国民のための交通運輸を確立するために

【全運輸省労働組合が作成したパンフレットより(1997年5月作成)】

 はじめに

 “経済大国”とは名ばかりのわが国で、いま何が進行しているのか――国民の圧倒的多数の反対を押し切っての消費税増税や福祉・医療大改悪の強行、沖縄県民の願いと国民主権をふみにじる米軍用地特別措置法の強行と安保再強化など、悪政の数々は文字どおり枚挙にいとまがありません。

 加えて、泥沼に落ち込んだような国の財政破綻と、その下での政・財・官癒着の温存、「オール与党」による“馴れ合い・密室”政治の横行など、21世紀を目前にした日本の政治・経済・社会が閉塞状況に陥っていることは、誰の目にも明らかです。

 こうした悪政推進と民主主義の蹂躪に対する国民の怒りと批判をかわすため、政府・財界主導の「行政改革」を断行する――いいかえれば80年代以降の臨調路線の総仕上げをはかるための、国民受けのする「行政改革」の大合唱が、政・財・官界、学識者、マスコミあげて展開されているのが今日の特徴ではないでしょうか。

 いま政府が打ち上げている「規制緩和、地方分権、省庁再編と行政リストラ」は、こうした「行政改革」の機軸とされ、しかも「新しい国づくり」(橋本「行革」ビジョン)の“錦の御旗”にかつがれるという危険な流れがつくられているわけです。

 しかし実際のところ、橋本内閣がすすめる「行革」(以下、橋本「行革」)や、「規制緩和、行政リストラ」のめざすものがそもそも何なのか、政府が重要課題としている「6つの改革」路線そのものがこんにち行き詰まりに直面した日本経済の活路を開くことができるのか、そしてこれらが労働者・国民の福祉向上や安全確保にとってどんな影響をもたらすのか――この大切なことについては何の解明・検証もなされていません。

 まさに、国全体が先行きのみえない「行革」フィーバーに踊らされ、その本質が“藪の中”に閉じ込められたまま、「行革・規制緩和」万能論がまかり通っているといえます。

 これでは憲法理念の国民主権や民主主義は窒息してしまうのではないか。また、こうした日本の針路が国民福祉や社会的公正の確保と21世紀への確かな政治・経済・社会の方向づけといえるのか。いま問われているのはそのことだと思います。

 こうしたことから、国民生活に直結する交通運輸行政に携わる私たち運輸省に働く公務員労働者・全運輸省労働組合(以下、全運輸)は、あらためて自由化攻勢が集中している交通運輸分野に焦点をあて、そのねらいと本質を明らかにするとともに、関係する交通労働者をはじめ利用者・国民と世論にその実態を訴え、将来の「あるべき交通運輸」の確立とその実現を追求する立場でこの資料集をまとめました。

 本資料が関係各方面での「規制緩和」の問題点解明に役立つことを切に願うものです。

 そして、全運輸のみならず、「行革・規制緩和」に反対して立ち上がっている多くの交通運輸関係労働組合や国民春闘共闘規模のたたかい、さらには国民共同の発展のために、この資料が広く職場内外で活用されることを希求してやみません。                  19975月 全運輸省労働組合中央執行委員会

1.公共性と国民の安全を危機にさらす交通運輸の「規制緩和」

 (1)いまから約3年半前の9310月、行政改革審議会<注1…文書末に注を掲載>(第3次行革審)「最終答申」において、「行政改革」の新たな展開のための「官主導から民自律への転換」「市場原理と国民の自立自助」が提唱され、その機軸の政策として「規制緩和、地方分権、省庁再編」の推進が打ち出されたことはよく知られています。

 これを受けた村山連立内閣をはじめとした歴代政権、とりわけ、96年1月に発足した自民・社民・さきがけによる橋本内閣は、「行政改革」を重要課題として「規制緩和」を本格的に推進するとともに、「新しい国づくりのために社会・経済システムの構築は待ったなし」とする「橋本行革の基本方向」(橋本「行革」ビジョン)を打ち出し、9612月の総選挙後には自社さ3党の政策合意に基づく財政・金融「改革」など6つの「改革」を、首相自ら“火の玉になっても断行する”と宣言し、その具体化に血道をあげています。

 また同時に、最近のサミット会議やG7などで取り上げられ、国際的潮流となっている経済のグローバル化を背景に、国際的な「大競争時代」への対応として、市場開放の推進をはかり、そのための諸制度を全面的に見直しているのです。

 これらの政府政策は概して、わが国の経済・貿易活動が「高コスト構造である」との外圧に対応して産業政策の転換をはかるものであると同時に、「市場原理」を基本におきつつ日経連など財界・大企業のコスト削減要求を最優先するものに他なりません。

 こうしたことから、「規制緩和」推進が橋本「行革」の最大の政策課題になっているといえます。

 (2)それでは、政府・財界の「行革・規制緩和」政策は、どのような理念・目標を国民に提起しているのでしょうか。

 臨調「行革」路線(注2)の推進に積極的な役割を果たす行政改革委員会は、首相に提出した『光り輝く国をめざして』と題する「規制緩和の推進に関する意見」で、その基本方向をつぎのとおり打ち出しています。

 第一には、基本認識として「構造改革は明治維新や第2次世界大戦後の改革に匹敵するか、それ以上の大きな社会及び意識の変革を迫るものである」と述べ、「規制の緩和・撤廃はこうした構造改革の重要な手段」と規定しています。また市場原理と自己責任を強調し、「競争促進はとりもなおさず弱肉強食であり、その結果淘汰されるのは市場競争に負けた効率の悪い企業である」――その例示として(低俗的な表現を採用し)「蛙は熱湯に放り込まれれば鍋から飛び出すが、水から茹で上げられればそのまま昇天する」といい、市場競争による産業再編や中小企業経営への弊害を無視した理念を示しているのですから驚きます。これこそ、「規制緩和」の本質が馬脚をあらわしたものといえます。

 第二には、「構造改革」の達成にむけた「規制緩和」を、情報・通信、流通、金融・証券、雇用と労働法制、交通運輸など、国民生活に大きな影響のある12分野にその対象を広げていることです。まさに戦後の民主的諸制度に大ナタをふるっているわけです。

 このように、みさかいなく戦後の民主的諸制度を崩壊させ、国民生活や安全確保、環境保全と社会的公正確保のためのル−ルを破壊する「規制緩和」が、各分野・各方面での矛盾を深化させるのは当然です。このことを私たちの共通認識にすることが大切です。

 (3)交通運輸の「規制緩和」・自由化攻勢はどのように展開されてきたのか、また、現局面における争点は何か……この2点を総論的に明らかにしてみます。

 先にも述べたとおり、「規制緩和」の目標が「国際競争力の強化とそのためのコスト削減」にあるということは、交通運輸事業に対する経済的規制(新規参入・運賃など)と当該産業の「非効率的な輸送」が恰好の攻撃材料となり、行政改革委員会が主唱する「経済的規制は原則自由・例外規制に、社会的規制は最小限にする」ことの標的にされていることを意味します。

 1979年のOECD勧告(注3)で金融、エネルギ−、運輸の3分野の「規制緩和」が迫られたことを契機として、80年代以降の臨調「行革」路線の激しい展開の中で、交通運輸には様々なかたちでの「規制緩和」が強行されてきました。

 85年には運輸政策の基調が「量的規制から質的規制」に転換され、これを裏付けるように航空分野での国内線複数化・日航民営化<注4>(87年)と国鉄分割民営化<注5>(87年)、貨物運送に関わる物流二法<注6>(90年施行)に代表される交通運輸事業の競争政策が具体化され、全体的には公的規制とその運用がなし崩されてきました。

 その後においても、行政改革委員会、公正取引委員会、経済構造審議会などの諸機関をはじめ、財界からの「規制緩和の要望」などを反映して、タクシ−の「運賃の多様化と需給の弾力化」(93年、運用方針)、「航空企業における国際競争力の向上について」(94年航空審答申)などの政府方針があいつぎ、これを受けての「タクシ−の複数運賃制、航空旅客の幅運賃制」導入など各分野の規制の見直しに拍車がかかりました。

 こうした「規制緩和」の推移をみると、政府・財界の方針がその目的達成にむけて絶え間なく実施にうつされ、いまや陸・海・空・港湾の全運送事業分野にわたる完全自由化へと突き進んでいることがあまりにも明確です。

 (4)これを決定づけるのが、「今後の運輸行政における需給調整の取扱について」として9612月に打ち出された運輸省の方針です。その骨子は、要するに長年の間、運輸行政の根幹にすえられてきた「需給調整規制(注7)を原則的に廃止する」ということです。

 国民の日常生活に欠かせない交通運輸の法制でもっとも重要であるとされてきた「需要と供給の調整」規制を投げ捨てることは、経済的規制の基本である参入・運賃規制を大きく後退させるものであり、それはいいかえれば交通運輸の公共性を否定し、企業活動が野放しになる交通市場を仕上げることに他なりません。また、そのための交通運輸に関わる許認可行政の形骸化と法律・運用の改悪をはかるという手順になっているのです。

 まさに財界・大企業本位の市場形成をめざし、その目標達成への突破口として交通運輸の「需給調整規制の廃止」が位置づけられ、利用者・国民のための公共性は後景に追いやられようとしているといっても過言ではありません。

 交通運輸産業の特徴の第一は、旅客・貨物運送を問わず航空・鉄道の一部を除き99.5%が中小零細事業で占められていることです。また、事業活動である輸送サービスはストックできないこと、労働集約型産業の典型であるため情報化・合理化がすすみにくく原価に占める労働コストが他産業より高くなること、労働実態として深夜・交替労働が多く職場が移動することによって危険性が高いことなど、他産業とは異なる特性をもっています。

 こうした特性のある産業・事業を「競争産業分野」と位置づけ、市場原理にそのすべてを委ねようとする政府・財界の考え方には根本的な矛盾があるといえます。

 (5)つぎに、交通運輸の公共性とは何か、また、焦点になっている経済的規制と社会的規制(環境基準、安全基準、雇用・労働法制など)の見直し問題を中心に、「規制緩和」の問題点をまとめみたいと思います。

