国公労新聞 号外

●「公務員制度改革大綱」は撤回せよ!
 
  労働基本権制約は現状のまま −−人事院の権限・役割は大幅に縮小の方向−−

 政府は、12月25日の閣議で、「公務員制度改革大綱」を決定しました。その内容は、(1)労働基本権の制約を「現状維持」とする結論付けを行ったこと、(2)内閣・各府省が責任をもった人事管理を行うとして、人事院の権限・役割を大幅に縮減したこと、(3)能力等級制などの新人事制度への「改革」を政府全体で確認したこと、(4)2003年中の国会に、国公法「改正」案の提出を明記したこと、などとなっています。


▼Point1  「密室作業」ですすめられた改革
 国公労連は、政府・行革推進事務局が、9月20日に提示した「新人事制度の基本構造(議論のたたき台)」を受けて、それにもとづく交渉・協議を開始しました。10月11日には「質問書」を出し、回答を求めましたが、新人事制度の内容に立ち入った交渉・協議には、労働条件の基準(能力等級毎の人員枠、職務遂行能力基準など)を「誰がどのようにして決定」(=労働条件決定システム)するのかが重要なポイントであることが明確になりました。

〇大衆行動を背景に推進事務局を追及
 国公労連は、「11・30中央行動」など、一連の大衆行動を強化しつつ、労働条件決定システム(=労働基本権の取り扱い)について、その考え方を示すよう追及を強めましたが、「労働基本権は現行の制約を維持」とする回答が行われたのは12月19日でした。
 その間、推進事務局は、自民党行革推進本部との間で「労働基本権は現状のままで各省の自主権をどこまで拡大できるか」「内閣・各府省と人事院の機能はどう整理できるか」を検討していたことは、各種マスコミ報道からも伺えるところです。「(一部幹部が取り仕切る)独断的な『密室作業』に、行革事務局内は不協和音」(12月12日付け「官庁速報」・時事通信)との指摘もあります。

〇能力等級は何級なのか「大綱」後の検討課題に
 この経過も反映して、改革の中心課題の「新人事制度」は、「原案」(国公労新聞11/11付け「号外」で詳報)からほとんどすすんでいません。「能力等級を何級にするのか」さえ、「大綱」後の検討課題です。
 「大綱」は、新人事制度など公務員制度改革の「枠組み・検討課題」と、「労働基本権の扱いは現状維持」「人事院の機能縮小」を決定したといえます。
 国公労連は、12月19日の退庁時集会などのとりくみも背景に、直前まで「大綱決定の断念」を迫りました。


▼Point2  基本権問題は決着していない
 大綱では、「労働基本権の制約については、今後ともこれに代わる相応の措置を確保しつつ、現行の制約を維持する」としています。到底、納得できる結論ではありません。
 一つには、先にもふれている新人事制度での「労働条件決定システム」が検討されていないからです。「大綱」では、人事院は「給与水準等を決定し国会及び内閣に勧告」、「あらかじめ定められた明確な基準に基づき、等級毎の人員枠(級別定数)について、国会及び内閣に意見の申し出」することが「代表例」として記載されています(図1)。

 図1 給与水準決定の枠組みと人件費決定の枠組み


〇あらかじめ定められた「明確な基準」とは?
 ところが、この「給与水準等」の「等」は何を含んでいるのか明らかではありません。新給与制度における「基本給の各等級毎の定額」は勧告の中味なのか、「あらかじめ定められた明確な基準」は人事院が設定するのか、などの点も、推進事務局は「個別制度毎に検討」としか回答していません。
 業績手当(現行の一時金)の「業績反映部分」について、人事管理権者(各府省)が「段階数、具体的な額及び分布率(Aランクの額と人数など)」を決定するとしていますが、それで労働基本権を侵害しないと何故いえるのか、明確に回答していません。
 「大綱」では、「あらかじめ定められた明確な基準」という文言が至るところで出てきます。給与、昇格、職務分類等々、賃金決定など労働条件の「基準」となるものが少なくありません。ところが、その「基準」を誰が決めるのかは、明らかではありません。
 労働基本権問題は決着した、とはとてもいえない内容です。


▼Point3  「内閣主導」の人事行政に転換
 6月の「基本設計」から「大綱」までの間に、最も大きく「変化」したのが、人事行政の「機能整理」の部分です(図2)。

 図2 政府全体としての適切な人事・組織マネジメントの実現


 その中心は、内閣が人事行政の企画・立案を行うことを明確に位置づけたことです。「大綱」では、各府省(人事管理権者)が行う人事管理の「ルール」を定める企画・立案機能は、原則として内閣が担うこととし、その上で、勤務条件についての人事院の「適切な関与」を「代償措置」として検討しようとしています。
 また、人事管理権者と人事院の関係では、内閣が定める「ルール」のもとで運用についての事後的なチェックであり、個別労使紛争の「救済」枠組みしか検討されていません。

