2003年6月23日《No.151》

「能力等級制」に公平性の担保なし!
 制度設計の欠陥がますます露呈!

  国公労連は、6月19日午前、行政改革推進事務局と交渉を実施し、同推進事務局が6月6日に国公労連に対して明らかにした「『国家公務員制度改革関連法案の主要論点の整理について』への質問書に対する回答」について、再質問を行いました。
 国会会期が40日間延長され、また、石原行革担当大臣と福田康夫官房長官、自民党・公務員制度改革委員長の野中広務元幹事長が、公務員制度改革関連法案を今国会に提出する方針に変更がないことを確認するなどの緊迫した情勢を受け、同法案の閣議決定・国会提出を断固阻止するたたかいの一環として、前回に引き続き、今回の交渉にも各単組代表者の参加を得て、推進事務局を厳しく追及しています。
 交渉には、国公労連から山瀬副委員長、小田川書記長ほか3名、各単組から全法務・実川副委員長、全税関・古木名書記長、全厚生・杉浦書記長、全経済・伊波書記長、全気象・鯉川副委員長、全労働・森崎書記長、全建労・葛西書記長、人職・盛永書記長、全司法・鶴田書記長が参加し、推進事務局側は高原参事官ほかが対応しました。
 やりとりの概要は以下のとおりです。(注:は国公労連、は推進事務局)

 ◆「2次原案」と「主要論点」の矛盾:能力等級法はどうなったのか?

 交渉で小田川書記長は、先ず、「2次原案」と「主要論点の整理」との関係について、前回に引き続き追及しました。評価制度に関わっては、「2次原案」では、能力等級制とこれに基づく新給与制度として業績評価制度が説明されていましたが、「主要論点の整理」には記載されていなかったことから、新給与制度の導入は白紙撤回する趣旨なのか明らかにするよう求めました。これに対し推進事務局が「2次原案でストップしているが、白紙撤回ではなく、引き続き、2次原案をふまえた制度化を検討していく」と回答したことから、要旨以下のとおり、再追及しました。

 2次原案では、大綱で決められていなかった事項、例えば誰が制度の所管なのかなどについて仕切りをしたと言っていたはずだ。その2次原案で、新給与制度は能力等級制とリンクの高いものとしていた。それが主要論点では消えているのだから、白紙撤回されたと理解するのが当然ではないか。元にあったものがまだ生きているのか、それとも白紙になったのか。どこまでを決まったものとするのか、先ずそこを整理すべきで、そこが議論のスタート台だ。前回の交渉でも、きちんと整理した全体像を示すよう求めたはずだ。早急に回答するよう、改めて申し入れておく。

 ◆制度の枠組みだけしか示さずに、あとは白紙委任しろということか?

 今回の「主要論点の整理」の中身を見ると、能力等級制度のワク組みさえ決めてしまえば、任用、能率については政令あるいは各省運用で、給与については要請制度で、それぞれ自由にやってしまえる、という推進事務局の狙いがうかがわれます。そのこと自体が労働組合の労働基本権の侵害であり、小田川書記長は要旨以下のとおり、厳しく追及しました。

 政令で、何をどういう基準で決めるのか、内閣と各省の裁量はどこまであって、どう決めるのか。各省が出来る権限の範囲もよく分からないし、制度設計も見えてこない。こういうワク組みでやります、ということしか示されておらず、あとは白紙委任してくれと言っているに等しい。しかも、能力等級制については管理運営事項であり交渉事項ではないとまで言っている。これでは到底納得できないし、認めることはできない。

 もちろん法律の範囲内でやる。官職に求められる能力を詳しく表したものが標準職務能力表であり、法律でワクを固めて、その中味は下位法令で決めていくことになる。従って、白紙委任ということにはならない。各省に委任することも、制度的には考えていない。

 法律でワクを決めても、その先は結局各省任せになるのではないか。標準職務遂行能力基準や評価はどういうやり方を考えているのか。

 そこは内閣総理大臣により標準的な官職が法定されて、それを基に個々の官職を分類することになる。これがものさしになるので、各省で恣意的な運用になることはない。

(全経済) 恣意的な運用にはならないと言うが、経済産業省では課長補佐について能力評価制度作成の独自作業が進められており、交渉でも「大綱の中に、各省の実情に応じて制度設計ができる、と書いてある」と強弁している。2次原案とは違うものをつくれる、とまで回答している。各省に対し、運用で自由にできると認めたことはあるのか。