  @公共性とはどのような基準で定義づけられているか

 ○その事業やサービスが生産や生活の一般的条件または共同的社会条件であること。

 ○その事業やサービスが特定の個人や私企業の利潤を直接間接の目的として運営されるのではなく、国民に平等にまたは社会的公平のために運営されること。

 ○公共施設の建設、運営にあたって周辺住民の基本的人権を侵害せず、必要不可欠の施設であっても、できうるかぎり周辺住民の福祉を増進しうること。

 ○公共施設の設置・改善や公共サービスの実施については、住民の同意をうる民主的手続きを必要とすること。

 この定義は、大阪市立大学・宮本憲一名誉教授によるもので、平井都士夫・柴田悦子編著の「現代の交通政策を問う」(法律文化社、93年4月発行)に引用されているもので、交通運輸の公共的役割を明確に示していると考えます。

 これまでにも交通運輸は「公共性が高い産業分野」と位置づけられてきました。そのため、物流二法では貨物運送分野が旅客運送分野と法制度上切り離されましたが、鉄道、バス、タクシーなど旅客に関する鉄道法・道路運送法などでは、その目的・理念として「事業の適正な運営と公正な競争の確保、輸送秩序の維持、公共福祉の増進」が明記されているところです。

 したがって、今回運輸省が示している「需給調整規制の廃止」方針は、交通運輸の社会的役割を後退させるために、利用者・国民のために維持されてきたこれまでの法制とその運用を改悪するという重大性をもっているといわざるを得ません。〔参照*運輸規制の基本スタンス〕

 A「規制緩和」の矛盾はこのようにあらわれる

 タクシーの「規制緩和」・自由化を例にとってみると、およそ次のようになります。

 ○タクシーに関していえば免許や料金だけでなく、車両台数を地域ごとに適正な数に制限する規制もある。これらの規制がなければ、資金力をもった大手のタクシー会社がどんどん増車し、徹底的に料金を下げ、他のタクシーをすべて駆逐してしまう可能性さえある。(中略)そうなったら、いちばん苦しい思いをするのはタクシーを利用する一般国民だということになる。

 規制緩和はすべて国民生活にプラスに働くと決めつけることは、非常に危険な発想だ。規制緩和によって競争原理が生じ、新規参入を促すとともに競争による価格低下が期待できることは否定しない。しかし、ある意味では野放し状態を容認するという危険性も必ずつきまとう。

 タクシーにならって運輸の関係で例を挙げれば、離島への船便や過疎地のバスなどだ。規制緩和による新規参入の自由は、同時に撤退の自由も保証することになる。離島への船便や過疎地のバスが、多くがそうであるように一社だけで運行されている場合、利用率が悪いからという理由で撤退してしまったらどうなるか。また、利益率を上げるために料金を大幅に値上げしたらどうなるか。いずれの場合も、困るのはそれを利用せざるを得ない地域住民自身なのである。(後略)

 上記の指摘は、実は自民党が野に下っていた90年のはじめに、現首相の橋本龍太郎氏が自らの著作である『政権奪回論』(講談社)の「野放図な規制見直しは大混乱を招く」の章で力説しているものですが、かつて運輸大臣を経験した人物が、政権の座についてから自らの考え方を180度ひるがえし、いまは「規制緩和」に狂奔しているということに、まず驚かされます。

 しかし、「規制緩和」の本質とそれがもたらす弊害を、明解に示したものであるということでは大いに注目すべきでしょう。

 みさかいのない「規制緩和」が、参入と同時に撤退の自由を許すものであることは、すでに社会的・一般的に定着している論理です。そのことが先にも述べた国民福祉=安全・確実で良質な輸送サービスの提供の弊害となることは、タクシーに限らず航空、鉄道、バス、海運でも同様です。

 最近わが国でも、「規制の再構築が企業活動の自由化にすりかえられると公共性がかく乱する」(96年3月「朝日新聞」、経済評論家・内橋克人氏)や「政府の行革には公正という価値規範が示されていない」(9612月「朝日新聞」、左和隆光京大経済研究所長)などにみられるように、政府の不合理な「行革・規制緩和」に対する有識者の警鐘が浮上してきています。

 マスコミ報道でも、97年3月に読売新聞が「規制緩和は万能薬か」を連載し、その中で「航空競争で増す懸念」を大きく取り上げるようになったことも、公共性を奪う「規制緩和」への問題提起のあらわれとみることができます。

 ○ITF・NEWS(1997.bQ)掲載の「内陸運輸」からの抜粋

 英バス規制緩和は失敗と公式声明

 英国の公共交通利用者はますますバスを避けるようになっている。その理由を、「メーキング・コネクション」という報告は、運行に関する情報が不足しており、バスが遅延し、鉄道との接続が悪いからであると述べている。この報告書は、環境にやさしい交通手段を検討するために政府が任命した、持続的発展のための円卓会議が作成した。

 同会議による今回の報告は、過剰な規制緩和によって分散化した交通システムをつくった政府を非難している。(中略)バス・鉄道産業の規制緩和は、サービスの分散化を招き、ネットワークによるメリットを生むための責任の所在を不明瞭にしたと報告は述べている。

 B「規制緩和」で脅かされる安全、環境、労働者の雇用と労働条件

 「規制緩和」推進論者の論点・主張は、最近では、「経済的規制の原則廃止、例外的な規制に」から「規制の廃止・撤廃」の流れに変わり、「社会的規制は最小限に」の言葉も鳴りをひそめて、その代わりに「国民の自立自助」の論理が強調されはじめました。

 これこそ交通運輸の公共性のみならず、安全・環境・労働基準など社会的規制すらも公的規制から外し、市場競争で起こりうる弊害を国民の責任に転嫁する考え方です。

 ル−ルのない市場競争の促進が交通運輸における公正競争の確保や安全確保にとって重大な社会問題に進展することは、次のことからも明らかです。

 “国民の足”を守る=社会的公正確保の観点から

 政府・財界や行政改革委員会は、これまで一貫して「市場原理のもとに自由競争を促進し、事業の効率化や活性化をはかり、国際社会のなかにあっては真に豊かな国民生活をめざし、利用者サービスの向上とコストダウンをしていくために必要だ」とし、交通運輸への競争促進と国民への大キャンペ−ンを展開してきました。

 わが国の交通展開とその運営については、長年の間、とりわけ60年代以降の経済成長政策に追従した運輸政策に基づいて、交通運営の主体である各事業者が自らの採算原理・営利原則を優先させ、その歪みや矛盾を蓄積してきたことが指摘できます。そしてこうした矛盾の激化を省みず、企業活動の野放しを助長する「規制緩和」をすすめてきたことも前述のとおりです。

 しかし、いま焦点にすえられている交通運輸の完全自由化の方向は、いままでにも増して各分野の中小企業活動やそこに働く交通労働者の労働条件・環境、さらには利用者・国民に多大の犠牲を強いるであろうことは容易に推察されます。

 交通実態でいえば、通勤時の電車・バスの非人間的なすしずめ状態が慢性化し、道路は自動車であふれ、いたるところで交通停滞を引き起こしています。また、年間1万人以上の死亡者を出す交通事故の増大や環境破壊など深刻な社会問題も発生しています。

 その一方で、人口の少ない地方の市町村では、鉄道・バスなどの公共交通機関が大幅な赤字を理由に地域社会から撤退し、マイカーを持てない、あるいは運転できない老人や子供等(交通弱者とよばれる)の移動手段の確保が年々深刻な問題となっています。

 地方交通では、国鉄の分割・民営化以降、函館本線上砂川支線や深名線が廃止されたことに代表されるように、地方自治体や利用者の声を無視した整備新幹線建設と、これに伴う在来線・ローカル線の切捨てが全国的に拡大しています。また、ローカル線廃止後の交通対策である第三セクター鉄道(注8)も、全国37社中32社が赤字で深刻な経営問題を抱えていますし、鉄道からバス転換した地域にあっても“住民の足”である地方バスの存続が危機にさらされているところです。

 国内航空における離島路線等の生活路線も、不採算を理由に大手航空会社から切り離されて別会社の独立採算性になっていることから、定期路線が不定期に切り替えられた上に運賃が値上げされるなど、地域社会と“国民の足”の切捨てが顕在化してきています。

 このように交通運輸が果たすべき公共的役割・機能の質的・量的悪化は歴然としていますが、これに追い打ちをかけようとするのが政府・財界による「規制緩和」・自由化攻勢ではないでしょうか。

 まさに、公共交通が自由化の波に翻弄されている事態になっているといえます。

 利用者・国民の安全確保、公正競争の観点から

 「規制緩和」・自由化の直撃で、最も重視すべきことは輸送の安全と公正競争のルールが大きく破壊されてきていることです。

 貨物・物流分野では、7年前の90年に「規制緩和」法である物流二法が強行されたことにより、従来からの需給調整規制廃止による免許制から許可制への移行と運賃料金の届出制移行がなされ、トラック事業への新規参入の増加による運賃値下げ競争と大企業・大荷主からの中小零細事業者への圧迫に拍車がかかっています。大手荷主からの運送需要が「輸送コストの削減、効率輸送の徹底」を条件にし、そのための“買いたたき”が恒常化しているからです。

 圧倒的に中小事業の多い港湾運送でも、こうした傾向は表面化し大きな問題になっていますが、これはこの間の「規制緩和」によって貨物・物流分野での公正な取引ルールが破壊され、安全運行の質的低下を招いていることを示すものです。

 また、国鉄の分割・民営化以降、利益追求を第一にかかげるJR各社のリストラ「合理化」が問題視されていますが、これに加えて鉄道安全基準の切り下げも「規制緩和」の対象にされています。そのため、私鉄をふくむ鉄道分野では大量・高速輸送のための技術革新と大規模な投資がすすむ一方で、無人駅、無人ホーム、ワンマン運転が拡大し、JR全体の5,000駅のうち54%以上(北海道では80%以上)が無人駅にされている実態となっています。ワンマン運転区間もJR営業キロ数約2万キロのうち3分の1の約7,000キロにまで拡大、こうした実態を反映して、新幹線三島駅の死亡事故にみられる運転事故やホームからの転落事故が全国的に多発し、利用者国民の安全に暗い影を落としています。

 航空分野では、「国際競争力の向上」(航空審答申)の美名の下に、いまや路線拡大と運賃ダンピングの熾烈な競争が展開され、これらが各航空企業の安全コストの削減にはねかえっていることから、9611月から翌年1月までの3カ月間で実に14件ものエンジントラブルが発生、そのうち8件が離陸後に地上に引き返すという異常運航や航空機トラブルが増加しています。

 こうした各企業のリストラ(注9)「合理化」と低コスト優先にお墨つきを与える「規制緩和」促進の弊害は、「安全確保のためには安全基準を強化すればよし」とする「規制緩和」推進勢力の論理や、経済的規制と社会的規制を一体のものとみない政府・財界の矛盾を浮き彫りにしているといわなければなりません。

