平成13年8月8日

 

衆議院議長  綿貫 民輔 殿
参議院議長  井上  裕 殿
内閣総理大臣 小泉純一郎 殿

                      人事院総裁 中島忠能

 

 人事院は、国家公務員法、一般職の職員の給与に関する法律等の規程に基づき、一般職の職員の給与について別紙第1のとおり報告し、併せて給与の改定について別紙第2のとおり勧告するとともに、公務員人事管理について別紙第3のとおり報告する。

 この勧告に対し、国会及び内閣が、その実現のため、速やかに所要の措置をとられるよう切望する。

 


目 次

別紙第1 職員の給与に関する報告

 T 給与勧告の基本的考え方

 U 官民の給与の比較

 V 経済・雇用情勢等

 W 本年の給与の改定等

 X 給与勧告実施の要請

 

別紙第2 勧告

 

別紙第3 公務員人事管理について

 1 公務員人事管理をめぐる動き

 2 今後の公務員制度改革の視点

 3 喫緊の課題


別紙第1

職員の給与に関する報告

 

 我が国の社会経済システムが大きな転換期を迎える中で、新しい世紀を切り拓くため、あらゆる領域において、本格的な構造改革に向けての取組が始まっている。公務員給与についても、国民の目から見て適正・妥当であるとともに、職員が高い倫理観と士気の下で職務に精励することができるよう、これまでのシステムにとらわれることなく、個人の能力・実績をより的確に反映させるなど、職員が活き活きと働けるよう、新たな時代に相応した給与制度の構築に取り組んでいくことが求められている。

 人事院の給与勧告は、国家公務員の労働基本権が制約されており、民間企業の従業員のように、労使交渉等を通じて自らの勤務条件の決定に参画することができないことの代償措置として設けられているものである。本院は、従来から、国家公務員法の定めるところにより、公務員の給与等の勤務条件について社会一般の情勢に適応させるよう、公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に、勧告を行ってきている。
 民間企業従業員の給与水準は、労使交渉等により、その時々の経済・雇用情勢を反映して決定されているものである。人事院勧告に基づく公務員給与も、従来は、順調な経済成長を反映した毎年の民間給与水準の上昇により、結果として毎年増加が図られてきた。
 しかしながら、近年、民間企業においては、厳しい経営状況等を反映して月例給のベースアップが極めて低率・低額となるとともに、特別給(ボーナス)の支給額の対前年比がマイナスとなるという状況がみられるようになっている。
 本院は、このような状況下において、情勢適応の原則に基づき、一昨年及び昨年と2年連続で、職員の年間給与が減少する内容の給与改定勧告を行い、これらは勧告どおり実施された。特に、昨年は、現行の勧告方式となった昭和35年以降初めて、俸給表の改定を見送り、子等に係る扶養手当について改定を行うという内容の勧告を行い、実施されたところである。

 本院は、本年の給与勧告に当たり、厳しい経済・雇用情勢の下にある民間企業の実態について、ベースアップ中止や賃金カット等を含めた給与改定状況をはじめ、雇用調整等の合理化努力についても幅広く調査を行い、これらの的確な把握に努めた。さらに、有識者、企業経営者や国民から、公務員や公務員給与に対する意見を広く聴取し、経済・雇用情勢等諸情勢も踏まえつつ、本年の給与改定について様々な角度から慎重に検討を行った。
 その結果、本年は、特別給については、公務の支給月数を民間の支給月数に合わせる必要があることから、0.05月分削減し、月例給与については、官民較差が認められるものの、昨年に引き続き俸給表の改定は行わず、暫定的な一時金を支給することとした。
 これにより、職員の年間給与は3年連続で減少することとなり、また、俸給表は、2年連続で改定見送りとなる。


T 給与勧告の基本的考え方

 給与勧告は、労働基本権制約の代償措置として、職員に対し、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保する機能を有するものである。勧告が実施され、適正な処遇を確保することは、労使関係の安定を図り、能率的な行政運営を維持する上での基盤である。
 本院は、国家公務員の給与水準を民間企業従業員の給与水準と均衡させること(民間準拠)を基本に、単純な官民給与の平均値によるのではなく、主な給与決定要素である職種、役職段階、年齢などを同じくする者同士を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行った上で、社会経済情勢全般の動向等を踏まえながら勧告を行ってきている。
 民間準拠を基本に勧告を行う理由は、(1)国は民間企業と異なり、市場原理による給与決定が困難であること、(2)職員も勤労者であり、社会一般の情勢に適応した適正な給与の確保が必要であること、B 職員の給与は国民の負担で賄われていることなどから、失業率を含めてその時々の雇用情勢をも反映している民間企業従業員の給与に公務員給与を合わせていくことが、最も合理的であり、職員をはじめ広く国民の理解を得られる方法であると考えられるからである。


