2004年5月21日《No.166》

国公権利裁判第9回口頭弁論(5/20)
原告側が「不利益遡及」の不当性を証言

 「不利益遡及は許さない!国公権利裁判」の第9回口頭弁論が、5月20日(木)13時30分から、東京地裁103号大法廷で開かれました。台風2号接近の影響で雨が降る中、これに負けじとの熱気で12時から裁判所周辺での昼休み宣伝行動が取り組まれ、原告団44名と各単組・ブロック国公代表など全体で約150名の参加者が、この日行われる原告側3人の証人尋問の重要性などを訴えるビラを通行人に配布し、裁判への支援・支持を呼びかけました。

 ▼宣伝行動/全労連、公務労組、各単産からも激励・連帯

 国公権利裁判が証人尋問のヤマ場を迎える中、全労連から寺間総合労働局長、井筒政策局長、公務労組連絡会から石元議長(全教委員長)、黒田事務局次長、郵産労・田中委員長、全教・新堰副委員長、自治労連・柴田中執、特殊法人労連・篠原事務局次長、岡村学資労書記次長などが激励に駆けつけてくれました。
 冒頭の山瀬副委員長の主催者挨拶に続いて、激励挨拶に立った石元議長は、「この裁判の出発点には、賃下げに対する労働者としての怒りと、違法な減額遡及に対する公務労働者としての怒りがある。被告・国側の主張が通れば、公務員賃金は法律が確定するまで『仮払い』となり、政府・人事院や国会は後付けで何でも出来ることになってしまう。民間への悪循環は必至で、何としても勝利しなければならない。公務労組連絡会も全力で応援する」と述べました。
 続く決意表明では、原告の山下さん(全港建)、冨安さん(全気象)、池田さん(全労働)、三浦さん(全建労)、宮田さん(全厚生)、島田さん(全経済)、単組代表の小池さん(全運輸)の計7名から、力強い発言が相次ぎました。全労働の池田さんは、「コーヒー一杯(300円)カンパ」に怒りを託した職場の青年のエピソードを紹介しつつ、「歴史的なたたかいへの参加を誇りに思うとともに、改めて勝利にむけて全力で頑張りたい」との決意を語りました。

 ▼口頭弁論/原告側3人の証言が満席の大法廷を圧倒

 東京地裁103号大法廷は、当事者や関係者が多く、社会的耳目が集まる裁判に限って使用される大法廷ですが、ここでの第9回口頭弁論には原告44名、弁護団5名、傍聴70名(全労連、公務労組連絡会、国公労連、各単組・ブロック国公代表)の全体116名が出席し、被告・国の指定代理人と傍聴人2名を併せて、今回も満席となりました。

【証言1】小田川証人「まともな交渉・協議なしの不利益変更は不当!」

 まず、小田川書記長は、史上初の本俸マイナス勧告が予想されるもとで、労働基本権(とりわけ団体交渉権)を不当に制約している現行国公法の制度不備にかこつけ、政府・人事院が極めて不十分な対応に終始した事実や、2年連続の本俸マイナスと12月期末手当での「減額調整=不利益遡及」がいかに多くの労働者悪影響を与えたか、などについて証言しました。
 そして、尋問の最後に「国公労連として裁判所に訴えたいことがありますか」との佐久間弁護士の質問に対し、小田川書記長は「第1に、原告139名は13万人の組合員を代表しており、決して一部の国家公務員が怒りにまかせて裁判を起こした訳ではありません。第2に、本件裁判は訴訟上は損害賠償請求事件ですが、原告139名をはじめとする組合員の怒りは、とりわけ4月遡及という理不尽な行為が、労働者・労働組合との交渉もないまま一方的に実施されたという、労働基本権侵害の点に集中しています。第3に、最も善良な使用者であるべき国が、法のすき間をぬって労働者の賃下げや労働条件の不利益変更を一方的に行うようでは、この国で今広がっている労働者いじめの『リストラ』はもっとひどくなる、そんな思いが底流にあります。少なくとも法のルールは、労働者の利益擁護の方向にあるべきとの思いが、調整措置を不利益遡及だと告発していることの根底にあります」と確信を込めて語り、約1時間の尋問を通じて、現行公務員制度の不条理と国公労働者の怒りを裁判長に訴えかけました。
 これに対し、反対尋問に立った被告・国側の指定代理人は「平成14年の総務省との会見は、前年と比べて局長と参事官でそれぞれ2回増えていなかったか」「平成14年の給与法案の国会審議で、国会議員から不利益遡及ではないかとの指摘があったとき、内閣法制局から適法だとの説明があったのではないか」との2つの質問しかすることができず、国公労働者の労働基本権が不当に制約されている実態を告発する小田川書記長の証言に対して、まともな反論が全くできないことを証明しました。

