新たな人事制度の設計の考え方について(議論のたたき台)

 

1.行政改革のおける公務員制度改革の位置付け

○ 我が国の行政を取り巻く状況:右肩上がりの経済成長の終焉、社会経済情勢が激しく変化、価値観の多様化。
⇒政府の政策立案・実施のトータルの質が厳しく問われている。

○ このような中、政府は行政改革を最重要課題として位置付け、中央省庁改革において、内閣機能の強化を主眼とし、「組織」の面で積極的な改革を推進してきたところ。

○ 今般の公務員制度改革は、組織改革の意義を十分に達成するため、「組織」を支える「人」に着目した改革として、真に国民本位の機動的で効率的な質の高い行政を実現するため、公務員の意識・行動原理に大きな影響を及ぼす公務員制度を抜本的に改革するもの。

○ その際、労働基本権の制約に対する適切な代償措置を確保するとともに、職員の納得性の向上を重視。このことは、公務の能率の向上にも寄与。

2.公務員制度の現状

○ 行政に対する様々な課題(硬直的な企画立案、非効率な業務遂行など)が指摘される中、現行の公務員制度の運用は、国民本位の行政の実現という観点からは必ずしも適切ではない。

○ 適切な行政運営の実現のため、本来人事制度の設計・運営に当たるべき内閣が自ら十分に責任を果たさず、人事院に過度に依存している状況。

⇒・各府省による適材適所の人事管理を阻害し、機動的・弾力的な行政運営を制約。
 ・職員とのコミュニケーションの充実こ向けての内閣全体の努力を怠らせ、職員と人事当局等の間に隔たりが生じ、職員にとって納得性の高いシステムとなっていない。

3.今回の新人事制度における改革の方向

(1) 内閣の主体的な人事制度の設計・運営の実現と人事院の役割

○ 公務員の人事制度の設計・運営は、適切かつ国民本位の行政運営の実現のための基盤。
⇒ 国民に対して行政運営の責任を有する「内閣」が、中央省庁改革の主眼である内閣主導の理念の下、責任をもって人事制度を設計し、人事管理の事務の統一保持のため必要な総合調整機能を充実させることが適当。

注)内閣は、
@ 選挙によって選出された国会議員の中から国会の議決により指名された内閣総理大臣によって編成される機関である、とともに、
A 国会に対して、行政権の行使について連帯して責任を負う機関である。

 各主任大臣は、分担管理する行政事務の運営に責任を負うのと同様、内閣全体として行う人事制度の設計・総合調整の下で、人事管理についても主体的に責任を負うことが適当。
(=「人事管理権者」として明確に位置付け。)

○ 一方、職員の利益の保護及び人事行政の中立性・公正性の確保は、引き続き重要。
「人事院」が、以下の役割を適切に行う仕組みとするとともに、その運用を充実・強化。
・勤務条件についての国会及び内閣に対する勧告又は報告
・国会及び内閣に対する意見の申出
・法律の委任に基づく人事院規則の制定
・行政措置要求及び不服審査
・人事行政改善勧告等の事後チェック 等

(2) 人事当局と職員とのコミュニケーションの充実

○ 職員が職場の中で国民本位の行政の実現に向けて努力するためには、これまで以上に職員と人事当局等のコミュニケーションの充実を図り、職員が十分に納得できる人事管理が重要。
⇒以下の仕組みにより、職員と人事当局等のコミュニケーションを充実
・新評価制度において、評価者と被評価者(職員)との面談、評価のフィードバック
・救済制度の充実のため、各府省による苦情処理制度を整備するとともに、公平審査制度を充実・強化。

(3) 労働基本権制約の代償措置の確保

○ 公務員の労働基本権制約の代償措置の考え方の基本(=全農林最高裁判決(昭48.4.25))
 以下の3点を挙げ、公務員が生存権擁護のための関連措置による保障を受けているとしている。
@法定された勤務条件の享有
A勤務条件についての人事院の国会及び内閣に対する勧告又は報告
B準司法機関的性格をもつ人事院に対する職員の行政措置要求及び不服審査請求
今般の公務員制度改革においても、これらの措置を引き続き維持

