【国公労連第47回定期大会討議資料(2001年8月)】

 

人事評価システム検討に関する討議素案

差別のない公平処遇、職員参加、 育成重視型の評価制度確立をめざして

 

はじめに
1 評価制度検討に対するわれわれの基本的スタンス
2 評価制度の個別問題に向けての基本方針
(1)業績評価について
(2)能力評価にかかわって
3 その他周辺制度の整備をめぐって

 

はじめに

 能力・業績給や年俸制、裁量労働制の普及などに示されているように、わが国の人事管理の流れが集団管理から個別管理に移行する兆しは、すでにいくつも現れている。しかも、そのための明確な基準やルールづくりはこれからという段階にもかかわらず、民間大企業を中心に、日経連流「新時代の日本的経営」型の雇用・賃金政策と、基幹的労働者に対する個別管理の強化策は急速に進みつつある。そうした動きを捉えて、政府・財界に加えて人事院も、公務員制度改革に関する各種提言や報告の形で、人事管理の弾力化や能力・業績主義導入・普及の必要性とその効用を声高に主張するようになっている。
 このような個人管理に基づく新たな人事制度の円滑・正常な運用には、それにふさわしい明確なルールや基準が不可欠である。とりわけ、能力・業績主義人事を推進するという以上は、個人の能力や業績に関する評価制度やその結果の活用法について公平・客観的なルールの確立と、それをすべての労働者が承認・是認し、信頼を寄せているという条件が前提となる。とくに評価制度は、その要(かなめ)の位置を占めているといえよう。なぜなら、欠陥の多い評価制度による「能力・業績」主義や個別管理の強行は、人事における恣意や情実の拡大、雇用上のさまざまな差別の拡大につながりかねず、制度にたいする職員の信頼もえられないばかりか、職員の意欲や能率に非常に有害なものにならざるをえないからである。
 人事院による公務運営をめぐる例年の「報告」、公務員制度調査会の発足、政府・総務省や人事院による人事評価をめぐる研究会での検討などにくわえ、最近の「政治主導」の行政改革の動きによって、公務部門でも個別管理の強化・導入が強力に推進されつつある。国公労連はこれまでおりにふれて、こうした動きに対する政策や見解を発表し、内部の議論を促してきた。まとまったものとしては、99年全国活動者会議「賃金闘争に関する基調報告」と討議資料があり、そこでは、公務員労働者にふさわしい能力・技能育成と一体の「賃金闘争の基本目標」についても提起してきた。評価制度に限定して一定の考え方をまとめたものとしては、昨年11月に政府・人事院それぞれの評価問題に関する研究会にむけて提出した要求書がある。しかし、これらは、今日段階の情勢の進展や問題の重要性に鑑みて、内容的にまだまだ不十分であり、対応の遅れは率直に反省せざるをえない。
 しかし、評価制度についての明確で公平なルールづくりは、能力・業績主義を推進しようとする勢力にとっても、最大の弱点である。われわれとしては、「賃金闘争の基本目標」の実現のためにも、公務員にふさわしい評価制度のあり方についての政策的検討を深める必要がある。本資料は、それに向けた討議素案であり、この課題に対する基本スタンスを改めて確認するとともに、評価制度の個別検討課題にかかわる基本的要求の素案とその解説をまとめたものである。大会を契機にこの資料ができるだけ多くの組合員の目にふれ、討議の素材として積極的に活用されることを希望するものである。


1 評価制度検討に対するわれわれの基本的スタンス
 個別管理強化や評価制度検討の動きに対する、労働組合の対案提起がいそがれている。

(解説)

 評価制度を核に進められる個別人事管理については、労働組合による交渉やルールづくりによって一定程度までは、その恣意的で不公平な運用や弊害を規制できる側面もあるが、具体的な運用の場面が労働者個人レベルに移るために、集団的な規制には一定の困難性と限界性をもたざるをえない。また、これまでのところ、評価基準や評価要素の民主的決定手続き、結果の活用法、十分な苦情処理システムの確立などの本来、組合が積極的に取り上げるべきであったはずの諸課題についても、重要な労働条件問題であるにもかかわらず、経営側の「経営権」の厚いカベにはばまれて、あまり規制が進まず、導入から現場の運用に至るまで、経営側の主導を許してきたというのが実際のところである。こうした現状は、早急に改善が迫られており、労働者の立場に立った労働組合としての積極的な関与と規制強化が求められる。
 国公労連としては、評価制度の検討にさいし、まず制度設計段階では、(1)評価制度検討目的の明確化と、(2)評価制度の公平性を高めるための基準やルールづくりを重視し、そのための要求の柱として、あくまでその活用は評価結果の能力育成や行政サービス改善に限定させることを前提に、(1)公平性、客観性、透明性、納得性を備えた公務にふさわしい評価基準、評価方法、評価手続きの確立、(2)それらの確立に向けた労働組合の正式関与、B実効ある苦情処理手続きの整備、民主的昇任・昇格基準の明確化、職員の適性や希望を尊重した配置・育成策の推進などの周辺制度、周辺問題整備を求めていく。
 それを踏まえて、各府省レベルでの試行や具体的実施段階への移行にあたっては、労使交渉によるそれぞれの行政や業務の特性・実態を踏まえた公平な人事評価システムの確立と実施プログラム(「実施方針」)」の設定を求め、運用状況のチェック強化をめざしていくことにする。


