第2177・2183号案件
ILO結社の自由委員会 中間報告
(2002年11月ILO理事会)〈全労連国際局・仮訳確定版〉

C. 委員会の結論

総論
628. 委員会は、本件の申立てが日本の現在および今後の公務員制度改革、ならびにそれを立案し推進するために採られた手続と方法に関するものであることに留意する。申立てを立証するために提訴団体である連合および全労連は、かれらの意図としては、現行制度が正しく機能していないこと、また、政府がこの制度のいくつかの主要な特徴を維持する意向であるために、同じ問題が継続するだけでなく、この改革から生じる新たな困難によって悪化することを論証しているとする過去の状況の具体例を提出している。さらに委員会は、これらの問題のいくつかはすでに委員会によって検討され、それらの立法的側面は条約勧告適用専門家委員会に委ねられていることに留意する。他の側面は、これまでのILO報告と文書(事実調査調停委員会、いわゆる「ドライヤー報告」を含む)の中で扱われ、あるいは国際労働総会基準適用委員会をはじめとするILO諸会議の審議と勧告の対象となってきた。双方の側から提出された文書と主張の大部分を考慮に入れ、委員会は、意味のある審議をおこなうために、まず、手近な問題とそれらの結社の自由原則に照らしたそれぞれの重要性にあらためて焦点を当てることが必要であると考える。

629. 第1に、委員会は、たとえ訴が過去の例または結社の自由違反の申立てを示すものであっても、今回の訴における第一義的な問題は、「公務員制度改革大綱」に体現されているような改革計画であることを重視する(付属資料1、改革内容の一覧、およびその基礎にある哲学と理論的根拠を明らかにする前文および「基本概念」の写し、参照)。すべての個別問題の詳細についてさかのぼるより、むしろ、それらの多くはすでに委員会がこれまでの訴に関連して審査をおこなってきており、したがって委員会はこの改革の主要な側面に注意を集中し、それに関連して適用する原則ならびに関係するこれまでのILOの勧告を想起する。委員会は、この接近方法が社会的対話のための新たな機会となることを心から期待する。

630. 第2に、政府が公務員の労使関係の歴史、社会的経済的背景、等々の国の事情が考慮されるべきであると何度か述べているように、委員会は訴を審査するにあたってはつねにそのような要因を考慮する一方、結社の自由原則は各国に一律かつ一貫して適用されることを指摘する。一国がILOへの加盟を決定するとき、それは結社の自由の原則をはじめとしてILO憲章およびフィラデルフィア宣言に具体化された基本的原則を受諾し(結社の自由委員会の決定と原則の判例集1996年第4版第10項)、また、すべての政府はILO条約の批准によって約束した誓約を完全に尊重する義務を負う(同判例集第11項)。

631. 第3に、委員会は、政府がある法律条項は正当と認められる(例えば、団結権、ストライキ権の禁止)とか、国または地方の機関が適当である(例えば、人事院、人事委員会、公平委員会)という政府の立場を正当化するために、日本の最高裁判所の判決に繰り返し依拠していることに留意する。委員会は、上級裁判所によって解釈されるものを含め、国内法が結社の自由原則に違反する場合には、当該法を審査し、結社の自由原則に合致するよう指針を与えることは、ILO憲章および適用できる条約に定められているように、委員会としてはつねにその権限の範囲内であると考えていることを想起する(同判例集第8項)。

改革の内容
632. 実質的な問題に関して、国家公務員法および地方公務員法の改正条文の実際の中身やまして新制度が実際にどのように適用されるかを確証するには時期尚早であり、政府が今後それらの立法化を意図しているために、委員会としては現時点の条項および状況に関してその見解を表明することが許されよう。委員会は、改革案がその内容一覧表に示されるように野心的なものであること、しかし、政府は、ある範疇の労働者にたいする団結権の禁止、大多数の公務員ための団体交渉権の不在、労働基本権が制約されている労働者のための現在の代償機関と方法および広範なストライキ権の禁止をはじめとする現行制度のいくつかの主要な特徴を維持しよういう断固とした意志を明確に述べていることに留意する。

