2002年10月7日《No.110》
熱気あふれる東日本チューター学習会ひらく
参加者が学習・運動の核となり「100万署名」推進を

 国公労連は、10月5日、「公務員制度改悪反対闘争チューター学習会(東日本)」を、東京都内で開催しました。190席の会場に、230人が参加し、民主的公務員制度へ向けた熱気あふれる学習会となりました。
 冒頭、主催者あいさつに立った国公労連・堀口委員長は、「今回の学習会は通常の学習会とは異なる。学んだことを自分のものにすればよい、ここにとどまってはいけない。本日の学習会を契機に、参加者一人ひとりが、職場・地域での“網の目学習会の核”になっていただきたい。公務員制度改革をめぐるたたかいは、今秋から来年にかけて大きなヤマ場を迎える。私たち自身の奮闘で職場内の世論喚起と国民世論の高揚をはかっていくことが決定的に重要となっている。そして、たたかいの軸となる公務員制度署名=『100万署名』を全力でやりきろう」と呼びかけました。
 つづいて、記念講演「民主的公務員制度の必要性と課題」(行財政総合研究所・川村祐三理事)、第1講義「民主的公務員制度に向けた国公労連のたたかい」、第2講義「人事評価制度を中心とする新人事制度2次原案の問題点」(国公労連・小田川書記長)、第3講義「学校職場における人事考課制度について」(都教組・浦登前書記長)が行われ、最後に全体討議を実施し、学習会を終えました。今号の闘争NEWSでは、記念講演の要旨と参加者の感想の一部を紹介します。

 ★“政権への奉仕者づくり”許さず、“全体の奉仕者”へ
   記念講演「民主的公務員制度の必要性と課題」(行財政総合研究所・川村理事)


 公務員制度改革の根底に流れているものについて考えたい。
 現在の様々な問題、賃下げ勧告の問題にしても公務員制度改革の問題にしても、帰するところ、そもそも公務とは何かという問題となる。公務員は、憲法15条にあるように“全体の奉仕者”であって一部の奉仕者ではない。しかし、公務労働には2つの側面があり、1つは、ときの政府権力の支配を維持する機能で、もう1つは社会的な共同事務としての機能。この2つの側面のどちらが色濃く出るかで、大きく左右される。
 現在の公務員制度は、明治憲法下の“天皇の官吏”=国家権力の支配維持機能から“全体の奉仕者”へ180度転換をとげたというわけだが、明治憲法の残りかすが現在まで引き続いているところに今の公務員制度の運用上での最大の問題がある。人事院も今年8月の報告の中で、「キャリアシステムなど戦前の官僚制度の下でのシステムが、運用として引き続き行われ、(中略)民主化と効率化という国家公務員法の理念が十全に実現されるところとならなかった」とか、「キャリアシステムは、国家公務員法上の制度ではなく、戦前の文官高等試験の下でのシステムが運用として残ったものであるが、これにより、1種試験で採用された者は昇進が早く、その多くが指定職になることができるのに対して、2種・3種試験で採用された者は、優秀であっても、指定職になるのは容易ではない。このようなシステムによって、1種採用職員の中には誤った特権意識を抱く者が出てきたり、優秀な2種・3種採用職員の意欲を削いだりすることとなり、また組織の活力の維持に支障を生じるなど弊害が目に付くようになっている」と書き、形式的ではあるがこうした問題点を人事院もついに認めた。
 こうした問題は、戦後改革で実は改革されないで来てしまった。戦後改革で文字面は“全体の奉仕者”に変わった。しかし、戦前の高級官僚が追放にならなくて、そのまま官庁に居座った。そして、1種試験の合格者を自分たちの後継者と位置づけて、人事を行ってきた。“政官財ゆ着構造”を断ち切ることが重要な課題となる所以だ。
 政府による改革の考え方の背景にあるものは、新自由主義路線と言われる。もっと効率よく、規制はいらない、官から民へというような言い方のスローガンに代表される路線だ。
 これは表面的に見ると2つの面がある。1つは、とにかく競争原理によって管理を強化する。すべて競争原理によって管理をやっていく。つまりはアメとムチによる管理をというのが1つの面。もう1つは中央人事行政機関−当面人事院だが−の統一的な管理をいやがっているという面で、各省大臣の権限を強化したい。とにかくどこかから規制されることをたいへんいやがっている。これが改革の流れであり、“全体の奉仕者”ではなく、“ときの政権への奉仕者”という側面を強化する方向だ。スーパーエリートという支配者への奉仕者を置き、あとは場合によっては公務員でなくてもいい、アウトソーシングでもいい、民営化でもいいじゃないかということで、公務員を差別化してしまう。これが現在の改革の基本的な特徴と言える。
 国家公務員法の基本はメリットシステム(成績主義)で、ようするに公務員に誰を選ぶか、あるいは上の方のポストにどういう人をつけるべきか、これは成績によって−試験の成績、勤務の成績といったような能力の実証に基づいて−行われなければならないということ。成績主義は任用の概念だ。メリットシステムの反対語はスポイルズシステム(猟官制度)、成績主義に対する反対語は、情実主義、あるいは縁故主義だ。
 年功制か、能力実績か、といかにも対抗するように言われるが、これは間違っている。年功制は情実主義か。年功制は情実の入り込む余地のない成績主義だ。能力実績主義は客観的にそれが評価されるならば情実の入る余地はない。しかし、評価は人が行う。管理者の主観でもって情実が入らない保障はどこにあるのか。かたや年功制はいろいろ問題があるにしても情実主義でないことは明らか。能力実績主義は情実が入るとメリットシステムではなくなる。
 現在の公務員法は仕事本位主義であり、基本には仕事についての客観的な評価があって、それにはどういう能力の人が必要か、それに対してはどれだけの給与が必要か、と仕事から出発する。
 “天皇の官吏”の時代は人から出発する。天皇の距離から官吏の身分が決まる。官吏の身分が人について決まった上で、どんな仕事をするかが決まることになる。
 組織のあるところ必ず評価はついて回る。評価のない組織はありえない。ただ問題は“その評価は何のためか”というところにある。現在の改革の中では評価というのは、もっぱら差をつけるためのものであり、ここに最大の問題がある。“成果主義は差を付けるために使われてはいけない”これが行われると必ず職場に問題がおきる。お互いがより高まるために評価は使われるべきだ。公務は競争原理に立つべきではない。全体の奉仕者なのだから、お互いに相互啓発をする、あるいはそれぞれ得意なところを伸ばすということはあるが、一人ひとりが競いあって、他の人を蹴落として、自分が上にいくというような競争原理によって人事管理が行われるべきでない。競争原理ではなく“協働原理”が公務には必要だ。
 ところが現在、政府がやっているのは、橋本龍太郎氏の「いまの官庁には競争がないからいけない。もっとみんないきいきと競い合うような雰囲気を職場につくらなければいけない」という発言に代表される競争原理の導入だ。いきいきと競い合うというと非常に聞こえはいいようだが、それによって、2割ぐらいが上にいって、あとの8割は蹴落とされて悲しい思いをするというのが、競争の現実だ。競争原理に立って差をつけるための評価、そんな評価はだめだ。また、民主的な職場環境がなければ、民主的な評価は保障のしようがない。民主的な職場環境をつくりだすためには、民主的な素養をもった管理者をいかにして育てるかということが問題。そして何よりも使用者である政府と対等・平等に交渉ができる労働組合が必要だ。現在の国公法で最大の問題点は労働基本権の問題だ。全体の奉仕者という側面を代表するものとしての労働組合の存在、労働組合が労働組合らしい存在であるために当然の前提として労働基本権を持っていなければならない。
 現在、各自治体で、情報公開を重視する流れが出てきてる。情報公開をすることによって、公務を一部の奉仕ではなくて、全体の奉仕に向け変える、そういう努力が行われつつある。国についてもこうした流れとなってくるのが21世紀の展望でなければならない。支配者の権力維持機能というものが次第にうしろの方にしりぞいていって、全体の奉仕者として、本当の意味での社会の共同事務をいかに処理していくかという公務の性格が、そちらの色合いがどんどん濃くなっていくことが歴史の進む方向だ。

