参議院行財政改革・税制特別委員会の審議
(国公労連「行革闘争ニュース」1999年7月1日付 第134号)
−6月30日午前の討論

 6月30日午前、参議院行財政改革・税制等に関する特別委員会は、中央省庁再編法案と地方分権一括法案の審議を行い海老原義彦(自民)、亀井郁夫(自民)、山下八州夫(民主)の各議員が質疑討論を行いました。
 各議員が行った質疑討論の要旨は、以下のとおりです。

〈自民党・海老原義彦議員の質疑討論〉
海老原議員 林野行政について、天然林にちかい人工林を作ることが大切だが、天然林を保全することも重視すべきと考える。木のウロがなくては、フクロウが育たない、フクロウがいないとネズミが繁殖する。天然林を重視することをどのように考えているか。
中川農水相 森林空間を大切にしたい。天然林は、環境庁とも協力しその植生を生かし、保持し、管理していきたい。
真鍋環境庁長官 長江の水害のあと、周辺にはネズミが大量に発生した。自然の生態系の調和を大切にしたい。天然林は、景観、生物の保存、人と自然とのふれあい、国土保全等の観点から適切な保全をはかりたい。国民のニーズに合った保護育成に勤めたい。
海老原議員 環境を保護するための林業の施業は難しく、多面的なものが求められる。古い林家の協力を得ながら、知識はないが熱意があるNPOの協力を得てはどうか。
中川農水相 NPOやボランテアは国民的理解を得るためには大切であるし、自然と子供との触れあいも大切である。子供を育てるインストラクターやそのための人材育成に取り組みたい。
真鍋環境庁長官 国立公園の管理にボランテアの協力を得ている。箱根でボランテアを募集したところ、多くの応募があった。NPOやNGOの活用の場を作りたい。
海老原議員 国有林野事業の基本法ができた。今後の方策について伺いたい。
中川農水相 経済林を少なくし、職員の大幅な減少について労使間で合意もできた。3兆8000億円の赤字を50年かけて自助努力で1兆円返す。残りの2兆8000億円と利子を一般会計で補填する。国有林・民有林一体的に森林空間、そこで働く人、木材産業など全体的な発展をめざしたい。
海老原議員 林野庁と環境省との間で所掌がダブっている。林野庁でたてる森林計画と環境庁でが作る森林計画とどう違うのか。
河野内閣審議官 林野庁は、基本法の精神に照らして森林の増産に努める。環境庁は、環境基本計画に従うが、相互に調整を行いながら計画を立案する。
海老原議員 これからの林業は環境保全の面が大きくなるものと考える。林野行政は、環境省に入れることも考えられるが、一方、農業と林業の一体性との問題もあり、将来見通しとしてどのように考えるのか。
野中官房長官 農水省には森林の育成・管理の仕事があり、環境庁には環境保全の仕事がある。基本法をベースにして考えたい。ただ、政治家としては、委員と同じ見解を持つが、業として成り立ちにくい産業であり、国が手をさしのべる必要がある。環境政策の一つの柱であることから、農水を含めて考えなくてはならない。