 過酷な労働を強いられる交通労働者

 嵐のような「規制緩和」・自由化攻勢のなかでの各事業者による生き残りのための競争と交通労働者への犠牲の押しつけは、当該産業に従事する労働者の雇用と権利、労働条件と労働環境を直撃しています。

 労働集約性の高い交通運輸産業では、労働コスト切り下げによって、約300万人(雇用者総数の約6%)の交通労働者は文字どおり過酷な労働条件と環境におかれています。

 交通運輸労働者の年間賃金は他産業男子労働者と比べて52万円余りも低く、年間労働時間では164時間も長くなっています(94年)。トラック・タクシーなどでは、連年の経済不況とその中での運賃ダンピング競争を直接的な要因とする営業収入の低下で毎年のごとく賃金水準が低下、労働時間が長くなる異常な事態となっています。

 とくにトラック分野では、中小零細の経営実態を反映して、運転者の労働条件が劣悪なことは、大型トラック運転者の1時間あたりの賃金が1,818円で全産業平均の2,495円より677円も低く、年間総労働時間は2,616時間に達し全産業平均の2,268時間より300時間以上も長くなっていることにもあらわれています。

 さらには、「効率的な輸送」を口実としたスピード・長距離運送の常態化によって、労働基準関係法令違反がトラックでは全体の事業者の72.6%、ハイヤー・タクシーでは82.2%(95年)に達するなど、最低限の法律さえ守らない悪質な経営者が横行、しかもこの違反率が1993年以降増加傾向にあることは、絶対に軽視できないことです。

 加えて、最近では日経連など財界・大企業がすすめる「構造改革」(注10)の名によるリストラと、労働法制の改悪を先取りした運転労働における変形労働時間制の拡大や、手待ち時間の労働時間からの除外や「労働力の流動化」と称する安上がりの労働力を確保するためのアルバイト・パート化、嘱託雇用などの採用形態も異常なばかりにも広がっている現状となっているのです。

 以上にみられる交通運輸産業での全体的な雇用の悪化、事業者の悪質違反と長時間労働の常態化、労働法制改悪の先取りなど労働者の働く権利への重大な侵害は、交通労働者のくらしと健康をむしばみ、過労死や健康破壊を進行させるに止まらず、安全かつ良質な輸送サービスをも大きく阻害することは、利用者・国民にとって看過できない問題です。

 

 2.交通各分野における「規制緩和」の現局面をどうみるか


(1)旅客交通分野の現状と問題点  タクシーの自由化はどうすすめられているか

 タクシーの「規制緩和」・自由化政策は、93511日の運輸政策審議会答申を受けて同年10月に、運輸省が「運賃料金の多様化、需給調整の弾力化」をはかったことによって新しい展開を示しました。

 「運賃の弾力化」は、それまでの「同一地域同一運賃」制度を投げ捨て、タクシー事業者に通常の認可運賃よりも低い運賃で事業ができることを認めたものです。そして次に、行政改革委員会の「タクシー事業の価格規制について、当面はゾーン制(幅運賃制)により緩和を図り、将来的には上限価格制に移行すべきである」(9612月)とした提言を受けて、運輸省は「当面、運賃についてゾーン制を採用し、平成9年度から実施する」として、全国7都道府県で申請された初乗り距離短縮運賃(2km→1km)を認可するにいたりました。こうした価格規制面での運用弾力化がはかられたことによって、現在では、近距離割安タクシーが全国25万台のタクシーのうち約4,500台に達し、多くの地域で「同一地域複数運賃」が発生するに及んでいます。

 では、このような段階に突き進んでいるタクシーの運賃「規制緩和」が、低廉性と良質な輸送サービスを求める利用者ニーズへの適正な対応といえるのでしょうか。

 その一例として、数年前に運賃値下げが認可された京都のタクシー会社では、運転者1人あたりの運送収入が減少し、走行キロが伸びました。そのため、経営者の当初のもくろみであった「値下げ運賃による収入増」という結果は起きないばかりか、事業者がいままでどおりの営業収入を確保するため、これまで以上に運転者の長時間・過密労働が余儀なくされ、死亡事故も続発する結果を招いたのです。これは、タクシー事業が運賃料金という輸送サービスの対価によって経営を支えていることから当然のことだといえます。

 また、東京では、97年4月1日からの消費税率引き上げに伴い、大半の法人タクシーは、中型車の場合、初乗り2キロ運賃が現行650円から10円高い660円になりますが、初乗り距離短縮を認可された場合のタクシー運賃は、中型車の場合、初乗り1キロが340円で1.75キロまでなら初乗り660円のタクシーより安くなるということになっています。

 しかし、タクシー事業は必ず一人の運転者が一台の車を運転するという労働集約型産業であるため省力化することができず、そこに無理な価格競争=低運賃競争を持ち込めば、コストの8割を占める運転者の賃金をさげることでコストの削減に対応せざるを得なくなります。唯一の収入源である運賃料金は、人件費をふくむ原価と適正利潤によって成り立っているからです。

 また、参入基準から「需給調整規制」をはずせば、利用者数(需要規模)にかかわらない新規参入と既存事業者の増車を呼び起こすことになり、当該地域での供給過剰による過当競争がいちだんと激化することは必定です。そして、これらを要因とする激しいノルマの強要と長時間・長距離運転の連続で、無理な運行が氾濫するのは火をみるよりも明らかです。

 諸外国においても、すでにタクシーの「規制緩和」自由化政策に失敗していることは、各方面の調査でも明らかにされています。

 アメリカのアトランタやシアトル、スウェーデンのストックホルムなど、実際にタクシーの「規制緩和」をすすめた都市では、事業者の乱立で過当競争が急速に激化し、運転者の水揚げが下がり、そのため、運転者の質が低下することおびただしく、危険で乱暴なタクシーが横行し、観光客や女性が安心できなくなるなどの苦情が殺到し、再規制の必要性がを得なくなっていると報告されています(交通運輸政策研究会<注11>の「西欧交通調査」等から)。

 タクシーを安全で安心して利用しやすい交通機関にするためには、「規制緩和」自由化の道を選択するよりも、「同一地域同一運賃」制を基本とした運賃料金制度の確立など安全で確実かつ公平な輸送サービスのための公的規制の整備・拡充、身障者やお年寄りなど「交通弱者」が安心して気軽にタクシーを利用できるような福祉タクシー制度と運賃面での公的補助の充実、また、運転者が安全運転できるような長時間労働の規制強化などをタクシー政策の根幹にすえなければならないと考えます。

 乗合バス・旅客船は危機に直面している

 これまでの「規制緩和」によって、旅客運送分野での新規参入と当該市場からの事業撤退が相次いで生じていることは、過疎バスや離島航路など、利用者が少なく利益が見込めない路線や地域で特徴的にあらわれています。

 地方都市、農山漁村等の過疎地域における乗合バスは、利用者の減少、運行回数の削減が表面化し、それがさらに利用者を減少させるという悪循環を重ね、ついには、経営不採算を理由としたバス路線の廃止と民営乗合バス事業の後退が表面化しています。

 民営乗合バスが撤退した市町村の多くでは、それでも“住民の足”を守るために市町村が自ら経営主体となって、代替バスの運行や貸切バス事業者に運行を委託する廃止代替バスを走らせることに難なんとしています(全運輸「過疎バス実態調査」<注12>から)。

 400余りの有人島で生活する約160万人の“住民の足”としてなくてはならない離島航路における旅客船にあっては、その多くは輸送需要の低迷、諸経費の上昇などによって赤字経営を余儀なくされ、運航回数の削減やきびしいリストラ「合理化」で対応する傾向がつよまっています。

 現在、過疎地のバス事業や離島への旅客船事業に対して、国の補助金が交付されていますが、これとても赤字経営を解消するにはいたらず、そのため市町村や事業者からは補助制度の継続と補助額のアップ等の改善をつよく求められているのが現状です。

 地方交通、とりわけ農山漁村地域ならびに離島地域の生活路線の維持・整備をはかるためには、その需要規模から、採算原理によるサービス供給自体に無理があり、そのためにも公的規制としての需給調整規制廃止などの「規制緩和」ではなく、国や自治体による自治体・中小事業者への支援・補助が必要なことはいうまでもありません。

 空の安全はだいじょうぶか

 国内航空運送事業の「規制緩和」として、「規制緩和推進計画の再改定」(注13)では「需給調整規制の廃止を平成11年度に実施し、並行して現行の幅運賃制を上限価格制に移行する」という方針が打ち出されました。これはまさにアメリカ並みの航空自由化にむけて大きな一歩をふみだすものだといえます。

 78年に航空「規制緩和」が実施されたアメリカでは、競争が激化するなかで公共性と安全性が後退し、航空産業で働く労働者の労働条件がいちように切り下げられる一方、企業倒産や吸収・合併で大手航空会社による寡占化がすすみました。

 アメリカの航空自由化を推進してきたポール・デンプシー氏(現デンバー大学教授)<注14>は『規制緩和の神話――米国航空産業の経験』(日本評論社)のなかで、「規制緩和」について、「その前提となった根拠―航空に規制の利益はない、破壊的競争はおこらない、市場のコンテスタビリティにより運賃は自然に抑制されていくなどの考え―は全て間違いであった」「航空輸送を生産性のみや経済的観点のみで論ずるのはあまりにも危険」「市場の力により民間企業同士で集中が起きるのを放置しておくことは、市民生活にとってあまりにも危険」として、その失敗を告白しています。またつぎの事実は、何よりも雄弁に「規制緩和」が航空の危険につながることを物語っています。

 96年5月、アメリカのバリュ−ジェット航空が110名の乗客・乗組員を乗せたままマイアミの沼地に墜落、全員死亡という惨事を起こし内外の関心を呼びました。実は、この航空会社はアメリカの航空自由化の下で、他会社の5分の1に近い低運賃を売り物に急成長を成したといわれる航空会社ですが、低運賃・低コストを追求するがゆえに自前の乗員養成は行わず、航空機の整備も外注化していることが報道されました。まさに“他山の石”としてうけとめるべき出来事ではないでしょうか。

 すでにわが国でも、この間の「規制緩和」の推進によって各航空企業は、競争に生き残るためのコスト削減を人員整理やスチュワーデスのアルバイト化、運航委託(注15)や航空機整備の海外委託、乗務員の交替なしの長時間乗務などの安全を犠牲にしたリストラ「合理化」により実現しようと躍起になっています。そこでは航空労働者・労働組合による「リストラと規制緩和反対、公共性と安全性を守れ」の声と運動がまき起こり、矛盾をいっそう拡大しています。