 能力等級は内閣総理大臣が決めることとなっており、各省に決める権限はない。標準職務遂行能力の詳細については各省で決めることになるが、そこまでのものだ。

 実際にはいろいろな職務があり、標準官職を基準に本当に分類できるのか極めて疑問だ。核となる官職は決められるだろうが、すくいきれないものが当然出てくる。補完的に職務遂行能力を見る必要も出てくるはずだ。現実に行(一)の3割を占める専門職についてはどう考えているのか。

 ◆各省での運用を誰がチェックするのか?公平・公正性の担保は?

 「主要論点の整理」では、現行の国公法では人事院が定数管理を含めて、各省の横並びを見て人事行政の中立公正性を図っているのに対し、内閣総理大臣が基本的な官職分類を法令で行い、それ以下については各省での運用で行うこととしています。これでは、同じ仕事をしているのに、省庁によって補佐の格付けが異なる危険性が非常に高くなります。こうした運用の公平性や公正性の担保について、追及しました。

 今は人事院が横並びを見てやっているが、運用の基準を決めるのを各省任せにすれば、当然運用のバラつきが生じる恐れがある。その危険性をどう担保しようとしているのか。また、そもそも推進事務局は、中央人事行政機関としての内閣総理大臣と人事院の機能の住み分けを、どのように考えているのか。中立公正性の確保は人事院が主幹であり、内閣総理大臣はあくまでも使用者の性格が強いことは、これまでの経過で明確に整理されている。

 法律で決められた基準及び定数の範囲で各省が行うことになるのだし、人事に関しては中央人事行政機関である内閣総理大臣が責めを負うことになるのだから、公平性で問題が生じるとは考えていないし、各省でバラつきが出ることもない。  では、官職分類で客観的に見て同じ級になるかどうか、基準に合っているかどうかは誰がチェックするのか。官職分類は各省でやるとあるが、その先が明らかになっていない。理念だけで、チェック機能としての具体的仕組みがない。問題が生じることはないというのは推進事務局が勝手に決めつけているだけではないか。

(人職) 現在は、定数管理で各省が切り上げを要求してきた時や官職の新設の時には、人事院が審査をして省庁間の公平性を担保しているが、能力等級制ではそれがない。そこのチェックは誰がやるのか。また、3月に推進事務局が各省に非公式に示した国公法の改正条文案では、15条3項で「人事院は、国家公務員法第3条第2項の任務を達成するため、能力等級制の実施状況について、内閣総理大臣又は任命権者若しくはその委任を受けた者に対し、必要な報告を求めることができる」となっている。それにしても、各省が定めた中身を見ないことには、人事院も意見が言えないではないか。

 大綱でも、人事院が意見を言える仕組みは残すことになっている。公正性の観点を全く抜いてやろうとは考えていない。人事院が意見を言う仕組みについては、まだ検討中だ。

 やり方如何では省庁間でバランスが崩れる恐れが大きい。例えば、出先の係長でも級が2つくらい違ってくる。そこの公平性の担保機能は、今示されている総理大臣の権限にもないし、人事院の意見を求めるというが、それも明らかになっていない。持ってきた定数を中央に厚く配分する省庁も出てくるかもしれない。労働組合が、何故、能力等級に関わって官職分類にこだわるのかといえば、正にそこに問題があるからだ。各省の運用でやるということになれば公正さに欠けることになるのではないかとの不安がある。総理大臣と各省庁、人事院の力のバランスを変えるのであれば、よく考えなければならない。これでは、どんな制度になるのか、イメージが湧かないどころか全く分からないまま同意しろと言われているのと同じだ。

(全経済) 経済産業省で議論されているものを、推進事務局ではどう把握しているのか。経産省当局は、推進事務局には話をしてある、特に止めろとも言われていない、と回答している。現行制度では7級、8級は補佐の級だが、能力等級制では7級ならこう、8級ならこう、そして補佐が課長になるにはこう、という能力発揮度まで示している。そのうえで、平成18年から経産省はこれでいきますとさえ言っている。2次原案とは全く異質の基準案を出しておいて、これは推進事務局に投げてある、平成18年からやらせてもらいます、と言っているではないか。