 ★参加者の声(※学習会の感想文用紙から抜粋。カッコ内は参加者の所属)

 【全体を通して】
 ○本日は概要から、詳細、実際の状況の内容が含まれており、とても充実した内容で良かった。今後はできる限り、本日の学習内容を地元の仲間に伝達していきたい。(福島県国公) ○内容が濃かった。大変参考となった。今回の会議でいただいた資料を活用して、職場で勉強会を行いたい。(全気象) ○公務員制度改革をめぐる現局面が十分理解できた。まさにキャリアのための支配権力維持の改革であり、公務の民主化を妨げる許されない内容である。ぜひ職場に広めたい。(全建労) ○非常に参考になり、内容、カリキュラムとも非常に良かった。今日の学習会を職場世論形成に役立てるよう奮闘したい。(全法務) ○秋闘オルグ直前で、今オルグ要綱を作成中です。うまく伝えられるよう職場にあてはめ、みんなで学習したいと思います。チューター学習会、ありがとうございました。(全法務) ○今日の学習会を支部でも議論し直し、職場での学習会を組み立てられるようにしたい。(全運輸)

 【記念講演について】
 ○川村氏の講演は、「公務とは何か」という根本的な切り口から政府の改革の矛盾点をついており、大変有意義であった。政府の改革が、公務のあり方そのものを変質させ、まさに支配権力の維持がねらいであることが理解できた。(全法務) ○公務とは何かということがよく分かり、このことが運動をすすめる上での基軸となることが分かった。(全司法) ○スケールの大きな話で、大変勉強になりました。公務のあり方について、自分自身の視野が広がった。(全法務) ○非常にわかりやすく、楽しく、聴くことができた。改革の問題点が理解できた。帰ったら、県国公の仲間と学習をしたい。(福島県国公) ○1万人チューター養成は、私たちが養成する側になるということで、責任重大だ。(全司法) ○公務をどのようにねじまげようとする改革なのか、さらに説得力あるオルグをできそうな話でした。(全気象) 

 【第1〜3講義について】
 ○小田川書記長の講義で、現局面の状況、これからのたたかい方が分かった。来年の通常国会に法案提出となれば、これからわずかの期間しかたたかいの時間は残されておらず、現時点の取り組みが今後の流れを左右する。チューターとなって、職場で地域で奮闘していきたいと決意した次第です。(全気象) ○推進事務局がいかに現行の運用によって実施されている“ひずみ”を合法化しようとしているのか、再び怒りをおぼえた。ILOで強く非難されているにも関わらず、これを強行しようとしている政府・推進事務局の動きを止めなくてはいけない。(全法務) ○聞けば聞くほど、新人事評価制度の危険性を切実に感じた。職場に帰ったら、みんなで理解を深め、団結して阻止しなければならないと感じた。(福島県国公)

(以 上)


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