4.政令、人事院規則など具体的な下位規範の設定等に当たっての考え方
  〜 人事制度の具体的な仕組みを考えるに当たっての考慮事項

○人事制度の具体的な仕組みを考える際には、人事制度を基盤として実現すべき複数の異なる目的が存在し、これらをどのようにうまく各々の人事制度の中に調和させるかが、大きなポイント。
・行政の機動性・効率性の確保など、国民への適切な行政サービスの提供
 (内閣の適切な人事管理を通じた機動的・弾力的な行政運営)
・行政の民主的監視や国民に対する行政の透明性の確保
 (国会による人事管理に係る事項の決定)
・国民への内閣としての責任の明確化
 (内閣自らによる人事制度の設計・運営)
・職員の労働基本権制約に対する適切な代償措置の確保
 (勤務条件の法定、人事院の勤務条件についての勧告・報告、人事院による行政措置要求及び不服審査請求)
・行政の中立性・公正性の確保
 (内閣の自律的機能と人事院による監視・是正)

⇒人事制度に係る内閣と人事院の機能及びその相互の関係を整理するに当たっても、人事制度に求められるそれぞれの目的を見極めて、それらの目的が総体的に十分に実現されるような最適のシステムとすることが重要
中でも、法律に基づく下位規範等をどのように決定するか(政令か、人事院規則か)については、上記のような複数の目的の存在を踏まえ、具体的な下位規範等の性格も考慮しつつ、以下のように整理

(1) 職員の利益の保護の関係
<基本的考え方>
○ 内閣が、内閣主導の理念の下、適切な行政運営を実現していくためには、行政運営を支える公務員の人事制度の設計・運営について、自ら責任を持って行うことができる枠組み(=内閣自らが政令で定める)とすることが必要。
○ 一方、職員の利益の保護は引き続き重要であり、職員の納得性を高めることは、公務の能率の向上のためにも重要。また、使用者としての性格を併せ持つ内閣が、全ての下位規範を一方的に決定することは不適当。

下位規範で規定する内容が職員の利益に及ぼす影響の度合に応じ、職員の利益の保護をその任務とする人事院の適切な関与等を組み合わせた適切な仕組みとすることが必要。

<事項の性格に応じた具体的な仕組み>
(1)−@人事管理を行うに当たっての基準・手続(勤務条件の観点から整理)

ア.給与、勤務時間等の勤務条件

○ 憲法上、勤労条件(賃金、就業時間、休息等)に関する基準は法定することとされており、また、全農林最高裁判決における勤務条件の法定の趣旨からも、国家公務員の勤務条件そのものは基本的には法律事項。
○ これらを下位規範に委任する場合であっても、職員の利益の保護を任務とする人事院が直接決定することが、職員の納得性を高める上で適当であり、人事院規則に委任。

【類例】
・給与法より委任される基本給月額を決定する場合の基準、勤務時間法より委任される勤務時間の割り振りの基準等、憲法の勤労条件に当たる事項を法律により下位規範に委任しているもの

【仕組み】
・勤務条件については、法律で規定。
・勤務条件(特に給与水準決定)に際して、人事院勧告制度を設置。
・下位規範に委任する場合には人事院規則に委任
・個別具体的な問題に対しては、人事院に対する行政措置要求及び不服審査請求の制度を用意。(行政措置要求及び不服審査請求の手続を改善。)

イ.機動的・効率的な行政運営を行うためのものであって、ア.以外の事項

○ 人事制度のうち、勤務条件ではないものについては、<基本的考え方>で整理した趣旨に則り、機動的・効率的な行政運営を実現する上で重要であることを踏まえ、内閣自らが政令で定めることが基本。
○ さらに、勤務条件に与える影響の度合に応じて、人事院の関与について、以下のとおり整理。

