国公労新聞 第1131号

●賃金50%カット跳ね返した!
 全日検神戸支部労組、不屈のたたかい 〜国民の安全と仲間の生活を守って〜

 もし、突然あなたの賃金が半分になったらどうしますか?。いま、賃金破壊、雇用破壊など国民犠牲の「構造改革」の攻撃が次々降りかかっています。
 そんななか、阪神大震災の傷跡が今なお残る港町・神戸で、賃金50%カット撤回を求めて不屈にたたかい、2002年8月に勝利判決を勝ち取った全日検神戸支部労組の仲間。そして、この闘争を「労働組合の原点」と位置づけ、激励した兵庫県国公をはじめとした兵庫労連など「支援連絡会」の仲間のたたかいがありました。
 民間と公務がともに信頼しあい、連帯する大切さを教えてくれた全日検のたたかいを軸に、神戸港で働く仲間たちを編集部が取材しました。

★全日検とは?
 社団法人・全日本検数協会は、全国の主要港(10支部)に事業所を持ち、国土交通省(旧運輸省)から
免許を受けて輸出入貨物の数量、品名、破損などをチェックし、証明する業務を営んでいる公益法人です。


〇全日検神戸支部労組
▼50代でわずか200万円、年収6割減り厳しい生活
 「賃金カットで年収は6割近くも減少し、200万円にもなりません。仲間のほとんどは40〜50代。生活を切り詰めてもとても追いつかず、各種保険の解約、車の廃車、子どもの進学断念という過酷な生活苦のなかで、組合員167名(当時)全員が原告となり、全力でたたかいました」と全日検神戸支部労組委員長の荒井学さんは、1年4カ月の闘争を振り返ります。
 全日検神戸支部(以下、神戸支部)は、阪神大震災の影響や、神戸港の貨物取扱量の低迷で収入が落ち込んでいることを理由に98年以降、一時金の7割カット、労働条件見直し、一時帰休など相次ぐ「合理化」を進めてきました。

▼一方的に協定破棄、役員優遇に怒り爆発
 2000年12月、労使協議の結果、収入を増やす対策と「賃金10%カット」を暫定として合意。しかし、全日本検数協会(協会)は、そのわずか4日後に協定を破棄し「4月から3年間賃金50%カット・一時金ゼロ」という乱暴な提案を行ってきました。
 協会は、黒字決算でありながら各支部独立採算運営だとして、神戸だけ50%カットを強行。一方、協会本部の役員はわずか5%カットのみ。
 この提案に組合員の怒りは爆発し、2001年4月に神戸地方裁判所に提訴したのです。

▼生きる尊厳と団結まもる闘争
 「協会本部や神戸支部(当局)と交渉をしても、労働者と家族の苦しみに全く無関心です。協会本部の松村会長は旧運輸省の天下りで、かつてJR清算事業団の副責任者だった人物。経営についても情報を開示せず、組合敵視の官僚的対応でした」と神戸支部労組の荒井さんは怒りをこめます。
 また、賃金協定破棄を理由に、組合費のチェックオフ(天引き)も中止。組合員の生活破壊と同時に、組合組織に対しても攻撃をかけてきました。しかし、攻撃が強まるほど、逆に組合員の自覚と団結が高まったといいます。
 書記長の中野勝人さんは当時の苦労を語りつつ、「兵庫労連など支援連絡会は、協会の『兵糧攻め』に反撃するため闘争支援カンパや1億円闘争資金にとりくんでくれました。そして全国からの署名・カンパなどあたたかい支援が勝利に導きました。とりわけ、兵庫県国公の仲間が当局交渉に参加してくれたり、政策分野でのアドバイスなどは、私たちにとって大きな励ましでした」と語ります。
 全日検のたたかいは、賃金カット撤回のみならず、人間の生きる尊厳と、「団結」を守るたたかいでもあったのです。

▼新たな攻撃に立ち向かう
 勝利判決後の9月30日、協会は再度賃金協定を破棄し、神戸支部に対して新賃金体系(30%賃金ダウン)導入と「整理解雇」を一方的に提案。新たな攻撃を仕掛けてきました。神戸支部労組は、判決を力に、全国の仲間と団結して、経営の民主化をめざし再びたたかう決意を表明しています。
 「危険品が詰まっているコンテナが市中を走り回っている現状のなか、港の輸出入貨物の水際でのチェック機能強化が求められています。私たちは規制緩和に反対し国民の安全を守るため、検数業務の必要性を訴えていきます」と荒井さん。続いて、「不当な攻撃に勇気をもってたたかわないと、組合の存在価値はありません。経営の民主化は、労働組合の役割です。第2ラウンドも港湾と公務の仲間とともにがんばりたい」。と力強く語りました。

