国公労新聞 号外

公務員制度改革の「基本設計」を斬る

 政府・行革推進本部が6月29日に決定した「公務員制度改革の基本設計」は、「2万人にも満たないキャリア官僚による、キャリア官僚のための『要望書』」(6月21日付け朝日新聞)と指摘されるように、公務員制度の民主的な改革に背を向けたものになっています。
 政府は、この基本設計にもとづく「公務員制度改革大綱(仮称)」を12月を目途に策定しようとしています。本号では、「基本設計は練り直したがよい」(7月6日付け西日本新聞)とする批判まで出はじめている公務員制度「改革」の内容を改めて検証します。


●国際的ルール

「労働条件の変更は労使の交渉・協議で」

  3月27日の公務員制度改革の「大枠」では、政府は、6月中に「基本設計」をとりまとめ、その後、法改正作業にとりかかる、としていました。
 しかし、そのスケジュールは、実質的に後退しています。賃金・労働条件の変更は、使用者・政府が一方的におこなうことはできない、という「当然の原則」を踏みにじり、政府・行革推進事務局が「政治主導」で一方的に「改革」をすすめようとしたことに、国内外から批判が集中したからです。
 また、各単組での職場段階からの使用者責任追及や、短期間に約20万の国会請願署名を集約し、133名の紹介議員を獲得したわたしたちのとりくみの効果は大きなものがありました。
 とくに、6月にジュネーブで開催されたILO第89回総会で、政府の強引な「改革」のすすめ方が、各国から厳しく非難され、日本政府は、「(行革大綱)の閣議決定や『大枠』は、制度の具体的内容を決定したものではない」、「今後の交渉・協議を制約するものではない」とし、「基本設計」のあとに「職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議」することを会議の場で「公約」せざるをえませんでした。

○「まともな交渉」の追及が重要

 しかし、「基本設計」のなかでは、(1)各府省の意見をふまえて行革推進本部が決定したこと、(2)具体化にむけた検討体制で「専門家である人事院」の協力を得ること、(3)「関係者との十分な意見交換」を行うとする表現を使い、労働組合との「交渉・協議」に消極的な姿勢を示していることなど、巻き返しがおこなわれています。また、12月の「大綱」策定を絶対視してすすめるならば、「交渉・協議」に枠をはめることになります。
 このような「巻き返し」をゆるさず、国公労連と政府・行革推進事務局との「(労使対等原則の)まともな交渉」を追及することは、労働条件改悪を許さないためにもきわめて重要になっています。

ILO総会・日本政府の発言(抜粋)

 2000年12月の閣議決定は公務員制度について改革の内容を大まかに示した性格のものであり、本年3月に公表された「公務員制度改革の大枠」は、この閣議決定を受けて新たな制度について政府部内の検討の方針を示したものである。
 このような性格上、閣議決定や「大枠」は、職員団体に事前に提示して協議を行っていくような性格のものではなかったと認識しているが、今後においては、職員団体をはじめとする関係者と誠実に交渉・協議しつつ、制度の内容について検討を行ってまいりたい。


●「信賞必罰の人事管理」の柱としての「能力等級制度」

 基本設計では、「役職段階ごとに必要とされる職務遂行能力の基準」に基づく「等級体系」を設け、任用や給与の基準として活用する、としています。信賞必罰、身分保障の見直し、職務給の廃止、など「大枠」で触れられていた言葉は消えましたが、職員一人ひとりの能力を評価して、賃金や任用によって選別を強める姿勢は貫かれています。
 能力等級を何段階にするのかは「今後の検討課題」とされていますが、5月29日に「タタキ台」だとして示した内容は「8等級制」でした(図1)。たとえば、本省・課長クラスの「役職段階」に求められる「能力基準」をあらかじめ定めておき、それに見合った「能力」があるかどうかを「評価」し、等級に格付けるというのです。


○降任させる仕組みも整備

 (1)一人ひとりの職員の能力をどのようにして評価するのか、(2)絶対評価であるべき能力評価が、等級の「定数」によって相対化されるという矛盾、(3)賃金水準の決定にあたって民間準拠を意味する「情勢適応の原則」を維持するとしていますが、仕事の仕方が異なる官民で「役職段階ごと」の能力比較をどのようにしておこなうのか、など根本的な問題も明らかになっています。
 能力等級の導入により、(昇格にかかわる)人事院の級別定数の査定を廃止し、級ごとの「人員枠」を設けるとしています。「職務遂行能力基準」を満たしていないと降任させる仕組みも打ちだされています。同じポスト(仕事)に就いても人によって等級が違ったり、「評価」を口実に課長から課長補佐に「降任」されたり、といったことが考えられます。
 このように、当局が恣意的に労働条件を変更できる仕組みを作るとしながら、労働基本権など労働者の権利を守る仕組みには何らふれられていません。
 なお、「人」の能力にもとづく人事管理は、「28歳で税務署長」といった人事の「合法化」にもなりかねません。能力等級制度が、「キャリア厚遇」と指摘されるのはこのためです。。


