◆第1416号(1998年10月25日付)◆
●独立行政法人化やめよ
中央省庁等改革推進本部に申し入れ

 全厚生は10月22日中央省庁等改革推進本部事務局に対して研究機関機関の独立行政法人化等に反対する申入書(全文掲載)を提出し、試験研究機関等の独立行政法人化に反対する要請を行いました。
 申し入れには、杉下委員長、加藤・藤巻両副委員長、岡野書記長のほか、感染研支部・萩原支部長、国立衛研支部・高井書記長、栄研支部・斎藤支部長、樋口行革対策委員の8名が参加。推進本部事務局からは、労働福祉省担当の伊東参事官ら6名が出席しました。
 杉下委員長は冒頭、今回の中央省庁再編は厚生行政の在り方が議論されないまま、減量化中心となっている。特に、厚生省所管の試験研究機関は国民の命を守るという歴史的経緯があり、国立試験研究機関として存置する事は当然ではないかと指摘しました。
 栄研支部の斎藤支部長は、栄研は大正9年に世界で最初の栄養研究所として発足して以来、国民栄養調査、栄養所要量の策定など、国民の栄養状態の改善、健康の維持増進のために厚生行政を直接あるいは間接的にサポートし続けてきた。生活習慣病が多発する中、こうした研究の充実が必要であり、独立行政法人には馴染まない。と指摘しました。
 国立衛研支部の高井書記長は、医薬品の承認・審査に関わって、薬害問題があったが、医薬品の管理については国が責任を持つべきであり、今問題となっている化学物質等の問題について国の責任を果たすべきで、国の試験研究機関として存置すべきと主張しました。
 感染研支部の萩原支部長は、感染研の果たすべき役割からして独立行政法人化の対象とされたことに理解できないと指摘しました。
 最後に杉下委員長が慎重な検討を求め要請を終了しました。


「労働福祉省」創設と厚生省の試験研究機関の独立行政法人化等に反対する申入書

1 貴職において「中央省庁等改革基本法」(行革基本法)に基づく関係法案の改訂の検討や計画の策定が進められています。
 私たちは、真の行政改革は国民生活に関連する部分の充実と政・官・財の癒着を断ち切ることであると考えており、数あわせやスリム化に焦点を絞った今回の改革は、到底受け入れられるものではありません。

2 厚生省と労働省を統合・再編する「労働福祉省」創設は、減量、効率性のみを狙いとすることは明らかであり、行政の独自性・専門性を薄め、国民の基本的権利である労働権、社会福祉・社会保障に対する国の責任が放棄され、自己責任による社会的弱者の切り捨てなどの懸念があります。

3 厚生省が現在行っている調査統計はまさに政策判断や企画・立案の基となっており、一元化や民間委託によりスリム化することは省全体の業務に支障が出る恐れがあります。さらに、一元化による処理期間の問題やプライバシー保護の問題、調査権限の問題などの課題のクリアが必要であり慎重な検討が求められています。

4 国立試験研究機関を独立行政法人化することについて、私たちは、経常研究費の保障や評価方式・期間の問題、身分保障の問題、基礎的・長期的研究が切り捨てられる恐れ等を指摘してきました。加えて、厚生省の試験研究機関に関しては、すべての機関が行政との連携を恒常的に持つ必要があり伝染病の拡大などの緊急時は共に情報収集から対策まで実施するなどまさに政策研究所であり、採算性の問題や感染症拡大防止や不測の事態に備えた医薬品等の確保など衛生面での安全保障、生活習慣病対策など慢性的疾患への健康危機管理の観点から国の機関として存続させるべきだと考えます。厚生省の試験研究機関は、現在統合・整理計画の真っ最中であり、さらに薬害エイズやO157などの事件による組織再編も行われ、今回の行政改革も加わり、現場の研究者は混乱と不安の極みといった状況にあります。そもそも、国民の衛生面での安全対策や健康・栄養対策が進めば患者数の減少につながり、しいては医療費の削減となるものであり、重点的に体制を強化する必要があると私たちは考えます。