 一方、航空自由化の流れをうけ、一部の企業が航空機のリース調達、他社への乗務員教育や整備の委託、外国人パイロットの採用など、「コスト削減」と「半額運賃」を前面にかかげて国内航空事業に参入しようといることなど、航空運送の過当競争は日増しに熾烈化してきているところとなっています。

 

 (2)貨物・物流分野の「規制緩和」問題

 喉をかき切るようなトラックの競争

 トラック運送分野では、90年に物流二法が強行されことにより、参入規制が地域・路線ごとの需要供給を調整する免許制から営業資格要件の審査を重点にした許可制へ、価格規制としての運賃認可制が届出制へと「規制緩和」されました。

 その結果、この5年間で新規参入は6,000社に及び、95年度のトラック事業者は全国で46,638社となり、営業用トラックの供給力は飽和状態を迎えることになっています。

 また、運賃の届出制をテコにして、荷主や元請会社による優越的地位を乱用した運賃ダンピング(運賃の買いたたき)に拍車がかかるばかりか、「協力金」(注16)という名目の大幅割引が横行し、俗にいう「価格破壊」すなわち公正取引ルールの崩壊となっています。

 運賃ダンピングについては、現行法制(貨物自動車運送事業法)の「割戻の禁止規定」は事業者の違反のみが対象であり、荷主のダンピング強要には禁止規定がないことによるものです。

 トラック事業は、荷主への従属を余儀なくされる立場であるにもかかわらず、このように、法制面で荷主の不当な行為をさばく「両罰規定」がないことは、大きな問題であることが指摘できます。

 物流分野で重要な役割を果たしているトラック事業でのこうした競争激化の実態は、かつてアメリカの運輸業界で“カット・スロート・ディレギュレーション”(喉をかき切るような破壊をもたらす規制緩和)と呼ばれたもので、いまや貨物運送市場は「適正な事業運営と公正な競争」とは程遠い“過当競争のるつぼ”と化しているのです。さらに、ジャスト・イン・タイム方式のためのスピ−ド・過積載運行は、営業用トラックによる死傷事故件数が95年に3万件を超えるという深刻な事態をもたらし、大型トレーラーによる高速道路での重大事故が続発する結果を招くにいたっています。

 つぎに、トラック「規制緩和」の現局面とその問題点、現状の改善方策を明らかにしてみることにします。

 その第一であるトラックの「規制緩和」問題では、経済審議会や行政改革委員会などが財界・大企業・大荷主の要求を最大限に反映して、「最低保有車両数の撤廃」<注17>(個人トラック制の導入)をうちだし、その具体化を政府・運輸省に迫っていることです。

 もともと、トラック事業は中小零細が大多数を占めており、全国46,638社のうち従業員数で中規模企業・大企業とされる300人以上は0.4%・196社、資本金で1億円をこえる事業者は0.9%・441社という脆弱な経営基盤です。トラック事業への新規事業開始にあたって最低保有車両数を参入基準のひとつとしているのは、適正な運行管理を行うことが困難な零細事業者や個人事業者が乱立すれば、過労運転・過積載運行などの違法行為が頻発し、ひいては輸送の安全が阻害されることから、これを回避するために制度化されている規制方法なのです。

 この公的規制としての参入規制をご破算にしようとするねらいは、これまで強調してきたとおり、大企業・大荷主・元請会社などが物流コスト削減のため自由に運賃を買いたたける零細な個人トラックをつくり、これに従事する労働者を労働基準法の適用除外にするとともに、現在、固定給が主流となっているトラック労働者の賃金を完全な出来高払い制(オール歩合給)にすることによって、低賃金と際限のない長時間労働を押しつけようとするものに他なりません。これでは中小零細経営と労働条件は劣悪化するばかりです。

 その第二として、トラック事業に求められているのは何かということです。

 総論的には、やみくもで後先を考えない「規制緩和」の具体化ではなく、公正な取引関係と輸送秩序の確立、国民生活の安全確保・環境保護、労働者の労働条件改善、雇用確保等のための規制強化などを基本とした政策の確立が重要だと考えます。

 とくに現行の物流二法の積極的な見直しをはかるべきです。例えば、物流二法では荷主の横暴を抑えるための「荷主勧告」制度(注18)が取り入れられていますが、これはほとんど機能を果たしいないことが問題になっています。なぜなれば、この制度を発動する際には、製造業など荷主企業の経済活動を所管する大臣の意見聴取が前提となっていることから、これまでただの一度も発動されずに放置されているということです。

 さらに、物流二法の国会審議の際には、衆参両院で公正取引確保と安全確保を中心にした51本もの付帯決議が採択されているにもかかわらず、そのほとんどが遵守されていない状況となっていることも問題であり、このことからも公的規制を維持強化することが重要ではないでしょうか。輸送秩序の確立とあわせて、今日の現状と問題点を早期に解決するための具体的な施策・方策こそがつよく求められているといえます。

 市場開放の直撃うける港湾運送

 港湾運送分野にも他の運送分野と同様に「規制緩和」の大波がおしよせています。

 いまEU経済統合や世界的な市場開放政策の流れを背景にして、日米政府と大企業は「日本の港湾費用(ポートチャージ)は世界一高い」と主張し、「港湾の24時間フル・オープン化、365日稼働せよ」のキャンペーンを大々的に展開しています。これは直接的には97年2月に、米国連邦海事委員会(FMC)が日本の労使でとりきめた「事前協議制度」(注19)に介入し、「日本の港湾に事前協議制度という労使問題があるために、米国の船会社が不利益を受けている」として、日本の港が「24時間荷役を実施しないかぎり、大手船会社から課徴金をとる」ことを決め、事前協議制度の廃止を迫っていることによるものです。

 この外圧は、まさにわが国の主権と民主的な制度を蹂躪するものだといえます。すなわち、事前協議制度は外国からの寄港船にたいする作業準備や事前に貨物量をつかむための手順であり、かつまた労働者の雇用と労働条件を守るためにも重要で、ILO(国際労働機関)137号条約(注20)も事前協議を承認しているからです。

 こうした外国からの理不尽な恫喝と圧力に屈し、政府が港湾運送を自由化しようとするねらいは、港湾運送への競争原理を名目にして、大企業本位の「効率的」な荷役システムの構築による物流コスト、特に労働力コストの際限のない削減にあることは明らかです。

 しかし、港湾の人件費を含む荷役料金は、物流経費の2.6%にすぎず、そのため、港湾労働者の賃金は、4050時間の時間外手当でやっと世間並みの賃金水準になっています。加えて、日本の港湾労働の場合、交代制がないために船舶の運航に応じて深夜であれ、早朝であれ、同じ作業班が24時間継続して就労しているため、年間総労働時間も他産業に比べ296時間も長くなっているのが現状です。

 港湾運送の大半が中小零細事業者であり、もともと国内外の大手船会社や荷主に対して弱い立場にあります。「規制緩和」で現行の免許制や認可料金制がなくなれば事業者の乱立と競争激化は避けられず、労働コストの削減による賃金・労働条件のいっそうの切下げと雇用破壊が重大化することはいうまでもありません。

 港湾運送の公共性とその役割・機能からみて、いま求められているのは港湾を陸上運送と海上運送の結接点として、輸入食品の安全性や動植物の防疫、麻薬・拳銃などの社会悪を水際で防止するためのチェック機能をつよめる──これが中心課題でなければなりません。

 そのためには、政府・財界あるいは外国の市場開放を容認する「規制緩和」ではなく、国民生活の安全と輸送秩序確立、港湾労働者の労働条件確保のための必要な規制の維持・強化をはかることがとりわけ重要です。

 (3)安全基準、検査制度の形骸化は国民の危険につながる

 政府・財界は、経済的規制の緩和のみならず、安全や環境、労働者保護のための社会的規制までも「必要最小限」として、みさかいのない「規制緩和」を推進しています。

 国民の生命や財産を守り公害防止等の環境保護を行うために、国が自動車・船舶・航空機の検査を実施していますが、政府・財界は技術の向上やコスト削減を理由に、安全基準の大幅な緩和や民間委託化を行おうとしているのです。

 自動車検査制度の「規制緩和」で揺れる安全性確保

 自動車の検査は、51年に制定された道路運送車両法にもとづき、自動車の安全確保と公害防止を目的に国が直接に検査を実施しています。

 しかし、83年に臨調「行革」の一環として、「新車3年への車検期間の延長」を含む車検制度の「改正」が行なわれ、96年には「国民負担の軽減」を名目に、従来の「前整備後検査方式」から「前検査後整備方式」(注21)に検査方法が変更され、自家用乗用自動車の6か月点検廃止や点検項目の大幅な削減が行われました。さらに、日米自動車協議での米国の要求に応えるかたちで、民間車検工場の人的・施設要件の緩和などの安全規制の見直し「改悪」がおしすすめられてきました。

 97年3月28日に閣議決定された「規制緩和推進計画の再改定」では、「トラック等の車検制度の見直しについて、平成9年度に集中的に調査を実施し、その結果、安全確保、公害防止の面で支障がない場合には延長する」「分解整備検査については、国際的な状況も踏まえ、安全の確保を図りつつ、その必要性を含めた検査制度のあり方について、平成9年度6月を目途に方針を決定し、早急に所要の措置を講じる」として、さらなる「規制緩和」を具体化しようとしています。

 船舶検査制度における安全規制の形骸化

 船舶の検査は、31年に制定された船舶安全法にもとづく船舶の堪航性及び人命の安全確保、海洋汚染と海上災害防止を目的に国が検査を実施してきました。

 小型船舶検査については、74年に新たに規制対象とされ、検査実施機関として全額政府出資の認可法人である日本小型船舶検査機構(JCI)を設立する一方、94年には検査対象船舶を長さ12メートル未満から総トン数20トン未満にするなど、国の業務の委託範囲を拡大しました。

 また運輸省は、35年から国の検査と同等と認めてきた船級協会の旅客船以外の船舶検査についてもその範囲を順次拡大してきており、「規制緩和推進計画の再改定」では、平成9年度末を目途として、従来、国が実施していた人命の安全に直接かかわる救命設備等の検査についても、船級協会に任せる方針を打ち出しました。

 さらに、97年からは、民間資格の『機関整備士』(注22)を活用した内燃機関検査の一部を任せるしくみ(サービスステーション制)を新たに設けるなど、民間委託の拡大を行なってきています。