 行政サービスの質の向上と職員の能力開発、雇用上のあらゆる差別解消につながる評価制度の検討を求め、その立場から、現行勤務評定制度の廃止による抜本的改革を求める。 

(解説)

 評価制度のあり方は、その目的や活用法次第で内容も活用法も大きく異ならざるをえない。活用の目的としては、公務サービスの質の向上、昇給や昇進への反映、上司と部下のコミュニケーションの促進、職員の希望をふまえた能力養成や適正配置、あらゆる雇用・賃金差別の解消など種々様々な内容が考えられる。極端な場合には、評価・査定結果を成績不良者の降格や解雇の理由とすることもありうる。そのうちどれを重視するかによって、評価制度の設計内容は異なってこようし、制度の運用にあたっての職員の関与のあり方や関心の程度も異なってこよう。われわれは、なにより国民の立場に立ったサービスの向上や職員育成・能力開発、あらゆる雇用・賃金差別の解消に向けた、評価制度をこそ追及すべきであると考える。
 そうした目的を考えると、現行勤務評定制度には、(1)上位評価者の分布率を限定するとか、(2)評価基準が一方的に設定され、評価に当たって、恣意や主観が入り込み余地が大きい制度であること、(3)個々の職員の給与や処遇格差拡大に結びつく活用がねらわれていること、(4)評価結果の本人開示が拒否されているなど、時代遅れともいうべき重大な欠陥をもち、加えて(5)組合・思想差別に利用された歴史が未だに職員の記憶から抜けきっていないことから、この目的に活用することはとうてい不可能であり、われわれの立場からも、抜本的な改革を求めるべきである。また、新たな評価制度が確立されるまでの間、暫定的にこれが復活・活用されるような動き(地方自治体での勤務評定復活の動きはそれに近い)には、断固反対を貫く必要がある。


 業績給の拡大につながる評価制度の検討には反対である。

(解説)

 しかし、最近の政府・財界の人事政策上のねらいは、公務における「年功賃金」や「年次主義」的人事慣行の克服と職員間での競争促進に加え、「信賞必罰」の徹底や短期的な業績評価に基づく個人間給与・処遇格差の拡大にあり、それに向けた新たな評価制度の確立にあることは、ほぼまちがいない。それは、最近の政府主導の公務員制度改革の内容が次第に明らかになるにつれて、いっそう明らかになりつつある。こうした、賃金・処遇の個別管理の強化の動きに対してすでにわれわれは「賃金闘争の基本3目標」として、「初任給水準の底上げ」「ライフサイクルに応じた生計費確保」「熟練と専門性の高まりの正当な評価」を掲げ、この方向にそった賃金改善と雇用安定こそが、チームワークによる知識・情報の共有や円滑な技能継承、実務経験を通じた職業能力養成につながる公務にふさわしい道であるとの自覚のもとに、「成果給」や「業績給」の強化・導入に反対することを確認しあっている(99年全国活動者会議「基調報告」等)。それは、労働者の個人別賃金格差を拡大するだけでなく、「官職」「職務」に応じた公平な賃金という原則を否定し、処遇の不安定さを拡大するからである。したがって、「業績給」の強化につながる評価制度の検討には、基本的に反対であるという立場を改めて明確にしておく必要がある。


 組合員層の昇任・昇格は、できるだけ「先任権ルール」でいくべきである。

(解説)

