国立試験研究機関の独立行政法人化に反対するアピール

<1998年1月30日 No.8>
 国公労連と学研労協は、国立試験研究機関の独立行政法人化に反対し、国民のための研究所をめざすアピールを発表しました。今後、著名研究者に賛同署名を呼びかけ、4月には大規模な国立試験研究機関の独立行政法人化のシンポジュウムを予定しています。
国立試験研究機関の独立行政法人化に反対するアピール
1998年1月
日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)
筑波研究学園都市研究機関労働組合協議会(学研労協)
 去る1997年12月3日、政府行政改革会議は最終報告(以下「報告」という)を発表し、「行政機能の減量(アウトソーシング)」の目玉として、「独立行政法人」の創設をあげ、国立試験研究機関の大部分である66機関を「原則として独立行政法人化を図る。その際、可能な限り統廃合を進める。」と、名指しました。これをうけて、政府は「中央省庁再編等基本法案」を国会に提出しようとしています。国民の求める真の行政改革(ゼネコン行政の無駄遣い、贈収賄、天下りなどをなくし、教育、福祉、文化等の充実)がいつの間にか数合わせの省庁再編や、「行政スリム化」のためとする独立行政法人化にすり替えられたのです。独立行政法人化で、結局は、現在の動燃や道路公団の持つ、渡り鳥型の天下り役員、無責任な運営、秘密隠ぺい体質、汚職体質等の問題点が試験研究機関にも持ち込まれるおそれがあります。私たち、当該試験研究機関等の労働組合は、働くものの身分を不安定にし、日本の科学・技術の発展を損なう今回の方針に反対し、広く皆さんの賛同を訴えるものです。

1.国立試験研究機関は国民の期待に応えるため、これまで通り国の機関として位置づけなければなりません。

 これまでの日本の研究開発は追いつき追い越せ型の経済発展を追求してきたため、ともすれば民間企業の行う開発研究に傾斜しがちであり、「基礎科学ただ乗り」との国際的非難を招いてきました。旧来型の経済発展が終息したいま、基礎科学の振興は21世紀の日本と世界の経済社会発展に不可欠なものであり、わが国の責務です。

 国立試験研究機関の研究は、専門家集団による組織性、長期性、広域性、政策性に特徴があり、存在意義が広く認められています。植物による二酸化炭素の吸収の定量的研究や大型哺乳動物の発生学的研究のような大型基礎研究、オゾンホール発見の端緒となった20年以上にわたる観測と研究や稲や果樹の品種改良に10〜20年もかかるなどの組織的長期性を必要とする研究、雲仙普賢岳の噴火に即応する観測調査や超LSI開発に民間の力を総結集させた国家的プロジェクト等、政策と一体となった技術開発などは、国立試験研究機関ならではの研究です。

 今後さらに重要性を増す環境技術、安全技術、防災技術、農業技術などは、企業論理に拘束された研究活動では行いえず、公共的立場に立つ国が責任を持って開発すべきものです。また、標準研究のような採算性が期待できない基盤的分野は、到底民間企業では行い得ないものです。国が明確に責任を持つ国立の試験研究機関の充実こそ、国民生活の向上と国民経済の発展にとって不可欠です。

2.国立試験研究機関の独立行政法人化には以下のような国民の期待に反する問題点があります。 (1)国立試験研究機関に求められる役割を果たすためには、腰を据えた研究が必要です。それを支える最大の要素は経常研究費です。しかし、独立行政法人では、その保障がありません。

 経済効率優先の独立行政法人では、短期間に成果を上げることが要求され、研究はプロジェクト研究が中心に置かれることが容易に想定されます。そのような状況下では他人に確たる説明のできない段階のシーズ研究を進める経済的保障がありません。科学技術研究は未知への挑戦で、研究室にいる第一線の研究者たちが自らの頭脳だけを頼りに行うものです。しかも、その研究者ですらその戦略、手順について確信のない場合が多く、いわゆる研究者の「第六感」というものもあり、それらを10回試してみて、1回当たれば良いほうで、本当の独創的研究が芽を出すには5年や10年は必要です。このような営々たる努力の上に、科学技術研究が人類に新しい知見と革新的技術をもたらしたのです。そのような研究者の試行錯誤を保障するものとして経常研究費が与えられてきました。独立行政法人においてはその扱いは不明であり、各省当局ですら懸念を表明しています。大部分の試験研究機関が独立行政法人化される一方で、一部の研究機関は「直接行政活動に携わるもの」として除外されることになっていますが、これらの研究機関では行政目的に密着した研究のみが重視され、研究費の絞り込みにより自由で創造的な研究ができなくなる恐れがあります。研究全体のプロジェクト化は独創性の枯渇をもたらし、開発研究すら弱体化させることになりかねません。