 航空機検査の「規制緩和」もターゲットに

 航空機の検査は、52年に制定された航空法にもとづき、航空機の安全確保を目的とした国の検査が実施され、今日にいたっています。

 しかし、95年3月の「規制緩和推進計画」で「航空産業の一層の競争促進を図る」ことが改めて盛り込まれ、これを受けた航空審議会答申「航空機検査制度のあり方」では、各航空会社の整備能力の向上を理由に、国が実施している検査を民間能力の活用によって省略化するという航空機検査制度の見直し改悪がうちだされました。

 そして翌96年4月には、早くも航空法が「改正」され、「航空機の新規、更新検査については製造者・整備事業者の製造・整備および検査能力を活用し、国の直接検査を省略する。また、日本と同等以上の要件にもとづき検査した外国の証明の活用によって、国の直接検査を省略する」ことを中心に、民間能力の全面活用と国の関与を最小限にとどめる「規制緩和」がいよいよ具体化される段階となっています。

 このように陸・海・空の交通運輸に関する各保安検査に対し、いっせいに「規制緩和」がすすめられている背景に、市場競争促進の経済的規制破壊攻撃と軌を一にして、企業内での安全・整備コストの削減を検査範囲の縮小・民間委託化で達成するという財界・大企業のねらいがあることはいうまでもありません。

 過当競争のなかで、安全・整備コストを削減するための安全規制の緩和がすすめば、輸送の安全は根底から破壊され、公害の増加など環境面にも重大な影響を与えることになることは必至です。

 また、国の検査の民間委託拡大は、自動車検査における民間車検工場での不正車検にみられるように、検査の中立性・公平性を損なうばかりか、検査の商品化による質の低下を招き、安全の確保と環境保全に重大な影響を与えかねないものです。

 国民生活の安全確保、公害防止等の環境保護のためには、自己責任原則による「規制緩和」自由化ではなく、逆に、安全基準の強化や騒音、排出ガス規制などの社会的規制を強化し、これを国の責任で実施することが求められているのではないでしょうか。

 3.国民のための交通運輸を確立するために

 (1)国民のための公共交通維持と「持続可能な社会」にむけて

 わが国の交通運輸政策とその展開をめぐる特徴の第一は、戦後とくに60年代以降における高速交通ネットワークとモータリゼィションを軸とした鉄道新線・空港・港湾や高規格幹線道路の建設など、いわゆる大規模プロジェクト推進が中心にされてきたことです。

 これらは、社会経済の国際化・情報化と「第四次全国総合開発計画」(87年策定)など、政府の経済成長政策に沿った莫大な交通投資政策をはじめ、93年以降の「航空審議会答申」や7次にわたる「空港整備計画」、「21世紀にむけての中長期の鉄道整備に関する答申」などで具体化されているのが現状です。

 こうした高速交通ネットワークづくりと大量輸送化は、政府のいう「国民ニーズに対応する利便と効率的な輸送の確保」(91運政審)とはうらはらに、大都市への人口と都市機能の集中をもたらす一方で地方における過疎現象を顕在化させ、また、国土の乱開発をはじめ、騒音・公害・交通事故など環境と国民生活への否定的影響を拡大しつづけています。

 第二の特徴は、交通運輸に対する「規制緩和」競争政策が「交通機関間の競争と利用者の自由な選択を通じて形成される」という目標で促進・具体化されていることです。

 自由競争と利用者の自由な選択によって生まれる「活力」や「効率」のすべてを否定するものではありませんが、市場競争と利用者の自由選択に重点をおき、公共性の高い交通産業を各事業者の自由に委ねることについては、その現状からして、また事態を解決するうえで大いに問題があるといわなければなりません。

 こんにちの政府の交通政策では望ましい交通体系の形成は困難であり、国民生活や地球環境の視点からしても21世紀の「持続可能な社会」(注23)とは決して相容れないでしょう。

 そこで全運輸は、これからの交通運輸のあるべき方向として、その理念・目標に交通運輸政策研究会も提唱している「公共交通を中心とする」「環境・エネルギーとの調和をはかる」「社会的公正の確保を重視する」ことをすえ、その実現をめざすことが重要であると考えています。これは、交通は人間の生活・生存の基本的条件であり、また、そのサービスの性質から地域独占が生じる場合があることなどから、一般の経済活動と異なる社会性や公共性を持っているという理由によるものです。

 そして今ひとつの現実的な課題である「規制緩和」問題については、市場メカニズムも活用しながらも、中心的には、調整・誘導・規制原理に基づいた総合的な交通政策が必要であることを主張します。無秩序な自由競争を基調としたこれまでの交通政策を止め、公共交通を優先しつつ、調整と誘導による各種交通機関の相互補完と連帯、整合性のある総合的な交通体系を確立することが私たちのめざす方向です。

 そして、単に政府・財界の「経済効率」優先ではなく、交通事故や災害、交通公害をなくし、環境やエネルギー問題をも考慮しつつ、あらゆる人々の交通権=移動の自由を制度面からも実態面からも保障していくことを追求すべきだと考えているところです。

 (2)効率的で環境にやさしい貨物・物流の展開にむけて

 物流業界は日本経済の国際化と産業構造の変化、物流新技術の導入と情報化の進展によって構造的な再編成のさなかにあり、物流技術の革新や新しい輸送システムの登場は従来の物流システムを変え、港湾における荷役・取扱業務の機械化と「合理化」がもたらす港湾事業や港湾運営を変化など、いまや産業構造全体が大きく変貌しつつあります。

 これまでの政府の貨物輸送・物流政策の基本は、経済成長至上主義にたち、大企業荷主の「もうけ主義」に物流・運送事業を追従させるものでしたが、いま求められていることは、国民生活と環境保全を優先し、中小零細に配慮する物流政策であり、効率的で事業者の公正競争が確保される貨物輸送・物流体系の形成です。

 自動車に依存し、トラック運送に傾倒しすぎたわが国の貨物輸送体系を改め、短距離はトラック輸送、長距離は鉄道・海上輸送といった、それぞれの特性にあった輸送分担で機能させるための誘導・調整が必要です。あわせて、非効率な自家用輸送の営業用トラック輸送への転換促進が積極的にすすめられるべきです。

 こうした貨物・物流体系の確立こそが、利用者利便と効率的な輸送につながり、ひいては国民生活における安全確保と福祉の向上、環境保全、国土の有効な利用に貢献する道であると考えるところです。

 また、大企業や元請会社の市場支配を許す貨物・物流分野の「規制緩和」に関わっては大企業の横暴と中小零細事業いじめに対する公的規制をつよめ、公正な市場競争が確保できる制度に改善すると同時に、公共的な輸送サービスに決定的な役割を担って貨物輸送・物流事業に従事する交通労働者の雇用の安定と労働条件の改善をはかる具体的な改善措置を講じなければなりません。

 これらをつうじて、民主的な交通体系が構築され、経済の効率性と消費の利便性が確保されるわけであり、そこに最大の価値をおいた社会・経済システムに漸進的に改革していく必要があると考えます。

 (3)交通政策決定システムの改革など交通運輸行政の民主化にむけて

 交通政策を民主的・国民的に確立するためには、政策決定の仕組みや行政のあり方がそのカギになることはいうまでもありません。

 現在、交通政策の決定システムとしては、運輸審議会、運輸政策審議会、航空審議会、鉄道建設審議会、港湾審議会、道路審議会及び各地方交通審議会などを中心にすすめられているところです。これらの審議会がおしなべて、政・財・官の代表と一部労組幹部、学識経験者で構成されていることはよく知られています。そして、運営においては国民参加と審議の公開の原則に立ったものではないばかりか、各審議会の答申が相互に調整されていないため、各交通機関相互間の補完と連帯や整合性のある発展の障害となっているところです。

 こうした制度的な弱点を改善し、交通政策決定の民主的な決定システムを構築するためには、現行の非民主的な審議会方式を抜本的に改革することを当面の課題として追求し、国民参加と情報公開を基本原則とした制度を新たに構築し、労働者・国民の意見が反映できる仕組みを確立することが格別に重要です。

 また、交通運輸行政機構のあり方については、行政の一元化や総合調整機能充実の立場から「総合交通政策」推進に見合った行政運営ができるように機構・機能などの体制整備を行う必要があります。そのためには、交通運輸行政の総合性・効率性を行政サービスの向上の観点からはばひろく検討すべきだと考えます。

 政府・橋本内閣の権力構造の上に立った「行政改革」ではなく、政・財・官の癒着構造を是正し、国民が求める「縦割り行政」の弊害をなくすることを前提とし、憲法理念の国民主権と基本的人権が定着し、国民福祉の向上に役立つ行政機構のあり方を追求することが、まさに今日的な課題であるといえるでしょう。

 (4)交運産別のたたかいの発展と国民共同の拡大にむけて

 「規制緩和」に反対する交通労働者・交運産別のたたかいは、交通運輸労働者自らの要求解決と「国民のための交通運輸政策確立」を基本にすすめられており、多くの前進面をきりひらくとともに各方面への影響力を広げています。

 それは、この間の「規制緩和」反対のたたかいが、交運産別だけのたたかいではなく、マスコミや金融、商業サービスなどの幅広い労働組合のたたかいに発展していることにもみられます。

 こうした運動のその到達点としては、昨年から各産業別の規制緩和の問題点とたたかいの交流がシンポジウムや様々な学習会のかたちで実施され、これらを土台にした中央行動などの共同した大規模な集会や政府・国会請願デモが着実に、しかも全国的な広がりを示している段階となっています。

 いま重要なことは、橋本「行革」の本質や交通運輸の「規制緩和」の危険性を広く国民にしらせ、幅広い労働組合や民主団体、国民とともに、大企業本位の「規制緩和・行革」攻撃を阻止し、安全・国民生活擁護、労働者保護のための必要な規制強化と行政体制の充実にむけて職場と地域でのとりくみを強化することです。

 私たち全運輸はもちろんのこと、多くの交通運輸労働組合・産別組織にも、労働者・国民の立場に立った交通運輸のあり方や総合交通体系の確立を追求し、その立場での要求政策をはっきりと労働者・国民諸階層に提起し、その実現にむけたとりくみをいっそう前進させることがつよく求められているといえます。

 (注1)行政改革審議会…9010月に再発足した政府の審議会。鈴木永二会長以下8名の構成で、92年6月までに「規制緩和、地方分権、特殊法人の見直し」推進などの最終答申を出し解散した。

 (注2)臨調「行革」路線…81年3月に鈴木善幸内閣の下で発足した第二次臨時行政調査会(土光敏夫経団連名誉会長)による「増税なき財政再建」の名による政府・財界主導の「行政改革」政策の展開。