U 官民の給与の比較

 本院は、毎年、「国家公務員給与等実態調査」及び「職種別民間給与実態調査」を実施し、その結果に基づき、公務においては行政職、民間においては公務の行政職と類似すると認められる職種の者について、給与決定要素を同じくすると認められる者同士の4月分の給与額を対比させて、精密に比較(ラスパイレス方式)を行い、官民の給与水準を均衡させることを基本に勧告を行っている。
 この職種別民間給与実態調査は、給与改定や賃金カット等の有無にかかわらず実施しており、ベースアップの中止、ベースダウン、定期昇給の停止、賃金カットなど給与抑制措置を行った事業所の給与の状況も、官民の給与較差に反映されることとなる。

1 職員の給与の状況(国家公務員給与等実態調査)

 本院は、平成13年国家公務員給与等実態調査を実施し、給与法(一般職の職員の給与に関する法律」)適用の常勤職員の給与の支給状況等について全数調査を行った。その結果、民間給与との比較を行っている行政職の職員(行政職俸給表(一)・(二)の適用者227,250人、平均年齢40.7歳)の本年4月における平均給与月額は379,836円となっており、大学教授、医師等を含めた職員全体(466,679人、平均年齢41.1歳)では415,078円であった。

(参考資料 1 公務員給与関係 参照)

 

2 民間給与の調査

(1) 職種別民間給与実態調査

 本院は、企業規模100人以上で、かつ、事業所規模50人以上の全国の民間事業所約34,000のうちから、層化無作為抽出法によって抽出した約7,500の事業所を対象に、平成13年職種別民間給与実態調査を実施し、公務の行政職と類似すると認められる事務・技術及び技能・労務関係44職種の約38万人並びに研究員、医師等50職種の約7万人について、本年4月分として個々の従業員に実際に支払われた給与月額等を実地に詳細に調査した。
 また、本年も、引き続き厳しい経済・雇用情勢等を踏まえ、給与の抑制措置の状況や、各企業における雇用調整等の実施状況等についても調査を行った。
 職種別民間給与実態調査の調査完了率は、民間の経営環境が厳しい中においても、各民間事業所の協力を得て、本年も94.0%と極めて高く、調査結果には、企業業績や給与改定状況のいかんにかかわらず、広く民間事業所の状況が反映されている。

(2) 調査の実施結果等

 本年の職種別民間給与実態調査の主な調査結果は次のとおりである。

ア 本年の給与改定の状況

 別表第1に示すとおり、ベースアップを実施した事業所は、一般の従業員でみると52.3%であり、このうち定期昇給の停止を行った事業所(0.7%)や賃金カットを行った事業所(0.2%)を除くと、51.4%と昨年(51.5%)とほぼ同じ割合であり、概ね半数となっている。また、ベースアップを中止した事業所は34.7%、ベースダウンを実施した事業所は1.1%であった。
 一方、管理職(課長級)についてみると、ベースアップを実施した事業所は48.1%であり、このうち定期昇給の停止を行った事業所(1.0%)や賃金カットを行った事業所(0.3%)を除くと、46.8%と、昨年と同じ割合となっている。また、ベースアップを中止した事業所は37.9%、ベースダウンを実施した事業所は1.2%であった。

イ 過去1年間の雇用調整等の実施状況

 別表第2に示すとおり、民間事業所における過去1年間の雇用調整等の実施状況をみると、厳しい経営環境を背景として、雇用調整等を実施した事業所の割合は54.2%となっているが、昨年の結果(67.7%)と比べると10ポイント以上低くなっている。雇用調整等の内容としては、採用の停止・抑制(31.2%)、部門の整理・部門間の配転(21.4%)、残業の規制(18.3%)などが依然として多く、また、希望退職者の募集(5.9%)、正社員の解雇(2.5%)、一時帰休・休業(1.3%)などの厳しい措置も実施されているが、その割合は、昨年よりも減少している。

 このように、民間企業においては、引き続き人員の縮小、経費の縮減、残業の抑制等様々な取組を行いつつ、約半数の事業所では、低率・低額ではあってもベースアップを行い、従業員の給与処遇の維持・改善に努めていることが明らかになった。

(参考資料 2 民間給与関係 参照)

 

