国公労新聞 第1096号

●くらしと雇用を守れ! 「俺たちは工場で働きたい」
 
−−たたかう池貝の仲間たち−−

 ある日突然、倒産や解雇、過労死が襲いかかる……。そんな現実が各地で後をたちません。
 史上最悪5.4%の完全失業率。小泉内閣の「聖域なき構造改革」の名の下に、「不良債権の早期最終処理」が強行され、中小企業がその犠牲になっています。人間らしく生き、働く権利が脅かされているのです。
 そんな中、攻撃に屈せず、大企業の横暴に立ち向かう民間の仲間たち。雇用と労働債権確保をかかげ、たたかっている全日本金属情報機器労働組合(JMIU)池貝支部のとりくみを出発点に、いまの行政の実態について、一緒に考えてみませんか。

〇突然の解雇に負けず、仲間が立ち上がる
 「突然の倒産に目の前が真っ暗になりました。国の政策で解雇されたようなものです」と、JMIU池貝支部委員長の桜井和夫さんは訴えます。
 2001年2月、工作機械メーカーの株式会社・池貝(本社・川崎市)が、東京地裁に民事再生法による申立を行い、倒産しました。従業員550名は全員解雇。一部は選別再雇用されたものの残された労働者の雇用や、退職金などの労働債権は後回し。日本興業銀行の債権回収が最優先し、まさに小泉内閣の「不良債権の早期最終処理」の先取りといえます。
 JMIU池貝支部(組合員36名)は、働く者の権利を守り、雇用確保、会社の再建をめざして立ち上がりました。「労働者は働くことが命。くらし、雇用、職場を守るという切実な要求をにぎって離さない!」を合言葉に、「池貝だけでなく、リストラと倒産に苦しむすべての労働者のためにも必ず勝利しよう」と全国オルグや行商を10カ月間、必死になって展開してきました。

〇興銀派遣の社長が徹底した組合差別
 池貝のたたかいは、1981年にさかのぼります。日本興業銀行から派遣された社長の指揮で、会社はインフォーマル組織を育成し、労働組合を乗っ取りました。83年の労働組合活動家をねらい打ちにした「指名解雇」撤回闘争から始まり、今日まで、20年間がたたかいの歴史でした。
 会社は、「指名解雇」争議解決後の91年に結成した労働組合(JMIU)に対する徹底した差別など、たたかう組合敵視の労務政策を強行しました。一方、経営者のワンマン・放漫経営は野放しにされ、結果として倒産という事態に至ったのです。

〇民間と公務が力合わせ、差別導入を許すな
 桜井さんは語ります。「能力・成果主義など差別が導入され、労働組合の経営政策チェック機能が弱まると、池貝のように倒産します。いまの公務員制度改革の流れを許せば、国民サービスが低下し、いずれ国家がつぶれていくのではないでしょうか。今こそ民間と公務の労働者が力を合わせてたたかい、反撃するべきです。」

〇労働組合があったからいきいきとがんばれる
 「池貝争議は民事再生法に風穴を空けるたたかいです。全員解雇であきらめるのではなく、神奈川地労委に訴え「話し合いがつくまで解雇するな」の勧告を引き出し、東京地裁から任命された監督委員に粘り強く訴えて労働債権確保の重要性と銀行の責任を明確にした『意見書』獲得など、世論を味方につけて一つひとつ成果を勝ち取ってきました」と、池貝支部書記長の小長谷元昭さんは元気に語ります。
 昨年4月、解雇通告後すぐに、労働債権を保全するために、川崎工場の一部と本社の仮差押えを行い、連日の泊まり込みでたたかう砦を確保。泊まり込み支援者数は、今日まで延べ1011名を超えています。毎週2回の日本興業銀行本店前宣伝行動、3次にわたる全国オルグ。支援共闘会議や県労連などと連携し、仲間と励ましあいながらたたかった結果、池貝支部と会社、メインバンクである日本興業銀行との交渉が実現しつつあります。

〇退職金は25%のみ、きびしい闘争生活
 一方、池貝の闘争資金はカンパで成り立っており、争議の長期化は組合員の家計を圧迫しています。住宅ローンを抱える仲間もいます。池貝支部の川島忠男さんは、「退職金は25%しかもらっていません。生活はきびしく、ホームレスを見ていると、次は我が身かと不安になります。でも職場に労働組合があったから、こうして生きいきとがんばることができるのです」と力強く語ってくれました。
 今年5月には、雇用保険が切れてしまう池貝支部の仲間たち。最後に小長谷書記長は訴えました。「第2、第3の池貝を出したくありません。早く勝利解決できるよう全国のみなさんの支援をよろしくお願いします。」