 (注3)OECD勧告…61年に資本主義国24カ国の加盟で発足した経済協力開発機構で、日本は64年に加盟。多国籍企業支援のための資本自由化や対外援助など国際的に主要な役割を果たしている。

 (注4)日航民営化…8511月の政府閣議決定により、国際線の複数社体と国内競争促進政策にむけて、日本航空〓に対する国の株式保有を廃止し、経営主体を完全に民間化したこと。

 (注5)国鉄分割民営化…公社経営の赤字を口実として87年4月に強行された国鉄解体のこと。臨調「行革」路線の突破口として国有鉄道の民間企業化と7つの鉄道会社への分割化がはかられた。

 (注6)物流二法…貨物運送における取扱事業の再編、トラック事業の免許制の許可制移行、運賃の届出化等を柱として、8912月に成立した貨物自動車運送事業法および貨物運送取扱事業法のこと。

 (注7)需給調整規制…旅客・貨物運送市場における輸送供給力過剰や供給力不足を生じさせず、輸送秩序を維持するために設けられた新規参入や増減車を規制する制度。道路運送法等に規定される。

 (注8)第三セクター鉄道…沿線地方自治体や民間企業の共同出資による鉄道会社で、狭義には、85年以降の旧国鉄の廃止対象とされた特定地方交通線からの転換線および新線のこと。

 (注9)リストラ…リストラクチャリング=事業の再構築の訳。わが国では企業再編や生産・設備投資を調整する名目で、事業活動の海外展開、労働者の首切り・強制配転などにつかわれる。

 (注10)構造改革…経済政策や制度面での構造「改善」策のこと。一般的には、財政再建のための政府赤字やインフレ抑制策、世界的な投資の自由化、民営化・競争的市場経済策などを意味する。

 (注11)交通運輸政策研究会…略称:交運研。「国民のための交通運輸確立」を主要目的に、90年に発足した交通関係労働組合14団体と学者・研究者による交通政策の調査研究会(会長は平井都士夫教授)

 (注12)過疎バス実態調査…全運輸の行政研究活動の一環として、75年以降、これまでに隔年で7回実施されている全国の市町村代替バスの実態調査。95年に「住民福祉の最後の公共交通」をまとめ報告。

 (注13)「規制緩和推進計画」…第三次行革審の「答申」をうけ、政府が95年3月に閣議決定した公的規制緩和方策。以後、基準・認証、運輸分野など12分野150項目以上の「規制緩和」が推進されている。

 (注14)ポール・デンプシー…78年のアメリカのカーター政権当時に、航空委員会長官の下でスタッフとして働き、航空の規制緩和を推進してきた人物。後に「規制緩和の弊害」を社会的にアピールした。

 (注15)運航委託…供給能力の不足を補うために、他社の乗員・機材を借り受け、他社の運航整備責任において自社便として運航するもので、タイムリース(時間貸し)に限って認められている。

 (注16)トラックの協力金…荷主がトラック事業者に支払う運賃の中から一方的に差し引く金額。不法・不当な値引きとして公正競争を阻害し、96年には公正取引委員会・運輸省の実態調査が行われた。

 (注17)最低保有車両数…トラック事業の参入許可の際に設定された保有台数の基準。行政改革委員会の指摘により、運輸省は平成**年度までに全国一律5台に段階的に引き下げることとしている。

 (注18)荷主勧告制度…過積載運行、過労運転などのトラック運送の法令違反に対し、それを強要した荷主の責任が明らかな場合、当該荷主の責任を問う制度。貨物自動車運送事業法に規定される。

 (注19)事前協議制度…コンテナ船の就航にともなう港湾労働者の雇用・労働条件確保と荷役作業の効率化のために、79年に制度化された海運会社・港湾労働組合・日本港運協会による3者協議制度。

 (注20)ILO137号条約…国際労働機関による「港湾における新しい荷役方法の社会的影響に関する条約」。港湾労働者の雇用の最低期間等を保障し、港湾作業の効率化のための労使間促進を規定。

 (注21)前検査後整備方式…国の検査場で自動車の検査を受ける際に、定期点検整備について検査の前後を問わない方式。ユーザーの選択により定期点検整備を検査の後でも実施できるもの。

 (注22)機関整備士…特殊法人・日本舶用機関整備協会が認定した船舶機関整備の資格を有する者で、必要な施設基準を満たせば、実施した整備物件については国の検査の一部が省略される。

 (注23)持続可能な社会…地球環境問題の高まりのなかで定着しつつある「環境保全型の人間の存続可能な社会へ移行させる」考え方。代表的論者はワールドウォッチ研究所のレスター・ブラウン氏。

 ★資料1 「行革・規制緩和」をめぐる動き〔90年以降運輸省関係〕

917月 運政審、「21世紀に向けての90年代の交通政策の基本課題への対応について」を答申

9174日 第3次行革審、「国際化対応、国民生活重視の行政改革に関する答申」(第1次答申)提出

911212日 第3次行革審、「第2次」答申

926月 運政審、「21世紀に向けての中長期の鉄道整備に関する基本的考え方について」を答申

93511日 運政審、「今後のタクシー事業の在り方について」を答申

93617日 運技審、「今後の自動車検査及び点検整備の在り方について」を答申

9391日 経団連行革推進委、「規制緩和の緊急要望」を政府に提出

93916日 政府、「緊急経済対策」(94項目の規制緩和盛り込む)決定

93106日 運輸省、「タクシー事業に係る今後の行政方針について」(運賃料金の多様化、需給調整の運用の緩和)を通達

931027日 第3次行革審、「最終」答申

93118日 経済改革研究会、「規制緩和についての中間報告」発表

931130日 運輸省、「許認可事項の削減・規制緩和案」(第1次)発表

93125 「行政手続法」第127国会で成立

931210日 公正取引委員会(政府規制と競争政策に関する研究会)、「競争政策の観点からの政府規制の問題点と見直しの方向」を発表

931216日 経済政策研究会、「経済改革について」を発表

94117日 運輸省、「許認可事項の削減・規制緩和案」(最終案)発表

94215日 行政改革推進本部、「今後における行政改革の推進方策について」(行革大綱)を閣議決定

94316日 運政審、「貨物取扱事業法附則第52条に規定する措置について」「地域内物流の効率化のための方策について」を答申

94329日 政府、「対外経済改革要綱」を閣議決定

94513日 日経連、政府に「規制緩和」(197項目)の要望書提出

94520 「許認可整理法案(規制緩和一括法案)」閣議決定・国会上程。運輸省関係で17法律11項目が盛り込まれる

94613 航空審、「我が国航空企業の競争力向上のための方策」および「次世代の航空保安システムのあり方」について答申

94628日 運技審、「21世紀にむけての鉄道技術開発のあり方」を答申

94628日 京都MKタクに、「運賃値下げ」申請の継続認可(9412迄)

9475日 政府、「規制緩和の推進について」を閣議決定運輸省関係で37項目盛り込まれる

94811 公正取引委員会・政府規制と競争政策に関する研究会が物流分野における競争政策の見直しについて」を発表。主な内容は、トラック事業内航海運業、港湾運送業、貨物運送取扱事業の「参入・設備・運賃規制の全廃」等を盛り込む

941115日 経団連、「規制緩和の経済効果に関する分析と雇用対策」を発表

941116 経済同友会、「規制緩和に関する要望」を政府に提出。主にはトラック事業の最低保有台数の規制撤廃、運賃の完全自由化

941117日 経団連・行革委、19分野456項目の「規制緩和要望書」を政府に提出

941225 政府、「当面の行政改革の推進方策について」を閣議決定。行政改革委員会設置(会長:飯田庸太郎、設置期間3年)等

95331 政府、「規制緩和推進5か年計画」を閣議決定。全体で1091項目、運輸関係は164項目219事項

9541 運輸省、「規制緩和一括法」にもとづく許認可「見直し」の実施。(鉄道グリーン・寝台料金の届出化など32項目57事項)

957   行政改革委員会・小委員会、「規制緩和に関する論点公開」実施。(検討課題40項目、運輸関係は車検制度見直しをはじめ、トラック事業の最低保有台数制限の撤廃、その他では労働者派遣事業法の見直しなど)。9510月には第二次論点公開

9571 車検制度における「自家用乗用車等の6か月点検廃止、定期点検項目の簡素化、11年を超える自家用車などの車検有効期間の延長、前検査後整備方式の導入」などを実施

95920日 運輸省、「国内航空運賃の設定方式の弾力化」(上限価格制)を打ち出し、政府の経済対策に盛り込む

9510月    日経連、「運輸分野の規制緩和の推進を求める」要請を政府に提出。運輸関係では、車検期間の見直し、トラック参入基準の緩和、航空運賃の自由化と参入ガイドライン撤廃および便数設定の原則自由化など

9510月 公取委、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」発表

951130日 運輸省、「規制緩和に関する内外の意見・要望」を発表。措置済のものは自動車点検整備の簡素化など9項目、計画外事項で措置済のもの自動車構造変更検査の緩和等10項目、今後措置予定のもの旅客運賃規制の見直しなど105事項

951129日 経済審議会、「構造改革のための経済社会計画」を策定

951130日 運輸省、「規制緩和に関する内外の意見・要望」を発表。実施済のものは自動車点検整備の簡素化など9項目、計画外事項で措置済のもの自動車構造変更検査の緩和等10項目、今後措置予定のもの旅客運賃規制の見直しなど105事項

95127日 行政改革委・規制緩和小委員会、12分野53項目の「規制緩和提言」発表(運輸関係では、車検制度の見直し緩和、トラック事業の参入基準の緩和などをひきつづき盛り込む)

951214日 行政改革委員会(飯田庸太郎会長)が規制緩和小委員会の報告をうけて、「規制緩和の推進に関する意見」(「光り輝く国をめざして」)を首相に提出。95年度末の「計画」に反映。(運輸事業関連は、車検制度の見直し、トラック事業の参入・価格規制の見直し、船腹調整・運賃協定の見直しなど17事項)

9512月 総務庁、「旅客運送に関する行政監察報告・勧告」発表

951226日 政府、「許認可事項の整理・合理化推進状況」(953月現在)を発表、全体では昨年同期に比べ185件減少している。運輸省関係は94331日現在の1700件から1607件に減少、「5か年計画」の予定は219項目、95年度中に措置する予定は163事項(うち95年度末までに123事項は措置済)

951226日 政府、「行革大綱」を閣議決定。@規制緩和計画の推進(実施時期の前倒し、時期の明確化等)A特殊法人改革(統廃合、民営化)、B地方分権推進(勧告をうけ所要の検討)、C行政の「合理化」(法務局・職安等の整理統合など)

