2001年人事院勧告についての解説

 

(注) この解説は、公務労組連絡会発行の「2001年人事院勧告特集号」(2001年8月8日発行)に掲載されたものです。


政府の「公務員制度改革を加速する今次勧告・報告

 

●3月に暫定一時金 俸給表・手当改善せず

 本年4月分の官民較差は、0・08%(313円)となり、史上最低であった昨年の0・12%(447円)をさらに下回る結果となりました。
 これは、財界・大企業が理不尽なリストラ「合理化」とベアゼロ・賃下げ攻撃を強める中、大幅賃上げなどによる消費拡大や最低賃金の改善などの要求を掲げてたたかわれた2001年春闘が、2・01%(定昇込み、厚生労働省調べ)、前年比マイナス0・05ポイントという超低額に終わったことを反映するものです。
 人事院は、この較差の取扱いについて、俸給表及び諸手当の改善には一切使わず、暫定的な一時金として、来年3月に指定職を除く全職員に対し、同一額を一律に支給することを勧告しました。具体的には、3月1日(基準日)に在職する職員等に対し、前年4月1日から基準日までの在職期間に応じて、3,756円を超えない範囲内で支給することとしています。
 人事院は、今回のような異例な措置に至った理由として、較差が昨年よりさらに小さく、配分にメリハリをつけた俸給表の改定は困難なこと、また、諸手当についても、民間の支給状況と均衡していることから改定の必要が認められなかったものの、国会における附帯決議や四現業職員についての賃金引き上げの決定等を踏まえれば、較差を埋める必要があると判断したと説明しています。
 今回の措置は、官民較差を俸給表や手当に使わず、暫定的な一時金として単年度で精算する方法であることから、較差(313円)は来年度に持ちこされることになります。

 

●一時金0・05月削減 40歳係長3年間で16万円減

 一時金である期末・勤勉手当については、年間支給月数4・75月を昨年に続きさらに0・05月削減し、4・7月に減額しました。これにより、3年連続で計0・55月の大幅な削減となりました。
 一時金のピークは1991年の5・45月ですから、その当時と比べると0・75月(うち一律支給される期末手当が0・7月)も下回っています。
 0・05月の削減については、本年12月期の期末手当で措置することとしており、これで12月期の期末手当は1・6月から1・55月になります。
 人事院の試算では、一昨年の0・3月の切り下げで平均9万5千円(1・5%)の減、昨年の0・2月の切り下げでは平均6万9千円(1・1%)の減、本年の0・05月の切り下げでは平均1万6千円(0・2%)の減となっています。ちなみに、40歳係長(配偶者、子2)の場合で3年間の減少額は16万円と計算しています。

 

●やるべきでない! 地域間の給与配分「見直し」

 地域によっては公務員賃金がその地域の民間賃金に比べて高いケースがあるという批判に応えて、実情把握を踏まえた必要な「是正」に取り組むと報告しています。
 そのため、民間賃金の実態把握のあり方や公務内部の地域配分のあり方について幅広く検討するとも述べています。
 それは結局、地域の賃金水準の違いを公務内部の賃金配分に反映することをねらうものです。全国共通の俸給制度を前提に「同一労働同一賃金」原則による公平な賃金制度を突き崩すことにつながり、極めて重大な問題です。

 

育児休業・介護休暇をそれぞれ延長

 男女共同参画社会及び少子高齢化社会に向けて、職業生活と家庭生活の両立を図るための条件整備として、育児休業、部分休業及び介護休暇制度等の大幅な改善を打ち出しています。
 主な改善内容は、(1)育児休業及び部分休業(1日2時間)の対象となる子の年齢を「1歳未満」から「3歳未満」に引き上げる、(2)介護休暇の取得期間を3月から6月に延長する、(3)育児又は介護を行う職員が請求した場合の超過勤務の上限時間(年360時間)を民間の動向(年150時間)を踏まえ措置する、(4)子どもの看護に係る休暇の早期導入を検討する、などとなっています。
 この中で注目すべきことは、育児・部分休業双方を3年に引き上げるほか、民間法では措置の予定がない介護休暇期間の延長や努力規定となっている子どもの看護休暇の導入について言及していることです。
 人事院がこのような大幅な改善策を決断したのは、なによりもこれら要求実現に向けた公務労組連絡会の各単産女性部を先頭とした粘り強い運動があったからです。また、その背景には、少子・高齢化社会に対応することが社会的要請であること、より直接的には民間の育児介護休業法改正案提出という情勢への対応が迫られていたことがあります。
 育児・介護制度を実情に即し、より実効ある活用をはかっていくためには、取得者の生活を支える所得保障、職場の負担を軽減する代替措置、職場復帰と昇格格差など「不利益」を取り除くことや公的保育・介護の充実なども求められています。

 

「公務員制度改革」で政府に協力

 現在焦点となっている公務員制度改革に関しては、内閣と行政改革推進本部の動きに迎合、追認し、「基本設計」の具体化に向けて「中立第3者機関」として、政府に協力する立場に転換することを表明しています。
 それだけに、「基本方針」の内容にかかわる様々な注文も迫力不足です。報告は、(1)公務員制度には公務員の中立・公正性の視点が重要であり、(2)労働基本権制約の代償機能が有効に発揮される必要、(3)評価システムや給与制度の設計にあたり、当事者との意思疎通や評価の試行が必要、(4)国民の理解が得られる再就職規制の仕組みとすること、(5)必要な人材確保のための採用試験の抜本見直しなどにふれているだけです。
 「給与その他の勤務条件の改善及び人事行政の改善に関する勧告」(国家公務員法第3条)の権限をもっている人事院が、その本来の役割を積極的に発揮せず、このような注文や要請を中心とする報告に留めたことは、極めて重大な問題です。


2001年人事院勧告に関する資料 に戻る