3 官民給与の比較

(1) 月例給


 本院は、国家公務員給与等実態調査及び職種別民間給与実態調査の結果に基づき、本年4月分の官民の給与額を前記ラスパイレス方式により比較したところ、別表第3に示すとおり、官民給与の較差は305円(0.08%)となった。さらに、全事業所の21.07%に当たる事業所において、支払は終わっていないが本年4月に遡って定期昇給分を含め平均1.91%の給与の引上げが実施されているが、昇給率を勘案するとその影響は8円と算定される。このため、これを加えた官民給与の較差は313円(0.08%)となる。
 民間における家族手当(世帯手当等これに類するものを含む。)、住宅手当及び通勤手当の支給状況を調査した結果をみると、それらの手当は職員の扶養手当、住居手当及び通勤手当の現行支給状況とほぼ見合うものとなっている。

(参考資料 2 民間給与関係 参照)

(2) 特別給

 本院は、職種別民間給与実態調査により民間の特別給(ボーナス)の過去1年間の支給実績を精確に把握し、これに職員の特別給(期末手当・勤勉手当)の年間支給月数を合わせることを基本に勧告を行っている。この方式は、民間の特別給の支給状況が職員の特別給の支給月数に反映されるまでに1年以上の遅れを伴うものであるが、精確性や信頼性の点で評価されている。
 本年の職種別民間給与実態調査の結果、昨年5月から本年4月までの1年間において、民間事業所で支払われた賞与等の特別給は、別表第4に示すとおり、所定内給与月額の4.69月分に相当しており、職員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数(4.75月)を下回っている。


V 経済・雇用情勢等

1 最近の経済・雇用情勢

(1) 民間賃金指標等の動向

 「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)によると、本年4月の所定内給与(事業所規模30人以上)は、昨年4月に比べ0.3%増加したものの、所定外給与は所定外労働時間の減少を反映して0.9%の減少となり、これらを合わせた「きまって支給する給与」は0.2%の増加となっている。なお、パートタイム労働者を除く一般労働者では、所定内給与は0.6%、きまって支給する給与は0.5%の増加となっている。
 また、「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」(同省)によると、本年の平均賃上げ率(定昇込み)は2.01%となっている。これを産業別にみると、新聞・印刷(2.54%)、電気機器(2.49%)、建設(2.37%)などが高く、電力(1.32%)、ガス(1.45%)、鉄鋼(1.46%)などが低くなっている。

(2) 物価・生計費

 本年4月の「消費者物価指数」(総務省)は、昨年4月に比べ全国で0.4%下落している。
 全国勤労者世帯の消費支出(総務省「家計調査」)は、概ね横ばいの状態が続いているが、本年4月は昨年4月に比べ名目5.0%減となった。
 また、本院が家計調査を基礎に算定した本年4月における全国の2人世帯、3人世帯及び4人世帯の標準生計費は、それぞれ175,880円、206,620円及び237,360円となった。

(参考資料 3 生計費関係 参照)

(3) 雇用情勢

 完全失業率(総務省「労働力調査」)は、高い水準で推移しており、本年4月は、昨年4月と同じ4.8%(季節調整値)となっている。
 また、本年4月の有効求人倍率及び新規求人倍率(厚生労働省「一般職業紹介状況」)は、昨年4月に比べると、それぞれ0.07ポイント、0.06ポイント改善して0.62倍(季節調整値)、1.05倍(同)となっている。

 

2 各方面の意見等

 本院は、公務員給与の改定を検討するに当たって、厳しい諸情勢を踏まえ、東京のほか全国33都市において、有識者、中小企業経営者等広く各界との意見交換を行ったほか、「国家公務員に関するモニター」(500人)を通じて、広く国民の意見の聴取に努めた。
 各界との意見交換においては、給与勧告制度の役割や官民比較方法については、概ね理解を得られ、妥当とする意見が多数みられたが、中小企業の実態をより反映すべきであるとの意見もあった。また、各地域に勤務する公務員の給与がその地域の民間給与と比較して高すぎるとの批判も出された。このほか、公務員給与は、能力・実績の要素を重視して決めるべきとする意見が大勢であったが、実際の評価が難しいのではないかという意見もみられた。
 また、前記モニターにおいては、公務員給与の決定方法として、民間準拠方式が妥当とする意見が約6割を占めたほか、公務員給与の制度とその運用について職員本人の能力・実績を重視すべきとする意見が9割以上を占めた。


W 本年の給与の改定等

1 改定の必要性

 本院は、本年の給与改定の検討に当たっては、以下のような事情を考慮することが必要であると考える。

(公務員給与の適正な水準の維持・確保)