96112日 日経連、労問研報告「構造改革によるダイナミックな日本経済の実現に向けて」発表。許認可・規制の撤廃、労働法制の弾力化等打ち出す

96118日 経団連、「魅力ある日本創造への責任(ビジョン2020)」を発表。首都移転、省庁再編、総合交通省など盛り込む

96125日 運輸省、「規制緩和推進計画の見直し検討状況」を発表。@実施状況では、91年度末の1966件が3年後の94年度末で1607件となり359件(約18%)減少、95年度末までに残り219項目のうち160事項を実施するとしている。A見直し検討として「大型特殊車の車検延長、路線バスの管理受委託許可基準の緩和」など35事項(95年度内)「鉄道技術基準の見直し索道技術基準の見直し、輸出検査法の廃止、トラック運賃料金の原価計算書添付義務の緩和」など16事項(96年度内)、「トラック・タクシー事業の区域拡大、貨物鉄道運賃の見直しタクシー運賃多様化・需給の弾力化、など46事項(95年度〜97年度)

9631日 タクシー運賃値下げ申請事案(京都の駒タクシー・三和タクシ=MK系列)に対し、近畿運輸局が却下処分

963月 国内航空運賃の「幅運賃」制導入に基づく日本航空・全日空・日本エアシステムの運賃改定(6月実施)をめぐるマスコミ批判集中。その特徴は「短距離、年末・年始などの値上げは不満」とし、その原因を「規制緩和の内容が手ぬるい」としている

96315日 地方分権推進委員会(地域づくり部会、くらしづくり部会)が中間報告発表。96年3月末までに報告をまとめる方向。地域づくり部会として「地域交通機関に係る権限を地方公共団体に委譲する」を基本として検討することを打ち出す。くらしづくり部会では「必置規制」が中心的な検討事項

96325日 物価安定政策会議特別部会基本問題検討会(小島英敏部会長)、「公共料金の価格設定のあり方」報告をまとめる。

@平均原価以下のタクシー料金の自由化、

A幅運賃の上限・下限などの見直し、

B高速道路料金の投資計画と料金負担のあり方、など8項目

96329日 政府「規制緩和推進計画の見直し」について閣議決定。運輸省関係はつぎのとおり。

@トラック事業について、最低車両基準の引下げ(5台にむけて)の実施および営業区域の拡大を推進。(4月1日から)

Aタクシー事業について、需給調整の透明化と運用弾力化(96年度以降逐次)および最低車両数基準の引下げ推進(96年度)

B内航海運業について、コンテナ船、RORO船について船腹調整事業から除外(96年度以降逐次)をふくめ、5年間を目途に船腹事業への依存の解消を図る。

C車検における指定整備事業(指定整備工場)の施設基準を緩和する(96年度)

D国内航空の複数路線化の推進(96年4月1日)実施

Eトラック・タクシー事業の運賃料金制度見直し(96年度)

96329日 地方分権推進委員会、政府に中間報告を提出。「分権型社会の構築をめざし、官主導から民自立の転換を追求する規制緩和の推進と軌を一にし、これを徹底する」とした。

@期間委任事務の廃止〜その役割や使命を終えたもの、規制緩和により意義が乏しくなっているものは、根拠法を廃止する

A権限の地方委譲〜地域交通機関に係る権限を地方公共団体に委譲する(地域づくり部会)

B必置規制〜見直しが必要。ただし福祉サービス低下を避けるべし(くらしづくり部会)

C補助金のあり方〜一般財源化をすすめ整理合理化をはかる

9648日 運輸省・タクシー運賃制度研究会「報告書」を発表。

@参入規制(需給調整)については、制度維持と運用弾力化

A運賃料金設定方式については、つぎの案により検討する

・現行ヤードスティック方式の改善と多様なメニューの設定

・ゾーンまたはフオーク運賃規制への移行

966月 第1366国会で「国会等の移転に関する法律」成立

@一極集中排除、多極分散型国土形成にむけて、国会機能等の移転をめざしてその具体化のための積極的な検討をすすめる。

A地方委譲の積極的推進

B国会等移転審議会(20名以内で組織、総理大臣の任命)および国会移転等調査会(移転先制定基準、移転時期目標、その他新都市の整備に関する基本事項などの審議)の設置

9665日 日経連、行政改革委員会に「政府規制の撤廃・緩和要望について」を提出。新規事項では@労働関係〜1年変形労働時間制の要件の緩和、裁量労働制の適用範囲の拡大、派遣事業の自由化など。A運輸関係〜参入規制の緩和等競争条件の整備、料金の多様化・弾力化。また、トラックの最低保有台数のいっそうの緩和、車両総重量規制の緩和、外国人船員受入れ・日曜荷役等

96618日 自民党行政改革推進本部「橋本行革の基本方向」打ち出す。要旨は、@中央省庁の再編、Aあらゆる分野での規制緩和推進B定員削減など公務員制度の改革、C地方分権の推進など

96724日 行革委・官民活動分担小委員会が「郵政や特殊法人など官業の縮小を求める」とした見直しの「論点公開」、11月を目途に意見書のまとめ

96725日 行政改革委員会・規制緩和小委員会が、38項目の「論点公開」を行い11月を目途に報告をまとめ、973月の「規制緩和推進計画」の再改定をすすめることとした。運輸関係では、@航空の参入・価格、Aタクシーの参入・価格Bバスの参入・価格、鉄道の参入、C鉄道貨物の価格など8項目が検討課題

96730日 政府、97年度予算概算要求基準(シーリング)で96度予算対比伸び率3.4%、公務員関係では、@キャリアの新規採用を次年度から5年間で3割(約1200人)削減、A定員については5年間で4.11%(35,122人)削減が閣議決定された。運輸省全体では、削減目標数1,459人(削減率3.9%)

9681日 細川(新進)、小泉(自民)、田中(さきがけ)と学者・財界代表による「行政改革研究会」が、@郵政事業の民間参入の自由化、A中央省庁の各審議会の見直し、B国家公務員の定員削減10カ年計画の策定などを柱とした「緊急提言」を発表

96829日 自民党行政改革本部「橋本行革ビジョン」で行政機構の整理統合=省庁再編・縮小案を打ち出す。現在の22中央省庁を14省庁に再編し、政策部門と実施部門を分離、許認可部門は「外庁」に独立することも明記

 総務庁、外務省、国防省、経済省、財務省、法務省、保安省(警察・消防・防災・気象など)、厚生省、社会省、国土省(治山治水、道路、都市など)、運輸通信省(交通・通信)、生産流通省く、サービス産業省、教育科学文化省

96109日 経済審議会・行動計画委員会が「物流ワーキング・グループ報告書」を発表。内容は、雇用・労働、金融、情報通信、土地・住宅、物流など6分野についての規制の見直しと廃止を盛り込む。運輸分野の主な項目では、船腹調整制度の廃止、港湾運送事業の免許制度見直し、貨物鉄道の参入・運賃規制の廃止、トラック事業の営業区域・最低保有台数の撤廃と運賃規制の撤廃、幹線道路における重量制限の緩和などを求めている

961028日 経団連、橋本首相に「規制緩和推進の要望書」を提出。

 内容は、新規事項411項目をふくむ17分野699項目。重点5分野として農業、運輸、金融・証券、保険、医療・福祉、教育が盛り込まれた。運輸関係は、@普通免許の運転範囲の拡大、A車検の見直し、Bバス停の新設手続き簡素化、C電車の定期点検周期の延長、D船舶の夜間入港の規制緩和、E国内航空の参入規制の見直し

96117日 行政改革推進会議(首相の直属機関)発足。会長代理は武藤総務庁(行革担当)長官、事務局長は水野首相補佐官。委員は11人以内の構成。任務は、国の行政機関の再編・統合についての調査と審議。・設置機関は、99331日まで

961114日 行改委・官民活動分担委員会が「行政リストラのための数量基準」をまとめた。内容は「行政サービスの民間への移行を基本原則に、郵政事業や財政投融資制度、公共事業など、サービスの効率的実施について数量的にチェックする制度の導入」を柱とし、省庁再編の指針となる。

961126日 経済審議会・行動計画委員会が「6分野の構造改革の推進について」の報告を発表。内容は、高度情報通信、物流、金融、土地・住宅、雇用・労働、医療・福祉の分野で「高コスト構造の是正」を強調。運輸関係では物流が取り上げられ、@内航海運の規制撤廃、A港湾運送事業の免許制度、運賃認可制度の撤廃、B貨物鉄道の規制撤廃、Cトラック規制の撤廃、を求めている

9612月5日 運輸省「今後の運輸行政における需給調整の取扱について」を発表、各事業分野の規制緩和措置を打ち出した。

 内容は、基本方針として「@人流・物流の全事業分野において、原則として目標期限を定めて需給調整規制を廃止する、Aそのための環境又は条件を整備するとともに、利用者保護、安全確保の観点から、必要な措置を講じる」としたもの。また対象業種では、航空(参入、発着枠配分)、鉄道(参入)、タクシー(参入・運賃)、バス(貸切りの参入)、港運(港湾の安定運営確保方策の確立)、内航(船腹調整の解消の前倒し検討)、旅客船(生活航路の維持方策)。

 今後のすすめ方では、@973月の「規制緩和推進計画」に盛り込む、A必要な環境・条件整備については運政審に諮問答申する、としている

96125日 行政改革委員会・規制緩和小委員会「創意で造る新たな日本」と題する「96年度規制緩和計画の見直し」を発表。内容は、土地・住宅、農水産物、情報通信、運輸、エネルギー、金融・証券・保険、競争政策、雇用・労働、医療・福祉、教育、危険物規制など13分野51項目で、「消費者利益」を強調しつつも、全体的には「構造改革」推進の立場を貫徹している。

 運輸関係では、運輸省の策定した「需給調整規制」(港湾除く)を基本に、国内航空、タクシー、バス、鉄道など旅客交通中心の規制緩和・自由化を打ち出す

961220日 地方分権推進委員会、「分権型社会の創造」と題する「地方分権・第1次勧告」を政府に提出。

 主な内容は、「国と地方の役割分担」「機関委任事務の廃止」であり、交通運輸分野では「地域づくりと地方分権」の項で、地方自治体バスや委託運営についての権限を地方運輸局から各陸運支局に事務移管(権限の内部移管)を打ち出したこと、バス規制のあり方の見直しとして、自治体バス許可制の廃止などの検討を迫っている