団結権
633. 団結権に関して、委員会は、すべての公務員が、民間部門の労働者のように、その構成員の利益を促進し守るためにみずから選択する団体を設立することできなければならならず(同判例集第206項)、唯一可能な例外として、87号条約第9条に示されるように、制限的にその範囲を定めるべき除外である、軍隊および警察があることを想起する。したがって消防職員および監獄職員は団結権を享受すべきである(同じく総合調査「結社の自由と団体交渉」1994、第81回国際労働総会1994年、第56項参照)。消防職員委員会に関する政府の報告に留意しつつ、委員会はこの問題が1965年以来の懸案問題であり、当委員会および専門家委員会のいくつもの明快な勧告の対象であり、そしてまた2001年国際労働総会基準適用委員会での討議をはじめとする他のILO諸会議の数多くの討論の対象であったことを想起する。消防職員委員会は円滑に機能しているとする政府の見解にもかかわらず、ここに提出された証拠は、消防職員委員会がいずれも当を得ず、それが存在するところでもなお問題のあることを示している。ことの本質は、日本の消防職員は自由に団結することが認められていないこと、また代表的団体がこの権利の付与を求めつづけていることである。団結権とストライキ権が2つの異なる問題であることを改めて想起し、委員会は、消防職員と監獄職員が自ら選択する組織を設立できるよう、政府がこの件に関する法律を改正すること強く主張する。

事前承認のない労働者団体の登録
634. 連合は、独立行政法人に移籍したことによって「国営企業及び特定独立行政法人等労働関係法」の適用を受け、所属していた組合からの離脱を余儀なくされた1万8000人の行政事務職員の例をあげ、また、各地方自治体に設立されるのは一単独組合でなければならず、それが組合分断に影響を与えている地方公務員組合の状態を述べた。連合は、したがって登録制度が組織結成の主たる障害であり、事前承認のない団結権の否定に等しいと主張する。政府は、当該制度は職員団体が正規、独立かつ民主的であることを事実であると証明するために用いられていること、また地方組織は連合および総連合に加入することができると答えている。

635. 地方職員の団体に関して、委員会は、1974年、日本にたいする一連の提訴のなかですでにこの問題を審議し(第737〜744号事案、第139次報告、第95〜220項)、さらに、「登録制度の効果は、すでに事実調査調停委員会によって指摘されているように、地方公務員団体の水平的垂直的再分割を永続させることである」と結論していることを想起する。いきすぎた労働組合の分断は、労働組合および労働者の利益を守るその活動を弱める恐れがあることを考慮し、委員会は、この見解をただ繰り返し述べることができるだけであるが、地方レベルの公務員に事前承認に等しい措置を受けることなく自ら選択する団体の設立を認める適切な修正が法改正の一部として採択されるよう勧告する。

636. 独立行政法人に移籍した1万8000人の公務員に関して、提出された証拠は、移籍にあたって、かれらが事前承認なしに自ら選択する組織に加入することが妨げられたかどうかを示していない。したがって委員会は、政府と連合にこの点に関してさらに情報を提供するよう要請する。

管理職員除外の範囲
637. 交渉単位からの管理職員の除外に関して、連合は、管理職除外の範囲があまりに広すぎ、またしばしば一方的に決定されることを主張し、これが事実上組合を破壊する結果となった一例(奈良県大宇陀町)をあげた。政府は、こうした決定は職責を基礎に中立的第三者機関によってなされること、また、大宇陀町の事態に関する件は係争中であると答えている。