 労働基本権制約の代償措置としての給与勧告の意義等から、官民給与の精確な比較による公務員給与の適正な水準の維持・確保が、昨年の給与法改正法案に対する国会の附帯決議をはじめ、各方面から強く求められている。

(民間事業所における給与改定状況)

 前記のとおり、民間事業所においては、厳しい雇用調整等の措置を行い、総額人件費の抑制に努めながら、約半数の事業所では、極めて低率・低額であってもベースアップを行い、従業員の給与処遇の維持・改善に努めていることが認められた。

(四現業職員の賃金改定)

 一般職の国家公務員約79万人の約4割を占め、給与法適用職員と同じ公務組織で働く郵政、林野等四現業の職員約31万人については、本年4月、当局側より0.03%(平均90円)の賃金引上げの有額回答がなされた後、中央労働委員会により「O.05%+60円」(平均0.07%、210円)の原資による基準内賃金の引上げの仲裁裁定が行われ、本年6月29日の閣議で仲裁裁定どおりの実施が了解されている。

(公務における効率化の努力)

 公務においては、行政需要が多様化し、業務が増大する中、これまでも累次の定員削減計画の実施等を通じて効率化の努力がなされてきた。さらに、本年1月の中央省庁の1府12省庁体制への再編(官房・局や課等の総数の削減等)、本年4月からの83事務・事業の独立行政法人への移行が行われたところであり、今後、行政組織の整理・合理化(課室の総数の削減、独立行政法人への更なる移行等)、定員の削減(10年間で25%)など、一層の効率化が進められることとなっている。

 以上を総合的に勘案すると、ベースアップ中止やベースダウン、賃金カットを行っている事業所を含めた民間企業の4月分給与と精確に比較し算出された較差については、これを埋める形で均衡を図るよう所要の改定を行う必要がある。
 本年の官民給与の較差は昨年よりも更に小さく、世代間配分の適正化に留意しつつ、従来どおり配分にめりはりをつけた俸給表の改定を行うことは困難であり、また、諸手当についても、民間の各手当の支給状況と均衡していることから、改定の必要性はないと判断した。
 また、特別給については、職種別民間給与実態調査の結果に基づき、民間の特別給の支給月数に見合うよう、引き下げる必要があると判断した。
 本年の官民給与の較差については、俸給表や手当の改定等の措置をとることは適当ではないが、他方において、昨年の国会における附帯決議、四現業の賃金改定の状況や連年の特別給引下げに配慮すれば、来年以降生ずる官民給与の較差と合わせて俸給表や手当の改定等の措置をとることを前提に、その年額相当額を暫定的な一時金として支給することが適当と考える。

 

2 改定すべき事項

(1) 暫定的な一時金の支給

 行政職の職員の給与については、前記の官民給与の較差に相応する引上げを、暫定的な一時金の支給により行うものとする。当該一時金は、各職員とも原則同額とし、3月に支給するものとする。
 給与法に基づく他の俸給表の適用を受ける職員の給与についてもこれに準じて措置するものとする。なお、指定職俸給表の適用を受ける職員の給与については、民間企業との間に差が認められるものの、本年における事情等も勘案し、措置しないものとする。

(2) 期末手当・勤勉手当等の支給月数の引下げ

 期末手当・勤勉手当については、本年4月までの1年間における民間の特別給の支給割合との均衡を図るため、支給月数を引き下げる必要がある。
 また、指定職俸給表の適用を受ける職員に支給される期末特別手当については、期末手当を引き下げることとの均衡等を考慮し、支給月数の引下げを行うこととする。

 

3 公務員給与水準の在り方の検討

 先に述べたとおり、国家公務員給与の決定に当たって、企業規模100人以上、事業所規模50人以上の民間事業所の従業員給与と比較するという現行の官民比較方式は、民間給与の水準を適切に公務員給与に反映させるものとして、国民の理解と納得を得て定着してきたところである。
 公務員の給与は、全国の民間事業所に勤務する従業員の給与を基に、その水準を決定しているが、近年、各地域に勤務する公務員の給与をみると、その水準がその地域の民間給与に比べて高い場合があるのではないかとの指摘がなされている。その中には、調査対象となる民間事業所の従業員の給与がその地域の民間給与の実態を必ずしも的確に反映していないとの疑問から生じているものもある。
 公務員給与は国民の負担により賄われるものであり、特に、近時の民間の厳しい経済・雇用情勢を踏まえれば、指摘を受けるような地域の公務員給与の在り方については、実情を把握し、必要な是正に取り組むことにより国民の理解を得ていく必要があると考えられる。
 国家公務員の場合は、都道府県を超えた異動も多く、円滑な人事異動を確保するためには、統一的な給与体系の下で、その水準を調整していくことが必要と考えられるが、その際、各地域の民間給与をより反映した給与水準とすることにも配慮していく必要がある。このため、民間給与の実態把握及び公務部内の給与配分の在り方について幅広く見直しを行い、こうした課題について、速やかに検討を進めることとしたい。