9612月 経済審議会、「構造改革のための経済社会計画活力ある経済・安心できるくらし」の推進状況と今後の課題を政府に提出。主な内容は、構造改革「高コスト構造の是正」にむけての競争政策、規制緩和推進を中心課題として打ち出したもの。運輸関係では、物流(トラック、内航、鉄道貨物)の規制緩和

97210日 行政改革委員会、「主要論点公開」(案)を発表。内容は、「行政改革の理念、国家機構のあり方、組織改革のあり方」が柱。重要課題として「官民の役割分担」で現業部門の民営化、事業形態の転換、効率的な政策体系のための事務のスリム化などを提起。今年12月中に「規制緩和」「官民分担」各委員会が報告の予定

97312日 公正取引委員会、「政府規制等と競争政策に関する研究会」報告として、「国内定期旅客運送事業における政府規制の見直しについて」を発表。内容は、競争原理の促進を強調し、参入・運賃などの経済規制の全面「自由化」を打ち出す

97328日 政府、「規制緩和推進計画の再改定について」を閣議決定。構造改革のための「自己責任原則と市場原理」を基本に、経済的規制の「原則自由」、社会的規制の「最小限」をあらためて強調した。運輸関係は「需給調整規制廃止」を全分野ですすめるとしている

9743日 運輸省、「総合物流施策大綱」の骨子をまとめ発表。主な内容は、多様化するニーズに対応した選択肢の拡大、競争の促進等で、港湾運送の「需給調整規制の見直しも打ち出している

 ★資料2

交通運輸の規制緩和に関する申し入れ

1997年3月19日 運輸大臣 古賀 誠殿

                      全運輸省労働組合中央執行委員長 田中 茂冨

 96125日、運輸省が打ち出した「今後の運輸行政における需給調整の取扱について」と題する交通運輸政策は、「人流・物流の全事業分野において、原則として目標期限を定めて需給調整規制を廃止する」ことを柱とした基本方針となっていますが、私たちは、この「基本方針」の問題点を次のとおり指摘するものです。

 第一は、「需給調整規制」は、交通運輸事業の適正な運営、公正な競争を確保するとともに、輸送秩序を維持することにより安全で良質なサービスの確保を図るための制度であり、これを改廃する「規制緩和」政策とその具体化は、交通運輸事業が果たすべき公共的役割を否定し、その全面自由化に道を開くものである。

 したがって、今回の「基本方針」の具体化は、交通運輸市場の過当競争をさらに激化させることとなり、いま求められている公正競争の確保や社会的・地域的不平等の是正をはじめ、安全確保、環境保全などの運輸政策の実現と国民要求に沿ったものではないことが明らかである。

 第二は、「需給調整規制」の廃止は、これまで公的規制の根幹をなしてきた経済的規制と社会的規制の一方をなし崩し、運輸行政を大きく転換させるものである。

 こうした運輸行政の形骸化は、今後、本格化しようとしている「省庁の統廃合、地方出先機関の縮小・廃止」などの行政リストラ推進と連動し、運輸行政体制とその機能に重大な弊害と混乱をもたらすとともに、国民のための行政サービスの低下につながる。

 以上のことから、私たちは、今回の「基本方針」とその具体化に反対であることを表明するとともに、当面、貴職が下記事項について適切な措置を講じるよう、つよく申し入れるものです。

  記

1.交通運輸事業の市場競争を促進する「規制緩和」政策をただちに止めること。

  当面、今回の「需給調整規制の廃止」方針を撤回し、公共性の確保と輸送秩序維持の立場に立った経済的規制と社会的規制を維持・強化すること。

2.国民のための行政サービスの向上をはかるため、運輸行政体制とその機能を充実強化するとともに、現行の運輸省各級機関の統廃合・縮小を行わないこと。

 以上

 ★資料3

   規制緩和推進計画の再改定について(平成9年3月 運輸省)

 本年328日に閣議決定予定の「規制緩和推進計画の再改定について」においては、昨年12月の行政改革委員会の意見をはじめとした内外からの意見・要望を踏まえ、全事業分野における需給調整規制の廃止、運賃規制の緩和等を中心に、新規事項を盛り込むとともに、既存事項についても可能な限り実施内容等の具体化を図ることにしている。

 なお、主な事項は次のとおりである。

1.需給調整規制、運賃規制等関係

(1)国内航空運送事業の参入規制の見直し

 ○ダブル・トリプルトラック化基準を、平成9年度に廃止する。

 ○需給調整規制の廃止につき、それに必要となる生活路線の維持方策、空港制約のある空港に係る発着枠の配分ルート等を確立した上で、所要の法改正を行い平成11年度に実施する。

(2)航空運賃制度について規制の緩和

 ○運賃の一層の弾力化、上限価格制への移行については、需給調整規制の廃止といった他の関連事項と並行して検討し、措置する。

(3)タクシー事業の参入規制の見直し

 ○平成9年度から需給調整基準について、過去5年間の実績に基づき算出された基準車両数に一定割合(9年度は1割、実施状況を見ながら次年度以降さらに緩和)を上乗せする透明化及び弾力化措置を講じ、段階的緩和を進めるとともに、需給調整規制の廃止につき、それに必要となる安全の確保、消費者保護等の措置を確立した上で、所要の法改正を行い遅くとも平成13年度までに実施することとし、その前倒しに努める。

(4)タクシー事業の運賃規制・事業区域規制・最低車両数規制等の見直し

 @運賃については、平成9年度から10%の幅の中であれば自由に運賃の設定を認めるゾーン制を導入するとともに、初乗距離を短縮(2q→1q)する運賃を認める。また、需給調整規制の廃止の検討と並行して、速やかに上限価格制を検討の上、遅くとも平成13年度までに措置することとし、その前倒しに努める。

 A事業区域については、平成9年度から統合・拡大に着手し、3年以内に現行の事業区域数1,911(基本的に市町村単位)をほぼ半減させる。

 B最低車両数については、平成9年度に東京の60両、大阪・名古屋・横浜の30両を、10両に圧縮する等縮減措置を講じる。

(5)乗合バス事業の参入規制等の見直し

 ○需給調整規制の廃止につき、生活路線の維持方策の確立を前提に、所要の法改正を行い遅くとも平成13年度までに実施する。

 ○需給調整規制の廃止の際には、上限価格制を検討の上、措置する。

(6)貸切バス事業の参入規制の見直し

 ○平成9年度に一定の実働率(年間平均60%等)以上の場合には増車を認めることとし需給調整基準の弾力化及び透明化を図るとともに、需給調整規制の廃止につき、それに必要となる安全の確保、消費者保護等の措置を確立した上で、所要の法改正を行い平成11年度に実施する。

(7)貸切バス事業の運賃規制・最低車両数規制・事業区域規制等の見直し

 @運賃について、平成9年度に割引運賃の導入等一掃の弾力化を図とともに、需給調整規制の廃止に併せて届出制へ移行する。

 A最低車両数については、平成9年度に最大10両を大型車を保有している場合には最大5両に縮減する。

 B事業区域規制については、平成9年度から拡大・統合に着手し、3年以内に現行の市郡単位等を都道府県単位に統合する。

(8)鉄道の参入規制の見直し

 ○需給調整規制の廃止につき、所要の法改正を行い平成11年度に実施する。(貨物鉄道については、国鉄改革の枠組みの中で日本貨物鉄道株式会社の完全民営化等経営の改善が図られた段階で実施することとし、おおむね5年後を目標年度とする。)

(9)貨物鉄道運賃の届出制への移行

 ○運賃・料金については、需給調整規制の廃止に併せて届出制へ移行する。

(10)港湾運送事業の免許制及び料金認可制の見直し

 ○需給調整規制の廃止を含む見直しにつき、平成9年度における行政改革委員会の監視活動及びその結論を踏まえて適切に措置する。

(11)国内旅客船事業等の参入規制の見直し

 ○需給調整機会の廃止につき、それに必要となる生活航路の維持方策等を確立した上で、所要の法改正を行い遅くとも平成13年度までに実施する。

 ○貨物フェリーの需給調整規制の廃止につき、国内旅客船事業に係る需給調整規制の廃止の時期に併せて実施する。

(12)船腹調整事業の計画的解消

 ○モーダルシフトの担い手となるコンテナ船、RORO船を平成10年度末までに船腹調整事業の対象外とする。その他の船舶については、荷主の理解と協力を得ながら4年間を目途に所要の環境整備に努め、その達成状況を踏まえて同事業への依存の解消時期の具体化を図ることとするが、同事業の解消の前倒しにつき中小・零細事業者に配慮しつつ引き続き検討する。

2.上記以外の主な事項

(1)トラック等の車検制度の見直し

 ○国際的動向を踏まえつつ、道路運送車両法改正後の状況の変化を把握し、有効期間の延長の可能性を検討する。

 ○特に、トラック等の検査証の有効期間については、平成9年度に集中的に調査を実施し、その結果、安全確保、公害防止の面で支障がない場合には、延長する。

(2)分解整備検査制度の見直し

 ○分解整備検査については、国際的な状況も踏まえ、安全の確保を図りつつ、その必要性を含めた制度のあり方について、平成9年度6月を目途に方針を決定し、早急に所要の措置を講じる。

(3)乗合バスの一時不足の場合、貸切バスの使用を認める

 ○平成9年度に乗合バスの一時不足の場合に貸切りバスの使用を認める。

(4)日本籍船への日本人船長・機関長2名配乗体制の実現

 ○日本人船長・機関長2名配乗体制については、日本人船員の確保策等と併せて対応する必要があることから、海運造船合理化審議会の審議結果(平成9年6月予定)を踏まえて早急に所要の対応をする。

(5)鉄道の各種技術基準の緩和

 ○内燃動車、新幹線車両に係る定期検査の周期につき、所要の安全性が確認されたものを延伸するための走行試験を平成9年度に開始する等、各種技術基準の見直しを行う。

(6)貨物フェリーの許可の調整措置の廃止

 ○貨物フェリーの許可の調整措置について、内航RORO船を船腹調整事業の対象外とする時期(平成10年度末までに措置)に併せて廃止し、貨物フェリー事業と内航RORO船事業との競争条件を整備する。

(7)旅行業の登録の有効期間の延長

 ○旅行業の登録に係る有効期間について、所要の消費者保護措置を検討の上、3年から5年に延長する。

(8)EDIによる港湾物流情報システムの構築

 ○入出港に係る手続きで電子情報処理化になじむものについて、平成11年に更改予定の海上貨物通関情報処理システムとの連携を考慮して、より総合的な電子情報処理化を推進する。

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