 上の事項とも関連するが、最近の「個別管理」強化の動きと評価制度の検討を考える場合には、伝統的な「先任権」や「ローテーションルール」による労働組合の人事規制のあり方が、現実に当局の恣意的・主観的な人事や選抜を規制し、労働者の団結を強化してきた事実との関係をどうみるかという点や、わが国の現実をふまえ、今後それに対してどのような方針で臨むのかといった点についても、見解を整理しておく必要がある。  これまでわが国の労働組合は、昇任・昇格の制度と運用にあたって、基本的に後輩が先輩を追い抜く「逆転人事」を認めない公平な人事ルールの確立を求めてきた。これは、公務員としての経験年数を基準とする一種の「先任権ルール」の主張であり、雇用の安定と公正な人事を求める労働者の自然な要求を反映して生まれたものである。「年功」や「経験」による選抜基準は、それが客観的基準だからというだけでなく、労働者のいだく差別排除と連帯の感情・意識によくフィットし、産業心理学等の科学的客観性を装ったいかなる人事考課制度も、この労働者の固い信念を曲げさせることはできないほどの力を持っている。
 また、公務の現実では、一定レベルまでの昇進が賃金水準の確保のために不可欠であり、差別のない公平な昇進ルールの確立は、賃金水準を左右する重大な労働条件上の問題である。勤続年数の長さを基準にした選抜という「年功ルール」や「先任権ルール」は、こうした現実を踏まえながら、当局側の恣意的な選抜を規制する必要から生まれてきたものである。これまでの公務職場で、少なくとも組合員層に関しては昇任・昇格で、極端な逆転や選抜を許さなかったのも、基本的にはこのような労働者の自然で素朴な意識や、それに基づく労働組合のねばり強い運動があったからである。同時に、当局の側も、それが長期勤続を前提に、内部昇進を含むOJT型の技能形成や職員の労働意欲維持に果たす効果を認めざるをえなかったという事情も考えられる。したがって、今後とも組合員層の昇任・昇格については、「先任権ルール」を要求していくべきである。
 なお、こうした年功制ルールによる人事規制のあり方は、決してわが国特有の現象ではなく、欧米諸国にもほぼ共通のものである。労働組合員層の先任権ルールは、米国では労働運動の高揚を背景に30年代から定着し、基本的に今日まで続いている。その結果、製造業部門などでは人事査定制度は組合員層には適用されず、そこでは昇給・昇進で公正・不公正の問題が生じるはずがないのである(ただし、公務部門では資格任用制度の確立と一体で、20年代から人事評価制度が適用され、現在、組合員層も含めすべての連邦公務員に人事評価制度が適用されている)。        


 公務員制度の社会的影響力を踏まえ、公務の新たな評価制度は、評価の公平性や客観性において全国的なガイドラインたりうる内容をそなえるべきである。

(解説)

 評価制度は、個別企業や団体に固有の制度として誕生するが、同時にそれは生まれたとたんに社会的な評価にさらされる運命にあるものであることを忘れてはならない。それは、米国で典型的なように、雇用差別禁止法制の制定と、それを契機とする雇用差別に関するさまざまな提訴と判例の積み上げが、個別企業の評価制度にも大きな影響を与えるようになっている関係をみても分かることである。各個別企業は、それぞれの評価制度が、差別禁止裁判の中で「差別的」とみなされないように、判決の法理に基づいて、評価基準や評価方法を改め、評価制度に対する従業員の納得性を高めなければならないからである。
 さまざまな雇用差別を禁止する法制度が不十分なわが国の場合、個別企業の人事評価制度がそのような社会的批判にさらされることは、残念ながらまれであるが、少数の意識的な組合員や個人によって始められた思想差別や男女差別に関する裁判の中で、評価制度の公平性が問題にされる動きも現れ始めている。
 それだけに、政府などがもし新たな評価制度を「白紙から検討」するというなら、公務員制度の社会的影響力を考慮し、設計当初から、あらゆる雇用上の差別につながることを事前に予防できる透明で公平で職員の納得を得られる制度を確立し、全国的な「ガイドライン」ともなりうる制度をめざすべきである。そのためには、(1)職員参加による重要評価基準の設定、(2)実施プログラムと評価文書の職員への事前通知など評価手続きの透明化、(3)評価分布制限(相対評価)の禁止など評価方法の改善、(4)評価結果の書面による本人への明確な通知と同意原則の確立、(5)評価結果を人事上の決定の唯一の根拠としない、(6)実効ある苦情処理システムの確立等の、評価制度に関する明確なルールが不可欠であり、これらが公務内部で安定的に確立されれば、公務関連諸団体はもちろん、民間企業の制度にも積極的な影響を及ぼすことが考えられる。


2 評価制度の個別問題に向けての基本方針

 以上、評価制度に関するわれわれの基本スタンスを整理してみた。しかし、現実に進められつつある評価制度の検討は、必ずしもわれわれの望む方向では進むとは限らない。すでに行革推進本部の「基本方針」の提案によって、現段階で政府は、能力等級制度を柱とする人事システムや能力給・業績給を想定した、能力・業績評価などを構想していることが明らかとなった。したがって、われわれは基本的には上記のスタンスに立った対応を行うとしても、当局側の具体的な検討内容にかかわる現実的な対応を迫られる場面が生じることを覚悟しておく必要がある。その点も踏まえながら、上記の基本的な方針にとどまらず、政府や当局の一方的な導入を許さず、現在進められている政治主導の検討による被害を最小限にするためにも、より具体的・現実的な対応方針を準備しておく必要もある。
 国公労連はすでに人事院の「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」に対しては、「新たな人事評価制度検討にあたっての国公労連の意見」を提出、総務省の研究会にも同趣旨の意見書を提出し、この問題に関して一定の整理を行ってきた。以下、そこで整理した方針を土台に、現在の行革推進本部の検討方向に即して、そこでの具体的検討内容を念頭に置きながら、国公労連としての対応方針をさらに深めることにしたい。


(1)業績評価について


 被評価者の担当職務範囲の明確化を前提に、被評価者の意見を尊重して重要評価基準を決定する参画型の手続きをめざす。 

(解説)

