2001年12月13日《No.73》
「人件費決定の枠組み」「第三者機関の機能」検討に対し意見書を提出
労働基本権回復を強く迫る

 国公労連は、12月12日、行革推進事務局に対して、同事務局が11月20日の自民党行革推進本部長会議に提出した「人件費予算の決定の枠組み」「内閣と第三者機関(人事院)の機能整理」についての交渉を行いました。交渉には、国公労連から山瀬副委員長、小田川書記長、津田中執が参加、推進事務局側からは、春田室長他が対応しました。
 冒頭、山瀬副委員長から「『人件費予算の決定の枠組み』『内閣と第三者機関(人事院)の機能整理』検討は労働基本権にも関わる大変重要なことである」と強調し、別紙意見書を提出しました。
 つづいて、小田川書記長が意見書のポイントを以下のとおり説明しました。
○ 「人件費予算の決定の枠組み」については、労働基本権の制約を現行と同様の制約にしたままという前提だが、「新人事制度」などとの関連がクリアーでない。少なくとも、この間指摘してきた労働条件決定システムとの関係からしても、交渉権問題は整理が必要だ。第三者機関に勧告権があるから労働基本権の「代償」が果たされる制度検討ではないはずだ。当局権限を強めるならば、それとパラレルの関係で労働基本権問題を検討すべきだが、これにはそこが全く言及されていない。
 2つ目に、「内閣と第三者機関(人事院)の機能整理」については、第三者機関の機能と公平性のチェックを分けて考えている詳細検討が必要だ。例えば、研修や中途採用などは労働条件と密接に関わる部分もある。その点での整理を求める。
 また、内閣と内閣総理大臣と2つ出てくるが、政府たる政府と使用者たる政府との人事行政上の役割、権限を切り分けていることは納得できない。今回の進め方にしてもそうだが、政府たる政府である内閣が企画し、国会が承認すれば良いという姿勢には強い不満を持っている。その点でも、公務員制度の人事管理は労働条件問題であり、労働基本権問題の議論が避けられないという観点が希薄である。内閣と労組との関係はキチンと議論すべきだ。このままの「大綱」決定は断じて認められない。
 これに対して、春田室長は、「意見の趣旨は承知した。検討させていただく」旨を述べるに止まりました。
 最後に、山瀬副委員長から「極めて重要な課題であり、意見書の方向で交渉・協議を尽くすように重ねて求めておく」と再度強調し交渉を終えました。
(以上)

【別紙意見書】


2001年12月12日

 行政改革担当大臣
   石 原 伸 晃 殿

日本国家公務員労働組合連合会      
中央執行委員長  堀 口 士 郎 

  「人件費予算の決定の枠組み」「内閣と第三者機関(人事院)の機能整理」検討に関する意見

 貴事務局が検討をすすめている公務員制度改革にかかわって、標記二つの文書が検討段階のものとして提示され、労働組合の意見が求められています。
 国公労連は、この間の交渉・協議等をつうじて、基本設計などの問題点をくり返し指摘してきました。とりわけ、内閣及び各省の人事管理権限を拡大する一方で、労働基本権にかかわる検討が意図的と言えるほど棚上げにされてきたことには、少なからぬ不満を抱いています。
 この間、貴事務局は、労働基本権問題について「人事制度などの固まり具合をみて検討」としてきましたが、提示された文書には、そのような回答の反映があまり見受けられません。労働者が人間らしくはたらく上で、最大限尊重されなければならない基本的人権の一つであり、国際的なはたらくルールとしても確立している労働基本権を、「弄ぶ」に等しいものと受けとめざるを得ません。
 それらの点に、抗議の意思を表明しつつ、今次公務員制度改革にかかわる重要課題として、標記二文書の内容について、交渉・協議の真摯な対応が行われることを強く求めて、下記の意見を申し述べます。

 1 「人件費予算の決定の枠組みついて」は、現段階の内容では、国公労連としては受けいれ難い。このままの内容で、「大綱」決定時に、労働基本権問題の「決着」を図ることには反対である。

