国公労連憲法改悪阻止闘争本部学習会
於:国公労連事務所 2005.2.18

自民党憲法改正草案の批判的検討−財界の改憲構想にもふれて
小沢隆一(静岡大学・憲法学)

はじめに−続々と出てきた改憲案・構想
(1)動きの激しい改憲動向
・2004.11.17自民党 憲法改正草案大綱(たたき台)
 (現職自衛官の関与、参院自民の反発→白紙撤回)
・2004.12.21 自民党 新憲法制定推進本部
・2005.01.18 民主党 与党の憲法改正手続法案の策定に同調
・2005.01.24 自民党 推進本部初会合 新憲法起草委員会設置(10の小委員会)
・2005.02.02衆院予算委 鳩山「自衛軍」質問 小泉首相「賛成」答弁
・2005.02.03憲法調査会幹事会 改憲の方向性を示す最終報告編集方針決定←設置法違反
・2005.03(?)民主党 憲法構想提示
・2005.04(?)自民党 改憲案提示

(2)出そろった財界の改憲構想
・2005.01.18日本経団連「わが国の基本問題を考える」
・2004.12.17日本商工会議所「憲法改正についての意見−中間とりまとめ」
・2003.04経済同友会「憲法問題調査会意見書」

(3)日々刻々変わる情勢/だからこそ、ゆるがぬ視座を/学習を力にして

T.自民党の「憲法改正草案大綱(たたき台)」を叩く
 「白紙撤回」というが…/改憲構想のホンネが満載/今後も「たたき台」に

1.「復古的との誤解を払拭」というが…
(1)象徴天皇制の強化
・「天皇を象徴とする自由で民主的な国家」/天皇の元首化/「女帝容認」論もからめて
(2)侵略戦争への反省の欠落
・戦争から得た教訓は、「和の精神」と「平和を愛する国民性」というが…
(3)国旗・国歌を憲法に
・東京都教委の強制の拡大の危険

2.平和主義の放棄
(1)美しい理念(環境保全を含む平和主義 4章)
 と危険な実態(自衛軍の設置、集団的自衛権の容認、軍事裁判所の設置 8章)
(2)強大な首相の「国家緊急事態」権限
・[1]防衛、[2]治安、[3]災害を緊急事態としていっしょにするが…
・国家緊急事態においては首相が国民の権利・自由を一般的に制限できる

3.近代立憲主義の否定 (1)「憲法は国民ではなく国家権力をしばるもの」という近代憲法の原点の軽視
・「個人偏重主義」批判の行き着く先は、国家主義・治安主義への傾斜
・「国民の憲法尊重擁護責務」と「権利・自由の不断の努力による保持」(12条)の違い

4.人権−「新しい権利」には冷淡・大企業の自由・社会権の軽視
(1)軍事目的の人権制限も可能に
・「人権調整の場面」以外に「国家・社会の安全・健全な発展」を理由とした権利制限
(2)「新しい人権」や社会権には冷たく、企業の権利は手厚く保護
・[1]名誉権・プライバシー権・肖像権、[2]知る権利、[3]犯罪被害者等の権利
 ←いずれも法律で具体化するとしている/「新しい権利」はもう眼じゃない?
・社会権はみな「プログラム規定」に(基本的人権よりも格下の政策目標)
・企業その他の経済活動の自由を独立の条文に
(3)国民の責務−「バターよりも大砲を」
・国防の責務・徴兵制の禁止/これで十分有事体制に対応できるとの思惑
・納税、社会的費用(社会保険)負担の責務/「払わなければ給付なし」の強制

5.統治機構−「構造改革」を強権的に推進できるしくみに
・衆議院の役割強化・参議院の役割縮小
・参議院議員の選挙方法/道州議会による間接選挙+有識者からの任命
・[1]法律議決、[2]予算議決、[3]条約承認、いずれも衆議院の優越を強化
・内閣総理大臣 衆議院議員のなかから衆議院が指名/リーダーシップの明確化
・大臣 衆院議員のなかから内閣総理大臣が任命/参院議員と大臣との兼職禁止
・裁判所−憲法裁判所による違憲審査権の独占/これで裁判がよくなる?
・地方自治−国は外交・防衛など全国的な施策のみを、「住民に身近な行政」は地方で

6.憲法改正
(1)憲法改正の要件(の緩和)
・[1]各議院の総議員の過半数の賛成+国民投票での有効投票総数の賛成
 [2]各議院の総議員の3分2以上の賛成
・1・2・3・4・9章の規定は、[1]の方法による ←何というご都合主義

U.財界の改憲構想

1.ついに「横綱」登場−2005.01.18日本経団連「わが国の基本問題を考える」
 9条・96条改憲を優先して取り組め/財界はなぜ改憲・自衛隊派兵を求めるのか

2.(2003.1日本経団連 奥田ビジョン)
[1]「メイド・イン・ジャパン」から「メイド・バイ・ジャパン」へ
[2]法人税減税と消費税増税(→年金財源に)
[3]教育改革・大学改革→技術革新で国際競争力強化
[4]東アジア自由経済圏構想
[5]武器輸出3原則の緩和−米とミサイル防衛共同開発
[6]「政策」本意の政党政治のための企業献金あっせん再開(政治買収の強化)

むすびにかえて

1.自民党「たたき台」・日本経団連報告がえがく日本の行く末
・自衛隊の海外派兵、自衛隊の役割強化
・象徴天皇制の固定化
・弱肉強食の新自由主義の推進
・強引な政治を可能にする国会・内閣。裁判所

2.平和憲法をまもることの意義
・この憲法を護ることは、21世紀の私たちのいのちとくらしを守ること
・公務労働者−国民の命とくらしを守るその重要な役割

参考文献:小沢隆一『ほんとうに憲法「改正」していいのか?』(学習の友社・2002年)   同 『はじめて学ぶ日本国憲法』(大月書店・2005年3月刊行予定)

× 閉じる ×