X 給与勧告実施の要請

 人事院勧告制度は、労働基本権を制約されている公務員の適正な処遇を確保することを目的とするものであり、マイナス方向の調整を含め、情勢適応の原則に則ったものとして、長年の経緯を経て国民の理解と支持を得ながら公務員給与の決定方法として定着し、行政運営の安定に寄与してきている。
 国会及び内閣におかれては、人事院勧告制度が公務の運営や労使関係の安定に果たしている役割や、給与勧告の内容が一般職国家公務員の給与を民間給与の水準に均衡させるものであることにも深い理解を示され、別紙第2の勧告どおり実施されるよう要請する。


 

 

 


別紙第2

勧  告

 

 次の事項を実現するため、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)を改正することを勧告する。

 

1 改定の内容

(1) 暫定的な一時金について

ア 当分の間、3月1日(以下「基準日」という。)に在職する職員(指定職俸給表の適用を受ける職員、一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律第3条第1項第1号又は第2号の規定により任期を定めて採用された職員及び一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律第3条第1項の規定により任期を定めて採用された職員並びに一般職の職員の給与に関する法律第22条第1項又は第2項の非常勤職員を除く。)に対し、同月の人事院規則で定める日において、基準日の属する年の前年4月1日から基準日までの期間におけるその者の在職期間等に応じて人事院規則で定める基準に従い、3,756円を超えない範囲内の額の一時金を支給すること。

イ 基準日に休職にされている職員、育児休業をしている職員等に対するアの一時金の支給について所要の措置を講ずることその他同一時金の支給に関し必要な措置を講ずること。

(2) 期末手当及び期末特別手当について

 12月に支給される期末手当の支給割合を1.55月分(特定幹部職員にあっては、1.35月分)とし、12月に支給される期末特別手当の支給割合を1.55月分とすること。

2 改定の実施時期

 この改定は、平成13年4月1日から実施すること。


別紙第3

公務員人事管理について

 

 公務員人事管理をめぐる動き

(1) 新たな行政システムの整備

 我が国の行政システムは、21世紀のスタートに合わせて大きく転換しつつある。本年1月から1府12省庁へと中央省庁が再編成され、政治主導による行政運営を目指して、内閣機能の強化が図られるとともに、各府省に副大臣、大臣政務官制が導入されたほか、4月には、行政のスリム化、効率化に向けて多くの国立試験研究機関等が独立行政法人に移行した。
 また、行政運営の透明化と国民に対する説明責任の観点から、情報公開法が施行され、併せて各府省の政策評価の仕組みも整えられるなど、中央省庁体制の整備とあいまって、効率的で透明な国民本位の行政への転換が進められている。

 

(2) 厳しい社会経済情勢

 我が国の社会経済情勢の動向をみると、グローバリゼーションなどに伴う厳しい市場の競争に勝ち抜くため、民間企業は事業の再構築や従業員の削減などによる大胆なコスト管理の徹底等の経営努力を強めている。
 企業経営をめぐる環境変化は、民間企業の人事制度に大きな変革をもたらし、成果・業績を重視した賃金・人事体系への転換、流動性の拡大を視野に入れた雇用形態の多様化や自発的な能力開発の重視など、激しい変化に迅速・的確に対応できる人事マネジメントへの改革が進められている。

 

(3) 公務員人事管理に対する国民の声

 公務員の人事管理は、これまで、我が国の雇用風土の下で、新規学卒者の採用とその部内育成、終身雇用を基本に行われてきた。この枠組みを支えるものとして、採用試験の種類や年次を基礎に職員間の均衡を重視して昇進管理や処遇がなされ、その中で幹部への登用や人事配置は、T種試験採用職員を中心にして行われてきた。
 こうした人事慣行は、閉鎖的な公務社会を維持し、国民の感覚から乖離した公務員を生む土壌となり、度重なる不祥事の要因となっているとの声が強くなっている。また、社会経済環境が厳しさを増す中、再就職について権限を背景とした「天下り」が行われているとの指摘や、公務員が身分保障に安住し、民間企業の従業員に比べて働き方に厳しさを欠いているとの批判が強まっている。
 急速な時代状況の変化の下、採用試験の別が将来の進路を左右しているとして採用試験やその後の選抜の在り方を見直すべきとの声や、官民間の人的交流の促進を通じ公務員の意識改革と公務社会におけるダイナミズムを求める声も高まっている。

