11月11日に行革会議へ「省庁再編等の検討にかかわる申し入れ」


1997年11月11日
  行政改革会議会長
  橋本龍太郎 殿

日本国家公務員労働組合連合会中央執行委員長 藤田忠弘

省庁再編等の検討にかかわる申し入れ

 現在、貴会議では、9月3日の「中間報告」をもとに、12月初旬に予定される「最終報告」のとりまとめにむけた論議が進められています。  私たちは、本年7月3日に、「中央省庁見直しにかかわる申し入れ」をおこない、貴会議での検討への反映と必要な意見交換の場の設定を求めたところです。
 ところが、「中間報告」の内容はもとより、その後の検討状況でも、私たちの意見とはほど遠い方向での論議が進められていると思われます。
 加えて、本来は公正であるべき国の審議会の論議が、一部政党の意見や圧力に左右され、「何のため、誰のため」の行政改革検討なのかが一層不明確になっていることに大きな懸念を抱いています。
 先の「申し入れ」の際にも強調しましたが、政府の範囲や個々の行政目的の検討は、国の基本法である憲法を具体化する観点にたって行われるべきです。
 省庁の数を最初から決まったものとして進めることや、国民生活との関係をふまえた行政機関毎の詳細な検討もおこなわずに、「国の事務ではない」ものがあるとする前提であらたな組織の検討を進めることなどは本末転倒の論議であり、国民的合意をえることが出来ないものであると考えます。
 最終版の段階となっている貴会議での論議にかかわって、「中間報告」とその後の論議状況をふまえ、直接的な利害関係をもつ国家公務員労働組合としての意見を別紙の内容であらためて申し入れ、検討への反映を求めます。

【別紙】 行政改革会議の検討内容に対する国公労連の意見

 1 貴会議が明らかにしている「行政改革の目的」では、国民の生活が軽視されていることから、再検討を要請する。
 @「制度疲労のおびただしい戦後型行政システム」の中心課題は、行政の民主的中立性が形骸化していること、とりわけ政治に対する行政の中立性が損なわれ、行政執行に対する国民的なチェック機能が不十分な点にあると我々は考える。  同時に、憲法がめざしている国民の生活を基盤で支える行政目的が曖昧にされ、「高成長型」の行政運営が経済成長が鈍化した現在でも進められていることも問題である。
 Aこのことからして、貴会議の「中間報告」がめざす行政改革の目的は、不十分であるばかりではなく、むしろ逆方向を向くものである。
 防衛、治安、外交、開発などのための企画・立案機能の強化と首相とその周辺への権限集中は、中央政府の集権化につながるものであり、それらの行政機構の肥大化を加速し、民主的行政への転換を遠ざけるものにほかならない。
 一方での、行政サービス提供部門(実施事務)の民営化、独立行政法人化、外局化は、行政のスリム化ではなく、国民に対する行政サービスの切り捨てそのものである。
 現在の中央政府の行財政構造からして、財政上のムダを生じている分野は、事務実施部門にあるのではなく、行政施策の決定過程とその内容に多くの問題が集中していると考える。
 B以上のことから、主権者である国民の生活を中心におき、行政サービスの向上と公正・中立な行政体制の確立を目的に、再検討をおこなうよう要請する。

 2 独立行政法人、行政サービス提供部門の「アウトソーシング」には反対である。
 @「国の機関ではない」とする前提で検討されている独立行政法人構想そのものには断固反対である。
 我が国の行政組織の現状は、国営事業や特殊法人、事実上の行政組織ともみることの出来る指定法人や一部の公益法人、あるいは「第3セクター」会社など、極めて複雑な状況となっている。
 このことが、行政の透明化を阻害し、行政をゆがめる一因ともなっている。 これに加えて、性格も内容も極めて曖昧であり、国民的にも全く理解されていない独立行政法人の仕組みを強引に持ち込むことはやめるべきである。
 Aまた、国の行政機関では、定員管理との関係から、多数の部外委託が実施されており、すでに行政責任を巡って様々な問題を生じてきている。
 仮に1万人の国家公務員を削減したとしても、これが人件費に及ぼす効果は600億円程度であり、国の一般予算(97年度)に占める割合は0.8%にすぎない。
 一方で、経済的効率を前提とした行政「合理化」が、直接の行政サービス提供部門に集中している貴会議の検討状況からして、「1万人の削減」の影響が集中することは明らかである。
 Bなによりも、現に国の機関として行っている事務について、国の行政機関以外とすべきだという意見が国民の多数を占めているとは承知していない。
 現在の行政実態や国民の行政需要をかえりみることなく、「思いつき」とも思える独立行政法人の検討は直ちに中止すべきである。
 C以上の、主張に加えて、独立行政法人の検討にかかわって論議されているいくつかのことに言及すれば次のとおりである。
 1) 実施事務と規定されるものの多くは、採算性とは相容れず公共性がより重視されなければならない事務であり、現在の国の事務はそこに一定収斂されてきている。
 このことからしても、「独立行政法人」の対象とされている事務(貴会議の論議で対象となっている「登記・供託」や「国土地理院」など)は、国が直接実施すべき事務だと考える。
 2) また、実施事務と規定されるものの多くは、公正さや中立性に加えて高い専門性と継続的かつ安定的な執行が求められる。1)に加え、これらのことから、実施事務とされるものに従事する職員の身分が検討されるべきであり、当然の帰結として国家公務員であるべきことが結論づけられるとものと考える。
 3) 職員の身分にかかわって、労働基本権の扱いが問題となっているが、そのあり方は身分保障のみの観点で論じるべきものではなく、国際的な基準や公務員制度の民主化の側面からも検討すべき課題である。「公務員であるから労働基本権を制限して当然」とする立場からの議論は、民主主義の原則、国際基準にてらしても不当なものと言わざるをえない。
 4) 予算の「単年度主義」について、現状でも中長期の予算計画や特別会計制度における余剰金の繰り越しなど、弾力的な方策がとられている。財政民主主義の観点から、単年度毎の予算編成が求められることは当然のことして、未執行予算の繰り越しなど予算法などの制度検討及び予算執行権限の下部機関への委任のあり方、予算査定での行政内容への過剰な介入の制限などの検討が求められていると考える。そのことは、仮に、独立行政法人についての具体的な制度検討にあたっても求められるはずである。
 5) 人事管理等の弾力化の問題も、独立行政法人とは別の課題として検討が可能である。公務員制度上の問題として論議すべき課題だと考える。
 6) 行政のスリム化を口実に、公共性の論議を行わないままに行政サービスを「国が行うべきものではない」として切り捨てる論議ほど逆転したものはないと考える。
 社会的、歴史的にもはや必要としない行政分野が何であるのかは国民の選択に委ねるべきであり、個別、具体的な検討が必要なものである。その点での検討もなしに、進められる行政のスリム化は、「声なき国民」の権利、生活を侵害する結果になりかねない。
 この点は、国民に開かれた場での慎重な検討が求められる点であり、貴会議のこの間の論議状況では極めて不十分である。