〇全日検神戸支部に働く家族の会 −−なにがあっても負けへんで!−− 
▼うれしかった全国の支援
「貯金を食いつぶしたあげく、生命保険、学資保険を解約し生活費にあてました。家賃や光熱費にも満たない月額平均10万円の賃金では、到底3人の子どもを養えません。仲間の多くは親や親戚からお金を借りていました。私たち家族としても黙っていられなかったのです」北川京子さんは振り返ります。
 個人や家庭内だけで悩まず、みんなで相談し苦しい時期を乗り越えようと、提訴してすぐ「家族の会」を結成。さまざまな集会に出向いて支援の訴えや、交代で裁判の傍聴に参加したといいます。北川さんは「往復交通費でパートの時給分が消えていくので、集まりたくてもなかなか難しいのです。でもみんな必死になって夫たちを支え、生活を守るため歯を食いしばっていました」と語ります。

▼失うものは「子どもの将来」
 「原告を守る会」は2001年12月末、生活募金として700万円を集め、全原告に越年資金10万円をカンパしています。「ほんとうにうれしかったです。全国からの財政支援があったからこそ、たたかい抜くことができました」と感謝をこめて話しました。
 一人の母としても北川さんは語ります。「『裁判して絶対勝たなあかん!』と応援してくれたのは当時高校2年生の長女です。裁判闘争や残業で夫婦とも帰宅が遅く、子どもだけの留守番が恒常化していました。夜遅くからの夕食など深夜型の生活に我慢する日々。進学への不安。一番の被害者は子どもたちです。貧しい私たちは失うものがないから人間は強くなれる。失うものは子どもの将来です。どんな攻撃にも屈せず、何があっても負けへんで!」
 夫で、全日検神戸支部労組副委員長の北川伸一さんは「協会の攻撃は、単に経済的貧困だけではなく、家族の絆や夢を打ち砕く攻撃です。人間として幸せに生きる権利を誰もが持っていることを確信に、運動の輪を広げていきます」と最後に力強く語りました。

〇兵庫県国公
▼民間とともに共同広げよう
 兵庫県国公の松浦茂樹議長は次のとおり決意を述べました。
 このたたかいで兵庫県国公が学んだことは、労働者が最後まで団結し、家族や支援の仲間が力を合わせれば必ず勝利するということ。元気いっぱいで新たなたたかいに立ち上がった全日検の仲間を、引き続きしっかりと支援していきます。
 また、昨年末は公務員賃金のたたかいで、全日検労組をはじめ民間の仲間から「檄」も含めて熱烈な激励・支援をいただきました。
 公務員賃金のマイナスは、民間や地域経済に計り知れない影響を与えます。全日検の共同のたたかいを2003年春闘でさらに広げ、がんばっていく決意です。

▼全日検の仲間から元気もらった
 兵庫県国公副議長の河西守行さんと全運輸神戸海運支部書記長の岡本英明は、「もともと低賃金なのに、50%カットなんてひどい。私は、全日検支援のビラまきや集会に参加した支部行動費をカンパしました。全日検の仲間は厳しい生活を送っているのに、とても明るい。逆に元気をもらいました」と、同じ港湾でがんばる仲間として思いを語ります。

〇全運輸神戸海運支部 −−署名とカンパを全国に訴える−−

海運支部署名とカンパを全国に訴える 「この攻撃は全日検労組だけではなく、日本の労働者全体に波及するものとして署名とカンパを全国の仲間に訴えました」と、全運輸神戸海運支部(組合員96人)支部長の塚本量敏さんは語ります。機関紙「支部速報」で全日検のたたかいを機敏に伝え、職場の仲間に繰り返し訴えました。「支部速報」は年間100号を超えており、組合員にとって重要な情報源。「同じ港に働く仲間として許せない」と職場はいっきに動いたといいます。
 臨調「行革」路線に基づく82〜84年の神戸・近畿の海運局統合反対闘争を塚本さんは振り返ります。「当時、私たちを支援し激励してくれたのは全日検を中心とした港湾の仲間でした」。