〇「交渉権は今まで以上に制約」の危険
 これらの前提には、「内閣が法律を作成し、国会が承認すれば憲法問題はおきない」とする考え方があり、国会や内閣が定めた「基準」のもとでの各省の運用は「管理運営事項」とする決めつけがあると思われます。
 この論理でいけば、「大綱」に盛りこまれている「本省勤務手当の新設」は、人事院の勧告なしに内閣が法案提出するのも可能、勤務時間の割り振り変更も「管理運営事項」といったことになりかねません。
 交渉権は、「現状を維持」ではなく、「今まで以上に制約」の危険性があります。内閣が企画立案する中味は何か、法律で決定する基準は、各府省の運用権限の具体的内容は、そしてそれらと人事院の関与、労働基本権との関係は、などについての個別の検証と、たたかいが必要です。


▼Point4  具体化が先行する評価制度
 「新人事制度」の具体的な内容は、「大綱」でもほとんど詰まっていません。しかし、能力・実績主義の人事管理への「改革」を閣議決定したことで、「評価制度」が急速に具体化する可能性があります(図3)。

 図3 あらたな評価制度の流れ(イメージ)


 12月21日、外務省は、不祥事に対応した人事制度を柱とする「改革」を発表しましたが、その中では、「部下による上司の評価」が組み込まれています。現行でも、国公法第72条で「勤務成績の評定」が規定されていますが、その具体的な方法は各省に委ねられているのが実際です。能力評価や目標管理は、全面的に否定はされていません。
 また、「大綱」が、評価段階、評価者訓練、フィードバックの方法、苦情処理の仕組みなどについて、「各省の実情をふまえて行う」とし、「各府省がそれぞれの実情をふまえて試行」としたことも重要です。能力等級制度と一体の評価制度の具体化は、「各省の実情をふまえ」2006年度からの制度以降に間に合わす「試行」が各府省に求められたとも言えるからです。
 国公労連は、先の定期大会で「人事評価システム検討に関する討議素案」を明らかにし、職場からの討議を求めています(図4)。

 図4 評価制度検討への国公労連の基本スタンス


 「短期評価の賃金反映を認めない」ことを前提に、政府・各省当局の一方的な評価システムの制度化を許さないためにも、「素案」の討議をふかめ、「試行」への対応を、単組段階でも準備する必要が生まれています。


▼Point5  人材育成、再就職、官民交流は重大な「原則の転換」
 T種採用試験合格者を、採用予定の4倍程度とする、「大綱」に盛りこまれたこの内容は、特定大学・特定学部の卒業者に偏在した学閥による情実任用につながりかねません。T種採用者は「幹部候補」として集中的に特別の育成策を講ずる、これはキャリア制度の合法化以外なにものでもありません。いずれも、公務員制度の原則とされてきた「メリットシステム」の重大な転換です。
 民間企業の人材が公務に採用されやすくするために「民間従業員との身分の併有」を可能にし、各府省の判断で主体的に採用する、民間営利企業への再就職は各府省大臣が承認するなどの内容は、公務の中立・公正性を確保する上で重要とされた「私企業からの隔離」をなし崩しにするものです。「官から民、民から官」への人材の流動化は、就職の自由から「原則自由」だという考えに貫かれています。税金で「能力育成」しておいて、その能力は民間企業で活用、それで国民が納得するのでしょうか。官僚の身勝手さ、独りよがりにほかならない内容です。


▼Point6  国公法改正案は2003年中に国会へ
 「大綱」では、今後のスケジュールも明らかにしています。それによれば、2003年中の国会(通常国会が目標)にむけ国家公務員法「改正」作業をすすめ、関係法令(退職手当法や共済組合法など)や政令などの整備を2005年度末までにおえ、2006年度から新たな制度に移行するとしています。また、国家公務員法と同時期に、地方公務員法「改正」も行うとし、総務省などと連携してすすめるとしています。
 また、改革作業は、法的根拠が不明のまま、推進事務局が中心となってすすめるとし、人事院に「一層の協力」を求めるとしています。

〇評価の試行が先行して動き出す可能性も
 このようなスケジュールは、2001年臨時国会にも「法案」を提出するとしていた3月の「大枠」からすれば大きな変化であり、国公労連のたたかいの一定の反映でもあります。しかし、推進事務局には、「大綱」をもとに「公務員制度改革基本法(仮称)」を2002年通常国会に提出する動きも残っていること、先にもふれたように、「評価の試行」が早い段階から動く可能性があること、など、たたかいの手をゆるめる状況ではありません。
 また、「大綱」決定までの推進事務局の対応は、極めて問題であり、交渉・協議のルールづくりも課題です。

〇一方的な制度改革を許さない
 国公労連の「基本要求」にてらして、「大綱」は受けいれられる内容ではありません。「大綱の撤回」を迫りつつ、閣議決定されたという事実もふまえ、一方的な制度改革を許さない立場で、個別制度の内容追及を強める必要があります。

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