 3 内閣機能の強化については基本的に反対である。
 @内閣のもとに各省庁がおかれる現在の行政機構でも、内閣総理大臣の権限は強大である。国会の論議を経ないままに見直しが合意された「ガイドライン(日米防衛協力に関する指針)」に基づく国内法制の整備と行政体制検討が、閣議決定にもとづいて公然と進められている現状でもそのことは明らかである。
 A行政は、時として対抗関係を生ずるものであり、多様な価値観が存在するそのことが、行政機構内部でのチェック機能の一つとなっている。また、行政にたずさわる職業公務員の中立性の確保が、このような機能を発揮する担保ともなっている。
 Bこれらのことから、貴会議での検討課題となっている諸事項の内、次の点にはわれわれは反対である。
 1) 内閣法第6条の改正による内閣総理大臣の「発議権」の明記
 2) 政治的任用の公務員と職業公務員との区分を曖昧にする各省局長以上の任免での内閣承認
 3) 内閣官房の政治的任用スタッフ、内閣審議官等の柔軟な定数管理
 4) 内閣官房の機能に「情報」を含めること
 5) 「防衛庁」、「国家公安委員会」を内閣府のもとにおき、かつ専任大臣を引き続き配置することに見られる防衛、治安重視の内閣機能強化

 4 省庁の再編について、次の意見をふまえた検討を要請する。  中央省庁再編の基本的な考え方が「中間報告」の内容では不明であり、かつ、「中間報告」後の論議が曖昧さを加速している。仮に、「政策目的別」の再編となっているのであれば、以下の点の再検討を要請する。
 @企画・立案部門と執行部門の分離には反対  1) 7月3日の「申し入れ」でも主張しているように、企画・立案部門と執行部門の分離ということ自体が、行政実態をふまえない「机上の空論」だと考える。
 2) 政策立案と、決定された政策にもとづく実施のための企画・立案とはどのように区分するのか、実施のための企画・立案と執行はどのように区分するのか、執行の結果で発生した問題に対する責任はだれが負うのか、行政運営の問題としてとらえたとしても明らかにされなければならない点が多数残っており、軽々に結論を出すべきではないと考える。
 3) なお、このことの検討が、「実施部門の運営の弾力化」を口実にしながら、実際は中央省庁(企画・立案部門)への権限集中の方向で論議が進められていることにも大きな懸念を抱いている。
 A省庁再編にかかわっての意見
 1) 内閣機能の強化でも言及しているように、「内閣府」構想自体が中央集権的であり、かつ、国の「機能純化」をめざすものであり反対である。
 2) 「防衛省」構想には断じて反対である。
 3) 「地方自治・分権推進」を「総務省」の内局とすることは地方自治の確立を阻害する危険性があり反対である。
 4) 労働者の権利保護、国民の健康・安全・福祉、農漁業の再建・育成、中小企業の保護・育成などを政策目的とする省は、他の政策目的をもつ省とは独立させる必要がある。これと齟齬する省編成には反対である。
 5) 国税、地方税を一括する「徴税庁」の検討には反対である。

 5 他の検討課題について
 貴会議の検討内容には、あらたな仕組みの検討にあたって、その内容、意義等が明らかにされていないものが多数存在すると考える。検討内容を明らかにし、国民的な論議を求めるべきと考えるものとして次の点を申し入れる。
 1) 行政審判機能(準司法手続)にかかわる組織を拡充・確立することの検討については、国民の権利との関わりもふくめその構想全体を明らかにすべきである。
 2) 独立行政法人の制度設計(すでに触れた点を除く)については、制度そのものの是非とかかわるものであり、導入を既定方針とする内容検討は「最終報告」までに行うべきではない。
 3) 政策審議、基準作成の審議会廃止は、利益代表の意見反映の制度検討と一体でおこなうべきものである。なお、現在の審議会の運営の非民主制は早急にあらためる必要があることは言うまでもない。
 4) 中央省庁再編の一環として中央人事行政機関の権限配分を取り上げるべきではない。中央人事行政機関のありかたは、労働基本権と公務員の中立性確保の両面から、検討すべきである。
 5) 公務員制度は、一面で公務員労働者の処遇にかかわる問題であり、行政管理の側面からだけの検討には反対である。

以上


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