<自民・亀井郁夫議員の質疑>
亀井議員 地方分権にともない教育行政について地方へ権限移譲するものも多いが、馴染まないものもある。教育の地方分権をどのような観点ですすめるのか。
有馬文部大臣 教育行政の役割は憲法に定められた権利保障にあり、全国的な教育機会の均等や教育水準の維持・向上をはかるために、国・地方公共団体との連携を強めていく。国は、教育制度の基本や全国的な基準、財政援助など国全体の整備・発展をはかるため、責任をはたしていく。
亀井議員 広島ではこの間、文部省などの調査団が教育現場にはいり是正勧告等が行われたが、緒についたばかりで、初等・中等教育について、地方へ大幅に権限を移すことに危うさを感じる。今回の地教行法改正では、第43条で文部大臣の市町村教育委員会に対する服務監督権限が廃止され、基準設定だけとなったが、それで学校の秩序を維持できるのか、引き続き文部大臣は指導できるのか。
有馬文部大臣 服務については、国が技術的基準を設け、都道府県や市町村と協力し一体となって円滑な執行ができるようにしたい。
亀井議員 第48条では、これまで文部大臣が必要な指導・助言・援助を「行う」となっていたものを「行うことができる」となり、市町村は文部大臣に指導・援助・助言を求めることができるとされた。市町村から要請があったときだけ文部大臣が関与するのか、文部大臣が必要と判断したときもできるのか。
有馬文部大臣 両方できる。市町村教育委員会が主体的に教育行政を行うが、第48条1項の規定により、市町村の求めのない時でも文部大臣が主体的に判断し指導・援助はできる。
亀井議員 第49条で都道府県教育委員会が教育水準の維持向上のため必要な基準をつくる権限を削除したが、教育水準にアンバラがでたり、県教育委員会の指導力が低下しないか。
有馬文部大臣 県は学校の適切な管理運営について、必要な指導・援助することができるので、特段、問題は生じない。
亀井議員 第52条で、文部大臣が法令違反や教育機会の阻害に対して排除・改善できる権限が削除されたが、文部大臣が必要と認めたときの指導性は維持されるのか。
有馬文部大臣 地方公共団体における事務処理が法令に違反し著しく適正を欠く場合、是正要求の指導を行うことになる。
亀井議員 独立行政法人について聞きたい。行革基本法では国民生活や社会経済上著しく影響を及ぼす特定業務を担う職員を例外的に国家公務員の身分とする、としていたが、対象の89機関7万4千人のうち、85機関7万人に特定業務として国家公務員の身分を与え、一般業務は4機関4千人でしかない。独法化の形をみると奇異に感じる。主客転倒ではないか。研究所や病院が多いが、これらに国家公務員の身分を与える仕事は見当たらない。主として良好な労使関係に配慮して国家公務員の身分を与えたのか。また、新採用者にまで国家公務員の身分を与える必要はないのではないか。。
太田総務庁長官 独立行政法人は、組織として企業会計でディスクロードするし、民間と同じように外部監査を行う。長は国家公務員の身分を持たない、特別職になり、任期途中の交代もありうる。従来の親方日の丸とは全く違う。したがって、国家公務員の身分かどうかは大事なことではない。
 身分の規定では、「国民生活と社会経済の安定に直接かつ著しく支障を及ぼすもの、その他の事情を総合的に判断」することになっているが、多くは「その他」を適用して国家公務員の身分とした。必ずしも良好な労使関係だけで判断したのではない。新規採用者を安易に採用すれば評価が厳しく判断されることになる。
亀井議員 国家公務員の身分の有無は大したことはないというが、国民は関心が強い。経営形態が変わっても、国家公務員の身分を与えては活力あるものになるのか。今と変わらないのではないか。
 国家公務員の身分を与えられる者と、与えられない者とどこが違うのか。
太田総務庁長官 労働基本権制約の「ある」「なし」につきる。給与は人勧と中労委裁定の違いがある。
政府委員(河野内閣審議官) 争議権の有無、労働条件や服務規律の規定が法令か就業規則か、定員管理内か外かの違いがある。
亀井議員 争議権の有無が基本ということだが、それだけで85機関を特定業務にしたことは理解に苦しむ。今後、独立行政法人の実施にあたっては、身分にこだわらず、自由に運営すべきだ。その点で、新会社を弾力的で活力あるものにするため、特定のテーマについて機関を限って民間活力を積極的に活用し、減量化をすすめるべきだ。
太田総務庁長官 独立行政法人は、自己責任・弾力的運用のため設立したのであり、当然、設立後、民間委託については最も意を用いて減量化をはかっていく。
亀井議員 独法化の業務評価委員会の役割が重要となるが、総務省の評価委員の選任にあたっては、その重要性から国会の承認が必要ではないか。
太田総務庁長官 通常の審議会同様、総務大臣の所管となる。国民から注目される評価を行う委員の人選では総務大臣の真価が問われる。総務大臣が責任をもって行う。他には任せられない。
亀井議員 独立行政法人は評価があり、次へすすむが、特殊法人も評価できるようにするか、評価基準をつくるべきだ。
太田総務庁長官 特殊法人の業務肥大化や民間圧迫の指摘を受けて、今の枠組みの範囲で整理・統廃合などの改革を行ってきた。独法化が設けられた段階で、特殊法人についても新しい物差しを当てる必要がある。民営化や整理縮小をすすめ、存続の必要なものについては、独法化にふさわしいかどうかを検討していく。評価については、各省の監督権限となるが、当然、各省の評価は特殊法人も対象となる。
亀井議員 独立行政法人の対象機関のうち、50研究機関・8000人の研究者が1600億円の予算をつかっているが、民間企業の研究費にくらべても少ない。基礎研究を疎かにせず、研究者に配慮せよ。
太田総務庁長官 運用交付金は十分配慮したい。3〜5年の中間目標の達成が重要だが、研究機関の長が国民への説明努力も大切だ。
亀井議員 研究者の研究結果の正しい評価の一つとして特許があるが、年間約40万件の申請のうち、国の機関からは1049件と極端に少ない。これを評価基準に入れ、国の知的財産とすべき、ということを表明し質問を終わる。