▼(株)池貝は、国産第1号の旋盤を世に送り出した創業112年の歴史をもつ工作機械メーカーの老舗。
▼JMIUは、池貝川崎工場の存続と労働債権の完全確保などを要求しています。現在は、仕事が入った時だけ一部稼働し、30人弱が細々と働くのみ。工場内は閑散としていました。

●小泉「構造改革」で行政の現場は
   労働者に「痛み」強いる政治との板ばさみ−−国民とともに行政民主化めざしたい−−

 小泉内閣はリストラを応援し、「不良債権の最終処理」の名による中小企業つぶしなど、大失業、大倒産をもたらす「国民に背を向ける改革」をすすめています。
 そこで、「くらしと雇用」にかかわる行政の現場はどうなっているのか取材しました。

▼中小企業庁
 「借金が返せない」苦悩する事業主 −−抜本的な救済政策が必要−−


 「仕事がない」「借金が返せない」「借りられない」悩みを抱えている中小企業。企業数の97%、雇用の75%を占める日本経済の屋台骨です。

〇中小企業の倒産が深刻
 しかし、2001年1〜10月の10か月間だけでも、中小企業の倒産は1万5538件、負債総額は6兆円を超えました(東京商工リサーチ調べ)。「銀行が融資せず、経営が成り立たない」など今年度上期で1800件以上、事業主からの切実な相談が連日寄せられています。 
 中小企業庁や経済産業局の担当職員は、創業促進・経営革新、信用保証・融資制度、倒産対策、下請け代金法にもとづく立入検査などの業務を懸命にこなしています。全経済の組合員で中小企業庁に働く塩野竹久さんは「私たちの仕事が中小企業や労働者のために役だっているのか、歯がゆさを感じる時がある」と語ります。
 小泉「構造改革」によって、リストラ推進、産業の空洞化などが進められています。塩野さんは、個人的見解であるとの前提で語りました。「中小企業の救済のためには経済悪化の根本原因を改めるべきです。たとえば、景気回復までの間、金融機関などの保証付融資を全額無利子として返済を猶予したり、創業に挑戦する人(失業者等を対象)や倒産関連・災害地域の中小企業に補助金を支給するなど、抜本的な夢のある政策が必要ではないでしょうか」。


▼川崎・高津社会保険事務所
 不況で社会保険脱退も、年金の相談件数は激増


 「社会保険は従業員を殺すためにあるのか!」と取引先に調査に入られたことから怒る事業主。かつて2年間、社会保険事務所の徴収部門を担当した飯塚勇さんは当時を振り返ります。
 社会保険料は企業の経営状態に関係なく納付の義務が定められており、滞納の場合は調査などに入ります。バブル崩壊後の不況が中小企業を直撃し、資金操りが厳しくなり、保険料を運転資金に回したり、社会保険を脱退する会社も出てきている実態です。
 現在は川崎の高津社会保険事務所に勤める飯塚さんは、「保険料の収納率をアップさせるよう社会保険庁の指導も強まっています。納付の猶予措置は阪神大震災の時のみ。戦後最悪の不況とも言えるなかで、現場の職員は制度の矛盾との板挟みになっています」と語りました。

〇利用者の立場で対応
 一方、年金窓口への相談や問い合わせも激増。高津ではピーク時で1日230件を6〜8人で対応しています。失業・倒産など深刻な相談や、複雑な制度「改正」の説明を求められ1件の相談時間が30分〜1時間以上かかることも珍しくありません。千葉・埼玉・神奈川3県の年金受給者数や人口は全国平均の2倍以上(職員比)、相談件数も異常な多さです。首都圏のある事務所では、9時半で午前中の受付を締める所もあり、定員不足が行政サービス低下を招いています。
 年金給付担当の藤本幸子さんは「『なぜ年金額が下がるのか?』などの苦情が多いですね。10月から介護保険料が全額負担になった時は、気持ちもわかるので説明も大変でした」と話します。7人の職員が本来業務をこなしながら1日200件の電話や手紙での相談に対応しています。
 全厚生高津分会は激増する年金相談などに対応するため、利用者と職員の切実な要求を出し合い、溝の口駅の「年金相談センター」(今年2月開設予定)や社会保険労務士による窓口案内などを実現しています。
 飯塚さんは「制度はすぐには変えられませんが、組合として運動を積上げ、国民サービス改善のためにがんばりたいと思います」と決意を述べました。


