「不利益遡及」をまたもや勧告

 

―給与制度、働き方の全面的見直しに言及―

 

解    説

 

水  準

 人事院は、官民逆較差「△1・07%、△4054円」が生じたとして、2年連続の賃下げを勧告しました。
 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」4月分によれば、所定内給与は対前年比で0・4%の減にとどまっています。
 また、人事院の民調結果は、一般の従業員でベースダウンを実施した事業所の割合はわずか3・6%で厳しい情勢の下でも労使が賃下げ回避をはかろうとしている民間の状況を示しています。
 1%台のマイナス勧告は、人事院の官民比較方法への疑念を抱かせる大きな賃下げ勧告と言わざるを得ません。

マイナス遡及

 官民給与を4月時点で比較していることを口実に、4月から給与改定実施の前日までの期間の官民較差相当分を減額させる調整措置も勧告しました。
 その「調整方式」については、昨年の個別精算方式から定率調整方式に変更することにしていますが、これも不利益遡及にほかなりません。
 「調整方式」の変更について、人事院は昨年の給与法改正法案に対する国会の付帯決議、本年の国営企業等の仲裁裁定の内容も踏まえたとしています。一度法律に基づいて支払われた賃金を4月に遡って取り戻すようなやり方は、民間でも公務でも決してあってはならないことです。民間への悪影響を含めて2年連続の不利益遡及は断じて認められない暴挙です。

配  分

 マイナス原資分は、俸給表と扶養手当、住宅手当に配分されます。俸給表の改定では、すべての級のすべての俸給月額について引き下げ改定を行います。
 級ごとに同率の引き下げが基本と述べつつ、初任給付近の引き下げ率は緩和し、管理職層の引き下げ率は平均を超える率としています。
 初任給周辺の引き下げ率の緩和は、私たちの初任給改善要求が一定反映したものです。しかし、民間では、初任給据え置きが大半を占めており、民調結果からも引き下げの理由はまったくありません。

諸 手 当

 扶養手当は、配偶者の額を500円削減し、1万3500円にしています。民間では配偶者・子の手当額が減少している中で、「子を扶養する職員の家計負担の実情を考慮して」としています。少子化などに一定の配慮をしたとしても、単収世帯への影響は少なくありません。
 住居手当は、自宅に係る手当を新築・購入から5年以内(2500円)に限定し、1000円に係る手当が廃止されます。持ち家居住者の多くは住宅ローンを抱えていることへの配慮はありません。
 調整手当は、異動保障のワンタッチ受給を防止するため、6カ月以上の在勤を条件とするほか、支給期間の短縮化(3年→2年)及び2年目の支給割合を8割に逓減させることとしています。今回の見直しが国会質問等に端を発したものであることは、労使関係への政治の介入といった点で問題です。
 通勤手当は、交通機関利用者について、民間の動向等を踏まえ、6カ月の定期券等の価額の一括支給に変更しています。
 また、これに伴い最高支給限度額を従来の5万円から5万5000円とし、交通用具使用者についても、片道40km以上について4段階増設するなど、私たちの要求を踏まえた一定程度の改善を行っています。

一 時 金

 一時金については、支給月数を0・25月引き下げ、年間4・4月分に減額しました。この5年で0・85月もの削減です。しかも、一時金の削減はすべて期末手当で処置するとしており、相対的に査定部分である勤勉手当のウエートが高くなり、成績主義強化という観点からも容認できません。

給与構造の基本的見直し

 報告部分は、当面の人事院の政策表明ともいうべき性格を強めています。
 最も重要な内容は、「職務・職責を基本に、勤務実績等を重視した制度となるよう給与制度全般の見直しを行いつつ、民間給与の地域差に対応できる仕組みとするなどの見直しが必要」と、給与制度全般の見直しを宣言したことです。
 本年7月の「地域に勤務する公務員の給与に関する研究会」の基本報告を踏まえたもので、本俸水準引き下げも念頭に、新たな地域調整手当や職責手当の創設などをテコに、公務内部の地域間格差拡大と俸給構造の抜本見直しをねらうものです。同時に、政府の狙う「能力等級制度」に対して「職務給制度」堅持の立場を鮮明にしつつも、成果給的拡大は是認しています。
 民間の地域格差分析の不十分さ、勤務実績評価の客観性への疑問などからして、公務にふさわしい給与制度に逆行する方向です。

寒冷地手当の実態把握、特殊勤務手当の見直し

 寒冷地手当について、一部マスコミ報道などを受けた形で突如見直し方針が示されました。支給地域・支給水準について、勧告後に全国的な調査を行い、その結果を踏まえて必要な検討を進めるというものです。前回見直し(96年勧告)以来、寒冷地生計費の大きな変化もみられない中、外部からの圧力に押される形で見直しに踏み切る姿勢がここにも表れています。
 特殊勤務手当について、特殊性が薄れているもの等について見直しを行うとも述べています。

国立大学等の法人化に伴う教育職俸給表等についての検討

 国立大学等の法人化に伴う教育職俸給表の「見直し」の結論は先送り、さらに関係者と意見交換を行い、早急な検討を進めることとしています。

官民比較方法、特別給の算定方法

 行政職俸給表(二)について、来年から官民比較職種の対象外とする方向で検討すること、特別給について、民間の状況をより迅速に反映させるため、来年以降、前年冬と当年夏の民間支給状況の調査の結果に基づき支給月数の改定を行うことを述べています。
 行(二)の比較職種からの除外については、組合が強く要求してきたもので、国立大学の法人化や国立病院の独法化というぎりぎりの段階で踏み切るものです。特別給についても、調査時期と支給時期のタイム・ラグの縮小を求めた結果でもあります。

公務員制度改革

 昨年に続き公務員制度改革にかかわる別報告を行っています。
 今回の報告では、今後の各界のオープンな議論を進めることを求め、人事院としての意見を表明しています。「能力等級制度」への妥協的表現や年功賃金排除の姿勢など一部疑問点は残るものの、代償機能や人事行政の中立・公平確保を強調する内容となっています。
 同時に勤務環境の整備に関して、情勢への的確な対応や職員の個人事情等への配慮を口実に、フレックスタイム制、短時間勤務制、裁量勤務制等の「多様な勤務形態」の検討を積極的に打ち出していることは問題です。超勤縮減やサービス残業の解消、非常勤職員問題の抜本改善に真っ正面から取り組まず、民間並の雇用形態の多様化で対応する方向は、公務の安定的職務遂行や職員の雇用・身分保障にも影響を与えかねず、十分な警戒が必要です。

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