2005年5月20日
社団法人・日本経済団体連合会
会長 奥田 碩 殿
日本国家公務員労働組合連合会(略称:国公労連)
                       中央執行委員長 堀口士郎

国家公務員制度改革にかかわる要請

(1)国公労連は、国の機関や独立行政法人などに働く労働者で組織する労働組合の連合体です。国家公務員制度改革によって、労働条件に直接的な影響を受け、また、行政組織や制度などの改革(行政改革)によって、使命感も含めて働き方に影響を受ける立場にあります。そのことから、行政改革や公務員制度課題について、これまでも積極的な発言をおこなってきました。
 2001年1月の中央省庁再編も契機に、内閣官房で検討がおこなわれてきた「公務員制度改革」にかかわっても、直接の当事者組合として、要求、意見を述べてきました。
(2)先月19日、貴団体からは、近年の公務員制度改革論議もふまえた「さらなる行政改革の推進に向けて−−国家公務員制度改革を中心に−−」とする文書が公表されていますが、その文書にかかわって、貴団体のご見解とは異にする点が少なくありません。
 公務員制度の論議は、直接の当事者も含めて幅広くおこなわれることが必要だと考え、国公労連として下記の点で意見を有していることをお伝えしたいと存じます。
 公務員制度改革にかかわって、国公労連との意見交換など「論議を深める場」の設置をご検討をいただきますよう要請します。

                  

1 公務員の役割等にかかわって
(1)公表された文書では、その冒頭で触れられている「行政改革の必要性」が、公務員制度改革の目的を示しているように思います。
 そこでは、行政関与の縮減が求められているとの主張がおこなわれていますが、その具体的な内容は必ずしも明確ではないように思います。例えば、バブル経済の崩壊後の金融危機に際して取られた「銀行国有化」などの措置を問題にされているのか、それとも教育や医療、福祉、雇用対策など、憲法第25条などもふまえた国民生活の維持向上とかかわる行政事務が課題だとされているのか、国公労連としては理解しがたいところです。
(2)国家公務員制度の検討にあたっては、その前提として、行政の役割や存在目的についての認識一致が必要だと考えます。
 「キャリアによるキャリアのための改革」として2001年12月に政府が決定した「公務員制度改革大綱」にもとづく改革論議が進まず、「関係者の合意が得られない」状況が続いていることの理由の一つは、その点での認識が十分に一致しないことにあったと考えます。
(3)国公労連は、国の基本法である憲法とその理念に照らし、行政の役割についての認識一致をはかるべきだと考えます。
 そのことを前提に、職業公務員の役割は、憲法の枠内で政治的に決定された法に基づく行政の執行が基本の役割だと考えます。
 国公労連は、行政の中立・公正性を担保し、継続性・安定性を確保するために、専門家としての職業公務員の採用・育成を基本の目的に、公務員制度を整備する必要があると考えています。それは、前記のような行政の役割認識を有しているからです。
(4)貴団体の文書では、内閣(とりわけ首相)の機能と権限を強化し、戦略的な政策の機動的な実施が強調されています。そのことともかかわって、「縦割り行政」を批判し、行政の各府省での分担管理という憲法原則の見直しを前提とする公務員制度改革が提言されています。また、公務員の役割として「政策立案の補佐」の側面が強調されています。
 前述したような国公労連の立場からして、貴団体の文書には、それらの点で違和感を持っています。

2 貴団体の国家公務員制度改革に関する考え方にかかわって
(1)「総合的な人事評価制度の確立」にかかわって
 1)文書では、「抜本的な公務員制度の改革を行うためには、・・・現行の人事制度やその運用を変えていくことが前提条件」とし、評価制度の導入が第一にあげられています。
 現行の公務員制度が「成績主義(メリットシステム)」を基本の原理に組み立てられていることはご承知のとおりであり、民主的・効率的な公務員制度確立の課題の一つが、評価制度の整備にあることには、国公労連としても異論はありません。
 2)検討が必要なことは、第一に、制度的には確認されている勤務評定制度が、今日に至るもなぜ機能しなかったかということです。
 その点について国公労連は、運用の現状や評価制度に係わる諸々の議論の経過から、契約関係の成立が認められない「任用」という特異な公務の雇用関係、そのことともかかわる労働基本権制約と職場段階での「労使自治」の不成立に最大の問題があると考えます。
 3)例えば、勤務評定制度では、評価結果の不開示が定められていますが、これなどは個別の労使関係を頭から否定している表れだと考えています。
 評価を通じて労働者の労働条件決定に参画する「管理者」が、労働者と対峙して、その責任を自覚する仕組みを作ることができないという、労働基本権制約の現状などが、その原因になっているのです。
 貴団体の文書では、残念ながらこの点への言及がないように思います。
 4)第二に、貴団体が昨年12月14日に公表された「経営労働政策委員会報告」では、「能力・成果・貢献度に応じた処遇制度を適切に運用するための留意点」に言及しています(同報告P43、44)。国家公務員の評価制度検討にあたっても妥当する一般的な記述だと思います。
 文書が、「事務・事業の見直しや廃止などにつながる政策目標を立てた上で、成果について適性に評価」し、「抜擢、降格、配置転換等が柔軟に行える」ことを求めていることと、先の報告書の記述が整合しているのか、という疑問は拭えません。民間企業における「失敗」を繰り返さない、という論議も必要だと考えます。

