公務員制度改革の「大枠」公表にあたって(談話)
―「民主、公正、効率」の公務運営をそこなう
公務員制度改革には断固反対する―
 本日、政府の行政改革本部は、昨年12月に決定した「行革大綱」にもとづく公務員制度改革の「大枠」を決定し、公表した。
 1府12省庁再編や独立行政法人化でも明らかなように、国際的な経済競争での一部大企業の「生き残り」を政府をあげて支援する一方で、国民に対する行政サービスは徹底して「減量化」する行政体制が、「この国のかたち改革」の名でめざされている。「大枠」は、そのような「改革」の「中核」に公務員制度を位置づけている。
 教育や医療、労働者保護、環境、安全など国民生活の基盤を支える分野での行政サービスの充実こそ、今、多くの国民が求めている。しかし、政府がめざす公務員制度改革は、そのような国民要求に背を向け、「公共事業50兆円、社会保障20兆円」というゆがんだ財政運営や、労働者の首切り「リストラ」を景気対策とすり替え、消費税増税などの国民負担を強制する行政を無批判に執行する「もの言わぬ公務員づくり」を意図したものである。国公労連は、そのような公務員制度改革を認めることはできない。

 「大枠」は、その内容等でも、次のような重大な問題がある。
 一つは、公務員制度改革の「最大の問題」が、「公務員自身の意識・行動様式」を変えることにあるとしている点である。公務員制度の問題点が、身分差別ともいえるT種採用者の特権的人事が温存されていること、公務員労働者の労働基本権や政治的自由が制約され公務部内からのチェック機能を弱めていること、政治の行政への過剰な介入や「政官財」癒着の構造が温存されていることなどであることは、明らかであり、公務員に対する国民の批判の多くは、そのような点をもとにしている。にもかかわらず、「互いに能力」を競い合う上昇志向の公務員、公正な行政サービス提供よりも効率化のみを優先する公務員への「意識改革」を強調することは、問題のすり替え、責任の転嫁にほかならない。

 二つには、各省大臣を「人事管理権者」として位置づけ、そのもとで、給与制度を「改革」して、国際競争力強化のための政策立案と行政実施をになう「国家戦略スタッフ群」や大臣スタッフを高く処遇すること、「官職に必要な適格性」を欠く公務員等を免職、降任することなどの「信賞必罰の人事管理制度の確立」が強調され、給与制度や任用などにかかわる「人事院の役割見直し」を強く打ちだしている点である。
 国際競争力強化を最優先の行政施策とするべきとの主張は、多様な国民意見の一つでしかない。現実に施行されている法律では、多様な価値観・ニーズを反映しており、例えば社会保障制度などのように、社会的公正さの実現を第一に、国民生活の基盤を支える行政サービスの提供を規定しているものが多い。行政第一線の公務員は、それらの法のもとでの最大限の行政サービスの提供をめざして日夜奮闘している。「信賞必罰の人事管理」をテコに、「国際競争力強化」という一つの価値観だけの政策立案や、経済的コスト優先の行政執行を公務員に迫ることは、「全体の奉仕者」としての公務員であることを否定し、行政サービスの後退を当然視することにほかならない。

 政治家である大臣が、「人事管理」を隠れ蓑に、一つの価値観への従属を公務員に迫り、同一の価値観を共有する人材のみを官民から登用することでは、行政の政治的中立性は維持できない。特に、公務員への採用や管理職任用における公正さ、民間企業との人事交流、公務員の営利企業への再就職などは、公務員の「政治的中立性」を確保するために、各省から独立した第三者機関関与の強化が求められており、「多様な人材確保」などの口実で、事後規制などの規制緩和をおこなうべきではない。それは、最近のKSD事件にもみられる「政官財癒着」の実態に目を向ければ明らかである。
    
 給与など労働条件の基本部分について、各省大臣が「機動的・弾力的」に決定できる仕組みへの改革にも触れている。それは、政府自らが労働基本権の代償措置と強弁してきた人事院勧告制度の否定である。公務員も労働者であり、憲法上、労働基本権が保障されているにもかかわらず、代償措置等の存在をもって、この間政府は、それを不当に制限してきた。今回、その政府自らが、代償措置さえ否定する改革方向をしめした以上、すべての公務員労働者に労働基本権を回復することは当然のことである。しかし、「大枠」では、その点での問題意識は表明しつつ、「十分検討」とするにとどまっている。前述した、公務員の「政治的中立性」を確保するための第三者機関の関与とは切り離し、人事院勧告制度を廃止して、公務員労働者の労働基本権を回復し、新たな労働条件決定の仕組みを検討すべきである。

 三つには、「大枠」が内閣府の「政策調整システム」に基づき、関係労働組合や制度を所管する中央人事行政機関、さらには人事運用に責任を持つ各省などの意見、広範な国民の意見を聴くこともなく「決定」された点である。国公労連は、中央省庁等再編論議に際し、内閣府に行政権限が集中することの危険性を繰り返し指摘してきたが、公務員労働者の働くルールの基本を定めると同時に、国民に対する行政サービスの提供を民主的、能率的におこなうための基盤でもある制度(法)の改革が、一部の官僚や政治家によって、非民主的、恣意的にすすめられることを認めることはできない。

 国公労連は、公務員制度改革の位置づけ、前提となる問題意識、「大枠」の内容、さらには「大枠」決定にいたる手続き面での非民主性、いずれについても認めることができない。政府は、「大枠」の決定を撤回し、(公務員の福利及び利益を保護する措置を含む勤務条件を確立することが、公務の民主的、能率的な運営を保障するとの)国家公務員法の目的を確認した上で、公務員制度の民主的改革の論議を、広範な国民の意見も聞きながら進めていくことを強く求める。
 国公労連は、そのような立場に立ち、行革推進事務局が6月にむけてすすめるとしている「大枠」にもとづく公務員制度の「基本設計」を許さないため、国民世論への訴えを強め、全力で取り組む決意である。
2001年3月27日

日本国家公務員労働組合連合会
書記長  小 田 川 義 和


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