【公務員制度改悪反対闘争・学習シリーズ3】

 

公務員制度の民主的確立をめざす
国公労連の「提言」等

 

 国公労連は、結成以来、「国公労働者と家族のくらし、労働をまもる」責任と「民主的で国民本位の行財政の確立をめざす」責任の二つを一体的にはたすことが、国家公務員の労働組合の役割であることを確認し、その立場でたたかってきました。
 そのようなたたかいの中から、公務員制度の民主的な改革要求を確認し、実現をめざす取り組みを展開してきました。「行政民主化のたたかい」と位置づけてきたその取り組みの中で練り上げてきた公務員制度改革の要求は、政府が公務員制度を「白地から見直す」とする改革作業を進めている今、あらためて確認が必要な内容だと考えます。
 そのことから、これまでのいくつかの提言などから、編集したのが本稿です。職場での学習会や意思統一で、積極的に活用いただければ幸いです。

 

 

 

2001年4月

日本国家公務員労働組合連合会
(国公労連)

 


1 「民主的行財政改革の提言(第1次案)」の概要
2 「大枠」に対する国公労連の申し入れ
3 労働基本権回復にかかわる国公労連の要求政策

 

1 「民主的行財政改革の提言(第1次案)」の概要

1 国公労連は、1997年に、「橋本行革」の動きが急速に強まるもと、それまでの政策提言を再討議し、民主的行財政改革にむけた「提言(第1次案)」を確認し、内外に公表した。
 「提言(第1次案)」では、行財政改革の基本を次の7点とすることを求めている。

(1)政・官・財のゆ着をたちきり、清潔なムダのない行・財政を確立すること。
(2)行政にかかわる汚職、腐敗の徹底した糾明と根絶をおこない、国民にひらかれた参加と監視にもとづく民主的な行政を実現すること。
(3)自衛隊など軍事・治安機構および大企業の利益擁護のための機構、社会経済の変化にともなう不要不急部門の機構、重複している行政の機構は、定員、経費を縮小あるいは廃止し、福祉、教育、医療など国民生活に必要な部門を拡充すること。
 なお、機構の見直しの場合には、経済的な効率性とあわせ社会的な公正さの維持を重視するとともに、中央集権的な機構としないこと。
(4)汚職や腐敗の温床となっていたり、国民に過重な負担を強いている規制や許認可事務は廃止すること。
 一方、人間らしい生活に必要な労働分野の規制や最低基準、公正な競争を維持するための企業活動の規制、環境保護など国民共通の利益を保護する規制は強化すること。
(5)財政再建では、消費税率引き上げなどによる大衆課税の強化や社会保障での国民負担増の方向ではなく、大企業・高額所得者優遇の不公平税制の是正による税収確保と、軍事費や大型プロジェクト中心の公共事業のムダ遣いの見直し、大企業への補助金の整理など全般的な歳出の見直しをすすめること。
(6)国と地方自治体の関係を対等・平等なものにすること。
 機関委任事務は廃止するとともに、国民生活の最低保障や労働者の最低の労働基準の維持などナショナルミニマムを実現する事務は国の責任でおこなうこと。
(7)高級官僚の天下りの禁止、採用試験による特権優遇人事の撤廃などをすすめ、民主・公正・効率的な行政を確保するために公務員が安心して職務に専念できる民主的な公務員制度を確立すること。

