2005年11月10日
経済財政諮問会議
議長 小泉純一郎 殿
日本国家公務員労働組合連合会
中央執行委員長 堀口士郎

「総人件費改革の『基本指針』」策定にかかわって


 貴会議において、標記「基本指針」の策定が検討されていると承知します。
 10月21日には、「基本指針のたたき台」ともいわれる民間議員提出の「総人件費改革について」とする文書が提出され、それをもとに11月9日には「総人件費改革基本指針(案)」論議されています。
 国公労連は、国の行政機関や独立行政法人などで働く労働者で組織する労働組合ですが、その立場から、検討されている「基本指針」には、多くの意見を持っています。
 とりわけ、国、地方ともの財政悪化の原因検証もおこなわず、行政ニーズへの対応やナショナル・ミニマムの維持、充実という国の行政責任は何ら斟酌せずに、財政の収支バランスの改善のみを重視した「基本指針」の論議は、国民生活や行政体制に大きな打撃を与えるものと考えます。前述の文書は、数字目標ありき、「数あわせ」の内容であり、そのような懸念をより確信させる内容となっています。
 そのことから、国公労連として、下記意見を提出しますので、誠意ある対応をとられるよう求めます。

1   「国家公務員の総人件費の対GNP比を10年間で概ね半減」の「長期的な目安」は、現実をふまえない机上の論議です。行政第一線の実際を顧みない「長期的な目安」をもとにした「基本指針」の決定は行わないでください。
 日本の公務の担い手の現状は、先進国中最低の水準です(例えば、「一般政府の人件費の国際比較(対GDP比6.8%)」や「公的分野における職員数の国際比較(人口1000人当たり35.1人)」が先進国中最低、などの点は政府資料でも明らかです)。
 そのことは、経済規模に見合った公共サービスが国民に還元されておらず、先進国における一般的な公共サービスの水準にも達していないことをしめすものです。
 行政サービスの質と量が、その国で生み出される「富の水準」に見合う必要性があることは、格差拡大への不安が広がっている今日こそ確認される必要があります。そのことを実証する一つの指標が「国家公務員の総人件費の対GDP比」であると考えられます。
 2005年度の総人件費が「GDP比1.7%」にしかすぎないことは、貴会議に提出されている資料からも明らかであり、これ以上の低下は、公共サービス提供に関わる国の行政実施責任を否定するに等しいと言わざるを得ません。
 政府の予算書をみても、防衛庁を除く国の行政機関の総人件費は、2005年度で、1998年度の約30%にまで減少しています。また、税金を1円も人件費に回していない郵政公社を除く総人件費は約6.2兆であること、しかもその約30%にあたる1.8兆円は防衛庁予算であり、国の行政機関等の総人件費は2005年度ベースで約4兆円(GDP比で1%未満)にしかすぎません。一般的な企業の人件費比率と比較しても、国人件費比率は決して高くなく、公務員の生産性の高さは明らかです。
 2005年度の国債費は22.4兆円ですが、仮に、国の行政機関に働く国家公務員をゼロにしても、国債費と見合う金額ではありません。国家公務員の総人件費削減が、歳出改革の「切り札」であるかの論議もありますが、それが全くの誤解であることは、その一事からもはっきりしています。
 以上のような点からして、国の行政の解体に等しい「総人件費半減」の「長期的な目安」を念頭に置いた「基本指針」の非合理性は明白です。

郵政を除く国家公務員(68.7万人)を5%以上純減させるという「純減目標」の設定は、断じて行わないでください。
 日本は法治国家であり、行政実施の根拠は、全て法令にあります。現在、1822本の法律があるとされていますが、それらはいずれも、複雑・高度化する日本社会の現状を反映したものであり、国民が安全で安心な暮らしを営む上で必要なものとして法制化されたものです。
 国家公務員の定員を検討する場合、この点の確認が必要です。定員の純減は、行政サービスの切り捨て、切り下げであることを国民に明らかにした議論が行われる必要があります。
 国家公務員の定員は、その総枠を法律で定めて、行政の膨張を規制し、そのもとで時々の重点分野に定員を再配置する定員管理の方式がとられてきました。新規の法律によって新たな対応が迫られた場合も、既に実施している行政サービスを縮小させることと引き替えに、あらたな定員配置が認められるという状況を繰り返しています。
 そのため、多くの行政実施部門は、慢性的、構造的な人手不足の状況におかれ続けています。このような、実態にも目を向ける必要があります。
 1980年代前半から、行政改革=公務員削減とする行政改革が実施されてきました。行政ニーズを顧みない行政改革のもとで行政代行法人を設けざるを得なくなり、「天下り」問題は従来以上に深刻化してきました。
 行政ニーズを検討することなく、数あわせの定員削減をおこなったことの矛盾の一つとして、検証すべき点です。
 「メリハリをつけた純減」を行うとし、「地方支分部局の抜本的な見直し」、「包括的・抜本的な民間委託」などに言及しています。
 それらはいずれも、個別の業務ごとに、国民生活との関係で、その必要性などの論議を尽くした上で、行われるべきものです。「純減目標」達成のために、国民生活に必要な行政事務をスリム化、廃止するような逆立ちは行うべきではありません。
 なお、市場化テストの活用等にも言及していますが、民間開放を前提にした「官民競争入札」制度が、我が国の行政管理上適当かどうかさえ論議されていないのが現状です。したがって、市場化テスト前提での純減論議は行うべきでないと考えます。
 純減目標実現のための「退職不補充」にも言及しています。各行政分野の年齢構成は一律ではありません。退職者数にも偏りがあり、一律の不補充となれば、一部の事務・事業で、飛び抜けた純減が行われるという矛盾にも突き当たりかねません。
 民間企業では、06年4月から実施が決定されている「高齢者継続雇用(年金支給と雇用の連携)」と均衡した公務の再任用制度は、定員の枠内で実施されています。純減となれば、再任用制度の運用を困難にすることは自明のことです。公務員労働者の使用者としての政府が職員処遇で果たすべき責任の明確化も、定員純減問題では議論されるべきです。

 国家公務員の給与の抑制のために、給与決定の仕組み等を見直すことは、現行制度下では労働基本権を侵害するものであることは明らかです。
 ILOからの繰り返しの指摘を受けている政府として、公務員労働者の労働基本権回復を早期に決断し、その制度整備の上に、給与決定のルール化を労使の関係で協議するよう求めます。
 一方で民間準拠の徹底を強調しつつ、一方で国の財政事情の考慮を求めることは、論理矛盾です。総人件費抑制のためなら、どのようなご都合主義も許されるのでは、政府への信頼感さえ喪失させるものです。
 公務員賃金引き下げのための官民賃金比較方法の見直しを求めること自体が、公務員労働者の労働基本権を侵害する行為に他なりません。
 また、職階差の大幅な拡大などの給与配分に政府たる政府が直接介入することも権利侵害に他なりません。一定の政策意図をもって公務員賃金の決定を行うことができる仕組みを求めるのであれば、最優先で検討すべきは公務員労働者の労働基本権の回復です。

地方公務員の総人件費削減について、国が地方自治体への介入を強めるような検討はやめるべきです。地方自治の尊重こそ、地方分権をすすめる国の姿勢だと考えます。
 ナショナル・ミニマムを維持することを目的に、国が配置基準等を決めている職員数等は、現状を切り下げるべきではありません。
 特に、教員定数については、「30人学級」等の実現を求める国民の声があることから、基準の改善こそ国に求められている責務だと考えます。


以上

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