▼横浜・緑税務署
 税金を払えない事業者増える


 「経営が苦しく借金を抱える中小企業の滞納が増えています」と話すのは横浜・緑税務署で働く角谷啓一さん(全国税緑分会)。深刻な不況の影響で売り上げが減少し、事業者が消費税を運転資金に回しているからです。2001年10月末現在で東京国税局(東京・神奈川・千葉・山梨)の消費税の滞納残高は、3233億円に達しています。
 角谷さんは「本当に困っている滞納者には実情を十分聴取・調査・相談し、納税の緩和措置を適用するようにしています。ただ、なかには意図的に納税を回避しているような滞納者もあるので、その見極めが難しいですね」と国税徴収官としての苦労を語ります。
 緑税務署の滞納徴収現場では、職員一人あたり平均450件位の事案を常に抱えています。しかも、新規の滞納が続発し、他に財産がなく、売掛金を差し押さえると倒産してしまうといった事例が多く、徴収職員を悩ませています。「量」とともに「質」の面でも滞納整理が複雑・困難化するなか、今の人員ではまともに対処しきれません。人員不足からくる徴収行政の不公平が危惧されます。
 角谷さんは、「不況で困っている人を何とかしたいですね。たとえば、政府はもっと労働債権を保護する制度を確立するべきと思います。私たちはもっと税研活動や行政民主化のたたかいを発展させ、国民のために誇りをもって働ける職場にしたい」と力強く語りました。

▼川崎南労働基準監督署
 増える労働相談と過労死申請 −−もっと労働者に役立ちたい−−


〇退職強要や賃金不払い安全軽視して労災多発
 「突然解雇されました」と、すがるように川崎南労働基準監督署を訪れる労働者が後をたちません。
 「いじめなどによる退職強要や解雇、賃金不払いの相談が増えています。派遣労働のケースなど相談内容も複雑になっており、1件2時間かかることもあります」と監督官の齋藤裕紀さん(全労働川崎南分会)は話します。窓口と電話の相談に対応しつつ、工場などの労働現場の立ち入り調査・監督を実施しています。
 川崎南署で管轄している事業場は1万5000件(96年時点)ですが、11人の監督官が立ち入り調査・監督できるのはわずか7%。また「会社に指導してほしい」と監督署に申告する受理件数は2001年11月末時点で125件を越えています。「実際に相談や申告する労働者はほんの一握り。もっと監督官を増やして、労働者の権利を守りたいのですが…」と悩みを語る齋藤さん。
 川崎南署管内では大規模製造業が多いのが特徴で、その下請関連の中小規模の製造工場もたくさんあります。
 不況などで製造業の仕事が減り、下請け単価切り下げの相談、労働保険料の滞納が問題になっています。「経営がきびしく、安全管理面の経費を削減したり、安全管理組織の縮小などにより、労働災害が多発しています」と安全衛生課の吉田雄二さんは話します。

〇仕事減るのがいやで労災事故隠し
 「悪質な労災事故隠しが出てきています。事故が発覚すると仕事が減るという理由で、元請け会社から口止めされているからです」と話すのは労災課の林米男さん。過労死申請も増え続け、8人の職員が労災請求事務と認定調査を行っています。「過労死認定は、会社が非協力的な場合も多く、調査に時間がかかります。遺族のために早く処理したいのに辛いです」と林さんは話します。
 労働基準監督署では、長引く不況の影響や、新たな制度の導入により、職員の業務量が増加しています。齋藤さんは「人員を増やして、もっと労働者の立場に立った仕事をしたいです」と語りました。

▼川崎、横浜公共職業安定所
 労働力の「外注化」が一気に加速 −−解雇規制し、働くルール確立を−−


〇劣悪な労働条件で求人だす企業
 真剣な表情で求人票を見つめる求職者たち。失業が社会問題化して雇用保険の充実が必要な時期なのに、2001年4月から雇用保険法が改悪されました。川崎公共職業安定所で働く畠山利男さん(全労働川崎職安分会)は「雇用保険の給付が切れても仕事が見つからない方や、面接にいく交通費がないと泣きつくケースもあります」と求職者の深刻な現状を話します。
 企業は、この不況と失業者の増大を背景に「いくらでも代わりはいる」と言わんばかりに、劣悪な労働条件で求人を出してくるといいます。当然、トラブルや苦情も多くなっています。
 「事業主に指導する場合も、リストラが当然というような風潮や、企業のモラルの低下が目立ちます」と、横浜職安の君嶋千佳子さん(全労働神奈川支部長)は語ります。
 社員を大量解雇し、一方で仕事を請負業者にゆだねる現象も。もちろん、その会社のねらいはコスト削減です。そして、請負業者に雇用される労働者の側から言えば、低賃金はもとより、就業先、労働条件、仕事内容も不定です。
 派遣求人も同様です。雇用主と就業先が違うことから、問題の処理もあいまいになりがちです。また、契約の途中解除、次の派遣先がみつからないなどの不安定要素も常に抱えています。
 労働基準法改悪など一連の規制緩和のなかで、職業安定法、労働者派遣事業法も改悪され、それを機に、このような労働力の外注化が一気に加速しています。