 「業績評価」にあたり、当該評価期間中に被評価者のどのような職務行動や仕事の内容が評価の対象とされるのかについて、客観的事実として観察できる項目や要素として、事前に被評価者に明らかにされる意義は大きい。これにより、評価者の主観や恣意性がある程度排除できる。また被評価者にとっても、評価基準があいまいな一方的な評価が避けられるし、結果に不満な場合には、その理由を具体的に挙げて反論することがある程度可能になるからである。
 そのため、「業績評価」の必要性を一応認める場合でも、それを実施する際には、必ず@非評価者の職務範囲を明確に確定する、Aその職務に関連したどのような行動内容や成果を期待するのかを事前に被評価者に確認し、同意を求める、Bそれを簡潔に文章化した「重要評価項目」やそれについての「評価の観点」(以下「評価基準」という)を必ず本人に通知し、署名を求める−−などという形で、重要評価項目・評価基準は一定の透明で明確な統一ルールのもとで、各職域・各職場の実情を踏まえながら、評価者と被評価者が話し合いのうえで決める「参加型」の仕組とし、被評価者の納得性を最大限尊重する手続きが不可欠である。
 なお、評価基準は、現行勤務評定制度にみられる「勤務態度」や「性格」などの情意に関わる項目は可能な限り排除し、「職務」遂行にかかわって発揮される行動内容や仕事の成果を中心に観察できるようにすべきである。


 労働組合参加による評価プログラム作成を原則に、実施・運用の両面で組合の関与ルールを保障させる。

(解説)

 当然のことながら、各単組は、各府省・職場レベルの「人事評価プログラム」(実施方針)の策定にあたっては、当該労働組合の意見反映と承認を求めていくべきである。たとえば、(1)評価基準の設定にあたって被評価者と評価者が十分な話し合いを尽くし、合意を得て進める原則を確認する、(2)各評価項目の記述は、可能な限り具体的で客観的な表現にさせ、評価にあたって評価者の主観や情意要素が入り込まないように設計させる、(3)プログラム実施の各段階で問題が起きた場合には、直ちに組合に相談するルールを確立させるなど、労働組合が評価プログラムの設計や運用にあたって関与すべき内容について、具体的に議論を深めるべきである。
 また、差別を許さない公正な評価制度の運用のためには、だれもが納得できる統一的な基準やルールの作成→府省段階の人事評価プログラムの検討・作成→それらの公平性や統一性を保持するための第3者機関が作成する全省庁的「ガイドライン」の作成を含む、制度の趣旨の徹底や研修・教育プログラムの作成→一定の部署や役職段階を捉えた試行→それをふまえた制度全体の修正、などの準備や過程が不可欠であると考えられる。それぞれのレベルで単組と産別組織が一体となった有効な取り組みも求められる。


 評価方法については、個人の性格特性に関する評価は廃止し、評価制度の活用目的をふまえながら、より有効な方法を採用させるべきである。目標管理(MBO)の検討には、被評価者の職務範囲の明確化が前提。 

(解説)

 具体的な評価方法採用に当たっては、被評価者の納得性や、結果開示の必要性等も考慮しながら、もっとも妥当性の高い方法を採用させるべきである。
 一般に人事評価の技法には、現行制度にもっとも近い評定尺度法だけでなく、チェックリスト法、目標管理、序列法など、さまざまなやり方がある。評定尺度法は、被評価者を「最優秀」から「最劣等」までの尺度を用いて、その間の位置をマークすることによって評価する方法であるが、文章化された尺度によって評価するやり方もある。わが国では、個人の性格的特性の評価や相対評価の必要性と結びつくことで、官民をとわず長年この方式が多様されてきた。
 これは1920年代に、米国連邦公務員の勤務評定制度の手法として導入され、50年代に人事院によってわが国公務員制度の中に取り入れられたものである。しかし、当の米国では公平性の点からその有効性が問題とされ、1935年には廃止され、「チェックリスト法」(望ましい、あるいは望ましくない職務行動を文章化し、選択させる方法)を加味した手法に改正された。情意評価と結びつくことで、評価基準が曖昧となり、評価者の主観と恣意性が入りこみやすく、評価結果に被評価者が不満を表明した場合には、それを納得させることが困難であるといった事情があると考えられる。
 一方、職員の参加、公務サービス向上の手法としての有効性、組織の政策目標と個人目標の連動などを考慮すると、「目標管理」(MBO)による評価を否定する理由はみあたらない。ただし、その活用法を誤れば、「会社人間」的な過度の順応(過大な目標、頻繁な配転や転勤、長時間残業を積極的に受け入れるなど)をもたらしかねない危険性もある。そのため、目標管理手法を活用する際には、被評価者がなすべき職務範囲や内容が事前に明確にされていることが不可欠で、本来の役割や期待内容を超える過大な「目標」設定とその達成度を評価する仕組にすることだけは、絶対にさけねばならない(制度的な構築はもちろん、具体的な運用の場面でも)。その前提のもとで、当該職務の範囲内で、評価者と被評価者が話し合いで評価期間におけるサービス向上に向けた「業務目標」を設定することが可能とすれば、評価の客観性・合理性、納得性を高める効果は十分考えられよう。
 ただし、組織目標と個人目標の連動や組織の業績の重視は、基本的に上級官職を中心に考えるべきであり、初中級の官職と区分した扱いとすべきである。特に、管理者からの指揮命令によりもっぱら定型的で補助的な業務につく職種などについての配慮が不可欠である。