【証言2】滝口原告「国自身がルールを破って民間を指導できるのか!」

 続いて、原告代表のトップバッターとして、国公近畿ブロック議長・滝口さん(全運輸)が証言しました。滝口さんは、妻と子供3人の家族を持つ国公労働者の代表として、5年連続の年収マイナス、2年連続の本俸マイナスで、食費や交際費を節約したり、同居予定の実家のバリアフリー化を断念せざるを得なくなるなど、切実な生活実態を裁判長に訴えました。
 また、国公近畿ブロック議長として多くの仲間に接してきた経験から、不利益遡及による期末手当削減でローンの支払いに苦しんでいる人が多くいること、職場での積み立て旅行や懇親会がどんどんなくなり、職場にゆとりがなくなっていること、などを明らかにしました。そして最後に、国公労働者として「普段は業務を通して民間を指導している立場なのに、国自身がルールを破っていいのかとの大きな怒りを感じている。国民から信頼される公務員をめざすためにも、今回の国のやり方は絶対許せないし、裁判所はぜひ公正な判断をしてほしい」と国公近畿ブロック議長としての思いも込めて発言し、証言を締めくくりました。被告・国からは、前回の弁論で20分必要だと主張していた反対尋問は何一つありませんでした。

【証言3】金田原告「ぜひとも“日本の司法ここにあり”との判決を!」

 最後に、最年少の原告代表として、緊張した面持ちで証言台についた金田さん(全国税)は、国公青年労働者の生活と労働の厳しさを強調しました。「私も将来は人並みに結婚したいと強く思っていますが」との前振りには裁判長含めて法廷内に笑いが溢れましたが、「そのためにはそれなりの貯蓄もしなければならないのに、ここ数年続いている給与減額は、青年にとってベテラン以上に厳しい。将来の展望も持てなくなっており、現状では家庭を持つことも消極的にならざるを得ない」との切実な訴えには、法廷内の誰もが共感を覚えました。
 職場でサービス残業が蔓延し、青年の過労自殺が起きている実態を何とかしたいとの思いから、自ら進んで全国税に加入した経緯などを証言した後、最後に裁判長に対して「日本の司法ここにあり、との判決をぜひお願いします」と発言して証言を締めくくりました。それは、実務8年を経て立派に成長した国公青年労働者の凛とした姿そのものでした。この証言に圧倒されたのか、金田さんに対しても、被告・国からの反対尋問はありませんでした。

 この他、原告弁護団から、2002年、2003年のマイナス勧告・不利益遡及に対する職場の怒りを示す証拠として、各単組の新聞が書証として提出されました。被告・国側からは何の反証もないまま、熱気こもった証言で第9回弁論は終了し、次回の第10回弁論期日で最終弁論・結審を迎えることが確認されました。

 《指定告知された期日》
   (第10回)7月15日 (木) PM13:30〜14:00 最終弁論(結審)