 

(4) 人事院におけるこれまでの取組

 年次主義を基調とする固定的で閉鎖的な公務員人事管理をめぐる様々な歪みやこれらへの批判が強まる中で、人事院は、能力・実績を基本に据えた開放的な公務員人事管理への転換を目指し、次のような取組を行ってきた。
 すなわち、官民人事交流制度や任期付職員制度の導入を通じて官民間の人的交流の促進を図るとともに、多様な有為の人材の確保という視点から、専門的能力に着目した中途採用制度の導入やU種・V種等採用職員の登用の推進などの施策を講じてきた。
 また、「早期立ち上がり型」給与カーブへの修正や特別給(ボーナス)における査定部分の拡大などの能力・実績を重視した給与制度の推進を図ってきたほか、セクショナリズムの弊害を是正し、広い視野と柔軟な発想を持った人材を育成する観点から、全府省職員を対象とした合同研修の充実、海外留学の機会の拡大等に努めてきた。
 このほか、各府省に対する懲戒処分の指針の発出や公務員倫理法の適正な運用により服務規律の徹底を図るとともに、再就職規制の強化や在職期間の長期化の推進等による退職管理の見直し、苦情相談体制の整備やセクシュアル・ハラスメント防止対策の推進による職場環境の改善、女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けての指針の発出等の取組を行ってきている。

 

(5) 内閣官房における検討

 新たな府省体制の整備に併せ、行政を支える公務員の意識・行動原理を変革し、中央省庁等改革の成果をより確実なものにすることを目的として、内閣は公務員制度の改革に着手している。
 昨年12月「行政改革大綱」が閣議決定され、本年1月には、内閣総理大臣を本部長とする行政改革推進本部が発足すると同時に、内閣官房に行政改革推進事務局が設けられた。3月27日に公務員制度改革に向けた内閣官房の方針として「公務員制度改革の大枠」が示され、6月29日には新たな公務員制度の骨格と検討課題を示す「公務員制度改革の基本設計」が、行政改革推進本部決定として取りまとめられている。

 

 今後の公務員制度改革の視点

(1) 公務員制度の基本原理

ア 公務員の中立・公正性

 公務員を国民全体の奉仕者とする憲法の基本理念の下で、現行の公務員制度においては、行政が特定の利益や勢力、情実に影響されることなく中立公正に行われるよう、成績主義に基づく採用及び昇進、各府省職員に対する統一的な養成研修、政治的中立性の保持等の厳正な服務規律など、公務員人事の中立性、公正性の確保が図られている。これを担保するため、中立第三者機関である人事院が客観的、統一的な基準の定立やその遵守の監視、事後審査等に当たるとともに、その内容に応じ自ら実施する役割を担っている。
 今日、閉鎖的な公務組織の打破を目指し、官民間の垣根を低くして流動性の拡大を図ることが要請されており、また、機動的、弾力的な人事管理の実現に向けて、各府省の主体性を高めていくことが求められている。こうした要請にこたえた人事管理を目指すに当たっては、公務員の中立性、公正性の視点に留意し、「国民全体の奉仕者」という公務員の基本理念と調和した制度としていく必要がある。
 同時に、新たな公務員制度においては、公務員が中立公正にその使命を全うするために設けられている身分保障に安住することなく、真に国民全体の奉仕者として、自己規律と研さんに努め、使命感と誇りを持って積極的に職責を果たすことを促す仕組みとしていくことが重要である。

イ 基本的人権たる労働基本権の制約

 現在の公務員制度の枠組みにおいては、国家公務員はその地位の特殊性及び職務の公共性にかんがみ労働基本権が制約されており、その代償措置として、人事院が労使の間に立って給与勧告や意見の申出を行うとともに、職員の勤務条件に関わる各般の基準を設定する仕組みとなっている。労働基本権が国民の基本的人権として位置付けられている中で、公務員についてはこの代償機能が適正に発揮されることで、労働基本権を制約することの合憲性が維持されているところである。
 代償機能の発揮については、公務の特性を踏まえつつ公務員の勤務条件を社会一般の情勢に適応させることを基本としており、労使関係の安定と士気の維持に寄与するとともに納税者である国民の理解と納得を得ているものと考えている。

 