 職員の協力関係を阻害する評定結果の「分布制限」と「相対評価」はさけ、「絶対評価」を貫かせる。 

(解説)

 評価の方法に関しては、「絶対評価」か「相対評価」かという問題も重要である。公務労働者としての働き甲斐、集団労働を前提としたチームワークの維持と知識・技能の円滑な伝達を前提とする職務遂行の必要性などを考えると、職員を互いに「ライバル関係」や「競争相手」に変えるきびしい選抜や序列化につながる「相対評価」はさけ、いかに職員がその職務を適正に遂行したかをもって判断する形の「絶対評価」を用いるべきである。そのため、上位に評定される者の割合などをあらかじめ設定する「分布の規制や制限」は禁止すべきである。なお、その点も法令等で明記することが重要である。
 相対評価の弊害は、(1)第1次評定者による評価結果の開示と説明が、上位評価者との「調整」」によって困難となること、(2)開示によって被評価者の不満が生じた場合には、その解消が困難なこと、(3)職場の協力的で友好的な人間関係が崩されやすいこと、などがあげられる。もともと厳格な採用手続きを経て採用された職員のグループについて、その成績分布が左右均等になるとか、上位成績者が5%未満(現行勤務評定に関する総理府令)になるとかいう根拠はまったくないのである。
 わが国のモデルとなった米国連邦公務員の査定制度では、分布制限は78年公務改革法にもとづき、正式に禁止が明確にされた(すでに事実上は35年に廃止されていたが)。禁止の理由は、厳しい選抜を経て採用されているため、一定の割合で査定結果が分布することはまれで、評価をゆがめるというものであったが、80年代以降は分布制限を不公平とする裁判例も出始める。
 相対評価を指示する論拠としては、(1)上位評価者が過大になるとか、(2)職員を競争関係に置く必要、(3)給与への反映が困難になるといった主張がある。しかし、定期昇給の対象者を絶対評価によって運用している例(一定成績以上のものはすべて昇給の対象とする)もあり、これも給与制度の設計の仕方いかんにかかわる問題である。職員間にできるだけ賃金・処遇格差を導入しようとすれば、絶対評価より相対評価を志向するようになり、逆の場合は逆となるのは当然だからである。


 評価結果の開示水準は制度の公平性の試金石であり、本人通知を前提とした制度設計や評価文書の作成を求める。

(解説)

 評価結果の通知・公開の程度は、まさに制度の透明性や納得性の試金石である。それは制度の納得性や透明性にとって決定的に重要な点であり、公平で納得性の高い評価制度という以上、評価結果の徹底した公開は不可欠である。われわれは、評定確定にあたっての本人同意原則の確立、評価文書の本人への公開と、評価文書への署名欄の設定(本人が評価結果の開示を受けたことを示すため)を求め、その点を法令、さらにそれを受けた統一基準や公式ガイドラインでも明記すべきことを求める。
 主として情意評価をねらいとする恣意的な基準による納得性の低い評価制度の場合、被評価者に評価結果を知らせることで不満を抱かれる可能性が高く、評価者もその説得に苦慮せざるをえず、職員の士気への影響などマイナス効果も大きい。その意味で、結果の開示の程度は、評価制度の精度や公平性の試金石となる。米国では人事考課の結果は、必ず本人に文書でフィードバックしなければならず、従業員は自分の評価記録を記載した文書をみる権利が法的に保障されている。それに対し、記録書を非公開と明記している現行の勤務評定制度がいかに遅れた内容であるかは明白である。
 評価制度の歴史が古い米国で結果の本人通知が進んだ背景には、雇用差別禁止や年齢差別禁止にかかわる雇用差別禁止法制(公民権法第7編)の影響が大きい。多くの差別裁判で従業員が評価結果を見ていない場合には、企業側が敗訴する可能性が強くなったこともある。そのため、書面による通知や査定表に被査定者の署名欄を設けることが増えた。そうなると、署名は評定結果への同意を意味すると判断されたため、署名を拒否するケースも増え、今度は「不同意許容の注意書」が設けられるようになった。
 なお、人事院の人事評価に関する「研究会報告」では、業績評価の一次評定のみが通知される仕組を想定している。なぜなら、一次評定は個人の業務「目標」の達成度に対する絶対評価を行う仕組で、いくぶん納得性も高くなるよう考えられているためである。それに対し、2次評定は、より大きな被評価者の集団を前提した調整の上で相対評価を行うものであり、1次評定者は2次評定者が行った調整の理由を説明しにくいために、明確に公開する方向性を示せなかったものと考えられる。われわれは、評価制度における公開の意義を考えると、このような不十分な「公開」水準では、決して満足するわけにはいかないのである。  