5 5月29日に閣議決定された「地方分権推進計画」では、地方分権推進委員会第3次勧告で示された地方事務官制度廃止に伴い、社会保険事務所について厚生省の地方支分部局とすることとされています。
 行革基本法では、地方支分部局の整理及び合理化を推進することとされていますが、社会保険事務所は、国民の生存権を保障する目的から発展した社会保険制度の事業運営の第一線の窓口であり、保険料徴収、保険給付、年金給付など、公的保険、公的年金制度の事業運営は少子高齢社会の到来とともに、その重要性をましており、社会保険事務所は、国民生活に密着した第一線の行政機関として拡充されるべきものであると考えます。

6 私たちは社会保障・福祉・衛生を担う厚生省に働く職員で組織する労働組合として、「社会保障構造改革」の推進をうたった行革基本法による行政改革の国民生活への重大な影響を憂慮し、下記の点について申し入れるものであり、貴職の誠実な対応を求めるものです。


1.国民生活に重大な影響を及ぼす「労働福祉省」創設を撤回すること。
2.厚生省の試験研究機関を独立行政法人化しないこと。
3.社会保険事務所の整理・合理化を行わないこと。
4.各省庁とのやりとりも含めた情報公開を行うこと。



●国研で存続を=厚生科学課と意見交換
 全厚生は10月22日、厚生科学課と独立行政法人化問題で意見交換を行いました。全厚生から杉下委員長ら本部役員をはじめ、感染研、国立衛研、衛生院、栄研、ハ病研、人口研の支部代表が参加しました。厚生科学課からは西沢研究企画官、須田課長補佐らが出席。
 この日の懇談は、中央省庁等改革推進本部事務局が、厚生省所管の研究機関について、健康・栄養研究所のほかに感染症研究所と医薬品食品衛生研究所を独立行政法人の対象機関にリストアップしたのを受けて行われたもの。
 杉下委員長が厚生科学課としての対応についてただしたのに対して、西沢企画官は、「3研究機関とも厚生省の研究機関として存続させるという基本姿勢に変わりはない。いずれも独立行政法人にはなじまないと考えている」と述べました。
 全厚生は、「独立行政法人反対、国研で残せ」と中央省庁等改革推進本部に対して引き続き申し入れを行うとともに広範な研究者・学者への要請行動を強化していきます。


●昇任・昇格の改善を=女性・青年が人事院に要求
 10月15日、国公労連女性協と青年協が昇格要求で、昼休み人事院前要求行動をしました。全厚生からは、本部女性部はじめ統計・人口研両支部から17人が参加しました。


●教宣活動みんなで=香川県支部・定期大会開く

 香川県支部は、9月7日、定期大会を開催しました。冒頭、森支部長のあいさつでは、1年間の活動を総括するなかで昨年秋のストライキ準備体制にふれ、今後も事態によっては同様な展開もありうることを念頭に行動してほしいとのべました。また、来年に予定される年金制度「改正」の問題や今後の社会保険のあり方について論じ、いまだ労働者層に年金制度自体があまり知られていない実態を指摘し、今後の教宣活動への全員参加を呼びかけました。
 また、山本中央執行委員が、機関委任事務廃止及び独立行政法人等、私たちの身分問題について現状と今後の争点を話しました。
 大林書記長が16の項目に渡り97年度の活動報告と98年度の方針提案をし、満場一致で採択されました。
 選出された新役員は次のとおりです。
 支部長  森  芳清
 副支部長 安田 寿嗣
  同   下元 克彦
  同   和泉 彰司
  同   高橋 英二
  同   大林 謙二
 書記長  香川 博
 書記次長 戸村 武史


●地元職員の登用を=社会保険庁に申し入れ
 全厚生は、10月26日、社会保険庁に対して地元職員の幹部登用を求める要求書を提出し申し入れました。申し入れには、杉下委員長をはじめ本部役員4名が出席、社会保険庁は、吉武総務課長らが対応しました。
 杉下委員長は、社会保険庁が今なお一方的な幹部人事を行っていることを厳しく指摘し、将来に展望をもてる対応をするよう求めました。
 吉武総務課長は、「重要なポストでありふさわしい人材の登用が重要。地域との接点も強いが全国規模の事業である。地元職員を登用しないと決めてかたくなに守ろうというものではない」と回答しました。


