2004年人事院勧告についての解説

 (公務労組連絡会発行の「2004年人事院勧告特集号」(8月6日発行)から)

▼「マイナス勧告」阻止
 一時金もすえ置きで「6年連続の年収減」許さず
 −−寒冷地手当改悪を強行−−

 水準、配分、一時金

 官民較差は0.01%、39円と微少のため、月例給の改定には至らず、3年連続の俸給引き下げは避けられました。
 これは、寒冷地手当の改悪(指定解除地域以外は今年から3万円減額)を含めた結果です。
 寒冷地手当のマイナスが無ければ、今年も公務が民間を上回る「逆較差」(△207円)になるとしています。寒冷地手当改悪で官民均衡の帳尻を合わせるという内容です。
 なお、今回の勧告では、官民比較方法が一部見直され、行政職(二)を含む「行政職比較」から「行政職(一)比較」に改められました。組合の要求も踏まえた結果ですが、その具体的影響は不明です。
 特別給については、官民の支給月数が概ね均衡しているとして、支給月数の変更が見送られ、年間4.4月(一般の職員の場合)に据え置かれました。これにより、6年連続の支給月数引き下げだけは避けられた形です。
 しかし、「過去最高」ともいわれた民間夏季一時金の動向(日本経団連の調査で、昨年夏に比して2.85%増)や、7月一杯までの調査に改められたことを考え合わせると、据え置きという結論には到底納得できず、期待を裏切るものです。

 国立大学法人化

 国立大学の法人化に伴う給与法等の諸整備として、高校、小中校教員に適用されていた教育職(二)(三)俸給表の廃止などの措置が勧告されました。これはあくまで、国の対象職員がなくなることに伴う国の給与制度上の形式的整備です。「義務教育等教員特別手当の廃止」も同様の趣旨で、これらの措置が公立学校の教員に及ぶものではありません。
 公立学校の教員給与は、教育公務員特例法の改定で「国準拠性」は廃止されたものの「職務と責任の特殊性に基づき条例で定める」こととされ、また「義務教育等教員等教員特別手当の内容は条例で定める」とされています。
その他
 報告では、来年度以降の比較方法の見直し検討にもふれています。通勤手当を比較給与からはずす代わりに、俸給の特別調整額を新たに加えること、民間の組織変化に対応できる官民比較の検討などが具体的な内容です。

 寒冷地手当

 人事院は1月26日、「民間準拠」を基本に寒冷地手当の支給対象地域及び支給額の抜本的見直しを行うことを提案してきました。
 その内容は、民間における寒冷地手当の支給事業所割合が北海道は約81%ですが、その他の府県では過半数以下となっているとして、北海道以外はすべて支給対象外とするものでした。
 これに対して、札幌、仙台、新潟、金沢、長野などで寒冷地手当改悪反対の集会を開催し、地方議会における請願採択などのたたかいを展開し、中央行動と寒冷地域代表が参加した人事院交渉・要請行動を実施し、繰り返し人事院に検討を迫りました。
 その結果、人事院は平均気温と最深積雪の二つの「気象データ」に基づき、本州でも気象条件が北海道と同程度であれば、北海道の「権衡地域」として支給対象地域とする再提案を行うに至りました。
 さらに、公務労組連絡会・国公労連が気象データの利用方法についての矛盾点と問題点を追及するなかで、積雪地域における生活の困難性についても、一部考慮させる基準を認めさせました。
 その内容は、(1)平均気温0度(氷点)以下かつ最深積雪15センチ以上の市町村、(2)平均最深積雪80センチ以上の市町村を支給対象地域とするというものです。
 一定の「譲歩」は引き出しましたが「民間準拠」を基本に市町村の4割強、職員の約半数を対象から除外し、支給額について約4割引き下げる改悪は強行されています。
 実施時期も大きな争点でした。人事院は、所要の経過措置を講じることを口実に、実施時期を本年(公布日から)とする勧告を強行しました。
 支給方法については、10月31日の一括支給から11月から翌年3月までの月額制に変更とし、豪雪に係る寒冷地手当は廃止となりました。
 なお、経過措置は、指定解除地域が2年間据置、3年目は4万円減額、以降3万円刻みで逓減し、最大6年間支給。支給額引き下げ地域は、今年3万円減額、来年から2万円刻みで逓減し、最大5年間支給となっています。

 ▼20%もの地域間格差ねらう
  実績反映の査定昇給を導入


  人事院は、02年報告以来言及している「給与構造の基本的見直し」について、本年はより具体的な検討課題を示すとともに、05年勧告での結論付けをめざした作業を進めることを表明しました。
 勧告直前の交渉で人事院は、「公務員制度改革で中断していた給与構造見直し」の成案をえるための「議論」を労働組合に呼びかけました。
 今秋の臨時国会に提出がめざされている公務員制度「改革」での能力・実績主義強化の人事管理と、人事院の給与制度「見直し」との間の距離はなくなった、ということなのでしょう。

 具体的な検討項目を提示

 人事院が「給与構造の基本的見直し」を進めようとする問題意識(「見直し」の必要性)について、「報告」では、「年功的な俸給構造」など3点を強調しています。
 そして、3点の問題意識をふまえた具体的な検討項目として「報告」が触れているのは、「俸給表の全体水準引き下げ」などの内容です。
 これらの検討項目は、それぞれ個別にも問題点や制度面での検討が必要ですが、同時に「見直し」の結果、誰にどのような影響が集中するのか、という総合的な視点での問題把握が必要です。
 さしあたり、地域、機関・職務、それに「査定」による個別の格差の3点から「報告」を検証しておきます。