 評価制度を差別の手段にさせず、むしろ、あらゆる雇用上の差別を是正させる手段として活用させることをめざす。

(解説)

 米国では、人事管理庁(OPM)の定めた人事評価に関する「ガイドライン」に「評価における差別の有無の監視と観察をきちんとすること」が管理者(評価者)に求められることが明記され、それが管理者の業績評価の基準ともなっている。
 わが国では、公務部門の勤務評定制度や民間の査定制度が組合差別や個人差別の手段として利用された苦い歴史があり、それがある面では現在も継続している。それは、評価制度の不透明性や「性格」などの個人特性を評価基準としてきた評価制度の欠陥が差別に利用されやすい面を持っていたからである。
 差別に利用されやすい評価制度では、何のための評価制度かということになり、そのような余地の生じない透明性と納得性の高い制度にする必要がある。


(2)能力評価にかかわって


 能力の絶対評価に結びつかない欺瞞的な能力等級制度の導入には反対。職務評価による職務分類を前提に、「同一労働同一賃金」原則を踏み外す成果・業績給のための評価制度の検討には、断固反対する。

(解説)

 政府の「公務員制度改革の基本方針」では、人事制度の柱である官職分類(職務等級制度)を「能力等級制度」に改めるとともに、俸給制度も職務給原則から能力給を中心とするものに変える構想が打ち出されている。上位の能力等級への昇格には、昇格候補者がその等級にふさわしい「職務遂行能力」を具備することが要件とされ、そのための能力評価制度が必要とされる。行革推進事務局は、この新能力給の採用によって、職員の能力向上・業績達成に対するインセンティブを高めることをねらっている。限られたポストの制約により上位級に昇格できない職員の不満を能力資格制度によって解消するというなら、それにも一理あろう。能力開発に努力した者はだれでも、ポストにこだわらない昇格で報いるという建前を伴うからである。しかし、事務局の構想では、上位等級在職者の割合には予算上の制約が伴い、限られた定数枠をめぐる職員間の競争は解消せず、厳しい定員削減や上位定数の削減圧力により、それがかえって激しさを増すなど、結局、上位ポストへの昇進競争と大差ない状況が生まれかねない。
 一方、公務労働の特性と採用や人材養成の現実を踏まえると、日常の業務遂行や研修を通じた組織的な能力開発と、先輩から後輩への知識・技能の円滑な伝達の必要性は、だれも否定できないものである。それを可能としてきたのが、これまでの任用の仕組であり、「職務給」を柱とする給与制度である。その点では、公務特有の人事政策の柱である安定的な技能・能力の形成や職員の労働意欲にも、それらが有効に機能してきたことはあきらかであり、その点で、新たな能力等級制度に移行する積極的な理由は、まったくみあたらない。むしろ、上位の能力等級への昇格競争が職員をライバル関係におくようなことにでもなれば、職場の人間関係の崩壊や「全体の奉仕者」としての公務員の自覚や誇りを大きく損ねかねず、真の公務能率の点からみてもマイナスの側面が多い。


 能力評価は統一基準による絶対評価で行い、昇格は「卒業方式」による方法が公務にふさわしい。

(解説)

 以上みたように、「基本方針」にみる能力給とそれにむけた能力評価についての事務局の考え方は、まったく欺瞞的である。職場の協力関係の維持と長期的観点にたった能力開発や真の能率向上に向けての職員の意欲や自発的努力を促すためというなら、能力等級への「昇格」は、等級の定数枠をあらかじめ設定せずに、全省庁統一基準にもとづく、「絶対評価」方式で行うべきである。
 また、最近の民間企業では、職員を職能等級の上位ランクへ「昇格」させるにあたり、当該職務等級に対応する課業だけではなく、「上位課業」が遂行できる事実をもって昇格させる「入学方式」を採用するケースが増えつつある。このばあいの「能力評価」は、被評価者を上位課業に挑戦させ、その達成プロセスや成果を観察することになる。
 このような方式を採用することは、「官職」とその所掌事務を基本に、当該職員の権限・責任・職務範囲と業務分担内容を定めている公務の分野では、到底不可能である。現行公務員制度では、職員に上位の課業を与えるためには上位のポストへの昇任が前提であり、その任用には上位ポストに必要とされる「能力の実証」が求められる。なお、「任用行為」の考え方を、旧来の身分的な人中心から官職中心に移行し、「官職に欠員を生じた場合にそれを補充するため職員を任命する行為」とし、それによって職員の職務内容の明確化を図り、行政の円滑化、能率化、民主化をねらうのが、現在の制度の原則である。
 また、当該職員を現実に上位ポストの業務につかせてみなければ、その最終的な適性も判断できないという考えから、昇任直後の実務を通じた職務遂行能力の判定を行い、不適格者を排除するための「条件付任用」の規定(国公法第59条)も設けられている(なお、これは条件付任用期間中の分限処分に対しても、当該職員は不利益処分の不服申立てができないというほど厳しい規定である)。職員の配置や上位ポストへの昇進は、職員の能力開発の必要性も考慮に入れながら運用されているのであり、当該職務での業務遂行に習熟したと判断すれば、上位のポストへの一応の昇進資格をえたとみなす「卒業方式」による方が公務にはふさわしい。その点でも、被評価者に上位の課業を遂行させる無理を犯すことまでして現行制度を「改革」する必要性はまったくない。
 そうなると、能力評価を業績評価と区別する考え方も、はじめから再検討されなければならず、能力・業績評価は本来一体のものではないかという疑問もわく。推進事務局が能力評価を区別するのは、それを昇進管理の基礎資料にできるのではないかとの思惑からであるが、内部昇進が職業能力育成の条件でもあるわが国の場合には、昇進管理の公平で円滑な運用は、不可欠な要請であり、評価制度の面からそれをなし崩しにすることは絶対にさけるべきである。