638. 委員会は、管理若しくは監督職員にたいし他の労働者と同じ組合に所属する権利を否定することは、次の2つの要件、すなわち、第1に、そのような労働者がみずからの利益を守るためにみずからの組織をつくる権利を有すること、第2に、そのような職員の範疇は、その他の労働者の組織から現在または潜在的組合員数の大幅な部分を奪い取ることによってこれら組織を弱めるほど広くは定義されていないこと(判例集第231項)が満たされる場合は、必ずしも87号条約第2条の要請と矛盾するものではないことを想起する。加えて、使用者が労働者の人為的昇格によって労働者の組織を弱めることを許す条項は結社の自由原則の違反にあたる(判例集第233項)。大宇陀町の件に関して提出された証拠にもとづいて、委員会は、この件が個別的なものか、それとも一般化した問題を反映するものなのか評価できる立場にない。しかしながら、委員会は、地方当局が組合の委員長、副委員長および書記長を課長補佐に昇格させた1997年7月4日にこうした事態が始まったこと、公平委員会が1998年5月に組合登録を一時停止し、1999年2月1日にそれを取消したことに留意する。組合は訴訟をおこし、なお係争中である。したがって、委員会は、管理職の除外に関する上記の原則にたいして政府の注意を喚起し、これらの決定は、中立であるだけでなくすべての関係者にとって中立であるとみなされる機関によっておこなわれるべきことを強調する。大宇陀町で労働組合の登録が取消され、紛争開始から5年以上が経過していることに懸念を持って留意するとともに、委員会は、この訴訟が近く終結することを強く期待し、判決がだされたときはひきつづき情報提供するよう要請する。

専従組合役員
639. この問題に関して、提訴組合の連合は、労働者にその公務員たる地位を保持したまま専従組合役員の地位を認めるかどうかの決定は使用者の裁量に委ねられていると主張している。政府は、慣例として業務の遂行を妨げない限り欠勤休暇が専従役員を務める労働者に認められており、人事院が専従組合役員を務める期間を7年(更新不可)と定めていると答えている。委員会は、結社の自由が完全な自由のもとにみずからの代表を選出する労働者の権利を当然ともなうこと(同判例集パラ350)、また、職務の期間を設定することは組合自身にゆだねられるべきであること(同判例集パラ359)を想起する。したがって委員会は、完全な自由のもとでみずからの代表を選出する労働者の権利が法令および実施において認められるために公務員組合みずからが専従組合役員の職務期間をさだめることを認めるよう法改正の一部として適切な修正が採択されることを勧告する。

ストライキ権
640. ストライキ権について政府は公務員の特殊な性格と職務によって全般的禁止が正当化されるというその立場をくり返し述べている。政府は今後の立法的枠組みの中で公務員のこの包括的なストライキ禁止を維持する意向である。

641. 委員会は、ストライキ権に関する数多くの原則の中で、この権利は労働者および労働者組織の基本的権利であること、また、公務員は、以下の者を可能な例外としてこの権利を享受すべきであることを想起する。すなわち、軍隊および警察職員、国家の名において権限を行使する公務員、言葉の厳密な意味での必要不可欠業務、若しくは急迫した国家的危機の状況下で雇用される労働者である。この権利を剥奪または制限され、したがってみずからの利益を守る基本的な手段を失う労働者は、これらの禁止または制限を償う適切な保証、すなわち、当事者があらゆる段階で参加することができ、ひとたびなされた裁定が全面的かつ速やかに実施される適切・公平・迅速な調停仲裁手続が与えられるべきである。さらに、労働者および組合幹部は正当なストライキを実施したことにより処罰されるべきではない(そしてこの特定の例においては、現在適用できる重い刑事的行政的制裁に直面すべきではない)。これに関連して詳述された原則を参照のこと(判例集第473〜605項)。したがって、委員会は政府にたいし、改革過程の一部として、これらの原則に合致するよう法律を改正するよう要請する。

団体交渉
642. この点での申立ては次のことに関するものである。すなわち団体交渉権のない労働者の範疇、交渉の範囲に関する過度の制約、交渉制限の不適切な代償措置、および権限ある機関による勧告の不十分な実施。

643. 委員会は、これらの点に関するいくつかの主張が双方の訴に共通していること、その他の主張はいずれか一方の訴によって出されているが他の一方にはないこと、そして、政府の意見は時には前者に、時には後者に、そして時には両者にたいしておこなわれていることに留意する。委員会はここでも、それぞれすべての主張に詳細に立ち入るよりはむしろ主張に密接な関係があると思われるその主要な原則を想起したい。