(2)「報告」では、自律的・自主的な組織運営のため国立試験研究機関を独立行政法人化するとしています。しかし、その美辞麗句は望むべくもありません。

 それは今回の独立行政法人化の方針が働くものの意見を聞かずに、一方的に決められたことからも明らかです。

 次に指摘しなければならないのは、プロジェクト研究費など使用目的を限定した運営費(委託費)の支出や天下り人事などを通じ、主務官庁のコントロールが現状より強まり、行政の責任が研究機関に転嫁される関係になることが予想されることです。そうなれば、短期的視点に立った政策で研究活動が左右され、長期的視点に立った研究が困難になります。このことは、これまでも省エネルギー・省資源、公害・地球環境関係の研究の進捗が時々の政治的情勢により悪影響を受けたことを見ても明らかです。

 また、研究業務が主務省庁の運営評価委員会や総務省(仮称)の評価委員会で、一方的に評価されるようでは、自律的・自主的な組織運営は困難です。特に、総務省の評価委員会において、事業の改廃、民営化の是非をも含め検討することとされており、独立行政法人がきわめて不安定な組織であることを示しています。これでどうして腰を据えた研究が出来るのでしょうか。

 国立試験研究機関は、基礎研究、基盤研究に立脚し、関係省庁の政策部門からは一定の自立性を有し、かつ政策提案力を持つという現状のような関係を保つことによって国民生活向上、国民経済発展に貢献することができます。

(3)独立行政法人は、「国が直接行う必要がない業務」と位置づけられ、「行政の減量」の目玉にされています。

 独立行政法人化は、公務員を見かけ上、削減する方法であるとともに、運営全体でも「効率化」のためとする研究の進展に逆行する減量が強く求められることを示唆しており、科学技術研究を重視するというこれまでの政策と明らかに矛盾します。ただでさえ不足している試験研究機関の定員がさらなる削減を求められ、研究活動にも支障を生じてきます。特殊法人である動燃では、金は出すが人は増やさないという「効率化」のために、実質的な業務の遂行は外注、下請け体制によっています。動燃のアスファルト固化施設での爆発火災事故は、下請け作業員のみで、総合的に責任を持って判断できる正規職員がいないところで起こりました。独立行政法人では、これと同じ過ちが繰り返されることが危惧されます。また、任期付き任用など研究者の使い捨て等が一層推進されることも予想され、短期での成果を追い求める研究がこの点からも拡大し、本来保持すべき国立試験研究機関の性格を大きく変えることが予想されます。さらに、研究支援部門の民間委託が一層進められ、いまでさえ不十分な研究支援部門がますます弱体化させられる危険があります。

 「報告」では、重点化、効率化を旗印とした組織の統廃合を目指しています。独立行政法人の評価が3年程度で行われ、短期間では成果の出にくい基礎研究の切り捨てや、「類似研究」などを口実にした地域の特色ある研究所の統廃合が一気に進む危険性があります。

(4)独立行政法人の試験研究機関では、非国家公務員型の身分にされる危険があり、研究者が良心に従って行動することを妨げるおそれがあります。

 これまでも、公害問題などでしばしば政策に反する実験データが報告されることがありました。国家公務員に比べて身分保障が不安定になり、研究者の良心に従って行動することが身分の剥奪につながる状況では、科学技術の健全な発展が侵され、国の政策から科学性が欠如するおそれがあります。また、効率が利潤追求に置き換えられ、研究成果が企業秘密化されるおそれがあります。
3.私たちは、国立試験研究機関等に働く者として、国立試験研究機関の独立行政法人化と統廃合に強く反対します。

 国立試験研究機関の自律性の確保のためには、研究分野ごとに欧米の研究機関に匹敵する規模に定員を大幅に増やし、支援部門を欧米並に充実し、基礎的、基盤的研究費を保障した上に、自主、民主、公開の原則を遵守する国民に開かれた技術開発、情報の公開などが必要で、その実現に向けて粘り強く要求していくものです。

以上


*上記アピールに賛同していただける方は、電子メールで @氏名 A住所 B肩書 Cご意見を明記して送ってください。

トップページへ   前のページへ