●賃金は「能力給」、「職責給」、「業績給」に3分割

 現在の俸給表を「能力給」に、いわゆる管理職手当を「職責給」に、期末・勤勉手当を「業績給」に再編するとしています。
 能力給は、能力等級におうじた「定額部分」と毎年の業績評価に応じた「加算部分」で構成するとしています(図2)。評価に応じて加算額(現行の昇給相当)が人によって違う、上限を設けて年功的要素を縮小する、総人件費抑制の仕組みとして検討する、ことなども考えられています。
 職責給は、「能力給を補完する給与」としています。役職段階ごとの職務遂行能力には「職責に応じた能力」が含まれているにもかかわらず、管理職層(本省庁課長以上)には給与の二重払いを続けようというのです。


○各省当局が一方的に賃金を決める

 業績給は、わざわざ「賞与」と規定し、成果に応じて支給することを強調しています。「一時金は、盆、暮れの支出増を補填する賃金」とすることへの否定です。
 なお、本省審議官以上の指定職については、職責給に業績給を含めた年俸制だとしています。指定職には「能力評価」はなじまない、と言うのです。
 「各府省の人件費予算は、明確な統一基準にもとづく積算により設定」、「各府省は、職員の能力及び業績の評価、官職ごとの職責評価に基づき支給」としているように、各省での「弾力的な運用」が考えられています。現在の俸給表は廃止され、同じ課長補佐といっても、省庁間で賃金水準に格差がある、そんな事態も考えられます。
 各省当局が一方的に労働条件を決めるというのに、労働基本権の問題は「先送り」なのです。


●「企画立案と執行の分離」、
「複線型人事管理で公務の民間化」を強調
  
 今回の「改革」でも、企画立案と実施の分離が強調され、「それぞれの機能強化」を口実に、業務遂行規範や複線型の人材育成、民間などからの多様な人材確保などが盛りこまれています。
 「国際競争に勝ち残れる政策づくり」は、本来、政治の役割ですが、今回の「改革」で明らかになったことは、引きつづき官僚が政策づくりの中心に座ることを「合法化」しようとする姿勢です。内閣総理大臣を直接補佐する「国家戦略スタッフ」などを「育成」するために、T種採用試験を温存し、海外留学等の育成策を強化し、能力「評価」による選別を強める。全体としてそんな構図が浮かんできます。
 ですから、政治的中立や、「私企業との隔離」といった、本来は「政官財」ゆ着をなくすためにも強めなければならない公務員制度の原則の「見直し」まで言及しています。
 いっぽうで、執行部門の公務員には、徹底した効率化をせまる仕組みが準備されています。各組織の「目標と職員の行動基準」(業務遂行規範)を策定し、これを職員一人ひとりの「目標」と連動させ、「評価」しようとしています。

○職員を競争させ効率化を推進

 例示されている業務目標では、「予算の効率執行」、「事務手続きの簡素化」などがあげられています。「滞納差し押さえ○○件」、「事務経費○○%削減」などの達成を、一人ひとりの職員に競わせることで、「簡素で効率的な行政」をめざそうというのです。
 しかも、これらの「とりくみ」を通じて、企画立案と執行の分離を加速させ、執行部門の独立行政法人化、民間委託につなげていくとしています。


●「天下り」の自由化に、批判が集中

 「営利企業への再就職は大臣の直接承認に」、これが天下りに対する「改革」の中味です。特殊法人や公益法人への再就職については、「必要な措置を講ずる」として、具体的な検討課題すらあげていません。

○「政官財」ゆ着はなくならない

 多くのマスコミが、「天下りの規制緩和」だとして、批判を集中しています。「大臣が個々の天下りの是否を判断できるのか」、「行為規制といっても先行しているアメリカでも実効性があがっていない」、「『政官財』ゆ着がもっとひどくなる」などの指摘をしています。
 「民間労働者が雇用不安を高めているときに」という声もあります。「公務員制度改革はわかりにくい」という声もありますが、(1)キャリア制度の温存や「天下り自由化」など、一部の官僚にとって都合の良い「改革」、(2)使用者・政府(各省当局)の労働条件決定権限を強めながら労働者の基本的人権はお構いなしの「改革」、(3)行政サービスの向上より規制緩和や社会保障改悪などの企画立案を重視した人事管理への「改革」、であることは「基本設計」でいっそうはっきりしてきました。


●12月に向け、さらにたたかいを強めよう
  

 一部の特権官僚のための「改革」ではなく、現場第一線ではたらく公務員労働者が「よい仕事ができる改革」を政府に強く迫っていくことが大切です。
 そのためにも、「基本設計」のどこに問題があるのか、職場の仲間は今の公務員制度のどこを問題だと考えているのか、そして職場を訪れる利用者・国民はどのようなはたらき方を望んでいるのか、率直な「対話」を広げる必要があります。
 そして、国公労連が考える公務員制度改革の「三つの柱」を積極的にうったえ、支持を広げていきましょう。政府による一方的な労働条件改悪は絶対許さない、その思いを胸に。
 これまでのたたかいの成果(「基本設計」への批判の広がりなど)を活かして、職場から地域に打って出ましょう。 


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