(1)労働基本権の制約を現行と同様の扱いとする場合、現状の「代償措置」の内容をふまえた「適切な措置」の検討が求められる。
 現在、人事院が行っている給与勧告は、官民賃金の実態比較にもとづく較差のみならず、各等級号俸の本俸額や諸手当への配分、行政職俸給表との内部均衡をふまえた各俸給表の級号俸の額などとなっている。すなわち、官民賃金の水準比較にとどまらず、較差の配分も同時に行われており、その点が労働協約締結権を有する国営企業等の取り扱いとの違いの一つである。
 較差の配分は、本俸と手当の配分、級別の配分などが内容であり、現行の級別定数もその点もふまえた位置づけが求められる。

(2)そのことからして、「人件費予算決定の枠組みの考え方」は、次の点で受けいれ難い内容である。
 1)情勢適応の原則の下で「設定」されるとする給与水準の性格・内容が不明であり、単に、官民賃金較差を意味するとも考えられるところである。そうであれば、第三者機関の「代償機能」を限定的に取り扱うことになり、労働基本権制約の見直しが必要になる。 より具体的には、この間も指摘してきた、能力等級の構成、職務遂行能力基準の設定、能力給の定額部分、加算部分の設定などを、「誰がどのように行うのか」が、なお曖昧にされていると考える。なお、その点は、「給与水準(金額)決定の枠組み」でいう「勧告」の内容が明確にされていないことにもかかわっている。
 2)「能力等級の人員枠」は、その設定自体が勤務条件である。それは、個別給与の決定と密接にかかわって、級別定数の改定要求(いわいる昇格要求)に対する組合員の関心が極めて高く、概算要求段階から予算編成時まで、各省及び人事院との「交渉」が各級レベルで繰り返されている事実に照らしても、いえることである。
 人員枠は、各府省ごとの構成バランスだけが問題ではなく、職員の専門性の適切な評価や、処遇上の観点からの「昇格ペース」、同一府省内の給与格差など、勤務条件の適正化をはかる観点からの多面的な検討が必要であり、予算策定後のチェックで「代償機能」が果たせるものとは考えられない。第三者機関の「意見申し出」の性格の曖昧さもあわせ、勤務条件問題としての位置づけが不十分である。
 3)各府省の人件費予算の枠内での「弾力的運用」にふれているが、そのような制度設計を行うのであれば、運用時点における労使協議の在り方について、労働基本権の観点から検討を行うべきである。運用時点の公正さを担保する上での「基準」は、勤務条件にかかわり不可欠であることは国営企業等の交渉事項を例にあげるまでもない。
 4)財政民主主義などを前提とする国会の民主的統制は当然であるとしても、そのことが労働基本権問題を曖昧にする論拠とはならない。国会が、全ての府省の人員枠の適否を判断することは事実上困難であり、人件費総額のもとでの配分等では、労働基本権との関係がより重視されなければならない。「代償機能」と労働基本権はパラレルの問題であり、「考え方」はその点が極めて不透明なまま、いたずらに国会の権限を強調していると考える。

 2 「内閣と第三者機関(人事院)の機能整理」については、労働条件との関わりなどがほとんど考慮されておらず、課題整理もふくめて交渉・協議をつくす必要があると考える。そのことから、この内容での「大綱」決定には反対である。

(1)「公務員制度改革の視点」については、この間、くり返し指摘してきたように、意見を異にする部分が決して少なくない。
 国公労連は、現状の公務員制度の運用にかかわって国民の批判が集中しているのは、「キャリア特権制度」や「天下り」問題などであり、「公務の民主的運営」を阻害していると指摘されるほどに深刻化しているのは、行政運営の民主・公正・中立性を確保しうる規制の不十分さにあると考える。
 その点を前提にすれば、各省の人事制度運用責任やその運用にかかわる内閣総理大臣の総合調整権限の明確化を前提としつつも、公正・中立な第三者機関による適切な規制を整備することが必要だと考える。

