国公労新聞   号外

(不利益遡及は許さない権利裁判特集)


●「不利益遡及」は許さない 権利裁判にカンパの協力を

 昨年12月の一時金支給の日、仲間たちの怒りが職場にあふれました。それもそのはず、昨年夏の「マイナス人勧」による賃下げ分が一時金の期末手当で「減額調整」されたからです。
 国公労連は、こうした「不利益遡及」を断じて許さないため、国を相手に裁判闘争を行います。この権利裁判を支えるため、「コーヒー1杯分(300円)のカンパ」への絶大なご協力をお願いします。 

〇裁判の目的
 国公労連は、昨年12月の第115回拡大中央委員会で、「不利益遡及」裁判の目的として、次の3点を確認しています。
(1)公務員労働者の労働基本権制約の違憲性を司法の場で争う労働基本権確立の運動
(2)法のルールや労働者の基本的人権を無視したリストラ「合理化」が横行する社会状況に、一石を投じる働くルール確立の運動
(3)「賃下げ、遡及実施」への怒りを裁判闘争の具体的な形で示す大衆的な運動

▼日本の公務員制度はILO条約に違反
 政府が進める「公務員制度改革」では、公務員の労働基本権制約の「現状を維持」するとしています(「公務員制度改革大綱」01年12月25日閣議決定)。02年11月のILO(国際労働機関)勧告は、その閣議決定の「再考」を求めました。それは、日本の公務員制度が、ILO条約等が定める「結社の自由原則」に違反をしているとの認識をILOが示したからです。

▼今回の裁判とILO勧告との関連
 ILOの勧告が、今回の裁判とも関連する部分は、次の点です。
(1)国の行政に直接従事しない公務員への、結社の自由原則に沿った団体交渉権及びストライキ権の付与
(2)団体交渉権及びストライキ権が制限又は禁止される労働者に関し十分な代償を行うための適切な手続及び機関の設置
 このように、「公務員だから」という理由で団体交渉権、ストライキ権が制約されることの「違法性」、それらが制約され続けているもとでの代償措置(人事院勧告制度)の不十分性を指摘しています。
 しかし、日本政府は、ILO勧告の受け入れを「拒否」しています。
 その理由として「ストライキ全面一律禁止」を合憲とした最高裁判決(全農林警職法事件など)を持ち出しています。最高裁の「合憲」判決の要点は、次のようなものです。
(1)法律による身分・勤務条件の規定(法定された勤務条件の享有)
(2)勤務条件にかかわる人事院の内閣、国会への勧告(人事院勧告制度の存在)
(3)行政措置要求、不利益処分の不服審査(の存在)
 先の「公務員制度改革大綱」も、同じ立場から、「労働基本権制約の現状維持」を決定しています。

▼公務員の働く権利をふみにじる現行制度
 「民間賃金実態調査→人事院勧告→国会での法律の成立」、これが公務員労働者の労働条件決定の仕組みです。公務員の意見、異議が入り込む余地はほとんどありません。ですから、働いた結果に支払われた賃金を後から取り返す「調整」が、いとも簡単に行われたのです。公務員労働者の「人間らしく働く権利」を守る仕組みと言えるでしょうか。「(労使間の)自主的交渉のための手続の十分な発達及び利用の奨励」(ILO第98号条約第4条)にそう仕組みと言えるのでしょうか。

▼労働基本権確立運動を特に重視
 「賃下げ、遡及実施」は、不利益遡及という「脱法行為」が一方的に行われても、公務員は何らの異議を申し立てることができない、すなわち公務員労働者が無権利状態におかれていることをあらためて表面化させました。
 そして、政府は、こうした状況をあらためる検討すら放棄していることが、「公務員制度改革」などで明らかになっています。
 「もの言えぬ公務員」であり続けることを、国公労連は拒否します。今回の裁判闘争でも、この点を最大重視し、国民世論に訴えたいと考えています。

〇裁判の進め方 −−コーヒー1杯分のカンパを!−− 全組合員の力を束ねよう
 今回の裁判の具体的な内容は、労働運動の一環として、専従以外の組合員の中から原告(100人程度)を立て、国公労連(行政職部会)を原告の「選定代理人」(民事訴訟法第30条第1項)として、「不利益遡及分」(02年12月の一時金での「調整額」)の損害賠償を争うものです。
 これは、組合員の総意で裁判闘争を進める「かたち」も考えた結果です。実質的にも、法人である国公労連が、「当事者」として国と争う裁判闘争を考えています。