【裁判傍聴記】5/17採用の国公労連オルグ書記=浅尾大輔さん初登場!
  〜国公労連原告の決死の訴えが響きわたって〜


 初仕事に従事した今週、言葉だけが一人歩きしていた感のある「国公権利裁判」。タイミングよく裁判を傍聴することが出来ましたが、勇気ある原告の姿がびしびし伝わるものでした。驚きとともに強く印象に残ったことは、今まで「安定と高待遇が保障された特権者」と思っていた国家公務員が、いかに無権利な状態に置かれていたかということ。小田川書記長は、人事院との交渉について訊かれ、何度も「(遡及調整の)具体的な説明がなかった」ため、「(われわれは)一般論でしか対応できない」「(交渉や勧告には)国公労連の意見が反映されていない」と繰り返しました(悔しそうな口調で)。労働基本権が奪われるという環境のなかで(手も足も出ないようななかで)、国公労連がたたかってきた意味(これからたたかっていく意味)を考えざるを得ませんでした。
 しかし同時に、滝口さんや金田さんの証言から、現場で一生懸命に働き、生きる者の側に道理と正義があることもわかりました。滝口さんは、車の買い替えや一人暮らしの母親が暮らす家のリフォームを断念し、「いまのところ高三の息子の口からは、言葉として『進学』が出てこない」。さらに、「食堂で食べると四、五百円。なんぼかこづかい浮かすために、弁当にしてるから、朝昼同じメニュー」(笑)。一方、若い金田さんは、「五年連続のダウン。僕たちの声が届かない人事院って何だろう? 自分は高卒だから、(いつか育てるであろう)子どもには大学へ行かせたいが、先行き暗い」と訴えました。そして、たたかう組合に入った動機について訊かれて、(自殺者さえ出した)超過勤務の実態を生々しく話し、それを是正するためにたたかっている組合との出会いを告白しました。「組合の意義は、職員の権利を真面目に守ること。不屈の姿勢でたたかっている先輩の姿を見て、僕も頑張ろうと…。黙っていたら僕らの権利は守られない」。正直、胸を衝かれました。
 閉廷前、相手側代理人が、裁判官に「(今日の裁判の)調書、いつごろ出来ますか?」と訊いたとき、裁判官が「うちは、優秀な書記官なので、サービス残業させないように(早く)します」とコメントして、思わぬ爆笑を誘いました。世界の常識という大きな流れにのってたたかう国公労連の決死の訴えが、裁判官の心のどこかに刻まれたと信じたい一幕でした。国公労連ここにあり。(了)

▼意思統一集会・第2回原告団会議/本日弁論の到達点を確認

 弁論終了後は国公労連5F会議室に移動し、16時から意思統一集会(第2回原告団会議)を開催しました。これには傍聴から引き続き、原告、単組・ブロック代表(12単組6ブロック)のほか、全労連や公務各単産代表を含めて75名が参加しました。
 冒頭の堀口委員長に続いて、岡村弁護団長からあいさつがあり、昨年3月の提訴から証人尋問までの裁判経過をふまえ「提訴から1年2か月、今日思いどおりに証人尋問を終えることができた。国を相手の裁判はなかなか勝てないが、道理はこちらにある。判決を書く際に裁判官が政治的に判断するか法律に準じて判断するかにかかっているが、正々堂々と判決するよう求めて、弁護団も最後まで全力でがんばる」と弁護団の決意を語られました。
 激励のあいさつに駆けつけた全労連・熊谷議長は、欧州諸国に比較して日本の労働者の権利保護が遅れていること、国際基準に従って企業の社会的ルールを確立することが重要となってきていることなどに触れつつ、「国公権利裁判は公務員労働者の労働基本権回復だけではなく、民主的な公務員制度確立のためのたたかいであり、裁判勝利はどれだけ多くの人がこのことに理解を深めるかにかかっている。裁判勝利と公務員の労働基本権確立をめざし全労連も全力でたたかう。共にがんばろう」と述べました。
 続いて、この日行われた証人尋問の解説が、佐久間弁護士(小田川証人担当)、野本弁護士(滝口原告担当)、大森弁護士(金田原告担当)からありました。この後、近畿(秋山事務局長)、四国(川村常幹)、北陸(田邊副議長)、中国(中原事務局長)の各ブロック国公から、裁判支持署名のとりくみ報告と、裁判勝利に向けた決意表明がありました。

▼小田川書記長「2つの団体署名のいっそうのとりくみ強化を!」

 続いて小田川書記長から「『日本の司法ここにあり』という判決を勝ち取るためには、もうひと踏ん張り必要だ。裁判支持署名、ILO勧告遵守署名とも組織数は最低限やり遂げなければならない。政府・行革推進事務局で公務員制度改革論議が動き出しているが、一番最悪な状況は、労働基本権も回復せず、代償機関が形骸化されることだ。裁判支持署名、ILO勧告遵守署名を軸とした運動をいっそう強化する必要があり、6月4日の拡大中央委員会で改めて確認したい」との行動提起がありました。最後に堀口委員長の団結ガンバローで参加者全員の意思統一をして、第2回原告団会議を終えました。

以上


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