(2) 公務員制度改革の具体化に向けた協力

 今般の「公務員制度改革の基本設計」において、今後の改革の具体化に向けての協力が人事院に要請されている。国民が求める公務員人事管理システムへの転換を実現するため、人事院が担う立場を踏まえつつ、これまでに培ってきた専門的知識やノウハウ、問題意識を生かしながら、的確な協力を行っていくこととしたい。
 今回の公務員制度改革については、その要である能力・実績主義の人事管理の実現に向けて、全国に勤務官署を持つ公務組織において実質的に機能し得る評価システムと給与制度の設計が重要である。民間企業においても、新たな評価システムや給与制度を導入する場合には、従業員の理解と納得を得る努力がなされており、公務においても、関係当事者との間で十分な意思疎通を図り、評価の先行試行も含め適切なプロセスを経て、着実に検討が進められていく必要があると考えている。また、これらの新たな制度の導入に際しては、現在の制度の下で意図された能力・実績重視の理念が、各府省の人事管理の運用において十分に生かされなかった原因を分析し、その結果を踏まえて、制度とその運用があいまって現実に機能し得るものとしていくことが重要である。
 民間企業等への再就職規制の在り方については、国民の批判が寄せられている事項であり、国民の理解と納得の得られる仕組みとして設計される必要がある。また、退職管理については、高齢社会における公務組織の在り方の視点から、社会全体としての人材の有効活用も視野に入れつつ、各府省における人事管理の実情に応じ、能力・適性に基づく複線的な昇進管理を進め、幹部公務員の早期退職慣行の是正に向けて計画的に取り組む必要があると考えている。

 行政の複雑・高度化の下で、国民の期待にこたえる質の高い行政を実現するためには、専門性や独創性に富んだ人材の確保・育成が重要な課題となってきている。加えて、司法制度改革の一環として平成16年4月にも法科大学院が設置されることとされており、これまで行政を目指した人材の多くが法曹を選好することも見込まれる。
 このような状況の下、学部卒の有為な人材を幹部要員として引き続き行政に確保できるよう、これらの者に対する人材養成の機会の充実策を含めてその誘致策を検討する必要が生じている。同時に、法科大学院をはじめ幅広い分野の大学院教育の修了者を行政に確保していくことも必須であり、これらの観点を踏まえ、採用試験の在り方を抜本的に見直すことが求められている。
 これらの検討に当たっては、新たな時代の要請にこたえ得る行政官として必要な基礎的能力・資質について改めて検証し、求める人材を確保するにふさわしい採用試験の位置付けや試験の内容、方法等について幅広い視点から検討を進める必要がある。

 人事管理システムは、職員一人一人の生き方、働き方を直接律するものであり、その改革を実現するためには、職員と人事管理当局の双方が、現状を改める必要性を深く認識し、強い決意でこれに臨むことが不可欠である。関係者は、共通の理解と納得の下に、国民から信頼される公務員制度を構築すべく、改革に精力的に取り組んでいくことが求められている。

 

(3) 環境変化の急速化等に対応した人事管理の推進

ア 流動化等を踏まえた柔軟で開放的な人事管理

 我が国の社会経済構造が急速に変化する中で、環境変化への適応性を高めることが組織にとっての重要な課題となっている。公務員人事管理においても、変化の時代に対応した良質な行政サービスを提供していく観点から、行政環境の変化や労働市場の流動化、就業者の意識変化等への適応性を高めていくことが求められている。
 このような要請にこたえるためには、採用試験の種類や年次、事務官・技官の別によるのではなく、個々人の能力・実績と適性を的確に評価し、それに基づいた弾力的な人材活用や昇進管理、給与処遇等を一段と推進するとともに、最先端の専門知識や経営的感覚を持った民間の人材が広く公務の世界に入る一方、公務員が公務組織を離れて知識、経験を広げるなど、官民間の人的交流を促進していくことが重要である。柔軟で開放的な公務組織へ移行することにより、公務で働くことの魅力が高まり、有為な人材の確保に資するとともに、若手をはじめとする職員の閉塞感の払拭、士気の高揚が図られるものと考える。

イ 各府省の主体的・機動的な人事管理

 社会経済の変化が加速する中で、企業活動の自由度を高める観点から、行政システム全体について事前規制から事後チェックへの転換が進められている。公務における人事管理システムの在り方についても、公務員制度の基本原理に則りつつ、明確な基準の下で各府省が主体的・機動的に人事管理を行う方向に改めていく必要があると考えている。
 人事院としては、「行政改革大綱」及び「公務員制度改革の基本設計」を踏まえ、機動的、弾力的な行政運営を可能にする観点から、個別制度の趣旨を勘案しながら、事前に個別・詳細にチェックすることから明確な基準の設定とその遵守をチェックすることに移行することを基本として、適切に見直すこととしている。また、各種の人事管理事務の簡素化、合理化についても適切に進めていくこととしている。