644. 部分的若しくは全面的に団体交渉権を剥奪されている労働者の範疇に関して、委員会はこの権利が労働者の基本的権利であること、それは軍隊、警察および国家の運営に従事する公務員を唯一の可能な例外として民間・公共を問わず認められるべきであることを想起する。一方で、その機能によって国家の運営に直接的に関与する公務員(すなわち、政府の省および他の同等の機関に雇用される公務員)ならびにこれらの活動の支援要員として行動する役人、そして、他方で、政府、公共事業体若しくは公共自治体に雇用される者との間に区別が引かれなければならず、そして、前者のカテゴリーのみが98号条約の範囲から除外されることができる(同判例集第794項)。専門家委員会もまた、公務員はたんにホワイトカラー職員であるという事実だけで国家の運営に従事する職員としての資格について決定的なのではないということを強調している。仮にこれがそうでないとするならば、98号条約はその適用範囲から多くの者が取り除かれることになろう(同総合調査第200項)。要約すれば、軍隊および警察ならびに国家の施政に直接従事する公務員を唯一可能な例外として、すべての公務員労働者は団体交渉権を享受すべきである。したがって委員会は政府に対し、改革過程の一部として、これらの原則と合致させるよう法令を修正するよう要請する。

645. 計画されている改革は主として公務員の一般行政職に関するものであり、他の公務員(すなわち自治体職員および教員)の場合は検討されていないという全労連の主張(2183号事案)に関して、委員会は上記の諸原則がそれらにたいしても同様に適用できるものであることを指摘する。より特別に教員に関しては、委員会は、教員が団体交渉権を持つべきであることを指摘した岡山県高教組(2114号事案、第328次報告、第371~416項)に関する最近の委員会決定、および本報告前文におけるフォローアップ的な意見に言及する。

646. 交渉の範囲について、委員会は、連合および全労連双方が交渉から除外される事項があまりにも広範囲であるとの意見を述べていることに留意する。両者は、改革案がさらに多くの勤務条件を法によって決定することを規定しており、このことは今後のいっそうの悪化を意味すると付け加えている。政府は、現業および非現業部門の双方(これらの範疇がどのようなものを含むのか説明することなしに)における「運営または管理」事項は交渉の対象とならない、しかし、運営または管理事項によって影響を受ける可能性のある勤務条件は交渉の対象たりうると回答している。委員会は、ある特定の事項は第一義的若しくは本質的に政府業務の管理および運営に明確に属し、したがって当然交渉の範囲外と見なすことができるが、他のいくつかの事項は第一義的若しくは本質的に雇用の条件に関係する問題であり、団体交渉の範囲外になるものと見なされるべきではない(同判例集第812項)。委員会は、改革との関連で、政府がこの問題について労働組合との対話にとりかかるよう要請する。

647. 労働基本権が制限されている公共部門労働者のための代償措置の問題に関して、連合および全労連双方は、現行制度の不十分さ(国または地方レベルの権限ある機関による勧告の不完全なまたは遅れた実施)、および改革計画のもとで今後人事院に割り当てられる役割の後退とそれに対応する政府および内閣の権限の拡大について訴えている。両者はまた、圧倒的多数の市町村で地方人事委員会が設立されていないと指摘している。政府は、「大綱」前文で説明されているように、新たな挑戦に応え、変化する社会状況と要求に適応させるために抜本的な公務員制度改革が必要であると述べ、人事院または地方機関の勧告が実施されない例に関して政府はそれらは多数の例ではなく、そうした事態が起きた場合それはきびしい財政金融事情によるものであり、いかなる場合にも勧告は完全には無視されてはおらず、その実施が延期されただけであると意見を述べている。

