「不利益不遡及の原則」ふみにじる

 

―給与制度、公務員制度の抜本的見直しに言及―

 

解    説

 

水  準

 人事院は本年4月に官民給与比較をおこなった結果、給与勧告制度創設以来初めて官民逆較差「△2.03%、△7770円」が生じたとして、その是正にむけて史上初の俸給表のマイナス改定を含む月例給の引き下げ改定措置を勧告しました。
 今春闘での民間賃上げ結果は、主要機関の賃上げ結果調査でみると、「定昇込み」で1.2〜1.7%程度となっています。これ自体は、確かに春闘史上最低の賃上げ結果ではあります。しかし、経営側のベア・ゼロ方針や定昇ストップ攻撃などの非常に厳しいといわれた情勢のなかでも、労働側がマイナス改定を食い止めるために、必死でがんばったことを結果は示しています。
 ところが、今回の賃下げ勧告(△2.03%)によって公務は定期昇給(1.7%程度と推定)があっても、0.3%以上のマイナスになってしまうことになります。
 民調による民間事業所における給与改定の状況調査でも、「ベースダウン」を実施した事業所比率は一般従業員で2・5%、「所定内給与等をカット」した事業所比率は4.2%にとどまっており、それほど大幅な賃金カットが行われている形跡はありません。
 ですから、2%を超える賃金カットという勧告内容は、明らかに民間準拠の原則にも反する意図的な引き下げ勧告といわざるをえません。

事実上のマイナス遡及

 さらに問題なのは、この大幅マイナス分を事実上4月にさかのぼって実施するのと同様の手法(12月の期末手当で一挙に調整)をとろうとしていることです。
 正常な労使関係を前提にすれば賃金の不利益改定はできるだけさけるのが常識です。厳しい情勢のもとでも、賃金カットの実施事業所比率がそれほど多くないという民調結果もそれを示唆しています。また仮に賃金のマイナス改定が決まったとしても、「不利益不遡及」の原則から、すでに支払った賃金分を剥ぎ取るような改定は決してありえません。
 労働者の権利や利益保護の常識であるこの「不利益不遡及」原則までいとも簡単に踏みにじる今回の措置は、職員の利益擁護機関としての人事院の役割をみずから放棄するものにほかなりません。

配  分

 マイナス原資分は俸給表と扶養手当に「配分」されることになります。これは組合の要求も反映して、現行の本俸:諸手当比率=85:15を基本的に変更しないという判断によるものでもあります。
 俸給表の改定では、すべての級のすべての俸給月額の引き下げ改定を行うことにしています。級ごとに同率の引き下げが基本で、行政職(一)では、平均の引き下げ率が2%のところ、1、2級=1.7%、3級=1.9%、4〜7級=2.0%、8級以上=2.1%となっています。初任給付近は引き下げ率が若干緩和されています。
 しかし、初任給は民間でも据え置きの動きが基本であり、民調結果から見てもこれを引き下げる理由はまったく見あたりません。

諸 手 当

 扶養手当は、(1)配偶者の額を2000円削減し、1万4000円に、(2)3人目以降を2000円増額し5000円にしています。
 このことについて、人事院は、「女性の社会進出などに伴う家族の就業形態の変化や配偶者手当の見直しの動き等」や「子等を扶養する職員の家計負担の実情や配偶者に係る手当額を引き下げることにより影響を受ける世帯全体の生計費負担を考慮し」としています。
 現実に配偶者を扶養している職員の家計からすると、大きな影響があります。
 また、俸給の調整額については、1998年の経過措置を廃止し、新たな措置を講じるとしています。これは、今回のマイナス勧告により、経過措置の額が増加するという制度の矛盾を解消するための措置ですが、賃金改善が厳しい時期だからこそ、激変緩和の経過措置とすることが求められます。

一 時 金

 一時金については、民間の支給割合との均衡をはかるという理由で、支給月数を3月期で0.05月削減した上で、年間支給回数を、3月期を廃止し、6月期と12月期に配分し、年2回支給にするとしています。具体的には、3月期末手当0.55月を廃止し、6月期を期末手当1.55月(0.1月増)と勤勉手当0.7月(0.1月増)とし12月期を期末手当1.7月(0.15月増)と勤勉手当0.7月(0.15月増)としました。
 但し、今年度は、3月期末手当を12月の期末手当に0.3月移し、3月期に0.2月の期末手当を支給することとしています。勤勉手当の支給割合増は、成績主義強化の観点からも容認できません。

給与制度の抜本的見直しに言及

 各地域に勤務する公務員の給与の在り方見直しについては、民間賃金調査での事業所抽出方法見直しを本年おこなったことや、内閣からの要請があるとして、早急な結論を得るための検討を進めるとしました。そのため学識経験者を中心とする研究会を設置し、俸給制度や地域関連手当をはじめとする諸手当の在り方の抜本的な見直しを行うとしています。
 また、職員の職務・職責を基本に能力・業績等が十分反映される給与制度を構築するとの考え方も示しています。
 このような給与制度見直しの方向は、本府省と地方及び年功賃金体系見直しという世代間の配分見直しを不可避にし、給与制度そのものの抜本的改革となることは必至です。
 後述する公務員制度改革の中心的課題となる見直しが、ここで宣言されています。

公務員制度改革への「対案」を報告

 「超過勤務縮減への規制強化」「男女共同参画実現のための実効性確保」「非常勤職員の労働条件改善」など、働くルール確立の立場から要求してきた点も含め、人事院は公務員制度改革について別途の報告を行いました。いわば「大綱」に対する人事院の「対案」と考えられる内容です。
 報告では、グローバル化など今日的課題への対応と同時に、特権主義的な官僚制度など非民主的な体質をぬぐい去ることが公務員制度改革の目的だとして、推進事務局との違いを強調しています。そして、改革が向かうべき基本方向を「国民全体の奉仕者」としての公務員の確保・育成など、2点に置き、具体的な検討課題をそれぞれ列記しています。
 また「大綱」に対しても基本的視点と具体的内容の両面から、批判を述べています。能力、業績反映の賃金制度など、「大綱」と共通する部分と、「天下り」問題での内閣一括管理など、「大綱」への批判に乗じた主張が混在する内容となっています。

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