 行動特性評価は、職務範囲の明確化などの要請に反する危険性が強く、職務の再評価と職務範囲の明確化を先行させるべきである。

(解説)

 優れた業績をあげる職員の行動特性を析出・分類し、職員にその組織の望ましい「行動特性」の体系を示してその達成を求めるやり方が、民間大企業のホワイトカラー管理職層を中心に普及している。これは、経験を中心とする伝統的な技能養成システムへの疑問や年功的運用に陥りがちでコストがかさむ職能資格制度への問題意識が、米国における細分化された職務給制度の弊害を克服する動きの中で現れた職務等級のブロードバンド化(職務等級の統合簡素化や職務範囲の弾力化をねらう)、「コンピテンス給」(高い業績に結びつく職務行動特性の段階に応じた賃金)導入の試みと合体して現れたものと考えられる。
 これが、職務内容の明示を前提とする「官職」中心の公務の任用や給与の考え方と相容れるものかどうかが問題となるが、この基本原則の変更なしに、コンピテンス概念の導入はあり得ず、その安易導入には慎重にならざるをえない。国公労連は、これまで、職務給原則に基づく公平な処遇こそが、賃金闘争の中長期の目標にかない、長期雇用を前提とする「ストック型人材」の育成という公務の人事政策の方向にもかなうものであるという立場を一環して主張してきている。その点で、コンピテンスを強調する以前に重要なことは、現在各職務等級に格づけられている各官職の再評価と、それぞれの職務範囲をいっそう明確にすることでなければならないと考える。


 能力評価は、これまでの長期雇用、長期勤続を前提とした人材育成方式にふさわしく、実務経験を重視する方法を検討させるべきである。

(解説)

 これまでの公務の人材育成方式は、長期勤続を前提とする「ストック型人材」の育成方式であり、経験による育成、OJTによる育成を念頭におく、柔軟な職務付与や配置、内部昇進などを伴うものであった。たしかに、近年は、さまざまの緊急課題に即戦力として活用できる「フロー型の人材」に対するニーズも高くなっているといわれるが、それも、基本はこうしたストック型の人材をいかに活用するかにかかっているはずである。ただし、この方式は、「ゼネラリスト」的能力偏重や、職務範囲のあいまいさを伴うという弱点もあり、そうした点の早急な改善は求められるが、新規学卒者を採用して、実務経験を通じて公務に必要な能力を養成するスタイルは変えようがなく、そうした長期にわたる労働能力の育成と処遇の改善が結びつくことによって、職員も長期にわたって労働意欲を維持できるのである。以上の点から、能力評価にあたっては、実務経験による能力の高まりを評価できるような仕組にするよう求めていく必要がある。


 評価基準、評価方法、結果の開示等についての考え方は、業績評価と同趣旨の考え方で臨むこと。

(解説)

 絶対評価による評価、評価の分布制限の廃止、結果の開示のレベル等については、業績評価に関する項で述べた点を踏まえて対応する必要がある(内容は重複するので省略)。


3 その他周辺制度の整備をめぐって

 

 評価段階は一元化し、評定者があらかじめ上司の意見を聞いて決定する仕組とし、個々の被評価者への評価者の説明責任を果たさせるようにすべきである。

(解説)

 これは、下位の評価者が決定した評定結果を上位の調整者により一方的に変更されることで、下位の評定者が被評定者に結果を直接開示するさいに、説明に苦慮せざるをえない立場に立たされるようなことをさけるとともに、評定者に評定結果に対する責任をもたせ、被評価者への説明責任を果たさせるために、どうしても必要なことである。


 評価結果を降任や免職と結びつけることについては、公務員の身分保障にかかわる問題であり、評価結果だけをもって分限処分を行うことのないようにすべきである。

(解説)