648. 委員会がまず指摘しなければならないことは、政府が公務員制度の改革を発起し実施することを望むのかどうか、いかなる機関にその課題をゆだねたいのか、管理と人事について内閣および各大臣にもっと責任を移したいのかどうか、従来公務によって執行されてきたいくつかの職務と機能を民間もしくは半官に移したいのかどうか、それらを決定するのは政府の執行責任であるということである。しかしながら、そのような改革をすすめる中で、政府が団体交渉の権利を持つべき労働者に関して上記のように想起される結社の自由原則に合致して行動しているかどうかを検討することは明らかに委員会の委任権限内である。その他の労働者のための代償措置に関して、委員会は「大綱」からして、政府が同型の制度を維持しつつ人事院の役割を縮小しようとしていることに留意する。委員会は日本に関係するまさしくこの問題に関してくりかえしその見解を表明し(たとえば、20数年さかのぼってわずかの例だけを引くと第139次報告第122項、第142次報告第125項、第222次報告第164項、第236次報告第270項を参照のこと)、また、雇用の諸条件の決定方法が関係者の信頼を確保したことに疑念を表明してきたことを想起する。委員会は、公務における団体交渉権のような基本的権利が禁止または制限を受けるときはつねに、自らの職業的利益を守る基本的手段を奪われた労働者の利益を全面的に擁護するために当事者があらゆる段階で参加することができ、いったん裁定がだされたならば全面的且つすみやかに実施される迅速且つ公平な仲裁手続など、適切な保証がそこになければならないということを何度か指摘したが、ここで改めてそれを想起する。委員会が早くも1974年に指摘していたように、多様な利害が各委員会の数的構成に公正に反映されることを確保し、また、委員会の構成員の任命にあたって各関係者が平等な発言権を持つべきことを規定することの妥当性を検討するための措置をとることができたであろう(第139次報告第162項)。提出された証拠によれば、近年状況がいちじるしく変化したようには見えず、委員会は、「大綱」がこれらの根本的な問題にどうに取り組むのかを理解することに困難を感じる。したがって委員会は政府にたいし上記の原則に合致するようにその法令を改正するよう要請する。

649. 委員会は、(公務員労働者は不当労働行為に関して民間部門労働者と同様の保護を享受していないと述べる)提訴者と政府との合い矛盾する陳述に留意する。委員会は、これに関する法令および慣行についての情報を提供するよう双方に要請する。

協議過程
650. 委員会は提訴組合と政府の立場がこの問題に関して完全に食い違っていることに留意する。連合はたとえば労働基本権制約の維持には反対であることをくりかえし知らせ、代償措置には不満であることを表明してきたが、その意見は現状を維持するという「大綱」本文に示されるように、考慮されることはなかったとのべている。全労連および自治労連も同様の意見である。政府は自らを擁護して、当初の文書は労働者団体と議論する意図はまったくなかったが、それに続く文書は実際かれらと討議された。「公務員制度改革の大枠」に関して22回、計14時間、「大綱」に関しては77回、計66時間と述べている。政府は「大綱」についての文書は当局がこの重要問題を検討するための時間を必要としたために採択の7日前になって労働者団体にたいし提示されたと付け加えている。