 そして、公務員制度にかかわる改革課題として、次のような点に触れている。

○ 「政・官・財」のゆ着をたちきるために次の制度改革が必要です

(1)企業・法人・労働組合などすべての団体からの政治献金を禁止し、政治活動について寄付できるのは個人に限定する。ただし、国、地方公共団体等と一定の利害関係にある(公共事業の受注など)団体の役員個人からの献金は禁止する。
 政党及び政治家個人の受けた政治献金は、その収支の公表を義務づける。
(2)本省庁の局長及び相当職以上の公務員や政府関係特殊法人の役員が利害関係のある営利企業に「天下り」することを禁止する。公務員の政府関係法人への「天下り」についても厳格に規制する。
 また、大企業の社員などが行政機関の職務に従事する「天上り」も、行政の中立、公正を阻害する恐れがあることから禁止する。
(3)総理大臣など国務大臣や政務次官、政府関係特殊法人の役員が営利企業の役員等の職につくことを禁止する。また、国会議員が国と利害関係を有する企業や団体の役員、顧門等を兼務することを禁止する。
(4)職務権限の行使によつて選挙運動に相当の影響力をもちうる官職にある公務員が、離職直後に選挙へ立候補をすることを制限する。
(5)公共事業については、年度当初に工事計画、件数、予定価格を公表し、規模、工種等によりランクをつけ、公開・競争の入札とし、不正・手抜工事防止の監督体制をつよめる。
(6)国政調査権にもとづく広範な行政監察の機能を充実する方策を講ずる。
 また、国民の行政にたいする疑惑を解明するために、国会の任命する「行政監視委員(オンブズマン)制度(仮称)」を創設する。
(7)国費の使用を監視する会計検査院の権限と機能、体制を充実し、国や公社、公団などと取り引きのある民間企業の経理内容も検査の対象とする。また、会計検査院と他省庁との人事交流を原則として禁止する。
(8)公務員が行政機構内部で、国民の利益に反する間題や不正、腐敗について監視、摘発できる「内部告発権」、違法・不当な職務命令等に対する「意見表明権」を保障する。これらを実行あるものにするためにも行政機構内部の監察制度を整備する。
(9)職務遂行上心要な会議費や渉外費、深夜業にともなう帰宅交通通費など、当然に認められるべき経費については、これを適正予算化する。

○ 公務員制度については次の点の検討が必要です

(1)ストライキ権など労働基本権を全面的に回復し、近代的労使関係を確立するとともに、政治活動の自由を保障する。
(2)特権優遇人事をなくし、すべての公務員が能力をつちかい、それを発揮できる公平な機会を保障する民主的な研修、任用制度を確立する。
(3)公務員が安心して職務に専念できるようにするため、国民の合意の得られる社会的均衡のとれた労働条件を確保するとともに、安定した身分保障を確立する。
(4)省庁間配転にあたつては、国民の立場から当該省庁の行政需要を民主的に検討したうえで配転基準をきめ、事前の職業訓練、研修や労働条件の確保など、効率的な人事行政に資するよう本人の合意を前提に、当該労働組合との協議にもとづいておこなう。
(5)常勤職員と同じ勤務形熊で、恒常的な業務に永年従事している「非常勤職員」は、公務における差別、不安定雇用の解消という立場で、定員化する。

 以上のような内容は、「全体の奉仕者」としての公務員(憲法第15条)をめざした現行の公務員制度が、「キャリア特権制度」などに端的にあらわれているように、「運用」によってゆがめられた部分の是正を注視いいにおいたものである。公務員の働き方は、労働条件に密接にかかわる公務員制度だけに規定されているわけではなく、予算や定員、あるいは行政執行の権限を規定する「個別の作用法」にも影響されている。近年、急激に変化しているそれらの点をふまえても、「提言(第1次案)」がふれている公務員制度の改革事項は、その民主化にとって中心の意味を持つことは、今日でも変わらない。

2 なお、現行の公務員制度が持つ意味は、多くの問題点をもつ公務員制度調査会「基本答申」(1999年3月)でも、次のように述べている。

 現行の公務員制度においては、行政に常に求められる専門性、中立性、能率性、継続・安定性を確保するため、その基本的枠組みとして、能力の実証に基づく任用、職務への専念と政治的中立を基本とする職務規律、適正な勤務条件の保障を定めている。これらは我が国のみならず、先進諸国において職業公務員に関する基本的な枠組みとして歴史的に確立してきたものであり、民主主義のもとにおける公務員の職務の特殊性として今後とも維持されるべきである。

 行政改革会議の要請をうけ、「橋本行革」における公務員制度改革を論議した公務員制度調査会でも、公務員制度の基本原則として「専門性、中立性、能率性、継続安定性」を確認せざるをえなかった。それは、「基本答申」が触れているように、「民主主義」のもとにおける公務員の制度として、歴史的に検証されてきたものだからである。
 今回の「大枠」が、そのような基本原則さえ否定しようとしていることをふまえれば、「大枠」に対峙した公務員制度改革の「政策」を国公労働者が持っていることは、積極的に打ちだす必要がある。