 地域間格差を20%に

 人事院は、報告で、役職段階等が官民で同じものとして賃金比較をおこなうラスパイレス比較が可能なブロック別の官民賃金較差を明らかにしています。
 それによれば、最も逆較差が大きいのは、北海道・東北ブロックで、公務員賃金が「4.77%高い」ということになります。人事院の検討方向がブロック単位で具体化されることになれば、現行の俸給表水準(全体)を「4.77%」引き下げることになります。その上で、例えば東京23区では、現行の調整手当(12%)に「8.49%(4.77%+3.72%)」を加えた新たな「地域手当」を支給することが考えられます。
 中国ブロックで、調整手当が支給されていない地域、例えば山口市では、「2.43%(4.77%−2.34%)」のあらたな「地域手当」の支給を検討することになると考えられます(実際は2.34%の賃下げ)。
 現行の調整手当の非支給地域の多くが賃下げとなり、逆に、東京、関東甲信越に厚く給与が配分されることになります。人事院は寒冷地手当改悪に加えて、5%近い賃下げを北海道などに強制する検討をおこなうと「宣言」しているのです。

 本省重視の配分見直しも

 検討項目で、賃下げ要因となるのは、俸給水準引き下げだけではありません。級構造の見直しや昇給カーブのフラット化は、本省、管区、出先などの機関間格差を拡大し、地方支分部局(出先機関)の賃金水準を引き下げることは必至です。級構造の見直しとかかわって、「本省重要課長を対象とする12級の新設」が検討課題になっているといわれています。
 職務・職責重視の強調は、機関別では本省を、役職段階では課長級以上の処遇を重視した給与制度を意味しているのです。地方出先機関で、役職段階が低い中高齢層に「負の部分」が集中します。地域に働く公務員の賃下げは、級構造見直しでも進むことになります。しかも、その実態は、「地域別官民給与の較差」のような形で毎年公表され、地方自治体の賃金決定にも影響することになります。

 査定昇給など個別格差拡大も

 地域、出先、中高齢者に「焦点」をあてた賃下げの制度改悪にくわえて、査定昇給など個々人の賃金格差を拡大する施策が検討されることになります。「課長補佐以上は昇給者の割合を5割」などのシビアな検討もおこなわれている模様です。
 年功賃金体系是正の「切り札」として、査定昇給などが検討されていることは確実ですが、結果として、ここでも昇格回数が少ない機関の中高齢者の賃下げ、賃金抑制策になることになります。

 来年勧告で総仕上げねらう

 人事院は、極めて大がかりな給与制度「見直し」を来年勧告で仕上げようとしています。政府が進める「構造改革」の集中改革期間(06、07年度)に公務員給与「見直し」=賃下げ施策が動き出すことがめざされている、と考えざるをえません。能力・実績反映の人事管理をめざす公務員制度「改革」も、06年度実施がめざされています。
 差別的処遇の是正や、給与格差の是正をめざし、公正で民主的、かつ安定的な公務運営の実現をめざす労働組合のとり組みは、今回の「報告」も契機に、重要な局面を迎えることになりました。

 ▼育児・介護中の働く環境を整備

 報告「新たな公務員人事管理の実現に向けて」では、「勤務環境と服務規律の整備」として、7月に出された多様な勤務形態に関する研究会の中間とりまとめを受けた検討を進めるとしています。

 部分休業の拡大、短時間勤務の導入検討

 具体的には、部分休業の対象となる子の範囲を小学校就学前の子まで拡大することなどを検討し、別途意見の申出を行うとしています。
 また、育児・介護を行う職員が、常勤職員のまま短時間の勤務をすることを認める短時間勤務制度の導入についても検討を進めるとしています。
 短時間勤務制度の本格的導入となると、賃金、処遇の扱い、共済の適用、定員問題等クリアすべき問題も少なくありません。
 育児・介護をしやすくするため早出・遅出勤務の適用や、在宅勤務、自宅等での勤務ができるようにすることにも言及しています。
 1日8時間の勤務時間は維持しつつ、勤務の開始や終了時間をずらしたり、勤務場所を自宅や近くの事務所として通勤時間を短縮することも検討課題です。
 また、管理者が職員の意向に基づき、計画的に弾力的な勤務時間の割り振りができるような仕組みの導入の検討にも言及しています。

 男性職員の育児参加促進策

 男性職員の育児参加の促進にも言及しています。内容は、妻の産前産後の期間の男性職員の育児休業、部分休業又は年次休暇の取得促進、妻の産前産後の期間の育児のための特別休暇制度の導入などです。
 報告では、職業生活と家庭生活の両立の支障となる長時間勤務を解消、軽減するために、早出・遅出勤務の活用促進することや、管理職に「残業はコストである」という意識を徹底させるなどにより、超勤縮減を図ることにも言及しています。

 非常勤職員の子の看護休暇

 私たちが求めていた、非常勤職員の処遇改善では、子の看護休暇を認める必要があるとの考えを示しています。これは、運動の前進面であり、早い制度化が求められます。

 これらの報告を、絵に描いた餅としないため、制度化と定着をめざす取り組みを強めていく必要があります。

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