(2)そのことから、「機能整理の考え方」にかかわって、次の点に疑義があり、当然のこととして、交渉・協議が必要である。
 1)人事行政の企画立案を行う「内閣」と、中央人事行政機関としての内閣総理大臣の関係が不明確だと考える。仮に、両者が同一のものを意味しないとすれば「二重行政」となり、責任の所在が曖昧になるなどの点が懸念される。また、人事行政にかかわる「内閣」の権限と労働組合との関係についても明確にすべきである。
 2)第三者機関の機能の発揮を一律に「事後チェック」とすることには疑義がある。また、内閣の企画立案機能の内容が不明確であるが、仮に勤務条件にかかわる事項についても「必要な意見を述べる」とすることでは、代償措置としては不十分であり、労働基本権回復についての検討を同時に行うべきである。
 3)個別紛争にかかわる救済機能については、「新人事制度の原案」などの検討内容からして、現行の公平制度では労働者の利益保護の観点から不十分であり、労働者代表を含む「個別紛争処理」システムを検討すべきである。なお、各省段階における労働組合参加の「苦情処理システム」も同時に検討すべきである。
 4)人事制度にかかわって、どのような事項を法律事項とし、あるいは政令、規則に委任するのかは、労働基本権とのかかわりで詳細検討が必要だと考える。その点も、交渉・協議の課題である。

(3)「各制度の機能整理」にかかわっては、前記Aで基本的な意見をのべているが、なお補足すれば、次の点に問題があると考える。
 1)内閣が、採用にかかわる制度の企画・立案を行うことは、公正・中立性を確保する上で問題なしとは言えない。また、企画・立案と実施を分離する必要性、効率性などにも疑問がある。
 2)内閣の企画立案機能が、「人事管理の枠組み整備」とするのであれば、労働基本権とのかかわりを同時に議論すべきである。職員の育成などの能率や服務管理の基準などは、勤務条件に影響の大きい事項であり、第三者機関の事後チェックでは代償機能が十全に発揮されるとは考えられない。公正・中立さの担保と同時に、人事管理にかかわる事項については、「勤務条件性」についての詳細な検討が必要である。
 3)内閣による第三者機関への「要請」についても、第三者機関の中立性や代償機能を損なう恐れが懸念される。第三者機関の中立性は、代償機能としての役割発揮に対する「信頼性」ともかかわる。勤務条件とかかわる事項についての「要請」が繰り返されることで、機能の形骸化も懸念される。政府としての第三者機関の位置づけや、「要請」の制約の有無、内閣の企画・立案機能の内容ともかかわっており、それらの点を明確にする必要もある。
 4)救済制度については、事柄の性質からして、迅速性や公正性を担保することが重要である。最終的に、「第三者機関による判定」が保障されているだけでは、実効性に疑問が生ずる。先にもふれているように、各省及び第三者機関における労働組合の関与(労働者代表の参加)を前提とするシステム検討を行うべきである。

(4)個別制度の「機能整理」にかかわって、以下の点を主張しておく。
 1)「官民交流の採用」について、行政の公正・中立性を担保するためにも、第三者機関による事前規制が必要だと考える。それは、採用時点における給与等の公正さを保つ上でも必要である。「機能整理」で示すところの第三者機関による「一定期間内の取り消し命令」や一定条件下での「届出不要」の制度化の考え方は、公正・中立性のチェックを事実上困難にするものと考える。
 2)「再就職ルール」にかかわって、人事管理権者である各省の承認とすることには反対である。同様に、承認基準を内閣が政令で定めることにも、中立性の観点から賛成できない。なお、再就職承認にかかわって、「不服申立て」の検討が行われているが、それは、「職業選択の自由」を口実に再就職を「原則自由」とする姿勢と考えられる。公益目的から、合理的、明確な基準のもと、仮に人事管理権者が承認するとしても、裁量を可能な限り排除する制度検討が必要だと考える。労働基本権問題のように、公益性(公共の福祉)を口実に、基本的人権を制約し続けようとしていることとも均衡を失している。

以上


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