651. 一般に、委員会は、労働組合の権利に影響するどのような問題若しくは提案する立法に関しても全面的且つ率直な協議がおこなわれることが重視されなければならないと強調してきたことを想起する(同判例集第927項)。さらに立ち入って、委員会は団体交渉および雇用の条件に影響する法案の導入前の、全面的で詳細な協議の重要性に政府の注意をしばしば喚起してきた(判例集第930〜931項)。加えて、政府が事実上若しくは間接的に使用者としてふるまう交渉機構を改変しようとする場合、全般的な国益にかかわると理解されるすべての目標が全関係者によって討議されることのできる適切な協議の過程を追求することがとくに重要である。そうした協議は、それが誠実におこなわれること、そして双方が詳細な説明をうけたうえでの決定をおこなうために必要なすべての情報を共有することを含意する(判例集第941項)。政府によって認識され、「大綱」前文で明確に述べられているように、予定されている公務員制度改革は抜本的なものである。したがって、大勢の公務員に影響しようという50年来のそのような大改革にとりかかるときは、意味のある協議が誠実におこなわれることがそれだけいっそう重要であると思われる。示された証拠と主張にもとづき、委員会は、何度も会議が開かれたなかで全国および地方レベルの公務員労働者の代表的組織の意見に耳が傾けられたかもしれないが聞き届けられなかったと結論せざるを得ない。理論は別として実際上、政府は現在の制度は条約と結社の自由原則に合致しており、基本的権利の制約は公務員の特別の地位と職務に照らして適当であり、現行の代償措置は適切に機能している、要するに現状がうまくいっているはずだ(優先すべきである)と主張している。「大綱」に関する文書は、当局がこの重要問題を検討する時間が必要であったために閣議決定のわずか7日前に労働者団体に提出されたという政府の主張に関して、委員会はこの問題は、それ以上とは言わないまでも、労働者団体にとって同じように重要であり、政府の立場を検討し建設的な対案を提出するためにもっと時間を必要としたであろうと指摘する。決定されるべき時がきていることを認識しつつ、委員会は、公務員制度改革の理論的根拠と実質に関してこの問題のより広範な合意を得ることを目的に全面的で率直且つ意味のある協議がおこなわれることがすべての関係者にとって、また公的部門の安定的且つ調和のとれた労使関係の発展にとって利益になると考える。これらの状況のもとで、また、改正法案が2003年末までに国会に提出される予定であることを考慮し、委員会は、政府が法令を改正し結社の自由原則に合致させることを目的として、すべての関係者とそうした広範な協議をすみやかに開始するよう強く勧告する。委員会はまた、政府にたいし、事務局の技術的援助がそれを希望するならば利用可能であることを想起する。

委員会の勧告

652. 上記の中間的な結論に照らし、委員会は理事会が以下の勧告を承認するよう要請する。

(a) 政府は公務員の労働基本権にたいする現在の制約を維持するという言明した意図を再考すべきである。

(b) 委員会は、公務員制度改革の理論的根拠及び内容に関して、この問題についてのより広い合意を得るために、また、法律を改正しそれを結社の自由原則に合致させるようにすることを目的として、すべての関係者との全面的で率直かつ意味のある協議が速やかに行なわれるべきことを強く勧告する。これらの協議は、日本の法令及び慣行またはいずれか一方が条約第87号及び第98号の条項に違反していることについての、以下の問題にとくに焦点をあてるべきである。

(@) 消防職員及び監獄職員にみずからが選択する団体を設立する権利を認めること;

(A) 公務員が当局の事前の許可に等しい措置を受けることなくみずからの選択による団体を設立することができるよう地方レベルでの登録制度を改めること

(B) 公務員組合に専従組合役員の任期をみずから定めることを認めること

(C) 国家の施政に直接従事しない公務員に結社の自由原則に従って団体交渉権及びストライキ権を付与すること

(D) 団体交渉権及びストライキ権またはそのどちらか一方が結社の自由原則のもとで正当に制限または禁止されうる労働者に関しては、みずからの利益を守る根本的手段を与えられないこれら職員を適切に補償するために国及び地方レベルで適切な手続及び機関を確立すること

(E) みずからのストライキ権を正当に行使する公務員が民事上または刑事上の重い刑罰を受けることのないように法律を改正すること

(c) 委員会は政府及び連合にたいし独立行政法人に移行した1万8千人の公務員が当局の事前の許可なしにみずからの選択する団体を設立または加入することができたか否かについて委員会に情報提供することを要請する。

(d) 委員会は政府にたいし大宇陀町(奈良県)の事案に関する裁判所の判決を委員会に提供することを求める。

(e) 委員会はまた、政府が公務員における交渉事項の範囲について労働組合との意味のある対話にとりかかるよう要請する。

(f) 委員会は政府および提訴団体にたいし不当労働行為の救済措置手続に関して基調となっている法と慣行についてさらに情報提供をおこなうよう要請する。

(g) 委員会は政府に対し上記のすべての問題に関する進展についてひきつづき情報提供するとともに、提出される法案文書の写しを提供するよう要請する。

(h) 委員会は政府にたいし、希望するならば事務局の技術的援助が利用できることを想起してもらう。

(i) 委員会は本事案の立法的側面について条約勧告適用専門家委員会の注意を喚起する。

(全労連国際局・仮訳)

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