 制度的には、各省で能力等級制をつくることは予定していないし、法律に反するものは当然、裁量の範囲ではない。

 発想としては、各々の能力に基づいて、例えば4級係長から補佐のポストに就いて能力が発揮できるようにしたいとか、現行では補佐から課長に上がるのは困難だけれどもその壁を突破したいとかを考えているようだが、そういう人事をやりたいのであれば、やはりきちんとした規制が必要だ。総理大臣が決めるといっても、各省が勝手にやり始めることになるだろうし、もっと言えば、果たして総理大臣は間違えないのか、という疑問もある。そこがどう担保されているかだ。事後チェックで法に違反しない限り運用ができると言うが、法律の枠内で出来るのか。そこの疑問に答えていない。その先の疑問もある。標準官職と標準職務遂行能力を決めて、一方でそれを基準に評価していく、評価は各省でできる、となると、標準職務遂行能力とは一体何なのか?給与と人がどうつながるのかが明らかにされていないから、各省の権限も不明なままだ。全然関係ない、ということにはならないはずだ。

 ◆使用者(内閣総理大臣)の一方的な権限強化は許されない!

 今回示された「主要論点の整理」で、能力等級法は誰が所管なのかということが初めて明らかにされました。極めて重要な問題である「労働基本権制約の代償措置」に関して、いわゆる「主語入れ」が明らかとなった段階で「相応の措置」をどうするのか議論することになっていたのですから、推進事務局は正に今から誠実に交渉・協議を行うべきです。さらに、内閣総理大臣と人事院という中央人事行政機関相互の関係について言えば、使用者の立場にある内閣総理大臣が、労働基本権制約の代償措置機関である人事院に人事制度上の要請を行うとする制度設計をするのであれば、当然、労働組合と人事院との間でも同等の権利が保障されるべきです。この点について、小田川書記長は要旨以下のとおり追及しました。

 内閣総理大臣から人事院総裁への要請は、改めて制度化しなくても現行の法の枠内で出来るのではないか。現に、地域給問題で人事院総裁に要請している。もしこれを制度化したいのであるなら、労働組合との関係もはっきりさせるべきだ。これは労働基本権と大きく関わっている問題で、人事院は中立の第三者機関であり、公平さから言えば、政府からも労働組合からも、同等に話を聞く制度でなければならない。

 今回の制度改革によって、中央人事行政機関の機能のうち、採用や任用は内閣総理大臣に、給与や定員は人事院に残すことになる。そこで両者の連携を強めるために、要請制度をつくることとしたのである。それは国公法86条にあるシステムと同じものだ。

 国公法86条の行政措置要求は個別労使関係を前提としている。労働基本権問題は、あくまでも集団的労使関係が前提だ。労働組合から意見を聴く制度も併せて新設するか、内閣総理大臣から人事院への要請制度を撤回するかしかない。論点整理にも「この制度を活用することなどにより、能力・職責・業績を適切に反映したインセンティブに富んだ給与制度の在り方など、新人事制度の確立のための課題について、人事院に対し必要な検討を促し、内閣総理大臣と人事院が一体となって、具体的な準備を進めていく」とあり、一方的な労使関係しか見ていないことがうかがわれ、正に欠陥制度と言わざるを得ない。

(人職) 推進事務局の論理構成では、能力等級制には勤務条件性はない、能力等級制は職員の処遇を直接決定するものではない、しかし給与など職員の処遇に影響を与える可能性があるので人事院が関与することが適当である、としている。しかし、能力等級制で分類された官職は職員の能力評価に応じて任命され、それに応じて給与が支払われるとなれば、能力等級制が職員の処遇を直接決定するものではないという理屈は完全に崩れている。

 最後に小田川書記長は、「使用者の権限を強化するのであれば、労働基本権問題に行き着くのは当然だ。使用者の権限で、立法裁量として議論するのは構わないが、第三者機関としての人事院の中立性を担保するためには、バランスを取らなければダメだ。こちらは内閣総理大臣から人事院への要請制度に反対はしていない。但し、それをやるなら、労働組合から人事院に意見を言う機会もきちんと保証するべきだ。昨年11月のILOの勧告も同じ事を言っている。今日の回答では到底納得できないものも相当あるし、又、前回の交渉の持ち越し部分も回答されていない。次回にはさらに詰めた交渉ができるよう強く求めておく」と述べ、交渉を締めくくりました。

以 上

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