 これまで一般勤務評定の結果だけを理由にした降任、免職は、事実上行われていないと考えられる。これは、身分保障規定の厳格な運用という事情もあるが、現行勤務評定制度が評価基準や評価要素が曖昧で評価に主観が入りやすく、分限処分の根拠とするだけの精度を備えられず、記録書も非公開であるばかりか、結果の本人開示もされないという職員の権利をまったく無視した一方的な制度であったからという事情も大きい。
 一方、米国連邦公務員の場合は、勤務評定結果が「良好」に満たないケースが5年に2回以上ないしは3回連続し、改善の機会を与えても改善が見られない場合には、免職の理由とされる(職員がそれに不服の場合は「勤務評定諮問委員会」へ救済申立が可能)。「信賞必罰」の人事を強調する公務員制度改革に関する自民党の公務員制度改革案だけにとどまらず、「基本方針」も評価制度のこうした活用を狙っていると思われる。
 こうしたやり方は、評価制度が厳格で公平な手続きのもとに行われることを条件に、はじめて一定の納得性がえられるものであり、それなしには人事権の乱用につながりかねず、労働者の身分保障を危うくしかねず、重大な問題を含んでいる。わが国の現状では、まずは研修機会の提供や配置の見直しなどを通じ十分な改善機会を保障などにより、被評価者の労働意欲と職業能力の回復・向上に努める一方、まずは評価制度の精度と信頼性の向上に努めるべきである。加えて、職員の身分保障の観点から、不利益処分に対する救済制度と態勢の充実・強化も重要課題となる。


 評価者訓練の充実・強化は、評価制度の制度と信頼性にかかわる重要性をもち、その内容の充実や実施態勢にかかわる組合の意見反映を求めていく必要がある。

(解説)

 差別をめぐる係争のさいに、当局側が十分な評価者訓練を怠っている事実が判明すれば、そのこと自体が大きな問題となろう。直接評価にあたる職員に対する教育の内容や水準は、評価制度の精度と信頼性にかかわる重要性をもつからである。とくにわれわれは、(1)評価基準や評価方法に関する職員への説明、提案方法が適切か、(2)職員の同意や参加を促す姿勢やコミュニケーション技法がすぐれているか、(3)目標設定にあたっての態度が強制的なものでないか、(4)結果の開示方法や手続きは適切で説明が十分なされたか、(5)評価結果に不満の場合は再審査や苦情処理の道があるということなどについて十分説明が行われたか、(6)雇用差別の禁止に関する公平な教育が行われたか−−といった点が、評価制度の公平性や被評価者の納得性にもかかわる重要な要件と考えており、労働組合の立場から、厳密な教育システム確立や教育内容の民主化を求めていく。そのためには、各機関の実施する教育内容や研修プログラムを、中立第3者機関が公平・中立の観点でチェックする仕組みも不可欠である。同時に、それをふまえた組織的・系統的な教育・研修態勢充実を求める。


 評価にかかわる苦情処置システムは各府省レベルと全府省レベルの二重の仕組とし、それぞれについて職員の参加を促すべきである。不服申し立て制度等の強化・拡充も求めていく必要がある。

(解説)

 評価結果をめぐる苦情に対しては、一般的な個別労使関係上のさまざまな苦情処理とは異なる専門的な対応が求められる。評価結果の開示のあり方によっても、苦情のあり方が左右される面もある。評価結果が職員に開示されなければ、苦情も生まれえないからである。さらに、評価だけでなくその活用をめぐる苦情もあり得る。たとえば、女性差別や組合差別、思想差別、また昇給・昇格等の不利益処分が評価制度の欠陥によるものとされ、評価制度の公平性が問題とされる場合、などである。
 こうしたさまざまなレベルの「苦情」に組織的にかつ公平に対応するためには、省庁レベルの対応だけでなく、省庁を超える中立的な機関が不可欠である。省庁レベルでは国労法第12条の規定による職員代表を含む「苦情処理共同調整会議」に準じた苦情処理システムの確立を求めていく必要がある。同時に、省庁を超える第3者機関に対しては、各省の評価制度の運用状況を監視し、各省の「実施プログラム」等が、統一基準に照らして問題あるばあいには是正を勧告できる権限を与えるなど、評価制度の公平な運用に十分な責任と機能を発揮できるようにすべきである。評価制度の統一基準の設定や各省の人事評価制度設計にあたっての「統一ガイドライン」の作成の機能なども付与すべきである。また、これらの各レベルの苦情処理システムに関しては、今後、人事管理の規制緩和や弾力化で不可避となるであろう集団管理から個別管理への流れの中で生じるあらゆる個別労使紛争の処理システムの解決機能を兼ね備えさせることも大切である。
 さらに、現在の人事院による労働条件にかかわる行政措置要求や不利益処分に対する申立制度の機能を強化・拡大させる必要もある。そこでのさまざまの雇用差別や不利益処分にかかわる判定の蓄積が、評価制度の公平性や納得性の認識を高め、各省庁の制度と運用の改善・是正を促すということもありうるからである。

(以上)


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