▼確立の正当性を社会的にアピール
 裁判の目的は、最初に述べたとおりです。実際の裁判は損害賠償請求ですが、労働基本権制約の違法性を司法の場で争うと同時に、公務員労働者の労働基本権確立の必要性と正当性を社会的にアピールし、職場から権利闘争を強める運動の契機にしたいと考えています。
 原告となった組合員には、職場の内外で、労働基本権確立運動の先頭に立っていただくことを期待しています。

▼カンパの規模等の考え方
 労働基本権の確立をめざす運動は、「ILO勧告にそった公務員制度の確立」を求める対政府闘争が主軸ですし、賃金引き下げ反対も含めた賃金闘争は、春闘からのたたかいの強化が中心です。財政的には、通常の組合費の中で、目的達成を最大限追求することになります。
 今回のカンパは、裁判そのものに必要な財政の確保を念頭に、実質的に全組合員が裁判闘争に参加する運動を作りだしていくことを目的に提起しています。
 弁護士費用、運動を進めるために必要な「原告団会議」の費用、組織内外での宣伝費用などが中心です。
 「コーヒー一杯分(300円)のカンパ」に、全組合員が応じていただければ、総額3000万円が達成でき、控訴審段階までの裁判闘争費用は確保できるものと見積もっています。
 「賃下げ、遡及実施」への怒りを「かたち」にして職場の内外に示すためにも、カンパ目標を達成したいと考えています。



▼3月集中でカンパの集約を
 3月5日に東京地方裁判所に提訴することとしています。この提訴には、政府やマスコミも注目しています。春闘時期であること、「公務員制度改革」にかかわる法案の扱いがヤマ場を迎えること、「不利益遡及」をめぐる最初の裁判であること、などの理由からです。
 同時に、3月は、一時金(期末手当)が昨年より大幅に減額支給されることになっています。その減額分が、12月で「調整」された不利益遡及分にほぼ相当しています。
 運動への社会的な注目が集まり、職場であらためて「賃下げ、遡及実施」への怒りがわき起こる3月に、カンパを集中してとりくみ、運動への求心力を高めましょう。
 なお、集まったカンパは、「『不利益遡及』裁判闘争特別会計」として、一般会計とは区分けした収支管理を行うこととしています。

〇解 説

▼「減額調整」の実質は不利益遡及
 02年8月8日の人事院勧告は、月例給与について「平均2.03%、7770円」の官民逆格差による史上初の「賃下げ勧告」となっただけでなく、一時金についても「0.05月削減」による4年連続の引き下げとなり、平均年収で2.3%、15万円ものマイナスという異常な事態となりました。
 そして、この「賃下げ勧告」をめぐっては、実施時期の問題が重大な争点となり、私たちが「不利益不遡及の原則」を徹底追及する中で、「実施は施行日から」となったものの、4月分の官民給与比較による年収ベースでの「情勢適応の原則」を口実に、4月以降の賃下げ分を「12月期の期末手当で調整(精算)」するとしたことは、民間にも例がない「不利益遡及」の脱法行為そのものでした。
 しかも、一時金については、今回の「0.05月削減」に加えて、民間動向を口実に「勤勉手当の割合増」を強行したうえ、3月期の期末手当を6月期と12月期に配分することで、「調整」によって生じる12月期の期末手当の大幅減額という悪影響を少しでもカモフラージュしようとする姑息な手段がとられました。

▼国のルール破壊でひろがる悪影響
 私たちは、こうした史上最悪の人事院勧告がもたらす公務・民間の「賃下げ・リストラの悪循環」と年金など社会保障への悪影響を断ち切るため、「人勧の完全実施反対、給与法の改定反対」を掲げて全国的にたたかってきました。
 しかし、政府は、私たちの要求に一切耳を貸さず、この「マイナス人勧」の取り扱いについて、02年9月27日に「完全実施」の閣議決定を強行し、これにあわせて退職手当の水準見直しも決定しました。そして、10月18日の第155回臨時国会開会日に給与法「改正」案が閣議決定・国会提出され、衆院総務委員会(
11/7)と参院総務委員会(11/14)でのわずかな審議を経て、11月15日に可決・成立しました。
 この給与法「改正」の悪影響は計り知れず、自治体労働者や教職員をはじめ、独立行政法人や特殊法人など750万の公務関連労働者だけでなく、これまで人勧前に賃金自主決着が図られていた国営企業労働者にも波及する事態に至っています。
 なお、法案審議の中で、「減額調整」条項の削除と労使協議による別途措置などを求める修正案が少数否決されたものの、職員団体等の意見の十分聴取や「減額調整」の民間等に及ぼす影響への十分留意などを求める付帯決議が全会一致で採択されたことは、「不利益遡及(減額調整)は脱法行為」だとする私たちの主張の反映でもありました。

