について語る活動を続け、今回初めて国際会議・大会に参加しました。
 トゥパダキスさんは国際会議(3日)で、「私は気高い要請、自分の良心に従いました。物理学者アインシュタインは『他人のために生きる人生のみが、価値ある人生である』と言いました。平和を手にするために戦争に備えるという幻想は、人類の意思ではありません。平和のために平和を作るというのが、人間の願いです」と、発言しました。 (次号につづく) 

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