▼激しい事業者間競争、中小企業にしわ寄せ
 全日検神戸の監督行政当局は、国土交通省神戸運輸監理部。港湾運送や倉庫業が安全・適切に行われるよう事業者の指導監督、船舶検査、船員の職業紹介・失業保険の支給など職務は多岐にわたります。
 神戸市内で、神戸港に関連している労働者は全体の40%を占めると言われています。しかし、震災後の神戸港の貨物量は減り続け、人件費の安いアジアに港の拠点を移す事業者が増えるなど、中小企業の多い神戸にとっては、地域経済の地盤沈下が深刻です。
 書記長の岡本英明さんは「規制緩和のあおりをうけて、免許制が許可制になりました。それと不景気の影響もあり、港湾では料金面をはじめとして事業者間の競争が一層厳しく、中小企業事業者を中心に経営は苦しくなっています。港湾行政を担う私たちの役割は重要です」と話します。
 最後に塚本さんは「神戸港をとりまく情勢は厳しいですが、民間の仲間と一緒に学習したり法律相談も含めて日常的な共同をすすめています。地域に根ざした行政を行うため、今後もたたかいを強めていきます」としめくくりました。

〇全港建神戸地協 −−地域のための港づくりを−− 全日検闘争に励まされる
 神戸港をつくり守る仕事をしている国土交通省神戸港湾工事事務所。
 95年の阪神・淡路大震災の教訓から良質で防災に優れた港湾施設をつくるため計画から監督の業務を担っています。
 全港建神戸地区協議会(組合員142人)議長の森西弘さんは「私たちは暮らしに役立ち地域に貢献できる港をめざすため、労働組合として『港の政策』を職場討議しています。また、平和あってこその神戸港として、非核神戸方式を守り広げていきたい」と港湾行政の役割を説明してくれました。
 全日検のたたかいについて森西弘さんは「厳しい状況下でこそ、力を発揮するのが労働組合だと教えられました。地区協として、神戸支部前抗議行動や支援集会参加、カンパにとりくみました。また、職場集会でも全日検労組の裁判の状況を報告。民間の仲間のたたかいを紹介することで、私たちも大きな励みになります」と官民一体の大切さを訴えます。

▼構造改革の矛盾を訴えよう −− 頼りになる県国公をめざして−−
 森西さんと同じ職場で働く山本邦夫さんは、昨年まで兵庫県国公の事務局長として全日検のたたかいを積極的にすすめてきました。「全日検当局の監督は国土交通省だけに、県国公としての役割発揮が求められていました。しかも震災以降の神戸港は、貨物量の激減、労働者の賃下げ攻撃がひどい。いまこそ地域経済を守るたたかいが重要だと思いました」と支援するきっかけを語ります。
 その後、運動を広げるため、徹底的に職場オルグを配置。県国公の機関紙でたたかいを呼びかけ、兵庫労連の1億円闘争資金に積極的に応えました。「地域が頼りになることを組合員に実感してもらえたのは大きな運動の成果です」と笑顔で語る山本さん。
 いま、県国公副議長と兵庫労連事務局次長として奮闘している山本さんは「構造改革の矛盾を国民に鮮明に訴え、国民生活をよくするとりくみが大切だと思います。みんなで組織を強く大きくしていきましょう」と抱負を述べました。

〇全税関神戸支部  −港湾の24時間化で労働悪化−− チェック機能の強化が重要
 「心はひとつ・港はひとつ」を合言葉に、神戸港に働く民間と公務労働者が結集している神戸港湾関係労働組合共闘会議(港湾共闘)。公務からは全税関、全運輸、全港建が加盟しており、全税関が昨年2月まで事務局長を派遣していました。港湾共闘は、全日検神戸支部労組への支援のため結成した「支援連絡会」で中心的な役割を果たし、神戸港の活性化、港運料金ダンピングに歯止めをかけるため政策課題等についてとりくんでいます。
 全税関神戸支部(組合員68人)副支部長の大釜昭雄さん(写真)は「いま港湾の364日・24時間オープン化が強行され、労働環境が大きく変えられようとしています。港湾労働者が長いたたかいで勝ち取った労働条件を40年前に戻すことは許されません」と語ります。

▼時間外通関体制の試行を一方的に強行
 この動きに便乗して、関税局・税関当局は2002年9月、港の24時間化に対応するものとして「税関の執務時間外の通関体制の試行(10月15日〜3月31日まで)」を全国8カ所での実施を一方的に通告。「人的手当がないのに平日夜9時までや休日の勤務は労働強化そのもの。しかも、申告が少なく現行の臨時開庁方式で十分対応可能です。税関の体制が民間の労働条件へ悪影響を及ぼさないか心配です」と大釜さん。
 日本の玄関・神戸港。税関の諸手続きや港湾物流の規制緩和は、港湾で働く労働者の労働条件の変更をもたらし、港のチェック機能の形骸化は国民生活に大きな影響を与えます。
 大釜さんは語ります「私たちは港見学等を通じて、輸入農産物の危険性を国民に訴えてきました。今後も要求と連帯を大切にし、全税関を支援してくれた多くの仲間とともにがんばります。」