●あこがれのスウェーデン・豊かな先進的な福祉国家を見る(下)
全厚生北欧福祉視察に参加して−中央執行副委員長 杉崎伊津子−

 全厚生福祉視察団の一行は、ストックホルム市役所近くの老人施設、サービスハウスと同じ建物の階下にある痴呆症のグループホームを見せてもらいました。スウェーデンの老人福祉の中でグループホームといえば痴呆症を持った人たちの住居を指すそうです。今後、グループホームがますます増えると予想されています。
 グループホームは大体5、6人の共同生活です。
 私たちが見学した時はリビングでティータイムでした。みんな、ちゃんと素敵な洋服を着て、アクセサリーをつけて、一見、痴呆症とは見受けられません。もちろん、ヘルパーがいっしょにお喋りの中に入っています。
 共同生活のキッチン、食堂も明るく、普通の家庭と同じようなインテリアになっています。
 料理は匂いによる刺激で食欲を出すために効果があるのでみんなで食事の準備を行うそうです。
 個室は1DKのつくりになっていて、家族などの訪問の時に、一緒に食事ができるようになっていました。
 痴呆症の治療法はいまだ見つかっていません。住環境や介護の対応の仕方によって、その悪化をずいぶん、遅らせることができる事を発見し、グループホームはその試みの一つなのだそうです。
 デンマークより、痴呆症対策は前進しているようです。

税収6割が市民への直接サービス
 「寝かせきりのない国」「困難な病気を持っていても在宅で尊厳ある、質の高い暮らしを続ける」「どの政党が政権を握っても福祉政策の削減はしない」という国民合意が実現されています。
 世界中に知られている税金の高い国。市の所得税30%、消費税25%。しかし、教育費は無料、社会保険、雇用保険、児童手当と手厚い給付システム。平均年収400万円ほどでも3週間以上のバカンスが普通の生活と言います。年間労働時間1800時間と言いますが実質は1500時間くらいとか、「天国に一番近い労働者」とも言われています。
 税金が高いか安いかは、国の施策によって国民の生活にどれだけ還元されるかではないでしょうか。ストックホルム市では税収の61%が市民への直接サービスに使われているのです。
 スウェーデンの豊かな生活を支えているのは「すべての分野で公正であること」「男女ともに機会均等」「平和」「自由と平等」「安全、安心」「連帯と共同」この6つの基本理念です。
 特に高負担を前提としている高福祉型社会は手順や結果が「公正」でなければ国民が財布を持ち寄り、未来に投資して社会資本を形成していく連帯行動が取れなくなります。特に政治家、公職者に高い公正な倫理観が要求されています。

日本の福祉政策は50年遅れと実感
 スウェーデンは180年間戦争をしていません。日本はどうでしょうか。日本は日米安保条約によって軍事予算が膨脹しています。さらに新ガイドラインで戦争準備を進めようとしています。社会保障と戦争は両立しません。まさに、「軍事費を取るか」「社会保障を取るか」は国民がどういう政治を主体的に選ぶかにかかっているのではないでしょうか。
 日本のように女性を男性の扶養家族としてさまざまな制度、政策が作られているのでは高齢化社会を安全、安心、公正、機会均等という理念をもって連帯し、共同する社会にはならないだろうと希望がしぼみます。福祉を発展させるためにはどの国にも半分は存在している女性の社会への参加、自立した生活が鍵です。
 日本の福祉政策は50年は遅れていると実感しました。政府は自助努力をいう前に「せめて基礎年金くらい誰にでも支給せよ」といいたい。
 スウェーデンの社会、福祉政策についての資料を紹介しますのでぜひ、図書館、大きな書店で手に入れてお読みください。▽「スウェーデンを検証する」岡沢憲芙・著(早稲田大学出版部)、「『スウェーデンの経済』福祉国家の政治経済学」岡沢憲芙・奥島孝康・編(早稲田大学出版部)、「スウェーデン超高齢化社会の試み」ビヤネール多美子・著(ミネルヴァ書房)
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