2 「大枠」に対する国公労連の申し入れ

1 3月27日、国公労連は、「大枠」の内容ともかかわる公務員制度改革の申し入れを以下の内容でおこなっている。

(1)公務員制度の検討にあたっては、行政執行に日夜奮闘している公務員に目をむけてすすめる必要があります。特に、あらたな「給与体系の構築」の内容は、「公正効率」の行政執行の阻害要因にもなりかねず反対です。

○「大枠」は、全体として、政策の企画立案に働くキャリア層を公務員像の中心においたものとして受けとめています。50万国公労連労働者全体を視野にいれた検討をおこなうべきです。
○法に基づく行政を、経験を積み重ねることで専門性を高めながら、最善を尽くして執行することが求められる公務員に、どのような意味での「競争原理」が求められるのか、なぜ、職務給原則の給与制度が不適当なのかを明確にすることが求められます。
○給与を「能力」、「職責」、「業績」に3分割するとしていますが、いずれも数値化に困難性をともなうと考えます。それぞれについての水準を決定する合理的な基準としてはどのようなものが検討されているのでしょうかなど、詳細は説明が必要です。
○業績評価における評価基準について、例えば、手続きの簡素化とか予算の節約があげられています。「より安く、より簡便に」だけの評価基準で、公正、安定的な行政執行は困難になりかねません。
○民間企業での賃金制度を参考にしたとされていますが、例えば評価手法が確立し得ないことや、競争を煽るあまりにモラルハザードがおきることなどの弊害もあって、一部では見直しの動きも出ていますが、そのような「失敗」は、どのように検討されたのでしょうか

(2)公務員労働者に労働基本権を回復することは、憲法の理念に照らしても、当然だと考えます。いわんや、人事院による級別定数制度を廃止して各府省の判断と責任で給与決定できる仕組みを基本にし、「責任ある人事管理体制の確立と自由度の拡大の観点から、大臣を「人事管理権者」とする改革であるとならば、全公務員労働者の労働基本権を全面的に回復すべきです。

○代償措置にかかわる判例等からしても、労働基本権回復と各省大臣による人事管理体制確立は裏表の関係です。にもかかわらず、「十分検討」とすることでは検討が不十分であるだけではなく、公務員労働者を無権利状態に押し込むことになりかねません。
○また、内閣が国家公務員制度の企画立案機能などの権限を持つのであれば、そのこととかかわる労働基本権問題も検討すべきです。

(3)「多様な人材の確保」、「適正な再就職ルールの確立」などにかかわって、「人事院の事前承認、協議制度」を廃止し、各府省(人事管理権者とされる大臣)の判断と責任で運用あるいは承認することとされています。公務員の採用をはじめ、任用全体にかかわって情実人事を排除することは、公務員制度の基本です。例えば、事後の採用取り消しなどが極めて困難であることなどを考えれば、第三者機関による事前チェックは必要です。

(4)T種、U種など、「採用段階の区分にとらわれない適材適所の任用」は、現在の公務員制度の基本原則で、問題とされる実態は運用上の問題です。信賞必罰の人事管理の確立をまつまでもなく、即時具体化すべきです。

(5)再就職規制にかかわっては、「関連性の強い営利企業」への再就職は、原則禁止とすべきです。

(6)民間企業等との人材交流の促進にかかわって、「民間情報を収集」を円滑におこなうためとして公務員倫理法の形骸化を検討し、民間企業からの採用に際しての各省判断による処遇での任用、民間企業から登用された人材の民間再就職の際の規制見直しなどは、行うべきではありません。

○「関連性の強い企業」からの採用や、その人が元の企業に「再就職」することをフリーにすることこそ、官民癒着の温床です

(7)「国家戦略スタッフ群(仮称)」の創設など政策立案を主任務とする公務員を一般職国家公務員の中で区分することには反対です。政治と行政の関係にかかわる基本的な問題であり、特別職国家公務員の範囲の見直しなど、他の方策を検討すべきです。 

 当面、政府の行革推進事務局とは、この申し入れの内容での交渉をおこなうこととしている。


3 労働基本権回復にかかわる国公労連の要求政策

1 国公労連は、1998年12月1日、公務員制度調査会に対して、労働基本権回復にかかわる申し入れをおこなっている。その内容は、全労連が1996年3月に明らかにした「公務員労働者の労働基本権を回復するための『立法構想』(素案)」をふまえたものである。
 その概要は、以下のとおりである。