 

 喫緊の課題

 公務員制度改革全体の取組が進行している中で、行政をめぐる諸情勢の変化を踏まえ、その改革の理念に齟齬しない範囲において速やかな対応が必要な課題も生じている。

(1) 倫理研修の充実

 近時、公務員の倫理観を問われる不祥事が相次ぎ、国民の公務員に対する信頼が損なわれており、公務員の倫理観のかん養が一層強く求められている。
 このような状況にかんがみ、本府省の局長等の幹部公務員が各界の有識者を交えて行政及び行政官の在り方を基本に立ち返って考える機会としてこれまで行ってきた「幹部行政官セミナー」の充実を図る必要がある。
 また、公務員の倫理観のかん養を図る施策として、行政運営の第一線を担う課長補佐・係長クラスの職員を主な対象として、平成12年度から施行された国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程を踏まえつつ、個人の倫理観の確立とそれを基礎とした職場規律の保持に向けて、討議式による新たな倫理研修を開発し、これらの施策を通じて、公務の職場風土の改革を目指すことにより、公務に対する国民の信頼の回復に努めていくこととする。

 

(2) 女性国家公務員の採用・登用の拡大

 公務が女性の採用・登用の拡大に率先して取り組む必要があるとの認識の下に、人事院は本年5月に「女性国家公務員の採用・登用の拡大に関する指針」を発出した。男女共同参画推進本部(本部長:内閣総理大臣)は、本年6月、各府省においてこの指針を踏まえ、女性の採用・登用等の促進に向けた計画を策定するなど、総合的かつ計画的に取り組むことを決定した。
 今後、各府省は現状の把握及び分析を踏まえて、速やかに「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定し、取組を推進していくこととなるが、人事院としても、次に述べるように職業生活と家庭生活の両立のための支援策の拡充に努めるほか、女子学生を対象とした募集活動などの取組を一層推進し、採用試験の合格者に占める女性の割合を高めるべく目標を設定することとしている。
 また、女性職員を対象に、その能力を十分に活用しキャリア・アップが図られるよう、新たな研修を実施することとしている。

 

(3) 職業生活と家庭生活の両立のための条件整備

 男女共同参画社会の実現に向けては、男女が共に家庭責任を担いつつ、職業生活と家庭生活の両立を図り得るような環境整備を行うことが重要となっている。民間労働者については、育児に関する施策の拡充等を内容とする「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」の改正法案が来年4月からの施行を目途として国会に提出されている。公務においても、同法案の施行に併せて両立のための支援策が充実されるよう、育児休業及び部分休業の対象となる子の年齢を3歳に達するまで延長するとともに、育児休業期間を任期の限度とする任期付任用等の代替要員確保策について措置する必要があると考えている。
 また、家族の介護のための休業について民間企業の状況をみると、多くの企業において3月を超える長期の休業を可能としており、公務においても介護休暇の取得可能期間を最大6月に延長することが適切と考えられる。
 このため、人事院は、本日、以上の施策を実施するために必要な法律の改正に関する意見の申出及び勧告を国会及び内閣に対して行う。
 このほか、人事院としては、育児や介護を行う職員の超過勤務の制限の強化について所要の措置を講じるとともに、子どもの看護に係る休暇についても、早期の導入に向けて検討を進めることとしたい。
 なお、「仕事と子育ての両立支援策の方針について」(平成13年7月6日閣議決定)において、男性の育児休業取得の奨励が指摘されているところであり、人事院としても、公務における男性職員の育児休業取得について積極的な促進が図られるよう努める。

 

(4) 若手研究員の任期の弾力化

 国の試験研究機関における研究活動の活性化を人事管理面から支援するための方策の一つとして導入された「一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律」に基づく研究員の任期付採用については、同法の施行後4年が経過し、着実に活用が図られてきている。この任期付研究員制度について、更に弾力的な運用が可能となるよう、関係機関から「若手育成型」の任期の延長等についての要望が出されており、第2期科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)等において必要な措置を講じることが求められている。
 このような要請を踏まえ、制度の運用の実態も勘案して、研究活動の一層の活性化に資するため、同法に関し次の事項について検討を進めているところであり、成案を得た上で、別途勧告を行うこととする。
(1)「若手育成型」の任期について、現行の原則3年以内を5年以内とすること。また、特に必要があると認められるときは、一定の期間内で延長することができることとすること。
(2)かつて「若手育成型」として採用された者について、一定の条件の下で再度「若手育成型」として採用することができることとすること。
(3)以上の改正に併せて、給与水準の必要な見直しを行うこと。


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