2002年11月20日《No.122》

“日本の公務員制度は結社の自由原則に違反”
ILOが「労働基本権の制約維持」とする
「大綱」の再考を日本政府に求める

 11月20日、ILO理事会は、結社の自由委員会が求めていた日本政府に対する勧告を承認しました。
 その内容は、全労連、連合などが求めていた公務員制度「改革」にかかわる「提訴」(全労連は、2002年3月15日、「公務員制度改革のすすめ方」、「公務員制度改革大綱の内容」ともILO条約違反として提訴)について、労働側の主張をほぼ全面的に認めたばかりでなく、消防職員・監獄職員の団結権保障など7点(別添、勧告部分)について制度改革をおこなうよう具体的に指摘しています。
 勧告そのものには強制力はありませんが、一昨年6月の総会以来、日本政府が進める公務員制度「改革」に対して、ILOはくり返し問題を指摘しています。しかし、日本政府は、ILOの指摘にまともに対応しないばかりか、「日本国内の事情」を唯一の根拠に、さらに公務員労働者の労働基本権を侵害する公務員制度「改革」の具体化を進めてきました。また、全労連・連合の「提訴」に対しても、「(公務員制度「改革」)でも労働基本権制約の代償措置はいささかも後退しない」と強弁し、ILOとの関係では労働基本権問題は決着済みとする「ゼロ回答」をおこなっていました。
 今回の勧告は、以上のような日本政府の主張が、国際社会では、全く通用しない独りよがりのものであることが明確になったばかりでなく、国際労働基準への適合方向ではなく、労働者の権利破壊の労働政策を強めていることへの警鐘となることは確実です。
 3月の提訴後、国公労連は、全労連・務員制度改革闘争本部に結集し、5月と11月にILOへの要請団を派遣するとともに、署名を軸に、政府の公務員制度「改革」の不当性を国民世論に訴えるとりくみを強めてきました。これら、国内外の運動の成果が、こんかいのILO勧告に結実しています。
 政府は、「大綱」を具体化する国家公務員法「改正」作業を進めていますが、今回のILO勧告が、「労働基本権制約の現状維持」決定の見直しを求めている以上、日本政府には、法「改正」作業は中断し、「大綱」にこだわらない公務員制度改革にむけた仕切り直ししか選択肢はありません。仮に、今回もILO勧告を無視し、「大綱」にもとづく国家公務員法「改正」をすすめるならば、国際社会から「ルール破りの異常な国(政府)」とする批判が強まることは必至です。
 今回のILO勧告も「武器」に、公務員制度改革「大綱」の撤回を求める国内での運動強化が極めて重要になっています。

※別添資料

2002年11月20日  
(全労連国際局・仮訳)

第2177号(連合)・第2183号(全労連)案件
ILO結社の自由委員会中間報告


委員会の勧告

652. 上記の中間的な結論に照らし、委員会は理事会が以下の勧告を承認するよう要請する。

(a) 政府は公務員の労働基本権にたいする現在の制約を維持するという言明された意図を再考すべきである。

(b) 委員会は、公務員制度改革の理論的根拠及び内容に関して、この問題についてのより広い合意を得るために、また、法律を改正しそれを結社の自由原則に合致させるようにすることを目的として、すべての関係者との全面的で率直かつ意味のある協議が速やかに行なわれるべきことを強く勧告する。これらの協議は、日本の法令及び慣行またはいずれか一方が条約第87号及び第98号の条項に違反していることについての、以下の問題にとくに焦点をあてるべきである。

(@) 消防職員及び監獄職員にみずからが選択する団体を設立する権利を認めること;

(A) 公務員が当局の事前の許可に等しい措置を受けることなくみずからの選択による団体を設立することができるよう地方レベルでの登録制度を改めること

(B) 公務員組合に専従組合役員の任期をみずから定めることを認めること

(C) 国家の施政に直接従事しない公務員に結社の自由原則に従って団体交渉権及びストライキ権を付与すること

(D) 団体交渉権及びストライキ権またはそのどちらか一方が結社の自由原則のもとで正当に制限または禁止されうる労働者に関しては、みずからの利益を守る根本的手段を与えられないこれら職員を適切に補償するために国及び地方レベルで適切な手続及び機関を確立すること

(E) みずからのストライキ権を正当に行使する公務員が民事上または刑事上の重い刑罰を受けることのないように法律を改正すること

(c) 委員会は政府及び連合にたいし独立行政法人に移行した1万8千人の公務員が当局の事前の許可なしにみずからの選択する団体を設立または加入することができたか否かについて委員会に情報提供することを要請する。