1 団結権の保障

 現行法(国公法第108条の2第5項、地公法第57条第5項)では、警察職員(入国警備官を含む)、海上保安庁職員、監獄職員、および消防職員の団結権を禁止している。争議権の全面承認は別にしても、団結すること自体を禁ずる合理的根拠はないと考える。
 したがって、これらの職員にも、団結権、協約締結権を含む団体交渉権を保障すること。

2 団体交渉権及び労働協約締結権の保障

(1)国公法第108条の5は、第1項で、登録職員団体から「適法な交渉の申し入れがあった場合においては、その申し入れに応ずべき地位に立つ」と規定し、当局に交渉応諾を義務づけているが、非登録団体については応諾義務を明らかにしておらず、第2項で協約締結権を否認している。職員団体(労働組合)の団体交渉権と協約締結権を明文で保障すること。
(2)国公法第108条の5第3項では、「国の事務の管理及び運営に関する事項は交渉の対象とすることができない」と規定し、これを根拠に、いわゆる「管理運営事項」の範囲を恣意的に拡大して団体交渉を拒否する場合が少なくない。
 したがって、「管理運営事項」であっても、それが労働条件に関するものはすべて団体交渉の対象事項となる旨の規定を設けること。

3 協約権の承認にともなう財政民主主義との調整

 憲法第83条は、財政の民主的コントロールの原則を明らかにし、第85条で国費の支出は国会の議決を必要とする旨を規定している。したがって、協約締結権の承認にともない、締結された協約の内容が特別の財政支出を必要とする場合は、この規定との調整をはかる必要がある。その場合、国営企業労働関係法第16条第2項の規定を準用した規定を設けること。
 また、締結された協約の内容が法律・条例に抵触する場合は、前項に準じて地公労法第8条を準用して、法律・条例の改正又は廃止することとし、その際労使間協定の尊重義務に関する規定を設けること。

4 ストライキ権を含む争議権の確立

(1)ストライキ権の保障と刑事、民事免責の確立
 ストライキを含む争議行為の全面一律禁止、懲戒処分、刑事罰の諸条項を廃止し、公務員の争議権を保障して、労働組合法第1条第2項(刑事免責)及び第8条(民事免責)の規定を準用すること。
(2) 争議行為と「国民生活」との調整
 争議権の行使にあたっては、公務員の争議が民間労働者の場合と比べて、国民生活に与える影響の強さからみて、公益企業の争議行為の制限を規定した労働関係調整法を準用することとし、紛争にかかわる斡旋、調停、仲裁のほか、争議行為の予告(労調法第37条)、緊急調整制度(同第35条の2)、安全保持施設に関する規定(同第36条)などを設けること。
 その場合、中央労働委員会に代えて、「公務労働委員会」を新たに設けること。
(3)保安要員の確保
 争議行為による業務の停滞が国民・住民の生命、安全、衛生その他の日常生活で回復できない重大な支障をもたらす場合は、当局側の責任で最善の措置を講ずるべきであるが、その措置が十分に講じえない場合は、必要最小限の保安要員の提供を法的に義務づけるものとし、保安要員に関する協定が不成立の場合には、「公務労働委員会」の仲裁で決めることとすること。
(4)調停前置
 争議行為に先立って、調停前置主義を取り入れ、「公務労働委員会」の中に「実情調査委員会」を設け、実情を公表する制度とし、調停期間を10日として、それが過ぎればストライキを開始できることとすること。

5 公務労働関係局、民主的人事行政機関、公務労働委員会の設置

(1)労働基本権の保障と勧告制度の廃止
 労働基本権の保障にともなって、現行の人勧制度は廃止する。
(2)公務労働関係機関
 国公労働者の使用者としての政府の対応機関として、賃金、労働時間その他の労働条件にかかわる事務を統括し、団体交渉、労働協約など労働関係上の事務を日常的、統一的に掌理する機関として、内閣直属か、あるいは総務庁に「公務労働関係局(省)」を設置し、各都道府県にその出先機関を置くこと。

2 その後、独立行政法人制度が創設されたこともふまえた「財政民主主義」との調整など、労働条件決定システムとしての補足は必要であるものの、労働基本権回復にかかわる国公労連の要求政策の基本であることには変わりはない


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学習シリーズ1  「公務員制度改革の大枠」の内容批判

学習シリーズ2 信賞必罰!? 能力・実績主義を考えよう

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