(2)「身分保障の在り方の見直し」にかかわって
 1)国家公務員法第78条は、本人の意に反する降任、免職の基準を定めたものであり、身分保障を規定する第75条を受けた規定です。文書が問題としている第78条4号は、民間労使関係における「整理解雇四要件と同一の理念を明文化したもの」とする指摘もあります。その点では、身分保障=雇用保障とするかのような主張には、国公労連としては違和感があります。
 2)文書では、「身分保障の適用対象を見直し、実質的に雇用を保障している現行の運用を見直す」としています。その意味するところは明確ではありませんが、仮に、実施部門等の行政第一線で働く労働者の「合理化」を念頭に置いたものであるとすれば、論議を尽くす必要があります。
 労働条件決定にかかる労働者の関与や労働基本権回復の問題、予算・定員管理の在り方もふくめた交渉範囲の問題などは、さしあたって整理が必要な課題です。
 3)最近、総務省の人事にかかわって、内閣総理大臣の意向が強く反映したことがマスコミ報道されました。任命権者をこえて内閣総理大臣が人事に介入すること、国家公務員法第75条に反する降任等は、政治的中立を確保する観点から否定されています。
 ことの詳細までは承知しませんが、行政機関の最高責任者が、現にある国家公務員法を無視すし、自らのリーダーシップを示すために職業公務員の人事に介入したとすれば、「ルール無視」の状況を自らつくり出したことになります。厳格な服務も、公務員としてのモラルも、政治サイドがルールを守ることによって成立する、と国公労連は考えます。

(3)「処遇面における官民のイコールフッティングの確保」にかかわって
 1)文書では、退職手当、年金、給与、雇用保険の適用などにかかわって、イコールフッティングが主張されています。
 国公労連としても、公務員処遇について、官民均衡の視点が必要なことに異論はありません。
 2)しかし同時に、労働基本権が制約され、厳しい服務紀律が求められ、公共サービスの提供に専念するという職務の特殊性もふまえ、それぞれの制度において歴史的に形成された官民均衡の「ルール」があります。人事院勧告制度はその典型です。
 その点の確認が必要であり、仮に官民均衡を具体化する方法を変更するのであれば、直接の当事者である国家公務員労働者と労働組合の意見も反映させる仕組みづくりを個別に検討することが必要だと考えます。
 そのような煩雑な手続を取ることへの問題意識があるのであれば、公務員労働者の労働基本権の在り方を見直す必要があるのではないかと考えます。

(4)「人事マネジメントの在り方の見直し」にかかわって
 1)文書の指摘は、採用から退職後の再就職管理に至るキャリアの人事管理を内閣において一元化することにあるように思います。
 国公労連は、キャリアの特権的人事の現状や、いわゆる「天下り」には反対です。しかし、そのことを前提としても、政治的任用の公務員と職業公務員の「区分」を曖昧にしかねない「内閣による人事の一元管理の導入」は、「政と官の在り方」の問題として慎重に検討すべきだと思います。
 2)「政と官」の現状は、政権党である与党と職業公務員との「直接接触」が日常的に行われているように思います(例えば、政府が進めている公務員制度改革に、一部の与党政治家と一部の官僚の「密室論議」で進められたとする批判があるような)。不夜城と言われる霞ヶ関の異常な働き方にも目を向ければ、この現状の是正は、喫緊の課題だと考えています。

(5)「さらなる官民の交流促進」にかかわって
 官民交流や中途採用の拡大については、国公労連としても反対ではありません。
 文書では、「開放型の人事制度」が提言されていますが、安定的・継続的な行政を専門的におこなう人材育成のあり方、官と民との癒着規制の強化といった中立・公正な行政運営のための制度整備なども同時に検討されるべきだと思います。

(6)「新たな人事行政担当部局の体制整備」にかかわって
 1)文書の提言内容は、キャリア(1種試験合格・採用者)を対象とする「人事行政担当部局」の設置だと考えます。
 言うまでもありませんが、戦後の国家公務員制度は、天皇からの距離で身分が決定されていた「官吏制度」の悪弊を乗りこえ、国民全体の奉仕者としての公務員への転換をめざしたところに、大きな意義があります。
 2)採用試験は、採用段階につく職務の違いを規定するものであり、「将来が約束された特権を享受」するためにT種試験が行われている訳ではありません。
 そのような「理念」は、現実には実現していませんが、それは、「天皇の官吏の残滓」が払拭されないまま今日に至ったという「運用」の結果です。そのように考えれば、公務員制度の「理念」を具体化する運用の見直しこそ必要だと思いますが、新たな人事行政担当部局の考え方は、そのことと整合し得ないと考えます。
 3)新たな人事行政機関の検討をおこなうのであれば、公務員労働者の労働基本権回復を前提に、労使紛争の仲裁・調停機関などの検討をおこなうべきと考ます。
 2002年11月、2003年6月の二度にわたるILO結社の自由委員会からの『勧告』にもあるように、公務員労働者の権利についても国際労働基準への適合を図ることを目的に人事行政機関のあり方を検討することが今日的な課題だと考えます。

(7)「非公務員化の推進と公務員の雇用・労働条件の在り方の検討」にかかわって
 1)政府が、「民間でできるものは民間に委ねる」という方針をとっていることは承知しています。しかし、1980年代から続く民間化方針の具体化が生み出してきた様々な社会的な歪みが、深刻な問題になっていると国公労連は考えています。ですから、公務の民間開放を前提とした非公務員化の主張には到底賛成できません。
 2)また、公務員への労働関連法規の適用や労働基本権見直しを課題として、公務員制度の抜本的かつ早急な検討の必要性に言及されています。そして、そのための「検討の場」と「オープンな議論」が呼びかけられています。
 国公労連は、それらの呼びかけに積極的に対応する考えであることを表明します。
以上