(d) 委員会は政府にたいし大宇陀町(奈良県)の事案に関する裁判所の判決を委員会に提供することを求める。

(e) 委員会はまた、政府が公務員における交渉事項の範囲について労働組合との意味のある対話にとりかかるよう要請する。

(f) 委員会は政府および提訴団体にたいし不当労働行為の救済措置手続に関して基調となっている法と慣行についてさらに情報提供をおこなうよう要請する。

(g) 委員会は政府に対し上記のすべての問題に関する進展についてひきつづき情報提供するとともに、提出される法案文書の写しを提供するよう要請する。

(h) 委員会は政府にたいし、希望するならば事務局の技術的援助が利用できることを想起してもらう。

(i) 委員会は本事案の立法的側面について条約勧告適用専門家委員会の注意を喚起する。

以上

※参考資料

ILO勧告に沿った公務員制度改革を求める!
〜ILO結社の自由委員会の報告・勧告についての談話〜
                            

   2002年11月20日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内三夫

 1. 285会期ILO理事会は、本日、全労連提訴案件(第2183号)に関わって、日本の現行の公務員制度そのものがILO87号・98号条約に違反しており、結社の自由原則に合致させる方向での法律改正を求めるという、結社の自由委員会による歴史的かつ画期的な「報告・勧告」を採択した。
そして、「日本政府は公務員の労働基本権に対する現行の制約を維持するという言明された意図を再考すべきである」として、昨年12月の「公務員制度改革大綱」そのものの「再考」に言及するとともに、日本政府が2003年中の国会提出を予定している「法案文書の写しの提供」を要請している。
全労連は、ILO結社の自由委員会のこの「勧告」を高く評価する。そして、日本政府に対し、現在進行中の「公務員制度改革」の検討作業を直ちに中止し、「大綱」を白紙撤回したうえで、あらためて国際労働基準と結社の自由原則に沿った制度改革を行なうため、「全面的で率直かつ意味のある交渉・協議」を速やかに行なうよう強く求めるものである。

 2.「勧告」は、「これらの協議は,日本の法令及び慣行がILO87号、98号条約に違反している」ことを前提に
 (1)消防職員、監獄職員に自らが選択する団体を設立する権利を認めること
 (2)地方レベルの登録制度を当局の事前許可なく職員団体が設立できるよう改めること
 (3)組合に専従組合役員の任期を自ら定めることを認めること
 (4)国家の運営に直接関与しない公務員に結社の自由原則に従って団体交渉権及びストライキ権を付与すること
 (5)団体交渉権及びストライキ権またはそのいずれか一方が制限または禁止されうる労働者に関しては、自らの利益を守る根本的手段を与えられないこれら職員を適切に補償するために国・地方レベルで適切な手続き及び機関を確立すること
 (6)ストライキ権を正当に行使する公務員が民事上又は刑事上の重い刑罰を受けることのないように法律を改正すること、に焦点をあてるべきとしている。
 この「勧告」内容は、全労連などの提訴内容を全面的に受け入れたものであり、これまでのILO総会や委員会での様々な議論集約を包括的に整理して、更により具体的に一歩踏み込んだものである。
 また、日本政府のこれまでの主張を全面的に退け、公務員制度に関わる日本の法令や慣行及び政府・行革推進事務局の「公務員制度改革」の進め方を厳しく批判するとともに、その是正を求めて法案策定過程をも注視するものであり、日本の公務員制度と労働基本権問題に対する文字通り歴史的かつ画期的な「勧告」というべきものである。

 3.日本の公務員制度と労働基本権問題をめぐっては、1960年代にILO87号条約批准にかかわってILO「実情調査調停委員会」が発動され、日本への「調査団派遣」とそれをふまえたいわゆる「ドライヤー報告」が示されて以来、多くの案件と議論がすすめられてきた。(今回の全労連提訴にかかわる経緯などは別紙のとおりである。)
 2002年11月8日の「結社の自由委員会」での全労連、連合提訴案件の審議は、これらの事情を考慮し、結社の自由原則の重要性と日本の問題点について集中的議論を行なった。
 その結果、結社の自由委員会は、その「結論」部分で、日本政府がこれまで幾度となく述べてきた「国際労働基準の適用にあたっては、労使関係の歴史、社会的、経済的状況など国の事情を考慮すべき」という主張に対して、「結社の自由原則は、全ての加盟国において一律的に、一貫して適用されるべき」であり、日本政府はその立場を正当化するために最高裁判決に依拠しているとしているが、「国内法が結社の自由原則に違反する場合には、当該法を審査し結社の自由原則に合致するよう指針を与えることは、ILOの権限の範囲内である」として、日本政府の「見解」を全面的に厳しく批判している。
 これは、先進資本主義国である日本の公務員制度が永年にわたって結社の自由原則に違反し、ILOでの度重なる批判に対しても日本政府がかたくなに拒否する態度をとり続け、現在進行中の「公務員制度改革」がいっそう事態を悪化させていることに対する厳しい国際的批判にほかならない。