〈山下八州夫議員の質疑討論〉
山下議員 地方分権法は、防衛・外交・通貨・社会的規制等国が果たすべき役割を国が担い、そのほかのものは出来るだけ地方へ移譲すべきである。第3の改革などと首相は言うが、地方分権などという言い方は、お上意識が抜けていないからである。地方主権とすべきである。
太田総務庁長官 第3の改革という言い方には、私は異論がある。昭和22年頃の我が国の状況は、国民の手で自主的に改革しようという気運があっただろうか。自主的ということであるなら130年ぶりのことである。地域主権推進法という考え方は、目から鱗がおちる思いである。
野中官房長官 「主権」という言葉の使い方に法律的な問題が残るが、自己決定・自己責任としての「地域主権」という言い方は一つの見識と考える。国と地方との関係は、明治以降短期間に近代化の中で中央集権化が進められ、戦後新憲法が制定されても国と地方の関係を上下関係と捉えられてきた。この点を廃止したのは、大きな前進と考える。
山下議員 機関委任事務が廃止され、地方公共団体の自立性が高められたのは一定評価できるが、地方に仕事を与えながら税財源には触れられていない。どうするのか。
宮沢蔵相 国の財政・地方の財政・国全体の経済は昭和62年のところへ逆戻りしている。将来、経済全体が成長過程にのったとき、中央・地方の税財源の再配分をしなくてはならない。本年度の予算を編成する際に、一番深刻に考えた問題である。タバコ税の一部を地方にまわしたり、かなりやりくりをして国として出来る限りの財政支援を行った。
山下議員 平成11年度予算の措置は、財政事情悪化のための措置であり、分権のためのものではない。「金は力なり」である。地方活性化のために、所得税の10%、あるいは所得税から10兆円を地方へ回せないか。
宮沢蔵相 国税のあり方は抜本的に見直さなくてはならない。所得税は、国全体の所得の再配分の問題である。所得は都会中心なのでナショナル規模でやる必要がある。
山下議員 タバコ税2兆円のうち1兆円は国にはいっている。これを地方へ回し、酒税の2兆円を地方にまわす。酒税は引き上げられる余地がある。タバコ税と酒税は偏在性がないから、この4兆円を地方に回せないか。
宮沢蔵相 タバコの課税権、酒の課税権を地方に移すと、これらの値段が地方によって異なることとなる。
野田自治大臣 財政は国も地方も病んでいる。自治相といえども、地方財政のことだけを主張するわけにはいかない。共倒れになる。まずは、経済の建て直しをする必要がある。財源は国が6割であり地方が4割であるが、歳出は国が35%であり地方が65%である。この乖離を解消することが、地方の自主性・自立性を発揮することになる、という点については同感である。
山下議員 地方分権を進めるに際して市町村の合併を進める必要がある。特例法によると、地域での自主的な動きを無視して、国による合併推進の動きが強まる恐れがある。
野田自治大臣 地域住民が主役であり、住民の発議権を重視したい。ガイドラインを示しながら市町村の協力を得たい。
山下議員 現行法では、市は5万人以上の人口が必要ということになっているが、いったん市となり、その後人口が減っても、そのまま市として認められている。人口が5万人を割ったら、市として認めないということにしたら、人口の減少が近隣町村との合併につながるのではないか。
野田自治大臣 悩ましい問題である。人口が減ってサービスが低下していいのかという問題がある。お話の趣旨は、合併促進という観点からのご意見と承ったので、勉強させてもらう。
山下議員 47都道府県の合併促進がもっと考えられていいのではないか。政令指定都市は、人口50万以上となっているが、50万以上の市は20市、40万〜50万の市が20市ある。これらの周辺市町村の合併を促進させ、政令指定都市としてはいかがか。
野田自治大臣 47都道府県の合併は中長期の問題としての検討課題であるが、当面は、市町村の合併を促進したい。明治以降、都道府県は定着している。これを無視するわけにはいかない。基礎工事と内装工事を同時にすすめると、両方壊れてしまう。  
山下議員 第3の改革と言われながら、地方分権は不十分である。とりわけ、税財源はなにも移譲されていない。地方自治に長年携わってこられた官房長官は、どのように考えておられるか。
野中官房長官 明治22年市町村制がしかれて以来、この階級的な呼称が残されてきたことを恥ずかしく思う。都道府県と政令指定都市との関係も改めなくてはならない。政治が過度に介入したり。官僚がのびのびと仕事が出来ない、というようなことにならないように戒めて改革を進めていきたい。
以上


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