▼「不利益遡及」のどこが問題か
@賃金の「年末調整」は許されない
 今さら言うまでもなく、賃金は労働者の生活の唯一の糧であり、労働基準法は第24条で「賃金支払いの4原則」(通貨払い、直接払い、全額払い、毎月一定期日払い)を定めてこれを保護しています(ただし非現業国家公務員は適用除外)。
 今回の給与法「改正」による「減額調整」は、いわば一度支払った02年4月以降の賃金を12月の一時金支給日に取り返す(過払い精算する)というもので、労働基準法の全額払いの原則の趣旨に反するだけでなく、こうした税金の「年末調整」的なやり方がまかり通れば毎月々の生活設計すら成り立ちません。
 そのため人事院も、「法律不遡及の原則」(新たに制定されたり、改正された法律が、その施行以前の関係に遡って適用されないという原則)を一応認めざるを得ず、改定時期を4月にさかのぼらせることができませんでした。
 そこで次に考えたのが、「法改正の施行日」以後に支払日の到来する賃金、それも影響度の大きい月例給与ではなく一時金での「減額調整」であり、このやり方こそが「脱法行為」(外形的には法律によって禁止されていないが、禁止を免れる目的で行われ、実質的な内容が強行法規に違反している法律行為)そのものに他なりません。
 また、一時金での「減額調整」は、月例給与が毎年4月時点の水準比較、一時金はその前1年間の月数比較という官民比較原則の違いをまったく無視したものといえます。

A労働条件の一方的な不利益変更はダメ!
 今回の「減額調整」は、すでに支払済みの賃金を遡及して減額するという、使用者として労働契約上の義務違反に等しい暴挙であるだけでなく、労働条件の重大な不利益変更であり、民間での就業規則の不利益変更に関わる判例法理からみても、不利益遡及の「合理的根拠」がまったく考えられません。
 このことは、実務上の判断基準となっている秋北バス事件最高裁判決(昭和43年12月25日)に照らしても明らかです。判決は、就業規則変更による労働条件の不利益変更は既得権を奪うことになるので、原則として労働者の同意が必要であるが、集団的・統一的処理のために合理性があれば認められるとしています。その場合の「合理性の判断基準」として、変更する業務上の必要性、代償措置・見返り、ある特定の層のみ損をしないか(年齢、性、職種、職位)、不利益の程度、同業他社との比較、労働組合の同意の有無や多数労働者の賛成の有無などがあげられているのです。

▼労働条件決定への参加は国際常識
 政府が01年12月に閣議決定した「公務員制度改革大綱」では、私たちの強い労働基本権確立の要求を無視して、「現状の制約維持」に固執しました。このように労働基本権を制約したままで、賃金や退職手当の引き下げを一方的に決定する政府の対応は、「労働条件決定は労使対等で」という近代的労使関係の原則をふみにじるものであり、ILOの結社の自由原則と国際労働基準に反することは明白です。 
 このことは、02年6月の第90回ILO総会・基準適用委員会で日本政府の対応に国際的な批判が集中し、これらの論議を受けた議長集約で、(日本の)公務員が自らの賃金決定への参加を著しく制限されていることに強い懸念が表明されたことでも明らかです。
 そして、ILO理事会は、11月21日、全労連・連合提訴案件に関わって、日本の現行の公務員制度そのものがILO87号・98号条約に違反しており、結社の自由原則に合致させる方向で法律改正を求めるという、結社の自由委員会による歴史的かつ画期的な中間「報告・勧告」を採択しました。この中で、ILOは日本政府に「公務員の労働基本権制約の現状を維持するとの考えを再考」せよと強く迫っているのです。



トップページへ 国公労新聞へ