厚生年金・共済年金の一元化に対する見解
2006年1月 日本国家公務員労働組合連合会

(1) 2004年の「年金改革の残された課題」と言われる公的年金制度の一元化に関わって、被用者年金(厚生年金・共済年金)の一元化について、自民・公明両党の「与党年金制度改革協議会」での論議が進められている。
 2005年12月14日には、同協議会において、厚生年金と共済年金の一元化に関する「考え方と方向性」が合意され、2006年3月までに一元化の基本方針が取りまとめられようとしている。
 「考え方と方向性」の具体的内容は、(1)共済年金独自の上乗せ給付である「職域加算」の原則廃止、(2)共済年金に「追加費用」の名目で行っている過去の恩給分への税金投入の早期廃止、(3)共済年金の保険料を厚生年金の水準に統一、(4)厚生、共済両年金の積立金の1、2階部分の給付に充てる分を共通の財源として同じルールの下で管理、(5)遺族年金の転給など両制度の違いは厚生年金のルールのそろえて解消、などとなっている。
(2) 公的年金制度については、制度の歴史的経過もあって、国民年金、厚生年金、共済年金制度に分立しているが、1985年の制度改変で、国民年金を共通基盤とする「基礎年金制度」に全国民が加入する仕組みとなった。民間企業の従業員や公務員については、賃金に連動した「報酬比例年金(2階部分)」が上乗せされ、民間企業の従業員については企業ごとの「企業年金(3階部分)」を上乗せしているところもある。
 公務員については、国家公務員法第107条などに根拠をおく「職域年金」が3階部分として存在している。
 先の協議会では、2階部分である「報酬比例年金」部分を統合して、労働者全てに適用される「被用者年金」として再編するための論議が進められている。折から強まっている公務員攻撃も背景に、また「恩給的な仕組み」となっている国会議員の「議員年金」廃止論議にも関連して、公務員の「職域年金」等が特権的とする決めつけのもとに、前記の「考え方と方向性」が論議されている。
(3) 国公労連は、公的年金制度について、全国民を対象に、60歳台以降の生活を保障するにたり得る「最低保障年金制度」を国の責任で確立すること、それを前提に、制度の歴史的経緯を踏まえた被用者年金制度の整備が必要だと考えている。同時に、厳格な服務規律が求められる公務労働者には、それに相応しい生活保障のための制度的措置が必要であり、国家公務員法第107条等の規定は存置されるべきだと考えている。その点は、公務員制度上の重要問題の一つである「天下り」規制強化ともかかわっても、重要なポイントだと考える。
 協議会における論議は、政府が進める「総人件費削減」とも関わっているが、財政状況や歳出削減のみを目的に、公務労働者の公正・中立性ともかかわる制度の趣旨を変質させることがあってはならないとも考える。
 以上の立場から、厚生年金と共済年金の一元化にかかわって「与党年金制度改革協議会」で方向性が示されている主な論点に対して見解を下記のとおり表明する。
 


1 被用者年金の統合・一元化については、公的年金制度の経緯や歴史的変遷、現状も踏まえた検討を行う必要がある。
 年金制度への加入期間は、極めて長期であるだけに、制度的安定は重要な課題である。制度的な安定性の揺らぎは、公的年金制度への信頼を損なうことになりかねない。
 これまでも、1997年には国家公務員等共済の内、旧公共企業体関係(日本鉄道共済組合、日本たばこ産業共済組合、日本電信電話共済組合)が厚生年金に統合され、2002年には農林漁業職員共済組合が厚生年金に統合されるなど、公的年金の統合が行われている。2004年には、国家公務員共済と地方公務員共済の財政調整による「一元化」が開始され、現在はその調整段階にある。
 公務員共済年金と厚生年金はその歴史的経過も異なり、財政計算もそれぞれ独立して行われており、それが保険料にも反映している。
 先にも触れているように、公的年金制度への信頼感は、安定的、継続的な制度運営によって確保されていることも踏まえれば、性急な一元化論議は避け、関係者の理解を得て進める必要があると考える。

2 公務員制度の一環として位置付けられる共済年金の職域加算部分については、公的年金制度のあり方からだけの検討ではなく、総合的な論議を行う必要がある。公務員退職年金としての職域年金は、その必要性、根拠等に変化はなく、したがって存続を前提に検討すべきである。
 公務員の退職年金は、国家公務員法第107条に規定されている。職域加算部分が設けられたのは、(1)公務員は、公共の利益のために行政を公正かつ能率的に遂行する責務を有しており、民間の労働者に比べて広範囲で厳しい服務上の制約(政治的行為の制限、守秘義務の負荷、私企業からの隔離等)が課せられていること、(2)従来から公務員の退職年金制度は、相当年限忠実に勤務した職員等について、退職後の適当な生活の維持を図ることにより、職員の将来に対する不安を緩和し、在職中厳正な規律の下で専心職務に精励できるようにするためのものであり、ひいては、優秀な人材の確保、高い士気の維持、公務員の中立性維持などに資することを目的としている。職域年金は社会保障制度としてのみならず、公務員制度の一環としてきわめて重要な役割を果たしていると考えるべきである。
 また、民間企業においては、近時厚生年金制度を補完するものとして、企業独自の設計に基づくいわゆる企業年金制度の普及発達が著しいことや、先進諸外国の公務員年金制度についてみると、公務の特殊性を考慮して、一般国民に対する年金とは別建ての有利な制度となっていること、などの事情を総合的に考慮勘案した検討が必要である。

3 共済年金以前の恩給分を国庫負担している「追加費用」が問題視されているが、財産権にかかわる憲法上の問題も含めた慎重な検討が必要である。
 恩給制度における「年金」支給財源は全額国庫負担であり、官吏本人は、現行制度でいう保険料(掛金)に相当する金額は負担していない。ただし、俸給の2%の国庫納金を納めていたが、これは毎年度の歳入に計上され、一般財源として扱われており、恩給制度とは係りはない扱いとされていた。
 恩給と年金は制度面では区分されるものではあるが、退職後の生活を維持しているという点での異なりはない。恩給受給者の権利性に問題がないとは言えないが、給付の減額などの不利益変更は財産権侵害となる可能性があり、慎重な検討が必要である。
 また、国が支払いを約束したものを、現在共済制度に加入している組合員の保険料で賄うということには大きな矛盾がある。あくまで、「追加費用」は恩給制度を引き継ぐもので、国の債務として位置付けた検討を行うべきである。

4 厚生年金と共済年金の給付の制度差については、個人を単位とする公的年金制度の整備が進められていることも踏まえ、是正を検討することは必要である。厚生年金と共済年金には、遺族共済年金の転給規定等細部において相違がある。
 この相違から生じる「格差」については、受給者の権利性に配慮しつつ、是正のための検討をすすめる必要がある。


以上

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