〇現場を無視した政治主導の施策
 労働条件の悪化と失業者の増大は深刻です。
 現場を無視した政治主導の施策が次から次へと大量に打ち出され、しかも実効性のないものが多く、職場はまさにふり回されている状態だといいます。
 「倒産が出ると『構造改革が進んだ』などという政府のもとで、職員は本当に情けない思いをしながら仕事に追われています。労働行政は規制緩和すべき分野ではありません。解雇を規制することや、労働者の働くルールを確立することが必要です」と全労働の仲間の声を紹介し、訴えました。

●新春インタビュー
  国連の社会権規約委員会へ要請
 −−「労働時間削減せよ」の勧告勝ちとる−−

  霞が関の中央省庁で働く国家公務員の長時間・過密労働改善のため、東京国公と霞国公(霞が関国公共闘会議)は、2001年8月下旬、国連社会権規約委員会(ジュネーブの国連欧州本部で開催)への要請団(80名)に代表2名を派遣しました。
 職場の期待を背に参加した全運輸本省支部副委員長(霞国公副議長)の志賀達也さんに聞いてみました。

 「早く帰れると思うなよ」そんなセリフが飛び交う霞が関の本省職場では、過酷な労働実態による疲労やストレスが蓄積し、過労死や過労自殺などが深刻な問題になっています。
 志賀さんは国土交通省の本省に働く職員として、「霞が関のみならず、民間の仲間も長時間労働に苦しんでいる。家族的責任を果たせるような生活と労働を確立したい」との思いを強く抱いていました。
 そんな時、「霞が関不夜城の実態を国連に訴えよう」と東京国公と霞国公が提起。「同僚たちの過酷な労働を国際機関に伝えたい」と、全運輸本省支部の仲間の応援で、NGO「国際人権活動日本委員会」として参加することになったのです。

〇過酷な労働実態に国際的な批判
 政府の報告書に対する反論書(カウンター・レポート)、追加資料などの翻訳、精力的なロビー活動など、志賀さんの語学力が役割を発揮。審査会場前で、写真を貼りつけた霞が関「不夜城」マップを、各委員に対し懸命に説明すると、「欧米では定時退庁が一般的ですから、みなさん驚いていました」。
 社会権規約委員会は、日本政府と違って、温かく親切だったといいます。議長の配慮で審査前日にランチタイム・ブリーフィング(休憩時間中の非公式会議)が開かれ、日本の労働現場の実情を訴える機会も。「フランスの最高裁判事であるテキシェ委員は、日本の訴えに真剣に耳を傾けてくれました」と志賀さん。
 「自殺するかもしれないような労働時間は本来あるべき国家公務員の仕事、民間を含めた労働時間ではない」、「十分な手当が支払われていないことも問題」とテキシェ委員が、審査の場で明言してくれた時は、志賀さんはとても感激したと言います。

〇人間らしく生きるため労働組合活動を
 このような審議を経て8月31日、国連の社会権規約委員会の最終見解は、日本政府に対し「過大な労働時間を容認していることに重大な懸念」を表明。「労働時間を削減するために必要な立法及び行政上の措置をとることを勧告する」という明確な判断をしたのです。
 日本要請団の活動が勝ちとった「改善勧告」。過去に千数百件もの勧告を受けるという不名誉な実績をもつ日本政府に実効ある措置をとらせるため、今後「働くルール」確立のとりくみを大きく発展させることが必要です。
 「私は、一緒に参加した不当解雇の撤回を求めてたたかっている民間女性のとりくみに感動しました。公務の不払い残業をなくさなければ、民間の実態も改善されません。今の現状を変えるためには、『自己変革』が必要です。労働組合活動は、職場でできる自己参加型のボランティア。人間らしく生きるためにも、夢と希望を抱いて行動しましょう」と語った志賀さんの笑顔が印象的でした。

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