 4. いま日本の政府・財界が押しすすめる新自由主義的グローバル化と規制緩和路線のもとで、「ルールなき資本主義」といわれる、かつてない雇用破壊や賃金・労働条件の切下げ攻撃が横行しているが、今回の「報告・勧告」は、公務労働者・労働組合はもとより、一方的なリストラ・解雇の押付けを許さず、職場に自由と民主主義を求めてたたかっている日本のすべての労働者・労働組合を大きく激励するものである。
 今回の「報告・勧告」に至る特徴は、日本政府によるILO87号、98号条約の過去・現在・未来に及ぶ不履行に対して、全労連、連合がほぼ同じ趣旨で提訴し、国際自由労連や世界労連などの国際労働組合組織や各国労組の支援を得つつ、国内外の世論と運動を高めてくる中で、ILO結社の自由委員会がその本来の役割と見識を発揮したことである。
 もし日本政府が、こうした結社の自由委員会の「報告・勧告」に従わず、これを無視する態度をとり続けるならば、必ずや日本政府に対する国際的な批判がいっそう強まり、国際社会から孤立することになるであろう。
 国際労働基準とILO結社の自由原則に沿った「公務員制度改革」を実現していくうえで、国内での私たちの主体的なたたかいがいよいよ決定的に重要になっている。
 全労連は、ILO結社の自由委員会の「報告・勧告」を背景にして、労働基本権と「働くルール」を確立するとともに、「政官財の癒着」根絶や「天下り」の禁止など、「国民・住民全体の奉仕者」という憲法原則にもとづく民主的公務員制度の確立にむけ全力をつくすものである。

以上

(資料―若干の経過等について)
 1. 全労連は、日本政府による「公務員制度改革」の内容と進め方のいずれもがILO条約に違反するとして、2002年3月15日付けでILO結社の自由委員会に提訴(第2183号案件)した。(連合も同年2月26日に提訴済み=第2177号案件)
 その主張点の第一は、2001年6月のILO第89回総会で政府が「国際公約」した労働組合との「誠実な交渉・協議」を反故にし、政治主導で一方的に「労働基本権制約の現状維持」を決定するなど、2001年12月の「公務員制度改革大綱」決定に至る手続き上の問題であった。
 その第二は、「信賞必罰」の新人事制度導入に固執する一方で、消防職員等の団結権制限、「管理運営事項」等による交渉権制限、自治体当局等の一方的な賃下げ、人事院・人事委員会への労働者代表の関与、「国家の運営に関与しない公務員」の範囲設定などに何ら言及しないという、「大綱」の内容上の問題であった。そして第三は、現行の労働基本権制約を維持したまま、内閣・各府省の人事管理権限を拡大し、人事院の権限・機能の縮小を図るという、「代償機能の形骸化」の問題であった。

 2. その後、2002年6月のILO第90回総会で、再び日本の「公務員制度改革」が論議となり、「基準適用委員会」で日本案件として第98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)の実施状況が個別審査され、日本政府の対応に国際的な批判が集中した。これらの論議を受けた議長集約では、日本の公務員が自らの賃金決定への参加を著しく制限されていることに懸念が表明され、「国家の運営に関与しない」公務員の雇用条件が団体交渉の奨励と促進によって決定されるよう、関係する労働組合などと十分協議のうえ、公務員制度改革が行われることへの強い希望が表明された。
 これは、「労働基本権制約は現状維持」とする「大綱」の内容が、ILO98号条約の「完全な履行」から程遠いとする認識を前提にしたものであり、全労連として改めて政府に「大綱」の撤回を迫るとともに、11月のILO結社の自由委員会をにらんで、民主的公務員制度確立の「請願署名」を軸に国内外の取組みに全力をあげてきた。

 3.全労連は、こうしたILOでの議論経過と取組みの到達点をふまえ、5月段階での公務3単産書記長による「第1次ILO要請行動」に続き、11月7日からのILO結社の自由委員会における全労連・連合提訴案件の審議を前に、自治労連や国公労連など25名もの代表団による「第2次ILO要請行動」に取り組んできた。
 そして、11月1日のILO結社の自由部への要請では、9月中旬に日本政府が結社の自由委員会に提出した「見解」について、それはまさに「木で鼻をくくった」もので、全労連の提訴内容を真っ向から否定し、ILO87号・98号条約の国際労働基準に真っ向から挑戦していることなど、具体的な事実をふまえて全面的な反論を行った。さらに、政府が「大綱」どおり2003年の通常国会に国家公務員法等「改正案」の提出をねらっている事態を重視し、結社の自由委員会が全労連の提訴内容にそってまさに「目から鱗が落ちる」ような勧告を強く要請したところである。

以上

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