イ−1.能力本位の人事管理を行うための基準など、人事管理権者が機動的・効率的な行政運営を行うためのものであるが、個々の職員の勤務条件を決定する際のプロセスにおける基準・手続である事項

【類例】
・職員個人の基本給を決定する際の能力等級への格付けの基準・手続(=昇格基準、能力評価の基準となる職務遂行能力基準、能力評価の手続等)
・職員個人の業績給を決定する際の業績評価の手続

【仕組み】
・基本的原則となる内容を法律で規定。
・下位規範で定める場合、政令で定めることを基本としつつ、勤務条件を決定する際のプロセスにおける基準・手続でもあるため、制定に際しての事前協議等人事院の特別な関与を制度上設けることにより、職員の納得性を向上。
・個別の評価に際しては面談、評価結果のフィードバックや苦情処理制度による職員と人事管理権者(評価者)の意思疎通の仕組みを導入。
・行われた措置が結果として勤務条件又は不利益処分に該当する場合:職員は当該勤務条件について人事院に対して行政措置要求でき、当該不利益処分について人事院に対して不服審査を要請。また、人事行政改善勧告等により、人事院が是正を図ることが可能な枠組み。

イ−2.効率的な人事配置を行うための基準など、人事管理権者が機動的・効率的な行政運営を行うためのものであって、個々の職員の勤務条件を決定する際のプロセスにおける基準などではないが、勤務条件に関係する可能性がある事項

【類例】
・適材適所の人事配置を実現するための任用に際しての基準(=職務分類の基準等)
・人事管理の基盤となる能力等級制度の確立に係る基準(=組織分類の基準等)

【仕組み】
・基本的原則となる内容を法律で規定。
・下位規範で定める場合、政令で定めることが基本。
・これらの法令の制定改廃に係る意見の申出、人事行政改善勧告等により、人事院が是正を図ることが可能な枠組み。
・個別の評価に際しては面談、評価結果のフィードバックや苦情処理制度による職員と人事管理権者(評価者)の意思疎通の仕組みを導入。
・行われた措置が結果として勤務条件又は不利益処分に該当する場合:職員は当該勤務条件について人事院に対して行政措置要求でき、当該不利益処分について人事院に対して不服審査を要請。また、人事行政改善勧告等により、人事院が是正を図ることが可能な枠組み。

(1)−A 行政措置要求、不服審査請求等の各種救済制度の手続(=(1)−@以外に、下位規範への委任が必要となると考えられる事項)
⇒法律で規定するが、下位規範に委任する場合には、準司法機関的性格を有し、かつ、第三者である人事院が、人事院規則で制定することとする。

(2) 中立性・公正性の関係
<基本的考え方>
○ 中立性・公正性の確保については、それが損なわれた場合の具体的な是正の手法を含め、トータルの仕組みとして適切に中立性・公正性が確保されるかが判断されるべきもの。

○ 内閣が適切な行政運営を実現していくためには、中立性・公正性の確保に係る下位規範についても、政治的行為の禁止又は制限に関する事項を除き、行政運営を支える公務員の人事制度の設計・運営について、内閣が中立性・公正性の確保を含めて自ら責任を持って行うことが必要であり、内閣自らが政令で定める枠組みとする。
※例えば、これまで包括的に人事院規則等に委ねてきた採用試験制度の企画立案は、内閣が主体的に行う形に転換する。

○ この場合にも、法令の制定改廃に係る意見の申出等による人事院の監視・是正を図ることとする。なお、中立性・公正性の確保のための是正の手法としては、例えば、人事院による人事行政改善勧告(事後チェック)の仕組みがあるが、同勧告は、中立性・公正性の観点に限らず一度も発動されたことがなく、これを適切に発動することも重要。

⇒中立性・公正性に係る下位規範についても、内閣自らが政令で定めることを基本としつつ、中立性・公正性の確保及びそれが損なわれた場合の是正等の具体的な措置として、人事院の適切な関与(人事院の特別の関与、法令の制定改廃に関する意見の申出、人事行政改善勧告等)の適切な組み合わせを検討。


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