●新春インタビュー   平和とは生活を楽しむこと
  プロデューサー  早乙女 愛さん


 2003年の新春インタビューは、中米・コスタリカ共和国の庶民の日常生活を描いたドキュメンタリー映画『軍隊をすてた国』のプロデューサー・早乙女愛さんです。
 コスタリカは軍隊を廃止し常備軍を持たないことを憲法で規定。50年以上にわたり「平和国家」を実践してきた国です。
 21世紀のいま、軍隊をすてた国の人々はなにを考えて暮らしているのでしょうか。
 東京・六本木で、早乙女さんにお話をうかがいました。

早乙女 愛(さおとめ あい)  1972年東京生まれ。   
 同志社大学文学部卒業後、商社に就職。
 4年間のOL生活中に、父・早乙女勝元の海外取材アシスタントなどを務める。
 2001年、企画・製作会社「あいファクトリー」設立。
 現在、代表取締役・プロデューサー。
●民主主義の国「コスタリカ」」
−−映画を制作することになったきっかけについてお聞かせください。
早乙女  脱OL直後の99年、父の映画企画メモをちらりと見たのがきっかけです。戦争を語りつぐことをライフワークとしている父、早乙女勝元の当初の企画は、コスタリカと日本の平和憲法の対比からスタートし、「コスタリカの『平和主義』こそ、日本の憲法9条の初心ではなかったか」というものでした。
 しかし、「9条の初心」と言われても、戦争を知らない70年代生まれの私には、それが何だかわからない。父の企画メモのわかりにくい言葉を次々と消去していくと、残ったのはカタカナ「コスタリカ」だけ。気がつけば、父から「オマエやれ」と言われてしまって。
 日本では「反戦・平和」がワンセットになっていて、平和の意味が限定されているように感じます。「平和はこんなに素敵でおもしろい」ことを明るく問題提起したかったのです。
 コスタリカの国を理想化するのではなく、普通の人々の暮らしを通じて、自分たちを見つめ直すことが大切だと思い、映画製作をスタートさせました。
−−映画では、子どもたちのいきいきとした表情が印象的ですが。
早乙女  早乙女 たくさんの学校を訪問しましたが、「平和カルチャーショック」を受けました。この国に特別な「平和教育」はありません。小学生から人権を学び、自分たちの権利と義務にはどのようなものがあるかを深く理解します。そして、平和、民主主義、人権、環境などを身近な問題から議論していくのです。
 また、コスタリカの選挙は、まさに「お祭り」騒ぎ。子どもたちは、幼い頃から選挙の政党活動や投票所でのボランティアなどに参加していて、「選挙は楽しいもの」という感覚です。ですから、18歳で選挙権を得ますが、「国に対しての責任」をごく自然にそして気楽に持つことができるようです。子どもが理解できるほど政治が身近なのです。
 なにより、人々が毎日の生活を楽しみ、その生活を守るのは自分たち自身であって軍事力じゃないということを、大人も子どもも、見事なまでにあっけらかんと信じています。
●自分がどう生きるか問われている日本
−−日本とはかなり違いますね。
早乙女  自殺者が3万人を超えるなど国民が犠牲になっている日本。戦争がなくても、社会が人を殺している実態があります。
 また、マスコミや学校教育、労働団体は8月など特定の時期しか「平和」についてとりくみませんし、決まったキーワードのみ。それに接している子どもたちは「平和な社会って何?」という具体的なイメージが描けないのです。
 自分の住みたい世界をめざすには、自分がどう生きるのかが今、私たちは問われているのではないでしょうか。
●ふだんの生活から有事法制を考えよう
−−映画の制作過程と、有事法制の動きが重なっていますが。
早乙女  そうなんです。映画の編集中に9・11テロやアフガン空爆もありましたしね。有事法制の問題を考えるときは、ふだんの自分の生活から出発したらいいと思います。
 私の場合、作りたい映画が制限されるかもしれないし、自由に表現することができなくなります。そんな小さな妨げに対して、気づいていく。一人ひとりが今から少しづつとりくんでいくことが重要だと思います。
●フツーの感覚で多くの人と交流を
−−最後に私たちへのメッセージをお願いします。
早乙女  早乙女 全国200カ所で自主上映されていますが、NPOや個人などがこの映画を活用して地元の地域問題を考えるイベントを組んでいます。
 国家公務員の方々には、趣味もたくさん持って、フツーの感覚でさまざまな立場の人とかかわってほしいですね。
自主上映の日程はホームページで
 http://www.aifactory.co.jp

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